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市民科学と科学技術政策

 市民科学と科学技術政策

標葉隆馬(Ryuma Shineha Ph.D)
大阪大学 社会技術共創研究センター准教授
ジャパン・オープンサイエンス・サミット2021(Japan Open Science Summit 2021、JOSS2021)
セッション「オープンサイエンスパラダイムは科学の民主化を推し進めるか」
2021年6月15日(火)

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Transcript

  1. ELSI note, Vol.5 『生物・医学研究における国内外の市民科学事例に関する文献調査』 • 市民科学:伝統的な調査機関の外部にいるという特徴づけ  ボランタリーなデータ収集、科学リテラシー向上  制度的・専門的状況からの科学の開放、直接参加型(e.g.

    Alan Irwinの議論)  ①参加(participation)、②関与(engagement)、③参画(involvement) • 市民科学のよくあるパターン(Kullenberg and Kasperowski 2016) ① 生物学や保全生態学のデータ収集・分類の方法論 ② 地理情報研究における市民参加型の情報収集法 ③ 社会科学や疫学研究が奨励する環境問題や健康問題への市民のコミット • DIYバイオをめぐる議論・組織化・ELSI • 「開放性(openness)」と「民主化(democratization)」 • iGEMなどの中間領域活動(ELSIに関わる話題にも積極的) • メディアアートとの関わり(MITメディアラボ、BioClub Tokyo、YCAM) • Bio‐safetyとBio‐securityに関わる懸念、DIYbio Codes of Ethics 2021/6/16 4
  2. 2021/6/16 5 図1 Wooley et al. による市民科学の3分類 (Wooley et al.

    2016, ELSI note Vol.5より引用) ELSI note, Vol.5 『生物・医学研究における国内外の市民科学事例に関する文献調査』 • 科学と公共の役割 ① 参加(participation) 市民は研究にデータを提供する、いわゆる「被験者」の役割を担 う。市民は通常は同意の上で能動的かつ意識的に調査に参加する が、適切な保障条項もしくは民主的支持があれば知らず知らずの うちに参加している場合もある。 ② 関与(engagement) 人々が科学的施策の評価、データ収集に協力する。ただし、市民 は調査の主体ではなく、市民の関与の程度は研究を主導する科学 者が左右する。 ③ 参画(involvement) 積極的な参加の様式であり、科学研究計画や調査の実施そのもの に市民が能動的に参加し、研究課題の設定などにもかかわる。
  3. Horizon Europeについて • 先端的な「知識」・「研究」への投資(包摂的アプローチ) • 予算規模拡大:976億€規模へ拡大+EURATOM 24億€ • 「より良い規制」から「よりスマートな規制」へ •

    エコシステム形成という視点(そのための規制の設定・緩和・簡素化、障壁低減、ネットワーキング、若手支援) • 1980年代から行われている多様なプレーヤーの参加促進策(含、科学技術政策・標準化戦略)を考慮すべき (標葉隆馬『責任ある科学技術ガバナンス』ナカニシヤ出版 2020, p.20)
  4. 科学技術・イノベーション基本法と 第6期科学技術・イノベーション基本計画 2021/6/16 7 • 「人文科学のみ」の除外規定の撤廃  2018年12月「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」の範囲拡大 • 第6期科学技術・イノベーション基本計画

     統合イノベーション戦略2020、その他の個別の重点領域分野の各種戦略の影響 • イノベーション志向、PJ型・PG型の強化、経済・社会インパクトへの視点強化  「イノベーションの創出」は「科学的な発見又は発明、新商品又は新役務の開発その他の創造的活動を 通じて新たな価値を生み出し、これを普及することにより、経済社会の大きな変化を創出すること」  研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出、国民への還元、学際融合、社会的課題対応(少子高齢化、 人口減少。国境を越えた社会経済活動、食料問題、エネルギー利用の制約、地球温暖化など)  参考:英国REFにおける「インパクト」=「学術を超えて、経済、社会、文化、公共政策・サービス、健康、生活の 環境・質に関する変化あるいはベネフィットをもたらす効果」 →知識生産活動をより幅広い視点から捉えていくということ
  5. 科学に関わる裾野の広さをどこまで考えるか? • 天体観測 • 生態学的活動 • 野鳥観察 • 昆虫観察 …etc

    • レジデント型研究者(e.g. 佐藤 2012) • DIY活動 参加者の中のグラデーションをどう捉 えるのか? 2021/6/16 8 瀬戸口明久(2020)「野鳥をめぐる動物観」『日本の動物観- 人と動物の関係史』東京大学出版会: 157-170.
  6. 「幅広い研究活動」のインパクトをどう評価するか? -どう考えるのか、なにが見過ごされているのか • 東日本大震災の事例から  民俗学、文化人類学、歴史学:被災史料・文化財の復旧  地域との新しいネットワークの形成(これまでに大学が持って いなかった資産獲得としての側面) 

    現地の協力者たちの存在(地域の文化財担当者、語り部、etc) • インパクト評価の在り方への示唆 →「論文」などの評価スキームではされにくいが、「社会」とのつな がりの中で非常に重要な学術的活動がある そもそもアカデミアの中ですら、幅広い活動が適切に 評価できているとは思えない状況がある 2021/6/16 9 右:標葉隆馬(編)『災禍をめぐる「記憶」と「語り」』ナカニシヤ出版, 2021 左:高倉浩樹, 滝澤克彦(編)『無形民俗文化財が被災するということ― 東日本大震災と宮城県沿岸部地域社会の民俗誌』新泉社, 2014
  7. 「生産的相互作用」 Social Impact Assessment Methods for research and funding instruments

    through the study of Productive Interactions between science and society(SIAMPI) • 新しい「知識交換」のネットワークの拡大そのものが中期的なインパクト(あるいは知識生産 にいたる中間生成物)として位置づけて評価する • 評価の対象が研究そのものから相互作用のプロセスにシフト • 関与するステークホルダー数の増大 • 「知識交換」のプロセスが研究者のモチベーションを効果的に高める効果 1. 直接的相互作用(Direct interactions:個人的なつながり) 2. 間接的相互作用(Indirect interactions:文書やマテリアル、モデルやフィルムなどのやり取り) 3. 経済的相互作用(Financial interactions:研究契約、経済的貢献、研究プログラムへの寄付などの経済的関与・参加) 「ネットワークの失敗」(Fred and Mattew 2009)の回避 ・・・必要となる時間やシステム的基盤の問題 (Spaapen & van Drooge 2011; Spaapen 2012, PenfieldTeresa et al. 2014; ERiC 2010; de Jong 2011)