せんだい歴史学カフェ in KYOTO オープンサイエンスミートアップ！ 歴史学の面白さ、伝えます！

第31回KYOTOオープンサイエンスミートアップ
日時：2019年6月20日（木）19:00-20:30
場所 ：FabCafe / MTRL KYOTO 1階
スピーカー：せんだい歴史学カフェ：小坂俊介さん、大谷哲さん、永本哲也さん
詳細：https://kyoto-open.science/?p=768

Transcript

1. in KYOTO オープンサイエンスミートアップ！ 歴史学の面白さ、伝えます！ 第31回KYOTOオープン サイエンスミートアップ 2019年6⽉20⽇ 2019/6/20 1 せんだい歴史学カフェ
2. せんだい歴史学カフェ 2019/6/20 2 歴史学の⾯⽩さを ゆるく楽しく伝える， インターネット放送番組 https://twitcasting.tv/sendaihiscafe http://sendaihiscafe.tumblr.com/@sendaihiscafe どうぞご視聴ください！！
3. 結成のなりゆきとこれまで 2019/6/20 3 ・2011年から活動開始（2019年6⽉が第85回） ・⽉に⼀度程度、Web放送（Ustream→ツイキャスライブ） ・歴史学にまつわる話題を⻄洋史若⼿研究者がお届け・解説 ・活動を始めた動機（設⽴者、参加者それぞれ） （歴史学の活性化、若⼿研究者の⾃⼰発信、社会還元？） 参照：⼤⾕哲「インターネット歴史学コンテンツと社会への発信 ―「せんだい歴史学カフェ」の活動より」 『史苑』79巻2号、2019年5⽉、164-172⾴ （http://u0u0.net/Wm9M）
4. せんだい歴史学カフェ 活動の内容 2019/6/20 4 • 歴史学の⾯⽩さを（ゆるく楽しく）研究者以外の⼀ 般社会に伝える • 歴史学研究者とは何をしているのかを伝える（学 会・研究活動） • ⼀般の⽅にお勧めしたい歴史学の⽂献・論⽂の紹介 • 歴史学にかかわるニュースや重要トピックの解説 • 各回の放送テーマに沿って、メンバーが話題を提供 • 歴史学的思考（根拠主義、史料批判）を伝える
5. 歴史学的思考の一つ、史料の読み解き方 ：「ローマ帝国のキリスト教国教化」を例に 2019/6/20 5 ⾼校世界史教科書より： 「392年ローマ皇帝テオドシウスはアタナシウス派キリスト教 （のちのカトリック教会）を国教とし、他の宗教を厳禁した」 →キリスト教が国家唯⼀の宗教となった？ →その根拠は？ その解釈は？
6. ⼭川出版 『詳説世界史』 （2019年） 2019/6/20 6
7. キリスト教「国教化」の根拠史料１ 2019/6/20 7 『テオドシウス法典』第16巻1章第2法⽂ （380年2⽉27⽇、コンスタンティノープル市⺠宛） 「我らの慈悲深き中庸が統べる万⺠が、聖使徒ペテロがローマ ⼈に伝えたと、彼以来今に⾄るまでに浸透した当の宗教が宣し ており、かつ教皇ダマススと…アレクサンドリア司教ペトルス が信奉していることが明らかであるところの宗教に帰依するこ とを、我らは欲する。すなわち、使徒の教えと福⾳の教義に従 い、⽗と⼦と聖霊の⼀なる神を、同等の尊厳と聖三位⼀体のも とに我らは信ずる。この法に従う者がカトリック＝キリスト者 の名を帯びることを我らは命ずる。（後略）」
8. キリスト教「国教化」の根拠２ 2019/6/20 8 『テオドシウス法典』第16巻10章第10法⽂ （391年2⽉24⽇、道⻑官アルビヌス宛） 「何⼈も犠牲獣によって⾃らを穢してはならぬ。何⼈も 無辜の獣を屠ってはならぬ。何⼈も神殿に近づいてはな らず、神域内をうろつき、死すべき⼈間の労⼒で造られ た偶像を崇めてはならぬ。それは、その者が神の掟なら びに⼈の掟に対する罪⼈とならぬようにするためである。 〔略〕」
9. 根拠３：「異教」撲滅命令 2019/6/20 9 『テオドシウス法典』第16巻10章第12法⽂ （392年11⽉8⽇、道⻑官ルフィヌス宛） 「⼈間や品位のいかなる種類・位階の出であれ何⼈も、職 権を持つ者も官職の栄誉を全うした者も、⽣まれの巡り合 わせにより権勢ある者も出⾃・法的⾝分・財産の点で卑し き者も、決していかなる場所いかなる都市でも、魂を持た ぬ偶像のために無辜の犠牲を屠ってはならぬ。〔略〕」
10. 「史料」の読み解き方： 前近代国家の法律の場合 2019/6/20 10 １、法律は「如何にあるべきか」を定める命令⽂なので、それ が求める内容とは反対の現実を読み取らなければならない。 ２、法律は⽴法者が関⼼を持った事柄しか扱わない。 ３、法律は⾮常に簡潔な表現を使っているので、現代の読者に とっては誤解を招きやすい。 ４、法律が特定の地域での特定の事件について述べることは めったにない。 ５、法律がどの程度の実効性・強制⼒をもっていたかは普通は わからない。 （F. ティンネフェルト『初期ビザンツ社会』xviii⾴参照）
11. 生き続ける「異教」 2019/6/20 11 『テオドシウス法典』第16巻10章第12法⽂ （392年11⽉8⽇、道⻑官ルフィヌス宛） 「⼈間や品位のいかなる種類・位階の出であれ何⼈も、職 権を持つ者も官職の栄誉を全うした者も、⽣まれの巡り合 わせにより権勢ある者も出⾃・法的⾝分・財産の点で卑し き者も、決していかなる場所いかなる都市でも、魂を持た ぬ偶像のために無辜の犠牲を屠ってはならぬ。〔略〕」 「異教」撲滅命令
12. 根強い「異教」とキリスト教聖職者の悩み アウグスティヌス（354-430年） 北アフリカのヒッポ司教 信徒の思考・習慣・⽣活のキリスト教化に尽⼒ しかし… 信徒たちは「異教」の「呪い」「魔術」を放棄しない 多くの信徒にとり キリスト教＝死後の救済 「呪い」等：現世の⽀え 「異教」由来の祝祭も魅⼒ 12
13. アウグスティヌス『説教』376A.3 2019/6/20 13 「悪を警戒せよ…（中略）…知っているだろう、私にはわかる、悪し き⼈々があなたのところに来て、あなたに深酒をさせる、そしてあな たに⾔うだろう、「なぜダメなんだ？我々は確固たる信仰者じゃない か？」そう、私は知っている、彼らが、私を悲しませること、私が恐 れることをしようとするのを」。そしてその直後には「あなたの近所 の⼈、あるいはその妻があなたに⾔うだろう、『ここには良い呪術師 が、良い祈祷師が、どこそこには占星術師がいる』と。あなたが⾔う のは『私はキリスト教徒で、その類のことは禁じられている』だ。も し彼があなたに『なぜダメなんだ？私もキリスト教徒じゃないってい うのか？』というなら、⾔いなさい、『しかし私は信仰者の⼀⼈で す』と。彼はこう答えるだろう、『私だってかつて洗礼を受けた』と。 キリストの成員が悪魔の天使になるのだ」。
14. アウグスティヌス書簡16・17 （「異教徒」との往復書簡） 2019/6/20 14 「異教徒」側の⾔い分 「わたしたちの町にある広場が恵みある神霊たちの群れによって占 められている、とわたしたちは⾒ており、それに賛同しています。 〔中略〕ところが愚かな者どもは神殿を捨て去り、⾃分たちの先祖 の神々の権勢を無視して、あたかも想起する価値ありげに、こうい う者どもの墓にしばしば詣でています。〔中略〕実際、わたしたち は敬虔な祈りをもってすべての⼈が⾒たり聞いたりしているところ で真昼に公然とわたしたちの神々を礼拝し、その⼼にかなう犠牲を 捧げて恵みをえており、このわざがすべての⼈によって認められ、 是認されるように努めています。」
15. アウグスティヌスの反論 2019/6/20 15 「しかし、あなたが公然と神々を礼拝しているのに、わたしたちが いっそう秘密な集会所を⽤いているがゆえに、あなたがたの祭儀の ⽅がわたしたちのそれよりも優っているとあなたが主張しておられ る点に関して、わたしはまず次のことをお尋ねしたい。〔中略〕あ なたがご⾃分たちの祭儀が公然と祝われていると⾔われる場合、あ なたがたの市会議員たちや都市の重だった⼈たちが、⾃分らの都市 の街路に出て、バッカスの祭りさながら暴れまわって狂乱している 有様を、わたしたちが鏡に映すように⾯前に描き出すことを企てな いとでもお考えになったのでしょうか。」
16. 近世ヨーロッパでの宗教的マイノリティの取り締まり 2019/6/20 16 • 宗教改⾰以降のヨーロッパでは、教会が分裂。 • 宗教的マイノリティは、法的に存在を許されない場合が多い。 • 法的には禁⽌していても、当局が黙認することはある。 • 「特権」という限定的なかたちで居住を許されることがある。 • 神聖ローマ帝国では、帝国法と各領邦の法が⾷い違う場合も。 例：再洗礼派に関する帝国法と領邦・都市での特権。
17. シュパイヤー帝国議会 再洗礼派に対する 皇帝勅令 （1529年４月２３日） 2019/6/20 17 「我々は⽇々認めている、公⽰された普通法、さらに我々が 出した勅令により、数百年前に永劫の罰を下され、禁⽌され てきたそのような古き再洗礼派のセクトが時を経るごとによ り⼤きく激しく勢⼒を取り戻し、蔓延していることを。その ような悪、そこから⽣じうることを防ぎ、神聖なる帝国の平 和と⼀致を保ち、再洗礼の罰のせいで起こりうる全ての論争 と疑いを終わらせるために、我々は以前の皇帝の法、加えて 上述のそれに続き布告されたわれらの命令を更新する。」 Bossert, Gustav (Hg.), Quellen zur Geschichte der Wiedertäufer. 1. Band Herzogtum Württemberg, Leipzig 1930, Nachdruck New York / London 1971, S. 4.
18. ヴィート伯がメノー派に与えた認可状 （1680年12月16日） 2019/6/20 18 「今からそしていつの時代にも上述のメノー派とその⼦ど もだけでなく、その⼦どもの⼦ども、そして⼦孫たちにも 良⼼の⾃由と彼らの家の中での教えを許可する。そして彼 らは直接的にも間接的にも、予、予の相続⼈、後継者、予 の聖俗の官吏によって、かなりの程度改⾰派の説教を聞く こと、あるいはその他の彼らの教会の規定や儀式を強要さ れるのではなく、彼らの霊的な判断の中で⾃由に任される べきである。」 Dirk Cattepoel, Die Neuwieder Mennonitengemeinde, in: Mennonitischen Geschichtsverein Weierhof (Hg.), Beiträge zur Geschichte rheinischer Mennoniten. Festgabe zum 5. Deutschen Mennoniten-Tag vom 17. bis 19. Juli 1939 zu Krefeld, 1939, S. 145.
19. 歴史学的思考の一例、史料の読み解き方まとめ ：「前近代社会における法史料解釈」の場合 2019/6/20 19 近代国家のような、強⼒・普遍的な拘束⼒のある法はない →上から発せられる法律が禁じようとするものの裏返しから その時代に⽣きていた⼈々の現実を読み取る必要 法史料を⽂字通り受け取るだけではたどり着けない過去の像
20. 「史料の読み解き方 一例」参考文献 2019/6/20 20 • Éric Rebillard, Christians and Their Many Identities in Late Antiquity, North Africa, 200-450 CE, Cornell University Press, 2012. • A. アマン著、東丸恭⼦・印出忠夫訳『アウグスティヌス時代の⽇常⽣活』全2巻、リトン、 2001-2002年。 • ⾦⼦晴勇訳『アウグスティヌス 書簡集１』教⽂館、2013年。 • Ｆ．Ｈ．ティンネフェルト著、⼸削達訳『初期ビザンツ社会―構造・⽭盾・緊張』岩波書店、 1984年。 • 保坂⾼殿『多⽂化空間のなかの古代教会』教⽂館、2005年。 • 保坂⾼殿『ローマ帝政中期の国家と教会―キリスト教迫害史研究193−311年 』教⽂館、2008年。 • 歴史学研究会編『世界史史料１ 古代のオリエントと地中海世界』岩波書店、2012年。 • 永本哲也「近世ヨーロッパを⽣き抜く宗教的マイノリティ再洗礼派―多宗派併存都市ノイヴィー トのメノー派を中⼼に」浅⾒雅⼀、野々瀬浩司編『キリスト教と寛容 中近世の⽇本とヨーロッ パ』慶應義塾⼤学出版会、2019年、187-202⾴。 • Bossert, Gustav (Hg.), Quellen zur Geschichte der Wiedertäufer. 1. Band Herzogtum Württemberg, Leipzig 1930, Nachdruck New York / London 1971, S. 4. • Dirk Cattepoel, Die Neuwieder Mennonitengemeinde, in: Mennonitischen Geschichtsverein Weierhof (Hg.), Beiträge zur Geschichte rheinischer Mennoniten. Festgabe zum 5. Deutschen Mennoniten-Tag vom 17. bis 19. Juli 1939 zu Krefeld, 1939, S. 145.
21. 古代世界の「異教」の残存を伝える補足史料１ 2019/6/20 21 『ダシウス殉教録』3章2−3節（4世紀以降） 「この（サトゥルナリア祭が⾏われる）1⽉1⽇、愚かな者 どもはキリスト教徒と⾃称しているにもかかわらず、ギリ シア⼈の慣習に倣い、盛⼤な祝祭⾏列と共に⾏進し、⾃ら の本性をかなぐり捨てて悪魔の仕草と形姿とを⾝にまとっ ていた。」
22. 古代世界の「異教」の残存を伝える補足史料２ 2019/6/20 22 レオ⼀世『説教』27.4（5世紀） 「このような考え⽅から、更にもう⼀つ別の不敬な⾏為が⽣ まれる。すなわち、ある素朴な⼈々は、⾼い所に登って⽇の 出を拝んでいる。キリスト信者の中にすら、こうした⾏為が 特別な信⼼だと思っている⼈がいる。…このことは、⼀つに は無知から、また⼀つには異教的な精神からくることである が、わたしはこのことを⾮常に嘆き、苦しんでいる。おそら くある⼈々は、このようにして、被造物である光そのものよ りも、こうした美しい光の創造主を礼拝しているのであろう が、しかしこのような礼拝はやめるべきである」