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基本からしっかり理解するCBDC(中央銀行デジタル通貨)/CBDC 101

gakumura
October 04, 2023

基本からしっかり理解するCBDC(中央銀行デジタル通貨)/CBDC 101

2023/10/4 Blockchain GIG#16 で喋った内容
「CBDCとはそもそもどういったものなのか」という基本からCBDCに求められる重要なポイント、ホールセール/リテールやクロスボーダーといった分類、ブロックチェーンは使われるのか/使われるのであればどのように使われるのか、また、対処が必要な技術的な課題などのトピックを紹介

gakumura

October 04, 2023
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Transcript

  1. Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates 2 中村 岳

    Twitter @gakumura はてなブログ @gakumura …主にHyperledger Fabric関連 • 現職:ソリューションエンジニア@日本オラクル • 担当:Oracle Blockchain Platform、 Blockchain Table • 前職:金融決済系SIerでパッケージ開発 • SWIFT、CLS、日銀ネット関連の銀行間決済システム
  2. 内容 • CBDC/中央銀行デジタル通貨とは • CBDCとはなんなのか/なんではないのか • CBDCはどのように利用されるのか • 分類:リテールとホールセール •

    リテールCBDC • ホールセールCBDC • クロスボーダー決済とCBDC • それぞれのメリットと課題や懸念点、およびシステム像 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates 3
  3. CBDC(Central Bank Digital Currency)中央銀行デジタル通貨の定義…? 一般に以下の3つの要件を満たすものであるとされている(※): 1. デジタル化されていること 2. (円などの)法定通貨建てであること 3.

    中央銀行の債務として発行されること ※日本銀行HPより https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/money/c28.htm ぜんぜんわからない… 5 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  4. 法定通貨建てであること…? • 通貨とは… • “通貨(つうか、英: currency)とは、流通貨幣の略称で、決済のための価値交換媒体。通貨は、 現金通貨と預金通貨に大別され、前者は紙幣・硬貨(補助紙幣)であり、後者は普通預金・当 座預金などの決済口座である…” (from Wikipedia)

    • 法定通貨とは… • (国、あるいは地域の)法律によって通用力が担保された通貨 • 例:日本では日本銀行が発行する日本銀行券、および造幣局が製造し政府が発行する貨幣 (硬貨) • 法定通貨建てとは… • 価値交換媒体の価値が法定通貨の価値に紐づいている(固定されている)こと • 法定通貨建てである価値交換媒体の例:電子マネー、ステーブルコイン、商品券 • 法定通貨建てでない価値交換媒体の例:ビットコイン 6 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  5. 中央銀行の債務として発行されること…? • 中央銀行とは…以下の役割を持った特殊な銀行 • 発券銀行:国、地域で通貨として利用される銀行券を発行する • 銀行の銀行:市中銀行に対し、預金を受け入れるとともに「最後の貸し手」として資金を貸し出す • 政府の銀行:国から預金を受け入れることで政府の資金を管理する •

    中央銀行の例:日本では日本銀行、アメリカではFRB(Federal Reserve Bank、連邦準備銀行)、 EUではECB(European Central Bank、欧州中央銀行)が中央銀行として存在しており、それぞれ 日本銀行券、USドル紙幣、ユーロ紙幣を発行している • 債務として発行されることとは… • 中央銀行が通貨(銀行券)を発行する際、中央銀行の債務となる • (一方で発行した通貨は中央銀行の資産となり、国債を買い入れるなどして債権も増える) • 例:日本銀行が1億円の日本銀行券を発行する=日本銀行の債務が1億円増える 7 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  6. CBDCとはなんではないか:他の支払決済手段と比較して 9 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates 暗号資産/仮想通貨

    • デジタル化されている • 法定通貨建てでない • 中央銀行が発行して いない 電子マネー (Suica、PayPayなど) • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行が発行して いない ステーブルコイン • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行が発行して いない 中央銀行当預口座 • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行が管理して いる • 「発行」されていない
  7. 中央銀行当預口座はなぜCBDCではないか • 中央銀行当預口座は: • ◯ (預金)通貨であり、 • ◯ 中央銀行が管理している が、

    • ✕ 「債務として発行」されているものではない • 通貨の供給と当預口座 • 通貨の総量は現金通貨と預金通貨から成り立つ • 中央銀行はまず自身の債務として現金通貨(≒紙幣)を発行し、国や市場で国債などを購入す ることにより市場に供給する • その後市中銀行から預け入れられたものが中央銀行当預口座であり、当預口座の残高が直接発 行されているわけではない 11 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  8. CBDCとはなんではないか:他の支払決済手段と比較して 12 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates 暗号資産/仮想通貨

    • デジタル化されている • 法定通貨建てでない • 中央銀行が発行して いない 電子マネー (Suica、PayPayなど) • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行が発行して いない ステーブルコイン • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行が発行して いない 中央銀行当預口座 • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行が管理して いる • 「発行」されていない
  9. 中央銀行発行のステーブルコインは? Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates 13 もし中央銀行がステーブルコインを発行して売ったら(※)…

    • デジタル化されている • 法定通貨建てである • 中央銀行の債務として発行されている のでCBDCなんじゃない? ※例えば日銀が • 預かった分のJPYと同量のBOJコインを発行し、 • 1BOJコイン=1JPYでの引き取りを保証 したら…?
  10. 補助線:カンボジアの「CBDC」 バコンの扱い • バコンはカンボジアで2020年から実運用が始まっており、 リテール、ホールセールの決済と送金に広く利用される • CBDCの先進的な実運用事例と見なされる一方、 (純粋な)CBDCではないとされることもある “カンボジア中央銀行は、バコンをCBDCと定義しておらず、 不換紙幣でバックアップされた決済システムであるとして

    いる。そのため、バコンは準CBDCと呼ばれることもある。“ From JETRO HP https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/93af43aeec2839e7.html • →バコンは中央銀行が自身の資産を裏付けとして管理、 運用する決済システムである (バコン残高はゼロから発行されているわけではない) 14 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates From ソラミツ社資料 https://www.slideshare.net/Hyperledger_Tokyo/20230726-webx-hlpdf
  11. CBDCはブロックチェーンの夢を見るか? • CBDCの定義にブロックチェーン/分散台帳技術(DLT)の利用は含まれていない • CBDCプロジェクトの中には(パーミッションド)ブロックチェーンを利用しているものもあれば利用してい ないものもある • ブロックチェーンを用いることでメリットとなる可能性のある要素: • 分散/分権…ただし全てのケースで活きるわけではない

    • パブリックブロックチェーン等で発展し実証済の技術を転用できる • 整合性の担保 • セキュリティや耐障害性 • 開発および運用のコスト • ブロックチェーンを用いることでデメリットとなる可能性のある要素: • 性能(スケーラビリティ) • 開発および運用のコスト…「枯れた」技術を用いたほうがコストを抑えられる? 17 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  12. ホールセールCBDC:どのようなメリットをもたらすのか? • 中央銀行にとって: • 物理紙幣の発行およびハンドリングコストの削減 • より高度なホールセール決済システムの実現: • 取り扱い時間の拡大 •

    送金、決済コストの低減 • 決済リスクの低減 • 資金利用効率の向上 • 発展的なメリット:国債や証券などの決済のDvP化、クロスボーダー決済の高度化 19 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  13. 参考:日本の決済システムの現状 20 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates From

    日本銀行資料 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kessai_sg/siryou/20141029/01.pdf 参考:送金、決済システムの稼働時間と 手数料 日銀ネット: • 稼働時間:平日の8:30~19:00 • 振替手数料:40円/件 全銀システム: • コアタイム:平日の8:30~15:30 • モアタイム:24時間/365日 • 手数料:62円/件
  14. ホールセールCBDC:システム像 • 基本的には既存のホールセール決済システムの延長線上でデザインされる • 単一の国/地域でその通貨のホールセール送金、決済システム単体をデザインする場合、ブロック チェーンは必須ではない&それほどメリットがない • 国債や証券などとのDvP、および多通貨決済のPvP(クロスボーダー、後述)などをスコープに入れた 場合、ブロックチェーンのメリットが活きる可能性がある •

    参考:DvP、PvPとは? • 一般に決済には支払いはしたのに商品を受け取れないなどの決済リスクがある • 決済リスクを低減するには「同時に」交換すれば良い →Delivery versus Payment(証券などと代金の同時交換)、 Payment versus Payment(ある通貨とある通貨の同時交換) • 暗号資産/仮想通貨分野では「アトミックスワップ」と呼ばれる手法が発達 • お互いを信用しない両取引者が、中間者なしに安全にDvPやPvPを実現 21 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  15. リテールCBDC:どのようなメリットをもたらすのか? • 中央銀行が運営するキャッシュレス決済サービスとして: • 送金、決済に伴うコストの低減…銀行、クレジットカードなど中間者をカットし、手数料を削減 (参考:国内の既存キャッシュレス決済手数料は2%~4%程度⇔バコンは0.5% ) • 決済リスクの低減、資金効率の改善…即時着金 •

    消費者、商店の利用負担の低減…決済アプリ乱立の解消、高額な決済端末の設置が不要に? • さらなるキャッシュレス化の推進→物理紙幣のハンドリングコストの削減、セキュリティの向上 • 金融政策の効率化、高度化 • 決済および資金蓄積のデータが取得でき、政策決定上有用 • プログラマブル・マネーを利用し、これまで実現不能だった施策を実施 • 税や社会保険料、罰金、などの徴収や支援金などの配布のスムーズ化 22 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  16. リテールCBDCへの懸念:(市中)銀行がなくなる • われわれはなぜ銀行にお金を預けるのか? • 第一に、大量の物理紙幣、硬貨を保管する、支払いのために持ち歩くのが大変だから • 預金金利はそもそも微々たるもの… • 保有上限金額のないリテールCBDCが実現した場合、銀行への預金が大幅に消失する可能性がある •

    中央銀行への信用は原理的に最大(その通貨を利用する=中央銀行を信用する) • 既存金融システム上非常に重要な、銀行の融資機能が立ち行かなくなる可能性 • Hybrid CBDC、Intermediated CBDCでは民間PSPとして存続可能性がある(後述) 23 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  17. リテールCBDCの課題:プライバシーと取り締まり可能性のジレンマ CBDCのプライバシー懸念 • 現金による決済は匿名性、追跡不能性がありプライバシーが守られている • CBDCで現金と同等のプライバシーを確保するのは非常に難しい • アカウント型CBDCでは払い手、受け手のIDが必須(匿名の支払い、受け取りが不可) • 形態によっては中央銀行(また、政府)に対して支払い用途が全て筒抜けになってしまう

    • CBDC残高の一切を凍結される可能性もある AML/CFTの取り締まり要件 • 簡便に高額送金が可能→少なくとも現状の決済システムと同レベルの犯罪収益移転、資金洗浄、テロ資 金供与などの取り締まりが必須 • 1件あたりの金額を条件にすると、小口×大量に分けての回避が簡単なので機能しない →特に民主主義国家では、プライバシーと取り締まり可能性の両方の実現が必要となる 25 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  18. リテールCBDC:システム像 単層型: リテール決済当事者と中央銀行のみが登場 • Direct型 二層型: PSP(Payment Service Provider/支払いサー ビス提供者)が中央銀行とリテール決済当事者の

    間に入る • Hybrid型 • Intermediated型 ※リテールCBDCはホールセールCBDCを前提として 包含 26 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates From BIS資料 https://www.bis.org/publ/arpdf/ar2021e3.pdf
  19. Direct CBDC • リテール決済当事者が直接中央銀行に口座を持つ • 中央銀行自身、または代理業者でKYCを行い登録する • リアルタイムで中央銀行の口座間の振替を行うことで決済する • リテール口座残高と決済の整合性は中央銀行が責任を持つ

    • 中央銀行(また、政府)に対してリテール決済の情報が明らかになる • 全てのトランザクションを中央銀行の口座が担うため、極大のトランザクション処理性能を要求される 27 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  20. Intermediated CBDC • リテール決済当事者は(自ら選択した)いずれかのPSPに口座を持つ • PSPがKYCを行い登録する • リテール決済はPSP内、またはPSP間のリテール口座振替により、リアルタイムで行われる • PSP間のポジションの精算は中央銀行のPSP口座間でのホールセール決済により、後から行われる

    • リテール残高と決済の整合性はPSPが責任を持つ • 中央銀行はリテール決済の情報を持っていない • リテール決済のトランザクション量はPSPにより分散される 28 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  21. Hybrid CBDC • リテール決済当事者は(自ら選択した)いずれかのPSPに口座を持つ • PSPがKYCを行い登録する • リテール決済は: • PSP内、またはPSP間のリテール口座振替により、リアルタイムで行われる

    • 後から中央銀行にもリテール残高の更新情報が伝達される • リテール決済の実行はPSPが責任を持つ一方、残高の整合性についてはCBDCも責任を持つ • PSPが破産した場合に中央銀行側にリテール残高が記録されている(PSP自体の残高と分離)ので安全 • 中央銀行はリテール決済の情報を部分的に持つ • リテール決済のトランザクション量はPSPにより分散される 29 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates
  22. クロスボーダー決済とCBDC:クロスボーダー決済の現状 クロスボーダー決済(国境と通貨をまたいだ送金や外国為替の決済)は現状、コストが高い、時間がかかる など多くの課題がある • 複数の国の決済システムを経由 • 稼働時間もバラバラ • 中間者も多くなり、手数料がかさむ •

    国際的な規制や各国の法律への準拠 • 受取人の表記などもまちまちで難しく、 オペレーションがとにかく煩雑 30 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates From 大和総研資料 https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/securities/20230720_030131.pdf
  23. CBDCにより変わっていく通貨のあり方 • ひとくちに「CBDC」と言っても、やろうとしていることのスコープや実態は様々 • ホールセール、リテール、クロスボーダー • ブロックチェーンの使用/不使用 • 検討、検証、実運用は想定されていたよりも早く進行している •

    暗号資産、民間ステーブルコイン、他通貨CBDCなどの中央銀行にとっての外圧の存在 • 世界のCBDCプロジェクトの最新状況はCBDC Tracker(https://cbdctracker.org/)などを参照 • 通貨および決済は金融システム、ひいてはわれわれの暮らしの根幹を支えており、影響は絶大 • CBDCを正しく理解し、大きな変化に備えよう! 36 Copyright © 2023, Oracle and/or its affiliates