バーゼルむかしばなし(字幕あり) / ロマンティック数学ナイトプライム

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昔々あるところに円周が2kmであるまん丸い湖があり、その湖畔にはお城が建っていました。王様であるバーゼル王は、2階にいるオッド王⼦を訪ねて⾔いました。

「お誕⽣⽇おめでとう。湖の向こうを⾒てごらん。私からの誕⽣⽇プレゼントだ。」今⽇は3⽉14⽇でオッド王⼦の10歳の誕⽣⽇。

そして、湖の向こうには1本の灯台が建っていました。「ありがとうお⽗さん！うわあ、とっても綺麗！」夜になって⾒る灯台の明かりはとても綺麗で、部屋に差し込む光もとてもロマンティックでした。

1年後。もうすぐオッド王⼦の11歳の誕⽣⽇です。バーゼル王はオッド王⼦に提案しました。

「今年は2本めの灯台をプレゼントしてやろう。きっと、もっと綺麗に⾒えるはずだ。」オッド王⼦はとても喜びましたが、少し気になることがあるようです。「2本めも建ててくれるの！？嬉しい！でも…」

「僕はあの灯台に照らされるこの部屋の明るさが好きなんだ。」

「灯台が増えるのは嬉しいけど、部屋の明るさが変わるのはちょっと嫌だなあ…」

突然のわがままに頭を抱えるバーゼル王。しかし、せっかくの誕⽣⽇です。なんとしてでも息⼦の願いを叶えてあげたい。

そんなことを悩みながら散歩をしていたバーゼル王のもとに、⼀⼈の数学者が通りかかりました。

「王様どうかしましたか？ずいぶん悩んでいる様⼦ですが。」「ああ、じつはかくかくしかじかで…」「なるほど。」

「王様、私にいい考えがあります。」「なんだね、ぜひ教えてくれ。」

「まず第⼀に、明るさというのは距離の⼆乗に反⽐例します。」「どういうことだ？」

「灯台までの距離が2倍、3倍となるごとに、明るさは4分の1、9分の1になるということです。」「なるほど、なんとなくわかった。」

「第⼆に、この図を⾒てください。」「直⾓三⾓形だな。これがどうしたんだ。」

「この直⾓のところに王様のお城が建っているとし、お城から斜辺におろした垂線の⾜の部分に明るさを変えたくない灯台があるとします。」

「ふむ…これが我が家と今ある灯台ってことだな。」

「そして、この直⾓三⾓形の2辺の⻑さa,bと垂線の⻑さhにはこのような関係がありますから…」

「先程の明るさの話も合わせると、斜辺上の灯台を取り壊して2つの⾓の部分に灯台を建て直せば、お城に届く明るさを変えずに灯台の数を増やすことができます。」

「もっとも観測地点が微⼩⾯積あたりの場合の話ですが、今回は誤差の範囲でしょう。」

王様は⾃分のお城が微⼩と揶揄されたことにモヤッとしましたが、彼の話を真剣に聞いていました。

「でもちょっと待ってくれ。」

「その話でいくと、新しく建てる灯台は湖からずいぶん離れたところになってしまうぞ。私は湖のほとりに建てたいのだ。」

「まだ話は終わっていませんよ、王様。第三に、湖のほとりに建てたいのならば湖を⼤きくしちゃえばいいのです。」

「2倍にでも⼤きくすれば綺麗に灯台を並べることができますよ。ほら、こんな感じに。」

「素晴らしい！助かったよ。では早速⼯事に取り掛かるとしよう。」

オッド王⼦の11歳の誕⽣⽇。オッド王⼦の部屋からは、2倍に広がった湖とその左右に灯台が⾒えました。

しかも部屋に差し込む明るさは変わりません。バーゼル王もオッド王⼦も⼤満⾜です。

このバーゼル王の親バカとオッド王⼦のわがままのやりとりは毎年のように続き、誕⽣⽇を迎えるごとに湖の⼤きさは2倍、灯台の数も2倍ずつに増えていきました。

しかし、部屋に差し込む明るさは⾒事に変わらないままであり、なんと灯台同⼠の間隔も2kmで変わらないまま。

その美しい景⾊はいつの間にか多くの⼈に知れ渡っていました。

∞年後無限年後。

とてつもなく⼤きくなった湖は海のようになり、湖畔はもはや直線とみなせるようになりました。その直線状には無限個の灯台が左右に並んでいますが、やはり明るさは最初と変わらないまま。

そして無限年の間にオッド王⼦も恋をし、イーブン王⼥という美しい⼥王様と結ばれていました。

あるときイーブン王⼥は⾔いました。

「あなたのお城の横に並ぶ灯台はとってもロマンティックだわ。だけど、このお城も含めると等間隔に並んでいないのが気になるの。」

「せっかく結婚して無限年経っているわけだし、灯台の数を2倍にしてはいかがかしら？」

オッド王⼦は⾔いました。「そうしたら部屋に差し込む明るさが変わってしまうじゃないか！」

「……まあ、でも愛する君の⾔うことだ。部屋の明るさが変わることに⽐べたらどうってことないよ。」

こうして、もはや海と化した湖のほとりでは2倍に増えた無限個の灯台が並び、⼆⼈は仲睦まじく暮らしましたとさ。

⼀⽅その頃。数学者は無限年の間増え続ける灯台を⾒ていました。

「最初のアドバイスからまさかこんなことになるなんて…」「ところで、最終的な明るさはいくらになったんだろう。ちょっと気になるな。」

「1km先にある灯台の明るさが1として計算してみよう。」

「すると、最初の灯台が1つだったときの明るさは直径が2/πだから…逆数を2乗してπ^2/4だな。」

「⼀⽅で、灯台が無限個に並んだ場合はそれぞれまでの距離を⾒て逆数の2乗を取ると… こんな感じの奇数の逆数の無限和になる。」

「最初から明るさが変わらない動作を繰り返してこうなったから、この2つは等しくなるのか。」

「そしてイーブン王⼥が偶数の距離のところにも灯台をおいて、少し明るくなった。」「このときの明るさは整数の2乗の逆数和で表されるはずだが……ん？」

「整数の2倍が偶数だから整数の2乗の逆数和を1/4倍すれば偶数の2乗の逆数和になるな。」

「そして、奇数と偶数のそれぞれの場合を⾜すと整数の場合になる…そうか！」

「整数の場合を3/4倍すれば奇数の場合になるから、逆に奇数の場合を4/3倍すれば……！」

こうして、今では有名なバーゼル問題が解かれましたとさ。めでたしめでたし。

元ネタ 3Blue1Brown. “Why is pi here? And why
is it squared? A geometric answer to the Basel problem” https://www.youtube.com/watch?v=d-o3eB9sﬂs 絵⾖御飯⽂カナン ※この物語はフィクションです

バーゼルむかしばなし(字幕あり) / ロマンティック数学ナイトプライム

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