概要
近年、世界各国で脱炭素社会を目指した目標設定や、法規制といった取組が見られる。その実現のためには、国民一人ひとりの環境配慮行動も必要不可欠であるが、アンケート調査では日本の環境配慮行動の低さが指摘されている。しかし、日本における消費者の環境配慮行動の度合いを国際的に比較検討した研究は希少であり、かつ不十分。これより、支払意思額(WTP)を用い、対ドイツ比較を検討する。
対ドイツ比較の背景
国際比較の検討として、ドイツと日本の両国に同じ条件の基、アンケート調査を実施。ドイツを比較検討国と設定した背景は、主に2点。
・1点目:再生可能エネルギー電力の小売市場が活発である点。Das Unweltbundsamt, 2022の調査によれば、グリーン電力の契約世帯数は、2008 年時点で4.5%、2020 年では31%であることが報告されており、グリーン電力の小売市場が活発であることが示されました。
・2点目:ドイツの小売消費者は再生可能エネルギーに対して環境を配慮した選択がなされている点。Goett & Hudson, 2000やGrosche & Schroder, 2011は、再生可能エネルギーに対して高いプレミアム、いわゆる追加的な支払意思が見られることを明らかにした。
本稿の位置づけ
本研究の目的は、「日本人の環境配慮行動を定量的な指標である支払意思額(WTP)を用い、それをドイツと国際比較することで、日本人の環境配慮行動の国際的な立ち位置を明らかにすること」にある。
先行研究をみると、電源構成における再生可能エネルギーの割合と、小売電力消費者選好の関係を実証的に国際比較の検討をした研究は、大内、Murakamiの2本と、メタ的な研究が散見。しかし、WTPを算出するに当たり、アンケート実施時に評価基準が異なっていることから、メタ的な研究はレビュー対象外としました。これより、日本とドイツを対象に、電源構成において支払意思額(WTP)を用いた研究をレビュー。
代表的な先行研究:日本
吉田(2021)は、潜在クラスロジットモデルより、ベストワーストスケーリングを推定しました。推定方法は混合ロジットと潜在クラスモデルである。再生可能エネルギー に 関 す る 支払意思 が 最 も 高 い セ グ メ ント で あ って も0.382% (平均約 38.2 円) であることを示した。また、停電可能性を高く見積もっている消費者に対しては、再生可能エネルギーに対し、ネガティブな評価をすることが示された。
中谷ら(2015)は、選択型コンジョイント分析よりを分析しました。分析手法は、条件付きロジットだ。結果は、電源構成の再生可能エネルギーの割合が10%増加し、化石燃料の割合が10%減少する場合、月額約600円の支払意思額があることを明らかにしており、1%増加の場合は、月額約60円上昇することを示している。また、原子力の比率を10%低下させ、化石燃料の比率を10%上昇させた場合、月額約800円の支払意思額があることが示された。加えて、これらの結果から再生可能エネルギーの比率を10%上昇させて原子力の比率を10%低下させる場合、月額約 1,400 円の支払意思があることが示唆された。
代表的な先行研究:ドイツ
Kaenzig et al. (2013) は、選択型コンジョイント分析より、環境に配慮した電力に対して、配慮されていない電力よりも約1,560円多く支払っても良いことを明らかにしました。推計方法は階層的ベイズ推定です。
結果は、デフォルトの電力契約から、グリーン電力に切り替えに対する選好は非常に高く、支払意思額は月額12€(家庭の平均電気代の約16%増加)することが明らかとなった。また、原子力を含む電源構成から天然ガスを含む構成への切り替えに対して、7€の支払意思が見られ、高い選好が見られた。
また、後続の研究であるTabi et al. (2014)は、Kaenzig et al. (2013)で収集したデータについて潜在クラス分析を行い、それにより識別された各セグメントについて、階層的ベイズ推計より、グリーン電力を契約している個人の特徴を検討した。回答者の80%は再生可能エネルギーを含む電源構成を選好するものの、調査実施時点でグリーン電力の購入に反映していたのは、そのうち7%であった。消費者における「選好・意識」と「環境配慮行動」が一致しない要因について分析した。実際にグリーン電力の契約に至る人々は①教育水準が高い、②価格差に対する認識が低い(グリーン電力と従来型電力の価格差が小さいと評価)、③グリーン電力ラベル(認証)への認知が高い、④かつて電力契約をした経験がある、⑤環境配慮製品に対する追加料金への支払意思が高い、という特徴が明らかとなった。加えて、環境問題に対して高い主体性をもつ傾向が見られた。他方、環境配慮行動に繋がらない消費者における特徴として、グリーン電力の価格はは従来型電力よりも10%以上高いと誤解していることが挙げられた。
Rommel et al. (2016) は、電力供給者と信頼性の関係についてWTPを用いて検討した。投資家所有の企業からの非再生可能エネルギーと、自治体所有の電力会社からの再生可能エネルギーの間には、約7€セントの差があり、これは総価格の約4分の1に相当することを示した。再生可能エネルギーに対するWTPは2.3€/kWhから6.8€/kWhの範囲であることを明らかにした。
代表的な先行研究:日本との国際比較
大内(2024)は、Kaenzig et al. (2009) の分析結果と独自のアンケート調査結果を比較検討しました。調査方法は選択型コンジョイント分析で、推定方法は条件付きロジットである。結果は、グリーン電力を含めた電源構成は、標準ケースと比較して、WTPが約247~約308円低下することが示され、電源構成におけるグリーン電力の割合が増すことにネガティブな効果が示唆された。
Murakami et al. (2015) は、ランダム係数ロジットを用い、日本と米国(4都市)比較実験を行った。
、温室効果ガスの排出量が1%減少する場合、月額約25円、再生可能エネルギーの割合が1%増加し、化石燃料の割合が1%減少する場合、月額約30円の支払意思額があることを示している。
⇒これ以降のページに関しては、スライドに記載されている通り