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『生理心理学と精神生理学』第9章「言語に関するERP研究」

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May 29, 2025
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 『生理心理学と精神生理学』第9章「言語に関するERP研究」

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  1. 言語関連ERPの発見 01 人間は「与えられた文脈にどのような語が続くのが適切か」を考える能力がある 4 英語の文末に意味的にふさわしくない語が提示されたとき、どのようなERP 成分が観察されるかを実験 Kutas &Hillyard (1980) 例

    : I take coffe with cream and 〇〇 suger : 自然 pen : 不自然 a. He spread the warm bread with butter. b. He spread the warm bread with socks. c. He spread the warm bread with butter. 意味的にふさわしい 意味的にふさわしくない 意味的にふさわしいが、文字が大きい
  2. 言語関連ERPの発見 01 結果 5 図9-1-1 : Kutas & Hillyard の実験結果

    (1b)提示後 約250msから始まり、400ms後にピークを迎える陰性のERP成分が観察された(N400)。 (1c) を提示した場合、(1a)に対して、潜時560msをピークに陽性方向に大きく偏位していた(P560)。 予測していなかった入力に対する驚きであれば、300~600ms後に陽性成分(P300)が観察されるはず。 1a. He spread the warm bread with butter. 1b. He spread the warm bread with socks. 1c. He spread the warm bread with butter. → (1c)では観察された一方、(1b)では観察されなかった → N400は、言語に特有のERP成分であり、 「意味的な逸脱に対して惹起される」成分である
  3. 意味と統語の区別 02 多くの言語学者は「文法と意味は独立した側面である」と考える 7 我々の脳は、意味と統語を区別しているかどうか(ERP 成分の違いとして観察できるか)を実験 Osterhout & Mobley (1995)

    例 : Colorless green ideas sleep furiously (4a). The elected officials hope to succeed. (4b*). The elected officials hopes to succeed. 主語“The elected officials” が複数名詞なので、(4b) は文法的に違反している → 文法には違反していないが、意味をなさない文 下線部を提示した時のERP 成分を比較する → 意味は分からないものの、文を構成できる
  4. 意味と統語の区別 02 8 結果 図9-2-1 : Osterhout & Mobley の実験結果

    (4b) 提示後、特に頭頂部(Pz)で顕著な遅 い時間帯での陽性成分が見られた。 潜時500ms後以降から出現し始め、 600ms後周辺でピークを迎える。(P600) N400(意味的な逸脱指標)は見られなかった Kutas &Hillyard(1980) の結果と照らし 合わせると、意味と統語は我々の脳でも 区別されて処理されることが言える N400 : 意味的な逸脱指標 P600 : 統語的な逸脱指標 解釈
  5. 文処理過程とERP 03 → このときの脳処理はどういうものか 10 このような「統語構造の再構築」にどのようなERP 成分が生じるのかを実験 Osterhout & Holcomb

    (1992) [3] 例 : The broker persuaded... 6a. The broker persuaded to ... 6b. The broker hoped to ... persuaded (他動詞) :persuaded が提示された段階では目的語が続く可能性はある    hope ( 自動詞) :hoped が提示された段階で目的語が続く可能性はなくなる この文を聞いた時点で“persuaded” がこの文の主動詞であると考えているとする。 もし“to” が続いたら、“persuaded” は他動詞であるため、関係節の省略であるという考えに変更される。 言語処理は時系列的に統語構造が再構築されながら進む The broker (who was) persuaded to ... 以下の2 文を1 語ずつ提示して、“to” を提示した時のERP 計測 ※ 関係節の省略 :
  6. 文処理過程とERP 03 11 結果 参考図1 : Osterhout & Helcomb の実験結果

    P600はもっとも好まれる構造から、好まれない構造への 再構築処理(再分析)にかかる処理不可(処理の難しさ)を 反映する 潜時500-800ms間での陽性成分を観察 P600は文法的な逸脱の検出指標と解釈されていたが、 本実験では文法的に間違いが無いのにP600が惹起された (6a). The broker persuaded ... 解釈 ← 好まれる構造(persuaded が他動詞である) と想定 (6a). The broker (who was) persuaded to ... ← 好まれる構造が棄却される。統語構造の再分析(P600 惹起) 。 ↓ to の提示
  7. 文処理過程とERP 03 12 他の言語関連ERP 図9-2-1 (一部再掲) : Osterhout & Helcomb

    の実験結果 ◎ELAN(N125)(Early Left Anterior Negativity) 以下のような、英語の句形成に関わる逸脱に対する反応と解釈されている 7a. The man admired a sketch of the landscape. *7b. The man admired Don’s of sketch the landscape. (7b)のような位置にofは置けず、(7a)のような前置詞句を適切に作成できない ◎局所的LAN / 一過性LAN 頭頂部でP600が出現するよりも早い潜時帯で陰性部位の観察 N400と重なる潜時帯であるが、頭皮上分布が異なるため、 N400と区別されて LAN と呼ばれる 主語と同士の一致の逸脱に対して惹起されると考えられている 比較的短い時間で収束するため、局所的LAN / 一過性LAN とも呼ばれる (4a). The elected officials hope to succeed. (4b*). The elected officials hopes to succeed. → 意味や統語構造を考えずとも、早い段階で間違いに気付ける
  8. 日本語のERP研究 04 15 日本語とN400 英語と日本語は言語類型上大きく異なるが、日本語でもN400やN600が観察 8a スズメは 鳥で ある。 8b 金づちは 魚で ない。 8c

    松は 工具 である。 8d バスは 乗物 でない。 一語目と二語目の意味的関連性が大きい。文の意味が正しい。(TA) 一語目と二語目の意味的関連性が小さい。文の意味が正しい。(TN) 一語目と二語目の意味的関連性が小さい。文の意味が正しくない。(FA) 一語目と二語目の意味的関連性が大きい。文の意味が正しくない。(FN) Katayama et al. (1987) 日本語でもN400 が惹起されるかを確認するために以下4 種の文を提示しERP を計測した  ※ 計測タイミングは3 つ目の単語提示時。 true-affirmative (TA), true-negative (TN), false-affirmative (FA), false-negative (FN)
  9. 日本語のERP研究 04 16 結果 一語目と二語目の関連性が低い条件(TN, FA) は、 高い条件よりも大きな陰性成分が潜時300~450ms に観察された →

    英語で見られた N400 とみなす → 日本語は動詞が文末に位置するため、文末まで意味が決定 できないにも関わらずN400 観測 → N400 は文全体の意味ではなく、文の途中段階までに形作られた文脈と 入力後の間の意味的な整合性によって振幅が決定されると解釈を改める 8a スズメは 鳥で ある。 8b 金づちは 魚で ない。 8c 松は 工具 である。 8d バスは 乗物 でない。 一語目と二語目の意味的関連性が大きい。文の意味が正しい。(TA) 一語目と二語目の意味的関連性が小さい。文の意味が正しい。(TN) 一語目と二語目の意味的関連性が小さい。文の意味が正しくない。(FA) 一語目と二語目の意味的関連性が大きい。文の意味が正しくない。(FN) 解釈
  10. 日本語のERP研究 04 17 日本語とP600 (9a). 会見で社長は[ 秘書が弁護士を探している] と言った。 (9b). 会見で弁護士を社長は[

    秘書が探している] と言った。 結果 かき混ぜ文において、P600 が惹起された → かき混ぜられた語( 「弁護士を」 ) を基本語順に基づく位置に心的に再配置するような処理によるもの 日本語は比較的語順が自由であるものの、基本となる語順が存在し、それ以外の語順はそこから派生した複 雑な構造を持つ( かき混ぜ文) と主張されている。 基本語順の文 かき混ぜ文 また、言語使用の面からは基本語順が最も処理不可が低いという研究結果もある。(Koizumi & Tamaoka 2024) Hagiwara et al. (2007) 日本語においてもP600 が観測されるか検証するため、以下のような2 文を被験者に提示 ※ [] は「探している」の影響範囲。かき混ぜ文は「弁護士を」がこの範囲の外であり複雑な構造。
  11. 参考文献 18 Kutas, M., & Hillyard, S. A. (1980). Reading

    senseless sentences: Brain potentials reflect semantic incongruity. Science, 207(4427), 203–205. URL Osterhout, L., & Mobley, L. A. (1995). Event-related brain potentials elicited by failure to agree. Journal of Memory and Language, 34(6), 739–773. https://doi.org/10.1006/jmla.1995.1033 Osterhout, L., & Holcomb. (1992). Event-related brain potentials elicited by syntactic anomaly. Journal of Memory and Language, 31(6), 785–806. https://doi.org/10.1016/0749-596X(92)90039-Z Katayama et al. (1987). Event-related brain potentials elicited by syntactic anomaly. Biological Psychology, 25 (2) 173-185. https://doi.org/10.1016/0301-0511(87)90036-6
  12. END

  13. まとめと最新研究事例 05 5 まとめ - 言語に関するERP N400 N600 最新研究 意味と統語をN400

    とN600 に一対一対応させるだけでは解釈が難しい 我々の私用する言語には2 つの側面 : 意味と統語 意味 統語 という対応関係がありそうだ、という研究を見てきた。 N400 やN600 が観察できない言語も存在する