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『身体性認知とは何か』序文「心を身体化する」

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September 08, 2025
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 『身体性認知とは何か』序文「心を身体化する」

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Transcript

  1. 4 認知科学の成り立ち 01 身体性認知とは 身体的過程および身体と環境の相互作用が認知において重要な役割を果たすことを認める立場 認知科学の誕生 1940~50年代の計算機開発に伴い、心の活動を広義の情報処理として理解しようという動き すべての情報処理過程は、外界の事物や出来事を表す「表象(representation)」に依拠して成立 表象:外界を内的に再現・代理・表現するもの (言語のような記号や、視覚的なイメージなど)

    表象が処理されるには、それに意味を与える膨大な背景知識のシステムや言語処理規則としての 構文システムが心の内部に保存されている必要がある ・Logic Theorist : 人間の問題解決を模倣するように設計されたプログラム(世界初の人工知能) ・生成文法:言語機能(特に文法)の生得性を仮定し、脳に実在する言語機能の解明を目指す
  2. 5 行動主義と認知主義 01 行動主義 刺激と反応を結ぶ条件反射の回路をもとに心を理解しようとした立場 近代心理学はその研究領域を「意識」に定め、研究方法を心理学者自身が行う「内観」に求めた 行動主義の試み ⇒ 主観的方法に依存している限り、客観的に観察可能な事実に基づいてデータを蓄積できない ⇒

    客観的に観察可能な事実としての「行動」に準拠して心理学を再設計 認知主義 「情報処理」という観点に立脚し、行動主義が放置した内的過程を、特定のモデルのもとで 心的表象が処理される計算過程として理解しようとした 例:赤ちゃんの条件付け実験 赤ちゃんがネズミと遊ぼうとするたびに、驚愕反応を繰り返し引き起こさせる(驚かす) ⇒ 赤ちゃんはネズミを見るだけで泣き出し嫌がる。さらに他の動物や毛皮のコートにまで  恐怖反応が汎化された 大人も条件反射の回路が複雑かつ高度になり, 意図的(自由意思)な選択を行って見えるだけの可能性
  3. 6 心身二元論の遺産 01 行動主義と認知主義が受け継ぐ二元論 外部から観察可能なものを有機体の「身体」に見出し、内的で主観的に接近するしかないものを「心」 に重ね合わせる思考 すなわち、 「心身二元論」を色濃く受け継いでいる 思惟実体(res cogitans):

    「われ思う(cogito)」世界を構成する第一の実体「精神」 延長実体(res extensa) :精神の原理によって統制されない三次元空間に姿を現す実体 感覚や欲望が身体に由来するとしても、それが生じているのは内定な精神の領域 心身合一:精神と身体が結合して働くこと ⇒ 精神と物質の本質的な区別が取り払われるわけではない 心身二元論は、認知科学や心理学といった「心の科学」を強力に方向付けするもの であり続けてきた ⇒ その問題点は? 図 : 心身二元論 (Descartes, 1641)
  4. 8 機能と媒体 02 心身二元論を前提に始まった認知科学が露呈した問題 ・心の機能と心の媒体の関係をどう見るか 認知科学は、行動から切り離された内的な情報処理の過程として心を位置づける 「計算プログラム」やそれを支える「アルゴリズム」という機能こそ心の本質であるという見方 ⇒ 機能主義 媒体独立性:心は機能だから、それが搭載される媒体とは独立に理解し再現できる

    「脳」を内的な記号計算を担う「心の媒体」として理解しようとする見方も 「情報処理」の部分を脳内の神経過程に重ねる生物学的な解釈 ⇒ 情報処理の理論そのものが二進法:ニューロンの活動とアナロジー 脳:ハードウェア、心:ソフトウェア 図 : Deep Blue vs 世界王者 (1997)
  5. 9 フレーム問題 02 フレーム問題 行為・行為の結果・行為を取り巻く状況、これらを表現する知識を人工知能で実現する困難を論じた ロボットの爆弾処理 (Dennett, 1984) 状況設定:交換用バッテリーの上には時限爆弾も置かれている ①

    バッテリーの場所についての知識を与える ⇒ バッテリーを持ち出すことに成功したが、時限爆弾も一緒に持ち出してしまった ② 行為の副次的な結果を推論できるように改良 ⇒ バッテリーを交換することに関連の無い結果を無視することができなかった ③ 重要な関連を持つ知識だけを確認するように改良 ⇒ 関連が無い(無限の)知識を無視することに忙しく、動かなくなってしまった 人間は「おおよそこのような範囲で状況とその変化を想定して行為すればよい」と対処可 ⇒ あらゆる可能性をシミュレートするAIとは知性の働かせ方が異なる 図 : フレーム問題
  6. 12 行為から始まる知覚と認知 03 「身体」および「行為」とつながった認知の次元 環境の中で次の瞬間にできそうなことを探索しつつ、自らの行為可能性を環境に投射し、 そのフィードバック情報を知覚として受け取る ⇒ 行為という「出力」によって最初から知覚(とそれに続く認知過程)がかたどられている ⇒ 「入力→情報処理→出力」という直線的な「原因→結果」の時系列では心の働きを解明できない

    例:ネコの視知覚実験 (Hled & Hein, 1963) 自足歩行可能な猫と受動運動しか経験できない猫をレールでつなぐ ⇒ 受動運動しか経験できないネコには「奥行きの認知能力」が欠落 ⇒ 自立歩行に関連づいて変化する環境の見え方を学習することで、   自己身体と対象の距離関係という運動経験の意味を構成する 「奥行き」は網膜に映った2次元情報を認知主体が加工し、付け加える第三の次元ではない ⇒ 「対象に近づく/離れる」という行為ができるからこそ、最初から奥行きのある情報を知覚できる ⇒ 両眼視差による両眼の運動調整も微細な行為に基づく 図 : ネコの視知覚実験
  7. 13 脳と身体 03 ネコの視知覚実験から考察が促される「脳が果たす役割」 従来の神経科学の枠組み:刺激が同じ → 感覚&脳内での神経過程も同じ → 同じ脳内の視覚像 ⇒

    しかし、猫の見ている世界は二次元的 or 三次元的という点で大きく異なる 弱い身体性認知 知覚された像として世界の表象は脳内で成立しているものの、 その表象が入力段階の抹消の身体によってフォーマットされているという考え ⇒ 自足歩行する猫は受け取る刺激を歩行という身体運動と自然に関連付ける  ⇒ 刺激と空間性を紐づける暗黙の規則と共に受容している ⇒ 入力刺激に関連する身体過程を脳内表象へと還元する解釈 (二元論は保持される) 知覚は脳/心の中で世界についての表象を形成する過程なのだろうか? 知覚された世界の心的表象は世界それ自体とは異なる脳内の次元にあることになる ・真に実在する世界はどのような姿をしているのであろうか? ・脳の水準で表象を見たり聞いたりしている主体(脳の中の小人, ホムンクルス)を仮定する必要 ・機械の中の幽霊 (Ryle, 1949):身体の機械的な説明では、スキルフルな身体行為を説明できない 『脳の中の幽霊』 ラマチャンドラン 著 『攻殻機動隊』
  8. 14 探求の入り口に立つ 03 まとめ:行動主義と認知主義の見落とした問題 行動主義 「行為」を大切にしているように見えて、客観的に観察可能な有機体の変化だけに注目し、 物理的な因果関係に類似する「条件反射」という概念でしか動物と人間をとらえられない 「入力→出力」という直線的な枠組みのもとでしか心を理解しようとせず、 入力される情報が生物の体に備わる行為可能性によって最初からかたどられていることを見過ごした 身体性認知:認知科学の枠組みを変えて心を捉え直す

    1. Embodied(第一のE):心はまずもって身体化されている 2. Embedded(第二のE):身体は生命を保つことができる具体的な環境の中に埋め込まれている 3. Enactive(第四のE):全ての認知過程はおよそ行為から切り離すことはできず、            行為を通じてその機能を発揮する 4. Extended (第三のE):身体化された心は、道具を始めとして行為が活用する様々な資源を             巻き込み、時にそれらへと拡張する 認知主義 「心-身体」という二元論が「脳-身体」に置き換えられるだけ ⇒ 「脳内のホムンクルス」や「機械の中の幽霊」という問題を残したままである
  9. END