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超広視野カメラによる観測と動的な宇宙/Time-Domain Astronomy and Ul...

Ryou Ohsawa
February 16, 2019

超広視野カメラによる観測と動的な宇宙/Time-Domain Astronomy and Ultra Wide-Field Cameras

朝日カルチャーセンターで 2019 年に開講された『最先端観測でとらえる宇宙』第 4 回講義で使用したスライドです.

Ryou Ohsawa

February 16, 2019
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  1. 観測天文学 宇宙物理学における実験的研究のひとつ 現象 or 特徴を記録に残す HL Tau (almaobservatory.org) Lensed Galaxy

    (spacetelescope.org) 文章で記述 / スケッチする / 画像として残す 可視光 電波 画像に残すことのできる情報 位置 (形状) 明るさ 色 (波長) 時刻 総エネルギー/銀河の星質量 エネルギー分布/星質量 エネルギー強度比/温度, 組成, 速度 距離・運動/天体の分布, 軌道決定 変動現象/変光星, 突発天体
  2. 可視赤外天文学における技術革新 新しい観測手法の開発 新しい記録メディアの開発 多天体分光装置/面分光観測装置 (Integral Field Unit, IFU) による効率化 補償光学

    (Adaptive Optics, AO) や光干渉計による高空間分解能の達成 眼視観測・スケッチ ⇨ 写真乾板 ⇨ 半導体センサ 観測システム = 望遠鏡 + カメラ
  3. 眼視観測 眼で見て手で記録していた時代 (~1800, W. Herschel) 眼というデバイスの限界 1. 光の情報を蓄積できない 2. 光の強さに対して非線形的

    目をつむると消える 1 秒/1 分観測したとき ⇨ 同じ感度 目の感度は対数的 ⇨ 微細な違いに鈍感 一等星 ↔ 六等星 100倍明るい
  4. 写真乾板 ガラス板に感光剤を塗ったデバイス シンプル / 大きくて均質なものを作りやすい 1. 乾板をホルダに入れる 2. 望遠鏡の焦点部につける 3.

    望遠鏡を天体に向ける 4. シャッターを開ける(10 分 ~ 1 時間 露光) 5. シャッターを閉める 6. 望遠鏡から取り外して現像 観測の流れ
  5. 半導体イメージセンサ 1980 年代後半に実用的な半導体イメージセンサが登場 光 e- 光が半導体にあたる ⇨ 半導体から電子が出る (光電効果) ⇨

    電子の数 (電荷量) を測定することで光の強さが分かる 半導体イメージセンサの利点 感度が高く観測効率が高い 半導体イメージセンサの欠点 高感度を達成するためには冷却が必要 (カメラの大型化 + 複雑化) イメージセンサの大型化が難しい 電荷量と光子数が 1 対 1 対応するため線形性が極めて高い
  6. 半導体イメージセンサ CCDイメージセンサ CCD = Charge-Coupled Device 電子を増幅・測定回路まで輸送する 比較的簡単な構造で製造しやすい ここで測定 e-

    CMOSイメージセンサ CMOS = Complementary MOS 回路を切り替えて画素と測定回路を接続 電子を輸送せずに情報を取り出せる ここで測定 e-
  7. CCD イメージセンサ 16 メガピクセル CCD (2015) CCD for LSST (lsst.ac.uk)

    CCD イメージセンサの改良 ⇨ 天文学の発展 イメージセンサの大型化 (画素数の増加) より青い色・赤い色にも感度をもつように改良 感光部の面積を広げる (裏面照射型 CCD) 冷却用素子 1メガピクセル CCD (1989) 木曽 CCD カメラ (東京大学)
  8. CCD1 CCD2 CCD3 CCD4 モザイク CCD カメラ (概念図) モザイクカメラ 複数のセンサを組み合わせたカメラ

    より広い領域を一度に撮ることができる "ふち" のない CCD イメージセンサが必要 木曽 モザイク CCD カメラ (東京大学) Hyper Suprime-Cam (国立天文台, naoj.org)
  9. サーベイ観測 希少な天体を見つけるには "観測ボリューム" が必要 どこに存在するかわからない希少な天体を宇宙空間から見つけ出す ① できる限り広く探す ② できる限り遠くまで探す Pan-STARRS

    3π survey Hubble eXtreme Deep Field ~0.04° 宇宙の二次元的な地図をつくる 宇宙を奥行き方向に深く探査する (DSS, 2MASS, Pan-STARRS, DES, SkyMapper など) (Hubble XDF, Subaru/HSC SSP など)
  10. 観測システムのサーベイ能力: AΩ A Ω 集光面積が 2 倍になると 1/2 の時間で天体が見えるようになる ⇨

    観測効率 2 倍 集光面積が 3 倍になると 1/3 の時間で天体が見えるようになる ⇨ 観測効率 3 倍 ︙ 集光面積が N 倍になると 1/N の時間で天体が見えるようになる ⇨ 観測効率 N 倍 : 望遠鏡の有効集光面積 : カメラが一度に撮影できる面積 (視野) 観測視野が 2 倍になると 1/2 の時間で領域を掃ける ⇨ 観測効率 2 倍 観測視野が 3 倍になると 1/3 の時間で領域を掃ける ⇨ 観測効率 3 倍 ︙ 観測視野が N 倍になると 1/N の時間で領域を掃ける ⇨ 観測効率 N 倍 目標: ある暗さの天体が映ることを保証しつつある指定した領域の写真を撮りたい
  11. 観測システムのサーベイ能力: AΩ 直径 10 m 0.1 平方度 直径 2 m

    1 平方度 直径 25 cm ×8 台 10 平方度 ~3.93 m2 平方度 ~3.14 m2 平方度 ~7.85 m2 平方度
  12. 時間的に "希少" な天体のサーベイ おもしろい (≒ 希少) な天体とは何を意味するのか 観測可能な宇宙において絶対数が少ない (かつ宇宙物理学において重要な役割を持つ) 宇宙の進化史においてある限られた時代にしか存在しない

    突発的・変動性の現象である 超新星・キロノバなどの爆発現象 ⇨ 銀河の化学的進化 小惑星などの移動天体 ⇨ 惑星系形成過程解明の鍵 ⇨ 地図の変化を探るサーベイ観測が必要 可視光以外の観測から 変動天体の捜索依頼を受けることも ニュートリノ・重力波・X 線・γ 線・電波
  13. 時間領域天文学を牽引する観測システム 大型 (> 0.5 m) 望遠鏡による観測システム 小型 (< 0.5 m)

    望遠鏡による観測システム 特定のサイエンスに特化した観測システム Subaru/HSC, DECam, Pan-STARRS, CSS, SkyMapper, ZTF, LSST など OGLE, MOA2, Gaia, Kepler, TESS, TAOS2, OASES など ATLAS, ASAS-SN, MASTER, ROTSE, Evryscope など
  14. 大型望遠鏡による観測システム A, Ω の値がどちらも大きなシステム Subaru/Hyper Suprime-Cam (8.2 m, AΩ=94.0) Dark

    Energy Camera (8.2 m, AΩ=37.7) Pan-STARRS (1.8 m ×2, AΩ=35.6) Catalina Sky Survey (0.7 m, AΩ=7.70) SkyMapper (1.3 m, AΩ=7.45) Zwiky Transient Facility (1.2 m, AΩ=54.9) Large Synoptic Survey Telescope (6.7 m, AΩ=336) 集光力が高く暗い (遠い) 変動現象でもとらえることができる Good 見つけた天体の詳細を調べるには同クラス以上の観測システムが必要 Bad Large Synoptic Survey Telescope (lsst.org)
  15. Pan-STARRS (パンスターズ) Panoramic Survey Telescope and Rapid Response System ハワイ大学が中心となって運営している望遠鏡システム.

    マウイ島ハレアカラ山山頂に設置された1.8 m 望遠鏡 2 台で構成される. 2016 年に全天の 75% を観測した 3π サーベイの結果を公開した. 世界で最も時間領域天文学に貢献している望遠鏡システム. PS1 ドーム (panstarrs.stsci.edu) Pan-STARRS 1 号機による 3π サーベイ (panstarrs.stsci.edu)
  16. Catalina Sky Survey (CSS, CRTS) アリゾナ大学が中心となって運営している望遠鏡システム. 1.5 m, 1.0 m,

    0.7 m の 3 台の望遠鏡から構成されている. 観測所自体は 1960 年代に設立, 1998 年よりカタリナスカイサーベイを組織. 2018 年地球接近小惑星発見数世界一/変動天体の検出でも Pan-STARRS と同格. 0.7 m シュミット望遠鏡 (catalina.lpl.arizona.edu) 1.5 m サーベイ用望遠鏡 (catalina.lpl.arizona.edu)
  17. Zwicky Transient Facility (ZTF) カリフォルニア工科大学が中心となって運営している望遠鏡システム. パロマー天文台にある口径 1.2 m の望遠鏡に最新の CCD

    カメラを設置. 47 平方度の領域を一度に撮影することができる超広視野観測システム. 2018 年 3 月より本格的に観測運用を開始した. (左)1.2 m シュミット望遠鏡, (中) 望遠鏡に搭載されたZTF カメラ, (右) 観測する Fritz Zwicky 氏 (ztf.caltech.edu)
  18. Large Synoptic Survey Telescope (LSST) 宇宙の地図の決定版を作るために現在開発されているサーベイ専用望遠鏡. サーベイ能力指標である AΩ が 300

    を超える圧倒的なサーベイ効率を誇る. 1 分あたり 20,000 件の変動天体を検出することが見込まれている. 現在チリのラ・セレナに望遠鏡を建設中 / 2023 年より観測運用を開始する予定. (左)LSST カメラの 3D 図面, (中) カメラ焦点部分の実スケール模型, (右) LSST 望遠鏡の 3D 図面 (lsst.org)
  19. 小型望遠鏡による観測システム Ω の値が大きく複数のカメラからなるシステム ATLAS (0.5 m ×2, AΩ=11.78) ASAS-SN (14

    cm ×24, AΩ=7.38) MASTER (40 cm ×16, AΩ=16.09) ROTSE (45 cm ×4, AΩ=2.18) Evryscope (6.1 cm ×20, AΩ=23.38) 小回りがきくため高頻度な観測ができる / システムの増設がしやすい Good ターゲットが明るい現象に限られる Bad ASAS-SN camera "Brutus" (astronomy.ohio-state.edu)
  20. Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System (ATLAS) ハワイ大学が運用する地球接近小惑星観測のための小型望遠鏡システム. マウナケア山・マウナロア山にそれぞれ 1 台ずつ

    0.5 m 望遠鏡を持つ. 地球に衝突する可能性のある小惑星を発見することが主な目的. 2017 年より本格的に観測を開始.数多くの変動天体を検出. (左) ATLAS 望遠鏡の設置場所, (右) マウナロア山のドームに設置された ATLAS 2 号機 (fallingstar.com)
  21. ASAS-SN (アサッシン) All-Sky Automated Survey for Supernovae 口径 14 cm

    のカメラレンズを 4 つ束ねた望遠鏡を単位とした全自動観測システム. ハワイ, チリ×2, 南ア, 米テキサス州, 中国の計 6 箇所に設置されている. 年間 300 件を超える明るい変動天体を検出. (左)ハワイに設置された 1 号機, (中) ハワイに設置された 1 号機, (右) チリに設置された2 号機 (astronomy.ohaio-state.edu)
  22. Evryscope (エヴリスコープ) ノースキャロライナ大学が開発している超広視野監視システム. 口径 6.1 cm のカメラを 24 個組み合わせてひとつのカメラシステムを構成. 一回の露出でおよそ

    8,000 平方度 (全天の 1/5) の空を撮影できる. 明るい天体については最速で 2 分間隔で画像を得られる. (左) Evryscope のコンセプトイメージ, (右) Evryscope 実機と撮影した画像 (evryscope.astro.unc.edu)
  23. 特定のサイエンスに特化した観測システム 全天走査観測・定点監視に特化したシステム TESS (0.105 m ×4, AΩ=20.0) Kepler (0.95 m,

    AΩ=298) 本来の目的に沿うサイエンスには非常に高い効率を発揮する Good 目的外の用途では性能を発揮しづらい Bad Transiting Exoplanet Survey Satellite (heasarc.gsfc.nasa.gov) Gaia (1.45×0.5 m² ×2, AΩ=1.48) OASES (0.28 m ×2, AΩ=0.51) TAOS-II (1.3 m ×3, AΩ=16.5) OGLE-IV (1.2 m, AΩ=1.86) MOA-cam3 (6.7 m, AΩ=5.60) 系外惑星 年周視差 重力レンズ 小惑星掩蔽
  24. Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) トランジット法によって系外惑星候補を発見するための宇宙望遠鏡. 口径 10.5 cm の望遠鏡を

    4 台搭載し, およそ 2300 平方度を一度に観測できる. 全天を高頻度で観測 ⇨ 太陽系から比較的近くにある惑星候補を網羅する. 2018 年 4 月に打ち上げられ, 順調に観測を進めている. (左)TESS の 4 台の望遠鏡が映す領域, (左) TESS と惑星が構成面を通過することによる光度変化の模式図 (heasarc.gsfc.nasa.gov)
  25. Gaia 欧州宇宙機関 (European Space Agency, ESA) が打ち上げた位置天文衛星. 天の川銀河の 3 次元地図を作るための特殊な望遠鏡.

    年周視差測定のために全天にある星を繰り返し観測する. 副産物として年間 1,000 件以上の変動天体を報告している. (左) 宇宙空間にいる Gaia のイメージ, (右) Gaia によって測定された星の明るさを元に生成された天の川銀河 (sci.esa.int)
  26. Optical Gravitational Lensing Experiment (OGLE) 重力レンズ効果によって増光した星を発見するための観測システム. チリにある 1.3 m 望遠鏡を用いてマゼラン雲の星や銀河中心方向を監視.

    星が数時間 − 数十日かけて数倍程度明るくなる現象を捉える. 1992 年のプロジェクト開始より装置の更新を続け現在も運用されている. (左) 1.3 m OGLE 望遠鏡, (中) OGLE-IV カメラが撮影した銀河中心領域, (右) 銀河中心領域の拡大写真 (ogle.astrouw.edu.pl)
  27. 0 50 100 150 200 250 300 350 サーベイ効率 サーベイ効率

    Hyper Suprime-Cam Dark Energy Camera Pan-STARRS (PS2) Catalina Sky Survey Sky Mapper ZTF LSST ATLAS ASAS-SN MASTER ROTSE Evryscope TESS Kepler Gaia OASES TAOS-II OGLE-IV MOA-cam3
  28. プロジェクト別変動現象発見数 2018 1941イベント Pan-STARRS 1 1786イベント Zwicky Transient Facility 1321イベント

    Gaia 485イベント Catalina Realtime Transient Survey 304イベント ASAS-SN 89イベント OGLE-IV 1. 2. 3. 4. 5. 6. 順位 報告数 プロジェクト名 第16位 板垣公一さん 17イベント source: stats for 2018 in latest supernovae (rochesterastronomy.org/sn2018/snstats.html)
  29. プロジェクト別地球接近小惑星発見数 2018 1056天体 Catalina Sky Survey 543天体 Pan-STARRS 124天体 ATLAS

    22天体 NEOWISE 1. 2. 3. 4. 順位 報告数 プロジェクト名 source: discovery statistics in cneos.jpl.nasa.gov
  30. 代表的なサーベイ計画の特徴 Credit: Tomoki Morokuma (U. Tokyo) ver . 2018 16

    18 20 22 24 26 28 30 0.01 0.1 1 10 100 1,000 10,000 GOODS SCam HSC SNLS GOODS SkyMapper Gaia Catalina CRTS Pan-STARRS LaSilla ≧ 3 days ≧ 1 days < 1 day HSC HiTS ZTF SDSS PTF iPTF, K2 Kiso KISS TESS Evryscope ROTSE ATLAS ASAS-SN 限界等級 サーベイ領域 (平方度) 暗い 明るい 狭い 広い
  31. 超新星爆発 新星 (Nova) よりも極めて (~ 10,000 倍程度) 明るい突発天体. 明るい (~

    銀河の星全体の光度) ため遠方で発生しても観測することができる. 大きく 2 種類に分けることができる. 熱核暴走型超新星 (Ia 型超新星) 重力崩壊型超新星 (II-P, II-L, IIn, Ib, Ic 型超新星) 重たい元素を宇宙に供給する過程のひとつとして重要. 宇宙の構造を探るための標準光源としても活用されている (Ia 型超新星). ⇨ 超新星の親星 (progenitor) の情報を得るためには爆発直後が重要. 最も明るい時期はおおよそ 2−3 週間程度続く, ほとんどの超新星は明るさのピークで見つかる 爆発直後の超新星を見つけることはなかなか難しい
  32. 熱核暴走型超新星 熱 (重さ) に耐え切れなくなった白色矮星が核暴走を起こして燃え尽きる現象. 親星の有力な候補として以下の 2 つのモデルがある. Image: David A.

    Hardy (astroart.org) / Dana Berry (Sky Works Digital) 白色矮星 + 普通の星のケース Single Degenerate (SD) モデル 白色矮星連星が合体したケース Double Degenerate (DD) モデル
  33. 熱核暴走型超新星 SD モデルで爆発したなら衝撃波が伴星に衝突した影響が見える? no companion 2 太陽質量 主系列星 6 太陽質量

    主系列星 1 太陽質量 巨星 15 10 5 0 -14 -19 -18 -17 -16 -15 爆発からの経過日数 超新星の明るさ SD モデルでの明るさの変化予想 (Kasen et al., 2007) 18 20 22 24 26 実視等級 絶対等級 -20 -18 -16 -14 -12 60 0 10 20 30 40 50 爆発からの経過日数 -13.5 -15.0 -16.5 24 23 22 25 26 0 1 2 3 4 5 6 HSC r HSC g HSC g+1 HSC r HSC i-1 すばる望遠鏡 HSC で発見した爆発初期に明るい超新星 衝撃波ではなくヘリウムの爆発的燃焼が原因 (Jiang et al., 2017) ウェブリリース: www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/5574/
  34. 重力崩壊型超新星 大質量星の中心で鉄のコアが崩壊, 落ち込んできた外層がはね返されて爆発する. 中心部で発生した衝撃波が星表面を突き抜けて初めて明るく輝く. Image: Tomoki Morokuma (U. Tokyo) ここから超新星として観測される

    ショックブレイクアウト 中心で鉄コアが崩壊 衝撃波が星内部を伝播 星を突き抜けて輝く ショックブレイクアウトが見えるのはおよそ 30 分 − 2 時間ほど この時期を過ぎると親星の情報は爆発の裏に隠されてしまう
  35. 重力崩壊型超新星 アマチュア天文家によるショックブレイクアウトの発見 (Victor Buso). Credit: Bersten et al. (2018) 0

    20 40 60 80 100 20 19 18 推定崩壊時刻からの経過時間 (分) 可視光での明るさ (実視等級) ここでは未検出 推定崩壊時刻からの経過日数 0.1 1 10 -12 -14 -16 -18 可視光での明るさ (絶対等級)
  36. 中性子星連星合体 重力波検出からおよそ 10 時間後に発信源を南天の銀河 NGC4993 に特定 (SSS17a). 世界で初めて中性子星連星合体による電磁波を捉えた. 天体の明るさ (測定値+モデル,

    絶対等級) 重力波検出からの日数 可視光での明るさの推移 (左) 日本の重力波追観測コミュニティ J-GEM によるキロノバの観測 (Utsumi et al. 2017) (右) キロノバの明るさの変化とモデル計算から予想される明るさ (Tanaka et al. 2017) Coulter et al. (2017)
  37. 変光星 (Variable Stars) さまざまな要因から明るさを変化させる天体が存在する. 脈動変光星 (星の大きさや温度が周期的に変動する) 食連星 (連星がお互いを隠し合うことで明るさが変わる) 若い星状天体 (星の材料となるガスの降り積もる量が不規則に変動する)

    ︙ AAVSO に登録された R CrB の光度変化, Ohnaka et al. (2001) かんむり座 R 星 (R CrB) 型変光星 定常時は目立った変光を見せない 明るさが突発的に 1/1,000 程度まで暗くなる 銀河系では 50個程度しか同定されていない どのような条件でこの星になるのかも不明
  38. かんむり座 R 星型変光星 星のすぐ近くにチリが密集した雲がいることがわかった. 星がガスを吹き出してチリが密集した大きな雲をつくる 視線方向で雲がたまたま星と重なったときに暗くなる R CrB の高空間分解能写真 Jeffers

    et al. (2012) 2 秒角 星本体 チリによる雲 希少かつ現象の予測ができない ⇨ 広視野監視システム OGLE:マゼラン雲に R CrB 型変光星を 23 天体発見 チリが形成・成長する様子を捉えられる 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 24.0 OGLE-LMC-RCB-08 (I-band) 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 観測日数 星の明るさ(I-等級)
  39. 0 1 2 3 4 5 6 7 8 -1

    0 1 2 3 4 AV = 1, RV = 3.1 OGLE-LMC-RCB-02 OGLE-LMC-RCB-03 OGLE-LMC-RCB-04 OGLE-LMC-RCB-06 OGLE-LMC-RCB-07 OGLE-LMC-RCB-08 OGLE-LMC-RCB-11 OGLE-LMC-RCB-12 OGLE-LMC-RCB-13 OGLE-LMC-RCB-14 OGLE-LMC-RCB-18 OGLE-LMC-RCB-19 OGLE-LMC-RCB-22 100nm 110nm 120nm 130nm 140nm 150nm 200nm 星の色の変化 星の明るさの変化 赤い 青い 暗い 明るい
  40. 系外惑星 (トランジット法) 精密かつ高頻度な観測のおかげで特異な惑星 ・連星系も発見 KIC 6543674:周期 2.4 日の連星の光度曲線に異様な構造 連星系のまわりを周期 1000

    日以上でまわる 3 つ目の天体が存在 Masuda, Uehara, and Kawahara (2016) 観測日 相対的な明るさ KIC 6543674 C が A を隠す C が B を隠す C が A を隠す A が B を隠す B が A を隠す
  41. 系外惑星 (重力マイクロレンズ) レンズ天体が背景星からの光をわずかに曲げることで 背景星の見かけの明るさが増加する現象 重力レンズイベント OGLE-2005-BLG-006 の光度曲線 背景星 レンズ天体 レンズ天体は質量さえ持っていれば何でも良い

    光を発しない天体を光学的に検出することができる唯一の方法 非常に稀な現象 ⇨ 広視野望遠鏡で大量の星をモニタリング 現象の起きる頻度は 10 万個の背景星を 1 年間観測して 1 回程度
  42. 系外惑星 (重力マイクロレンズ) レンズ天体が惑星を持っている場合, 背景星との位置関係によって複雑な光度変化を示す 背景星 レンズ天体+惑星 現象の起きる頻度は 1000 万個の背景星を 1

    年間観測して 1 回程度 重力レンズによる惑星検出 OGLE-2003-BLG-235 の光度変化と増光マップ (ogle.astrouw.edu.pl) 単純なマイクロレンズイベントよりもさらに頻度が低い レンズ天体が軽いほど増光が短い 太陽質量 ~ 30 日程度 木星質量 ~ 数日程度 地球質量 ~ 数時間程度 高頻度なモニタリングが要求される 主星から遠くて軽い惑星を発見する能力が高い
  43. 惑星質量天体 (重力マイクロレンズ) レンズによる増光の期間が数日以内の場合 背景星 浮遊惑星? MOA と OGLE によって検出した惑星質量天体による重力マイクロレンズイベント (Sumi

    et al. 2011) 惑星程度の質量の天体が "単体" で背景星の前を通過した現象 普通の恒星のおよそ 1.8 倍程度存在していると考えられる 個数頻度 1 10 100 0.1 0.01 重力レンズによる増光日数 1 10 100 惑星質量天体成分 恒星質量天体成分 全天体の頻度分布 惑 星 質 量 天 体 成 分 1.9日
  44. 太陽からの距離と小惑星の材質 日心距離 (au) 1 2 3 4 5 no obj.

    no obj. no obj. ハンガリア群 no data no data 5−20 km 級 20−50 km 級 50−100 km 級 100−1000 km 級 メインベルト内側 メインベルト中央 メインベルト外側 キュベレー族 ヒルダ群 木星トロヤ群 有機物系 石質 金属質 その他 炭素質 DeMeo and Carry (2014), Nature, 505, 629-634, Figure 4 を元に作成 重量による割合を 円グラフで表現
  45. 太陽系形成モデルグランド・タック・モデル/ニース・モデル 日心距離 (au) 1 10 100 1 10 100 太陽系誕生からの時間

    (×106年) 4600 1000 900 800 0.6 0.4 0.2 0 ニース・モデル グランド・タック・モデル DeMeo and Carry (2014), Nature, 505, 629-634, Figure 2 を元に作成 原始惑星系円盤 ガス惑星の移動 小天体の混合 不安定な軌道から 取り除かれる 海王星の大移動 外縁部の天体に影響 カイパーベルト天体 メインベルト天体
  46. 小惑星発見の歴史 西暦 0 10000 20000 30000 40000 50000 1900 1910

    1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 小惑星年間発見数(左軸) 小惑星発見総数(右軸) 小惑星年間発見数 小惑星発見総数 2000 年まで 組織 的 大 規模サーベイのはじまり data from minorplanetcenter .net
  47. Outbursts in Solar System Comet Outbursts in 10 years (Ishiguro+,

    2016) › › › › Estimated Occurence Rate (a) (b) (a) Ishiguro, Kuroda, Hanayama, et al., AJ (2016) (b) Jewitt, Hsieh, and Agarwal, Asteroids IV225 (2015) c.f. the presentation by M. Ishiguro in KOOLS-Tomoe WS Cratering event on Scheila (Ishiguro+, 2011) comet outbursts: ~1.5yr-1 asteroid cratering events: a fewyr-1 asteroid impact break-up: ~1yr-1 asteroid rotational break-up: ~10yr-1 (a)
  48. Outbursts in Solar System Comet Outbursts in 10 years (Ishiguro+,

    2016) › › › › Estimated Occurence Rate (a) (b) (a) Ishiguro, Kuroda, Hanayama, et al., AJ (2016) (b) Jewitt, Hsieh, and Agarwal, Asteroids IV225 (2015) c.f. the presentation by M. Ishiguro in KOOLS-Tomoe WS Cratering event on Scheila (Ishiguro+, 2011) comet outbursts: ~1.5yr-1 asteroid cratering events: a fewyr-1 asteroid impact break-up: ~1yr-1 asteroid rotational break-up: ~10yr-1 (a) Jewitt (2012)
  49. 時間領域天文学のこれから 可視光の days − years の変動現象は研究され尽くされる ⇨ より長い波長へ − 近赤外線時間領域天文学

    ⇨ より短い変動へ − 動画による時間領域天文学 Gaia による長期モニタリング & LSST による網羅的な変動現象探査 同規模のプロジェクトでなければサイエンスに貢献できない
  50. 秒スケール以下の時間領域天文学 ピークでの明るさ (可視絶対等級) 変動現象の典型的な時間 (日数・対数スケール) Classical Novae 古典新星 Ca-rich Transients

    Ca に富んだ変動天体 Lumious Red Nova 重力崩壊型超新星 極超新星 Luminous Supernovae 熱核暴走型超新星 Kasiliwal (2011)
  51. 秒スケール以下の時間領域天文学 Kasiliwal (2011), Cooke (2014) ピークでの明るさ (可視絶対等級) 変動現象の典型的な時間 (日数・対数スケール) Classical

    Novae 古典新星 Ca-rich Transients Ca に富んだ変動天体 Lumious Red Nova 重力崩壊型超新星 極超新星 Luminous Supernovae 熱核暴走型超新星 -4 -3
  52. 「巴御前出陣図」 東京国立博物館蔵, 蔀関月(しとみ かんげつ, 1747-1797) • 望遠鏡 東京大学木曽観測所 超広視野105cmシュミット •

    観測視野 20平方度(φ9度内) • センサ キヤノン製 35mmフルHD 高感度CMOS × 84台 • データ取得速度 最大2フレーム/秒 • データ生成量 最大30 TB/夜 超広視野高速CMOSカメラ トモエゴゼン トモエゴゼンの完成予想図 84台のCMOSセンサ キヤノン製35mmフルHD CMOSセンサ 非真空・非冷却・軽量大型構造 装置が軽量になり大型のカメラを実現可能 常温センサを採用するため、真空・冷却装置が不要 ビッグデータ 高速性能ゆえに30 TB/ 人工知能技術、並列計算技術などを導入 夜におよぶ膨大な観測データを生成 時間連続した動画ビッグデータを効率的に処理するため、 CMOSセンサ 国内メーカが開発した高感度CMOS 画素サイズが大きい、常温下でも低いノイズ性能 CCDに比べ高速なデータ読み出し センサを搭載 常温
  53. トモエゴゼンの目指すサイエンス 酒向 木曽シュミットシンポジウム 2016 発表資料より引用 + Shock Breakout of core-collapse

    SN + Optical follow up of Gravitational wave + Optcal counterpart of fast radio burst + Explosion of nova + Afterglow of gamma-ray burst + X-ray time variable objects + Transit of Exoplanet + Occultation by Trans-Neptunian object + Potentially Hazardous Asteroid + Faint meteor 希少かつ高速な現象のサーベイ
  54. » 太陽系内に存在する惑星間空間ダストが地球大気に衝突する現象 (~100 ㌧/日) » 肉眼で見える流れ星よりも 1/100 の明るさの流れ星まで捉えられる » 一晩の観測でおよそ

    1,000−2,000 個の流れ星を検出できる » 太陽系内の小さな (~1mm) 仲間たちの大きさを調査する貴重な手段のひとつ » 100 年以上昔の太陽系内小天体の活動を記録したタイムカプセル トモエゴゼンで見る流れ星
  55. 秒スケール以下の時間領域天文学 Kasiliwal (2011), Cooke (2014) ピークでの明るさ (可視絶対等級) 変動現象の典型的な時間 (日数・対数スケール) Classical

    Novae 古典新星 Ca-rich Transients Ca に富んだ変動天体 Lumious Red Nova 重力崩壊型超新星 極超新星 Luminous Supernovae 熱核暴走型超新星 -4 -3
  56. まとめ 可視光 (近赤外線) での天文学 時間領域天文学 可視光領域での観測天文学 記録メディアの変遷: CCD イメージセンサの発展 観測システムとサーベイ効率

    主要な観測システム 時間領域天文学におけるサイエンス 次の 10 年を見据えて: 秒スケール以下の時間領域天文学