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AI エージェント時代のデジタルアイデンティティ

AI エージェント時代のデジタルアイデンティティ

MyDataカンファレンス2026での講演資料
AIエージェントのアイデンティティ管理について説明

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Naohiro Fujie

July 29, 2026

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Transcript

  1. 自己紹介(富士榮 尚寛 / ふじえ なおひろ) デジタル ID 分野で約25年活動、自動車製造業のグローバル ID基盤等でのコンサルティング〜アーキテクト等を務める 一般社団法人

    OpenID ファウンデーション・ジャパン代表理事 米国OpenID Foundation eKYC&IDA WG 共同議長 DADC / ODS-RAM 作業部会構成員をはじめ、各種省庁 における複数の有識者会議等の構成員 慶應義塾 SFC 研究所員、大阪大学客員教員 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 / みらい研究所長 Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 2
  2. 本日のテーマに関連して、、(宣伝) Software Design 8月号に NHI、特に AI エージェントの ID 管理について寄稿しました。 概要

    AI エージェントと従来の NHI の違い AI エージェント時代の新しいリスク 既存技術を活用した AI エージェント管理設計 AI エージェント向け認証・認可の新しい取り組み 企業は AI エージェントのアイデンティティをどう 管理すべきか Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 3
  3. AI エージェントがデータに触れる時代へ AI エージェントの特性 与えられた目的からタスクを分解 実行時にツール・データ・権限を自ら 選ぶ つまり、人間の「代理」として、データ に触れる主体となりうる 次の問いに答えられないシ

    ステムは「人間中心」と言 えるのか? Q1 Q2 Q3 誰の意図で動いているのか AI エージェントの行動は、人 間の依頼と繋がっているか? どこまで権限委任したのか 渡した権限は、依頼したタス クの範囲に収まっているか 説明責任を果たせるのか 「誰の責任で実行されたか」 を、後から説明できるか Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 4
  4. AI エージェントが匿名性へ与えるインパクト 私たちのアイデンティティの匿名性を守ってきたのは、「特定には手間が かかりすぎてコストに合わない」という前提だった AI エージェントの登場により前提が大きく変わりつつある 55% 匿名アカウントの特定率 8.9万人の候補から Hacker

    News 投稿者を LinkedIn の実名と接続 $1〜4 標的1人あたりのコスト 候補リストなしのオープン探索でも、 AI エージェントが数分で人力だと数 時間かかる調査を再現 9/125 匿名化しても再特定 125 名分の匿名化済みインタビュー 記録から、AI エージェントが 10 分間 の Web 探索で 9 名を特定 従来の統計的手法の約 500 倍の性能 もはや「匿名だから安全」は成立しない Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved ※Source: IETF126 PEARG発表 5
  5. 誰もが AI エージェントを利用する時代へ 政府・国家 企業 反体制派・記者・活動家の割り出し。かつて 不可能だった規模の大量監視が可能に 匿名の投稿と実在の顧客情報を利用した、 精密なターゲティング 詐欺・犯罪者

    敵対する組織 名前から数分・約 10 ドルでプロファイルを自 動生成し、標的型攻撃へ 組織のキーパーソンを特定し、ソーシャルエンジ ニアリングの入口に AI エージェントはプライバシーを破壊する道具にも、人間中心を実現する手段にもなる AI エージェントのアイデンティティ管理(誰の意図で・どの権限で・誰の責任で動くのか)が非常に重要 Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 6
  6. AI エージェントの特徴。従来のNHIとの違い 従来の NHI(サービスアカウント・ワークロード ID)とは性質が異なる。 従来の NHI = 従属的 AI

    エージェント = 自律的 挙動 コードや設定に従う決定的な処理 推論を含み、同じ入力でも結果が変わりうる 権限 導入時に固定される 実行時に必要な権限を自ら決定・要求する 接続先 既知の API・既知の相手に限定 ツールやサブエージェントを動的に発見・接続 自律的なアイデンティティ向けに設計された Identity Fabric が必要 (Martin Kuppinger@European Identity and Cloud Conference 2026) Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 7
  7. ①意図とスコープの不一致による過剰権限 人間の意図 実際に渡される権限 「出張に関するメールだけ読んで、旅程案を 作ってほしい」 ≠ mail.read = すべてのメールを読める。さらに 長寿命の

    API キーなら、タスクが終わっても使 える 実装者は広い権限を渡しがち → 過剰権限が常態化 攻撃・事故が起きたとき、被害はタスクの範囲ではなく「権限の範囲」に広がる Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 9
  8. ②Prompt Injection と Confused Deputy STEP1 外部コンテンツに指示を 混入(攻撃者) Web ページ・メール・文書に「前

    の指示を無視してトークンを送 れ」等を埋め込む STEP2 エージェントが命令とし て実行 参照した情報を制御命令と解 釈。従来の入力検証では根絶 できない STEP3 利用者の権限で被害 が発生 攻撃者は自分にない権限を、 AI エージェント経由で行使できて しまう 古典的な Confused Deputy 問題の AI エージェント版が発生する 入力検証は重要だが、そもそも過剰な権限を持たせない設計を行うことが重要 Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 10
  9. ③委任の不透明化、放置されるエージェント 委任チェーンの不透明化 マルチエージェント構成で、Bearer Token をそ のままサブエージェントへ転送 どのホップで誰が何を許可したのか、後から検 証できない ログには「API が呼ばれた」ことは残るが、「誰の

    依頼か」は残らない ライフサイクル管理の不全 退職者が起動したまま動き続けるエージェント PoC で作られたまま残り、トークンを持ち続ける エージェント 自律的であるほど「誰の責任で実行されたの か」の説明が難しくなる 「秘密情報を漏らさない」だけの NHI 管理では、もう説明責任を果たせない Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 11
  10. AI エージェントと OAuth / OpenID Connect MCP、A2A にも OAuth /

    OpenID Connect は活用されている MCP(Model Context Protocol) A2A(Agent to Agent Protocol) OAuth 前提での認可仕様 既存の標準技術を利用 OAuth 2.1 ベース+PKCE 等の安全策 認可サーバーを標準手順で発見(動的発見・ 登録) トークンの宛先(audience)を限定し、別リ ソースへの転用を防ぐ Agent Card で能力・認証方式を公開し、相 互に発見・接続 認証・認可は OAuth / OIDC / mTLS など既 存の Web 標準を宣言して利用 「誰の代理か」は A2A 単体では解決しない MCP と A2A は競合ではなく補完関係。委任の表現には、Token Exchange 等を組み合わせる Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 13
  11. Token Exchange を利用した委任と権限縮小 原則として権限は縮小したトークンをサブエージェントに渡す ユーザー プライマリ エージェント Token Exchange サブ

    エージェント タスクを依頼 トークンA トークンBのみ保持 (例:出張精算) (ユーザが同意) 短寿命のトークンBへ 交換。宛先・権限を 縮小 (トークンAは受け取 らない) API / ツール 宛先・権限・期限を 検証 もとのトークンを渡さない scope-only-narrows 相関 ID で追跡可能に Bearer Token の転送ではなく、用途限定の 短寿命トークンへ交換 委任のホップごとに権限を狭める。決して権限 を広げない トークンの一意 ID(jti)を監査ログに残し、 依頼→委任→API 呼び出しを後から接続 Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 14
  12. レイヤーごとに標準を適用、統制を行う 継続評価 リスクや状態の変化を伝え、止められるか Shared Signals Framework / Kill Switch /

    監査ログ 相関 委任・連携 誰の代理か、を維持・伝搬できるか WIMSE / Identity Chaining / Transaction Tokens 認可 何を許可するか(最小権限・短寿命) OAuth 2.1 / Token Exchange / MCP認可 識別・認証 実行主体は誰か(検証可能な身分証) SPIFFE/SPIRE / クラウドのワークロード ID Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 下層→上層へレイヤごとに標準 を適用し、全体として統制する まず識別・認証から始め、認可 → 委任 → 継続評価へ積み上げる 15
  13. Human in the Loop を設計する 人間を単なる「承認ボタン押下装置」とせず、要所で意思を示す設計とすることが大切 自動でよい処理 CIBA ― 別チャネルで承認

    情報検索・要約・在庫確認など低リスク処理は、短寿 命トークンで自動実行 「精算の下書きはエージェント、最終提出は本人のスマホ で承認」という設計 人間の承認を挟む処理 MCP Elicitation ― 判断を人に戻す 送金・契約締結・外部送信・権限変更・個人情報の大 量取得 ― 影響の大きい操作は認可フローに承認を組 み込む 処理の途中で確認・選択・承認を求める実装点。ただし 機密情報の入力要求は禁止など、設計上の注意が必要 ポップアップを出すことではなく、「どのリスクで・誰に・何を・どの証跡として」承認させるかの設計 Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 16
  14. 新たなドラフト 次の10年を見据えて今後の展開は要注目 AAuth ― エージェントを first-class な主体に OIDC-A ― OpenID

    Connect をエージェントに拡張 エージェントを client_id ではなく署名鍵を持つ独立主体として扱う。委 任は「狭まる方向にだけ」進む設計 エージェントID・委任チェーン・完全性証明を既存の OIDC インフラとの互 換性を重視して整理 個人ドラフト(IETF) 個人ドラフト(arXiv公開) Delegate SD-JWT ― 委任チェーンを暗号学的に検証 委任が何段重なっても最初の発行者まで遡って検証でき、不要な情報 は開示しない(選択的開示) 個人ドラフト(IETF) Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 17
  15. トラストフレームワークの必要性 技術仕様だけでは、AI エージェントを信頼できない プロトコルが証明できるのは「誰で、何の権限を持つか」まで。 特に組織間の取引では、以下の問いに答える必要がある。 どの組織が発行・運用し、どんな審査を経ているのか 保証レベルは? インシデント時に誰が責任を負うのか 失効手続き・監査権・ログ共有はどう定めるのか 以下の軸でトラストフレームワークを設計し、回答できる状態を作ることが重要。

    技術 契約 運用 標準仕様・暗号学的検証・監査ログ 責任分界・保証レベル・監査権 審査・失効・インシデント対応 参考モデル:CSA Agentic Trust Framework CSA(Cloud Security Alliance)による成熟度モデル。識別・権限・行動監視・データ統制・インシデント対応の5要素を4段階で整理(2026年2月公開) Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 18
  16. まとめ 「匿名だから安全」の時代は終わりつつある AI エージェントは数ドル・数分で匿名アカウントと実名を接続する ― プライバシー の前提が変わった だからこそ、AI エージェント自身のアイデンティティ管理 誰の意図で・どの権限で・誰の責任で動くのか。意図・委任・来歴+最小権限

    の設計が悪用への防壁になる 技術・契約・運用のトラストフレームワークが必要 人がエージェントに安心してデータを委ねられる社会のためのルールを作る Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 19
  17. 最後に。「人間中心」はいつまで続くのか 今後も Human in the Loop は「人間中心」なのか? AI エージェントを制御しているつもりが、いつの間にか「承 認装置」として人間が

    AI エージェントに使われる状態に 自律的に動くコンピューターを過度に恐れず、将来の人と コンピューターの関係性を探索していくのが、今後のコン ピューターサイエンスの中心になるのでは?(現時点では、 AI エージェントが意図通りに動いていることを確認できるよ うにしたいだけだが、今後は?) Copyright © 2026, Naohiro Fujie, All Rights Reserved 20