Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
GitHub+OmegaTによる翻訳書制作ワークフローの可能性と課題
Search
Rikiya Ihara / magi
November 22, 2017
0
38
GitHub+OmegaTによる翻訳書制作ワークフローの可能性と課題
Rikiya Ihara / magi
November 22, 2017
Tweet
Share
More Decks by Rikiya Ihara / magi
See All by Rikiya Ihara / magi
最速[要出典]アクセシビリティチェック
magi1125
2
200
デザインプリンシプルのつくりかた(freee技術の日)
magi1125
8
6.7k
Webアプリケーションアクセシビリティ解説ウェビナー「8章 アクセシブルなUI設計の原理を導く」
magi1125
1
370
ゼロから学ぶWebアクセシビリティ~導入編~
magi1125
6
2.5k
アクセシビリティに関わる職種とは?〜freee編〜
magi1125
0
21k
アクセシビリティの効果測定
magi1125
1
8.1k
電子決済等代行事業者協会 アクセシビリティ勉強会「Webアクセシビリティの概要」
magi1125
0
15k
noteアクセシビリティ勉強会 〜画像編〜
magi1125
0
6.8k
自社サービスのアクセシビリティ向上、良いパターンとアンチパターン
magi1125
0
6.9k
Featured
See All Featured
Raft: Consensus for Rubyists
vanstee
137
6.8k
Music & Morning Musume
bryan
46
6.3k
Unsuck your backbone
ammeep
669
57k
Rebuilding a faster, lazier Slack
samanthasiow
80
8.8k
How To Stay Up To Date on Web Technology
chriscoyier
790
250k
How GitHub (no longer) Works
holman
314
140k
CoffeeScript is Beautiful & I Never Want to Write Plain JavaScript Again
sstephenson
160
15k
[Rails World 2023 - Day 1 Closing Keynote] - The Magic of Rails
eileencodes
33
2.1k
The Straight Up "How To Draw Better" Workshop
denniskardys
232
140k
Art, The Web, and Tiny UX
lynnandtonic
298
20k
Fantastic passwords and where to find them - at NoRuKo
philnash
51
3k
Rails Girls Zürich Keynote
gr2m
94
13k
Transcript
GitHub+OmegaTによる 翻訳書制作ワークフローの 可能性と課題 伊原 力也 / 太田 良典 2017.11.22 電書ラボ公開セミナー2017
第3回 Gitを活用した電子書籍制作 1
自己紹介 太田 良典 HTML4.01のW3C仕様書を翻訳した「HTML4仕様書邦訳計画補完委員会」の委員を務めた 後、2001年にBAに参加。Web技術の分野で幅広い専門性を持ち、セキュリティ分野において は「第二回IPA賞(情報セキュリティ部門)」を受賞。アクセシビリティ分野では、ウェブアクセシ ビリティ基盤委員会(WAIC)の委員として活動している。 伊原 力也 freee株式会社
IA/UX。アクセシブルなインタラクションデザインの実践を標榜し、Webサービ スやスマートフォンアプリの設計業務に従事。ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)理解 と普及作業部会委員としても活動。HCD-Net認定 人間中心設計専門家および評議委員。ク リエイティブユニットmokuva所属。 2
http://waic.jp 3
Amazonで「アクセシビリティ」と検索! 4
このセッションの流れ • 今回の本のご紹介 • 前回の本のふりかえり • 今回工夫したポイント • 実際の流れ •
ふりかえり ~ 可能性と課題 • まとめ 5
今回の本のご紹介 6
7
8 インクルーシブHTML+CSS&JavaScript 「インクルーシブHTML+CSS&JavaScript ~ 多様なユーザーニーズに応えるフロントエンドデザインパターン」 • 2017年11月発売 • 英語の原著からの翻訳 ◦
原著名: Inclusive Design Patterns / 2016年10月発売 • 障害の有無などにかかわらず、さまざまな人が Webサイトにアクセスできるようにする実装技術を紹介
9
前回の本のふりかえり 10
11
12 デザイニングWebアクセシビリティ 「デザイニングWebアクセシビリティ ~ アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ」 • 2015年7月発売 (当初は紙版のみ) • オリジナルの書籍
• 障害の有無などにかかわらず、 さまざまな人がWebサイトにアクセスできるようにするための 考え方や制作プロセスについて述べた本
デザイニングWebアクセシビリティ 電子版 • 当初は紙版しかなかったが、電子書籍のニーズが強かった ◦ テーマの性質上、紙の本が読めない人からも関心を集めた • 2017年2月 電子版発売 ◦
電子版を制作する作業だけで3か月を要した 13
電子版作業の進め方 • データはGitHubで共有しながら進行 • ひたすらテキストを起こす作業を実施 ◦ 元の原稿はテキストファイルだったが、 最終的な修正などを反映したものは組版の InDesignデータのみだった •
画像制作作業も発生 ◦ 図版等の画像もInDesign上で加工されているものがあり、 PDFのスクリーンショットを取って切り出すという作業が発生した 14
15 紙版ゲラのInDesignデータからテキストを起こす
図版の例 16
InDesign上で加工された図版 17
詳しく知りたい方は: 電子書籍版「デザイニングWebアクセシビリティ」制作秘話 ~ Web制作者が電子書籍を作ってみた! https://www.slideshare.net/rikiha/web-web-72940877 18
今回工夫したポイント 19
電子版を意識した制作プロセスの工夫 • 電子データをマスターにする ◦ まず電子データに手を入れて紙に反映 ◦ 紙に赤を入れた場合は、必ず電子データに反映する • 監訳の共同作業に OmegaT
を導入する ◦ 監訳者2名 + 編集者によるチェックと調整を効率的に行う 20
OmegaTとは? 21 • 「翻訳メモリ」と呼ばれるソフトウェア ◦ 用語の統一や、複数人での翻訳作業などを支援する機能 • Gitと連携する機能あり ◦ Git
→ 複数人での同時作業や、ファイルの変更管理などの機能 ◦ OmegaT → 用語の統一や翻訳済み箇所の検索など、翻訳に必要な機能
22 OmegaT - https://omegat.org/
23 OmegaTの画面
実際の流れ 24
2016年10月~2017年3月: 監訳作業の準備 25 • 2016年10月 ◦ 原著の発売 ◦ 翻訳権の獲得 (発売前から交渉を進めていた)
◦ ひとまずレビュー用のPDFを入手 ◦ このPDFをベースに翻訳作業を開始 • 2016年12月 ◦ 契約に基づいて正式な原著EPUB版データを入手 • 2017年1月 ◦ 翻訳作業完了、下訳の完成 ◦ 下訳の確認と監訳作業の準備を開始
原著のデータの状態 26 • 原著のデータが複数種類存在 ◦ 少なくともドラフト版Word、レビュー用PDF、EPUB版が存在 • データごとにバージョンが異なる ◦ ドラフト版Wordは未稿部分あり、コードサンプルも崩れている
◦ レビュー用PDFはレビューに使用されたバージョン 内容はほぼ揃っているが、誤りを含んでいる ◦ EPUB版は実際に販売された完成版 サイトで公開されている正誤表の内容も一部反映されていた
ドラフト版Word 27
28 レビュー用PDF
EPUB版 29
原著の下訳 • まずは翻訳会社に翻訳してもらう • レビュー用PDF版をベースに翻訳 ◦ 作業開始時点では正式なデータが入手できていなかったため • 図版やプログラムコード内の文言も翻訳 •
翻訳の結果はWord文書の形 30
監訳作業の準備 OmegaT を使用する前準備として以下を実施 • 原著EPUB版のXHTMLのファイル「原文ファイル」として登録 ◦ OmegaTではマークアップは原著のまま、訳文だけ更新できる • 翻訳会社による下訳を参考訳文としてOmegaTに登録 •
作業者間でブレが出ないように、OmegaTの設定を統一 ◦ フィルタ、分節化規則、ファイルの並び順など • 共同作業に使用する Git リポジトリを用意 ◦ 今回は GitHub を使用 31
2017年3月~2017年10月: 監訳作業と調整 • 2017年3月 ◦ 監訳作業開始 ◦ 本文フォーマットデザイン確定 • 2017年4月
◦ DTP作業開始 • 2017年10月 ◦ 監訳作業完了 ◦ DTP作業完了 ◦ 校了 32
監訳作業の実施 • 原著のErrata(正誤表)の内容を反映 • 監訳者2名が訳文のチェックと調整を実施 • OmegaTの「メモ」欄を活用 ◦ 個々の分節に対して任意のメモを書くことができる機能 ◦
分節をチェックしたら、メモ欄にコメントを残す ◦ レビュアーのコメントがあれば、これもメモ欄に追加 ◦ 双方が「OK」と判断するまで調整する (簡単に言っていますがこの作業に数か月かけています ) 33
メモの例 34
訳注の処理 • 本書では大量の訳注が発生した • しかし、OmegaTには訳注を扱う専用の機能はない • そのため、訳注が必要な個所については、 別途テキストファイルに訳注を書いてGitHubで管理した 35
DTPへの指示出し 紙の本を作るにあたってはDTPの作業が必要になるため、 デザイナーやDTP作業者への指示出しが必要になる • 作業者への指示はGoogleドキュメントで実施 ◦ OmegaTやGitHubを直接操作することは困難と判断されたため • 監訳が終わった部分を編集者がチェックし、ドキュメントに転記 ◦
1章ぶんがまとまったできたところで作業者に渡し、 DTP作業を依頼 36
DTP指示出しドキュメントの作成 37 本文: OmegaT 図版: 下訳Word 訳注: GitHub DTP指示出しドキュメント
ふりかえり ~ 可能性と課題 38
良かったこと 39 • GitHub + OmegaT による翻訳の共同作業 ◦ 2人で同時に監訳作業を行うことができた ◦
メモ欄を活用して議論をしたり、履歴を残したりできた • デジタルデータをベースにした作業 ◦ 翻訳が終わると同時に翻訳済み HTMLができていた ◦ このデータは電子版作成時に活用できる
良くなかったこと 校了予定日3日前に大量のミスが発覚 • 段落の抜け、ソースコードの抜けなど大きなミス ◦ その他、原著の正誤表の内容が反映されていなかったり、 ソースコード中の要翻訳箇所の漏れなども • 2日かけて原始的な紙とペンによる「突合」の作業を実施し、 抜けていた箇所を確認して補った。
◦ 同時に泣き別れの調整や校正を実施、 500箇所程度の修正 40
問題の原因 その1: 参照先の混乱 • OmegaTでは常に本文の最新の訳文が確認できる状態だったが、 図版やプログラムコードが最新になっていない箇所があった ◦ 図版やプログラムコードの翻訳は後回しになっており、 OmegaTには 反映されておらず、下訳のWord文書が正しい状態のように見えていた
(しかし実際には監訳作業未反映の内容であり、正しくない ) • そのため、図版については下訳WordからDTP指示が出ていた • さらに訳注はGithubで別途管理されているなど、 確認するものが多岐にわたって混乱が生じていた 41
OmegaTと下訳Word、どちらが正しかったのか? 42 OmegaT 下訳Word ◦ 図やコードは翻訳済み × 正誤表は未反映 × 図やコードは未翻訳
◦ 正誤表は反映済み
問題の原因 その2: 伝言ゲーム • OmegaTのデータがそのまま本になったわけではなく、 OmegaTから生成したHTML → Googleドキュメント → InDesignと、デー
タが手動でコピーされる伝言ゲーム的なフローになっていた • それぞれのフローでコピー時のミスなどのヒューマンエラーが 発生することがあり、結果としてミスの数が増えた 43
原稿 → 指示出し → ゲラ 44 DTP指示出しドキュメント ゲラ 原稿
問題の原因 その3: 確認のタイミングが遅い • ゲラが完成してからの最終チェック ◦ 作業はOmegaTで進めていたが、図版、訳注は別管理 ◦ すべてが合体した状態で見ることができるようになったのは、 DTP作業が終わってゲラができてからだった
◦ プロセスの途中で大量のミスが起きることは想定していなかった • そのため、チェックのタイミングが校了直前になってしまった • しかも、紙のゲラをチェックして赤入れすることになった 45
電子版のデータはどうなったか? すぐ電子版が出せるように、との思惑だったが…… • 紙のゲラに赤を入れて、紙版の校正紙PDFに反映した • ゲラへの修正は初校赤字後にOmegaTに戻すという想定だったが、 ボリュームが想定よりも多かったためいったん見送り、 紙版校了後にまとめて戻すこととした • つまり、紙版出版時点で、OmegaTのデータは最新ではない
◦ とはいえ電子データはあるので、修正を反映する作業をすれば良い 46
問題のまとめ 1. 参照先の混乱 2. 伝言ゲーム 3. 確認のタイミングが遅い これらはツールの問題というより、作業フローとスケジュールの問題 進行フローを明確に決めてから運用すれば解決するのではないか 47
今後のさらなる展望 (構想) • 自動プレビューができないか? ◦ 訳注や図版などが別管理になっているが、 OmegaTから生成したHTMLと自動で合体する仕組みができないか ◦ 具体的には、TravisCIを使ってGitHub Pagesに反映するなど
• そのまま組版に持っていけないか? ◦ HTMLからIDML(indesign XML)に変換して 組版に直接反映するような流れをつくることはできないか 48
まとめ 49
このセッションのまとめ 50 • GitHub + OmegaT で、共同での翻訳作業を支援できる • ただし万能ではない! ◦
参照するソースが増えてフローが複雑になる ◦ 作業途中の状態では完成形がイメージしにくい • 作業フローを事前に明確に決めておくことが重要! ◦ やり方を洗練すれば、電子版作成の時間を大幅に短くできるのでは
ありがとうございました 51