QCDの関わる反応過程では,多くの場合その計算途中に赤外発散が現れる.それらの発散は実際の散乱断面積等を考えると相殺が起こって消えるが,場合によっては発散部分は消えるものの大きな有限の対数因子を残すことがある.大きな対数因子があると摂動展開の収束を悪化・破綻させてしまうため,全次数にわたっての再足し上げが必要となる.粒子の方向に制限を掛けた観測量(non-global observables)を考えると,よく知られたSudakov logarithmsに加えて,新たに赤外発散由来の対数因子が現れることがあり,non-global logarithms (NGL)と呼ばれている.
NGL の再足し上げは,主要対数(leading log)近似のみを考えたとしても,large-Nc極限を超えた取り扱いが極めて困難である.以前,我々はNGLのNc=3での主要対数項の再足し上げに対して,ランダムウォークを用いて実際に数値計算可能な手法を与えた[1].これはsmall-x QCDに現れる対数因子の再足し上げの方法との類推が基となっている.この手法を用いて,これまでに電子陽電子消滅過程でのinterjet energy flow [1]とhemisphere jet mass distribution [2]を計算している.
今回,同手法を用いて(1)ヒッグス粒子のグルーオンへの崩壊(2)ハドロンコライダーでのヒッグス粒子の2ジェット随伴生成の二つの反応過程に関するラピディティギャップ残存確率について,Nc=3でのNGLの主要対数項の再足し上げを数値的に行った[3].電子陽電子消滅過程では終状態のクォーク・反クォーク対から2つのSU(3)基本表現のWilson lineの相関が現れるのに対し,ハドロンコライダーの場合は最大で8つのWilson lineを含んだ相関関数が現れる(グルーオンは2つと数える).本講演ではこれらの数値計算結果を示し,議論する.
[1] Y. Hatta and T. Ueda, Nucl. Phys. B 874 (2013) 808, arXiv:1304.6930 [hep-ph].
[2] Y. Hagiwara, Y. Hatta and T. Ueda, Phys. Lett. B 756 (2016) 254, arXiv:1507.07641 [hep-ph].
[3] Y. Hatta and T. Ueda, Nucl. Phys. B 962 (2021) 115273, arXiv:2011.04154 [hep-ph].