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∂hosts ─ 幽霊文字生成モデル
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uyupun
September 30, 2026
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∂hosts ─ 幽霊文字生成モデル
uyupun
September 30, 2026
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Transcript
∂hosts ─ 幽霊文字生成モデル Sep 2026 Kazukichi 1
このスライドについて 作品の背景にある思想がある程度、まとまったので、今回はそれを共有する 技術面(設計や実装)については今回、取り扱わない 作品を補足する思想的な参照は、補遺として末尾にまとめている 2
作品概要 ディスプレイの上で、文字のような形状が絶えず滑らかに変容し続けている 「読めるかもしれない」という感覚がよぎった次の瞬間にはもう別の形状へ移り 変わっており、何が見えたのか確信を持てないまま過ぎ去っていく 生成された文字は一覧やコレクションとして残らず、手元に残るのは「何か読め た気がした」という曖昧な感触 3
私のまなざし ソフトウェアエンジニアとして日々、モノを作り社会へ発信する中で、LLMやAIエ ージェントが登場し、さらにループエンジニアリングやフィジカルAIといった概念 まで現れ始めている この渦中にいる自分は、ただAIを使うだけの人間でいて良いのかという問いが拭 えない 自分の仕事が明日もあるのかという素朴ながらも切実な悩みから出発し、今後社 会がどう変わり、何を考え、何を信じて生きていけば良いのかを、この作品を通 じて整理し、そこで見えてきた考えを鑑賞者にも何かしらの形で持ち帰ってもら えるよう提示したい
4
AIの環境化 この作品は「AIの環境化」という考え方を前提としている 自然や環境は生成的であり、生命などの有機物や気象のような現象を絶えず生み 出し続けてきた これからはAIというレイヤーがこの自然に合流し、生成の範囲が拡張される 人間はその環境から生まれるアウトプットをキュレーションし、アウトカムへと 繋げる側に回る 現在の自然が地域ごとに多様であるように、環境化したAIにも同様の偏りが生ま れていく 人間が意図を持って形を作る発明的なアプローチから、AIが大量に生み出したも
のの中から人間が意味を見出す発見的なアプローチへの認知的な変容が起きる 5
6
AI時代の人間像 AIに隷属し、知性を放棄する人間になるとは考えていない 仕事を失った人間はどうなるのかという問いがあるが、馬や車が登場した後も人 が100m走を続けているのと同じだと考えている 従来的な労働や資本主義のフレームワークはこれまで孤独や不安から人生を隠す 劇薬のような機能を果たしてきたが、そこから解放されることで、AIが持たない 身体性を通じて自分の生について思索し、創作し、共同体の一部として愉しむ生 き物になっていくと予測している 7
作品への接続 この作品は、AIの環境化という1つの未来として起こり得るマクロな現象と、それ に伴う人間側の変化を、現時点で利用可能な技術や認知構造を用いてミクロな環 境として圧縮し提示したもの 以降ではこの圧縮の内実を掘り下げていく 8
9
ソシュールの記号論 ソシュールの記号論では、記号(シーニュ)はシニフィアン(形)とシニフィエ(意味・ 概念)から構成される 記号として成立するには、シニフィアンとシニフィエの対応がある程度集団内で 共有されている必要がある 10
オブジェクトと符号 オブジェクトと符号は、ソシュールの記号論には無い、この作品を説明するため に便宜上導入する概念 記号として確定する手前の、世界から切り取られて提示される存在をここではオ ブジェクトと呼ぶ パレイドリア的なもの(顔や文字に見えるもの)のように、記号になりきれない存在 もオブジェクトに含む 符号は、オブジェクトのうちシニフィアンとシニフィエの対応を部分的に満たし ながらも、その対応が集団内での共有には至っていないものを指す 11
12
補足: 幽霊文字とは JIS X 0208(1978年制定の日本語漢字の符号化文字集合)に紛れ込んだ、由来が不 明な漢字 代表例に妛・彁・軅などがある 転記ミスや誤読により、実在しない字形が実在する漢字として標準化されてしま ったとされる 由来の多くは今も特定できていないが、一部は近年の調査で判明しつつある
登録された当初の幽霊文字は、コードポイントという符号を持ちながら、それに 対応する確定した意味を欠いた存在だった 13
幽霊文字というモティーフ 幽霊文字は、意図せず生まれたという性質を、AI以前からすでに体現していた稀 有な事例である 通常の文字は「森」のように、実在が確認された概念に記号が与えられるが、幽 霊文字は、実在する概念があるという誤認のもとで符号が与えられるという特殊 な例外だった 幽霊文字は当初符号を与えられただけの存在だったが、その由来不明という性質 自体が長年語られ広く知られるようになったことで、「由来不明の謎めいた文字で ある」という共有された概念を獲得し、オブジェクト→符号→記号という全過程 をたどりきった実例になっている
14
メタ幽霊文字という拡張 この作品は、まだ存在しない幽霊文字をメタ幽霊文字と定義している メタ幽霊文字は、記号的でもあり記号的でもない揺らぎのある存在であり、パレ イドリアに近い 記号として成立するには、観測者が記号としての役割を与え、他者へミームのよ うに流布していく必要があるが、受け手の認知とコミュニケーションに依存する 幽霊文字が記号としての地位を獲得したのに対し、この作品は共有を促す仕掛け をあえて用意していないため、メタ幽霊文字の多くはオブジェクトや符号の段階 に留まり続ける この宙づりの状態は、人であり人でない、実在するかどうか確定しないという幽
霊の存在様式そのものと重なる 15
作品タイトル: ∂hosts は位相幾何学における境界作用素で、 ∂M のように多様体 M の境界を表す hostsは幽霊文字が依拠する実在の漢字であり、実在の漢字という宿主があって初 めて成立する幽霊文字の由来と重なる ∂hostsは「hostsの境界」、すなわち実在の漢字の輪郭ぎりぎりのところに立ち現
れる存在を意味する ∂ は「Ghost」の頭文字「G」の鏡像になっているというリート文字的な言葉遊び も兼ねており、自分に似ているのに左右が反転しているという鏡像の性質そのも のが、宿主に似ているようで別物であるという幽霊的なあり方と重なる ∂ 16
未知への恐怖から好奇心へ 未知の存在に既知パターンを当てはめ、脅威かどうかを判断しようとする働きの 根には、未知への恐怖という人間の根源的な生存機構がある この作品は展示というサンドボックス環境で提示されるため、恐怖ではなく「こ れはこういう意味なんじゃないか」と当てはめてみる、遊びに近い好奇心として 立ち上がる 恐怖と好奇心は対極の感情ではなく、脅威の有無によって同じパターン化の衝動 が異なる情動として発現したものだと考えている 17
なぜ幽霊性が必要か この作品は、絶えず変容させ続けるという前述のアプローチによって、現れては 消えるという幽霊性もメタ幽霊文字に新たに付与している グーグル効果や交換記憶の知見によれば、情報が外部に保存され後で参照できる と分かっている場合、人はその情報自体を能動的に記憶しようとしない この一回性の制約は、写真や記録といった外部記憶への委託を封じ、記号化が起 きるとすれば鑑賞者自身の知覚・記憶・コミュニケーションという身体的な経路 を通してのみ起きるよう仕向ける この設計は、前述の「AI時代の人間像」で予測した、自分の生を思索し創作し共 同体の一部として愉しむという生き方を、展示という小さなスケールで実際に体
験させる装置になっている 18
メディアのWYSIWYG性 小説や絵画、音楽、映像などのメディアでは、作り手と受け手は同じもの(文章・ 絵・音・映像そのもの)を見聞きしているという意味でWYSIWYG(What You See Is What You Get)だと言える プログラムは、作り手が書き読むコードと、受け手が実際に触れる動作するプロ
グラムが別物であるという点で、WYSIWYGではなく他のメディアと一線を画す この作り手と受け手の分離性こそが、プログラムというメディアに固有の特性で ある 19
20
ブラックボックス化するプログラム 前述の分離は、これまで受け手側にのみ生じていたが、AIが環境化した時代には 作り手自身もコードを直接書かなくなり、動作するプログラムだけを受け取る側 に回るという点で、作り手の側にも及んでいく これにより、プログラムはその下にある記号列(コード)の存在を完全に隠蔽したブ ラックボックスとして、作り手・受け手の双方に提示されるようになる メタ幽霊文字は、オブジェクトと記号の間にある符号、あるいはパレイドリアと して提示されることで、プログラムというメディアが持つコードという深層とUIと いう表層の両面性の揺らぎを象徴している AI化された環境から生み出された動くプログラムというオブジェクトに、人間が
事後的に意味を与え、広く認識されるにつれて記号としての地位を獲得していく という、記号とオブジェクトが入れ替わり続ける再帰的な構造を、この作品はミ 21 ニマルに提示している
22
補遺: ホイジンガの遊び ヨハン・ホイジンガは『ホモ・ルーデンス』で、遊びは実利的な必要から自由で あるからこそ独自の秩序をその都度創り出し、その反復と共有が儀礼や競技、芸 術という文化的な形式へと結晶化していく根源的な営みだと論じている AIは大量に出力できても、それを「それ自体のために」選び取り価値を与える主 体を持たないため、人間はアルゴリズムに「選ばされる」のではなく自ら「選び 取る」存在であり続けること、そして選び取る対象の幅自体が事前に狭められて いないかにも、注意して生きていかねばならない 文化を生み出す遊びは、人間の、人間による、人間のための営みであり、AIに代
替されえない領域として残り続ける 23
補遺: シモンドンの個体化論 シモンドンは、存在をあらかじめ完成した実体としてではなく、未分化な潜勢性 を残したまま環境との相互作用の中で個体化し続けるプロセスとして捉えた この観点に立てば、あるオブジェクトに記号を与える行為は、人間の側が恣意的 に意味を割り当てているだけでなく、オブジェクトの側もその意味を与えやすい ようにアフォードしている、双方向的な過程だと言える 24
補遺: パレイドリア・アスペクト・見立て パレイドリアは、そこにない意味を知覚してしまう認知バイアスであり、言語を 問わず普遍的に見られる ウィトゲンシュタインは『哲学探究』で、見ることを本質的に「〜として見る」 ことだと論じ、ウサギ・アヒルの頭のような多義図形の間を移り渡る瞬間を「ア スペクトのひらめき」と呼んだ 日本の美意識における「見立て」(枯山水の砂を水に見るような、あるものを別の ものとして見る伝統)も、西洋の哲学とは独立に同じ洞察に達していた日本固有の 対応物である
25
補遺: 幽霊という存在様式 幽霊は見えたのか見間違いなのかが確定しないまま、痕跡だけを残す存在である 日本の幽霊には、特定の相手への未練や怨念を残す怨霊型と、弔う縁者を持たず 安らかに成仏できないままさまよう無縁仏型がある メタ幽霊文字には解消すべき未練や怨念があるわけではなく、そもそも典拠・出 自が最初から追えず誰とも縁を結んだことがない存在であり、怨霊型よりも無縁 仏型の幽霊に近い 鑑賞者がそこに意味を見出す行為は、執着の解消を助ける供養というより、一瞬 だけ縁を結んであげる行為として捉え直せる
26
補遺: ベンヤミンのアウラ ヴァルター・ベンヤミンは『複製技術時代の芸術作品』で、写真や映画といった 複製技術の登場によって芸術作品が本来持っていた特定の時と場所に固有の一回 性・現前性が失われていく状況を論じ、これを「アウラ」の喪失と呼んだ 保存も一覧化もされずその場限りで消えるというこの作品の設計は、複製による アウラの喪失に対する一回性の回復を試みるものだと言える ホイジンガの言う反復と共有(前述)は、鑑賞者が符号に与えた意味を語り継ぐこと で初めて起こりうるものであり、それが文化として結晶化するかどうかはこの作 品ではなく鑑賞者同士の関係に委ねられている
ベンヤミンは『パサージュ論』において、アウラを物の側が私達を捕えるものと して論じており、これはシモンドンが示したオブジェクト側の能動性と重なる 27
未解決の問い: DNAという自然のコード 前述の、記号とオブジェクトが入れ替わり続ける再帰的な構造は、AIに限らず、生 物が持つDNAという自然のコードにも当てはまるかもしれない AIの環境化がこの構造を可視化したのだとすれば、それは新しい現象を生み出し たというより、自然の中に元からあった構造を暴いた結果だとも言える ただし、この接続をどう理論的に位置づけるべきかはこの作品の枠組みではまだ 十分に捉えきれておらず、開かれた問いとして残しておきたい 28
ご清聴ありがとうございました 29