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ブレグジットが英国の宇宙産業にもたらす影響

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November 25, 2019

 ブレグジットが英国の宇宙産業にもたらす影響

2016年に始まり未だに協議の続くブレグジット。その影響はあらゆる産業に波及することが予想されます。ESA(欧州宇宙機関)に加盟しながら発展してきた英国の宇宙開発産業も、その例外ではありません。
このスライドは、英国グラスゴー大学に4年間在籍していた筆者(鈴木友里恵)が、学生の視点からこの問題について独自に調査し、学生団体「宇宙開発フォーラム実行委員会」のメンバーと共に論考した結果をまとめたものです。

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November 25, 2019
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Transcript

  1. How Would Brexit Impact the UK Space Industry? From background

    till what’s going on 鈴木 友里恵 (グラスゴー大学) 杉本 圭吾 (東京理科大学) 有吉 志満、梅田 茜 (早稲田大学) 田中 大智 (芝浦工業大学) 牧島 晴加 (東洋大学) 中川 颯太、石橋 拓真 (東京大学) 1
  2. 目次 - Brexitの背景について - 宇宙系人材の移動と雇用への影響について - 宇宙業界の物流への影響について - ESAとUK Space

    Agencyが運用する衛星の利権について - EU離脱交渉に巻き込まれ事故の人工衛星。 - ESAとUK Space Agencyの間で進行中のプロジェクトへの影響について - ポストBrexitのシナリオ 6
  3. Overture: UK voted to leave …(2016) 【Brexitとは:Britain と ExitをかけたEU離脱を指す造語】 2010年代初頭、イギリス独立党(

    UKIP)の人気が高まる。2012~ 中東 情勢が不安定に(e.g. ISIS) ヨーロッパへの中東系移民の増加とテロ の脅威が深刻なナショナリズムを生む。 2014年 UKIPが支持を集め、イギリス議会に EU加盟継続を問う国民 投票の実施を迫るようになる。保守党内部でも、離脱派の圧力が高ま り、キャメロン首相は党内政治に苦心。 2014年 スコットランド独立投票 イギリス全土でナショナリズムが蔓延 する(結果は否決→のちのEU離脱国民投票の結果に影響 ) 2015年 保守党のデビッド・キャメロン首相が英国総選挙の キャンペーン中に国民投票を約束 (投票で残留とし党内の残留派を封 じる狙いも)→様々なキャンペーンが展開され、 2016年 有効票の過半数が離脱に投票 →首相辞任。 2016年テリーザ・メイが政権を引き継ぎ 2年間の離脱交渉へ。 Image: Bloomberg Image ©Tom Evans, 2016 Image: REUTERS/YVES HERMAN, 2018 7
  4. 問題1:EUとUKの科学系人材、移動の自由問題 どうなる、英国籍のESA職員&欧州系 UK Space Agency職員。 「我々はEUの補助金を得た若者を含む、数多くの優秀な研究者を欧 州大陸から採用している」と指摘。 EUに非加盟のスイスが労働者の「移動の自由」を制限した 結果、若い研究者の獲得に苦労しているとして、「もし英国が EUを離脱し、科学者たちの移動の自由が失われれば、英国の

    科学と大学にとって災難だ」と訴えた。 我々は交渉にあたり、 - 英国の科学競争力を維持するため、高度なスキル を持った科学系人材が今後も英国を活動場所として 選ぶような合意が必要と考える。 出典:榎木英介「イギリス EU離脱~科学技術はどうなる?」 Image: BBC Image: The Royal Society 11 ※あくまで仮定の話で、 どういう形で離脱するかによります
  5. 問題1:EUとUKの科学系人材、移動の自由問題 どうなる、EU-UKの宇宙系研究者&学生...。 【ヨーロッパのアカデミア事情】 EU圏には学生の流動性をあげる 目的で作られた Erasmusという 組織があり、基本 Erasmus加盟 大学間では学生の移動が容易に なっていた。また、Erasmusは

    奨学金や研究資金も提供している。 今後、ErasmusがEUとUK間の 学生の移動を保証できるか、 UKの学生に継続的に資金を提供 する権利があるかは不透明である 。 【EU学生の英国内での VISA事情】 Erasmusでもわかる通り、 EU-UK間ではインターン含む 学術人材の移動が容易だった。 EUの学生は基本英国内での 就学及びインターンに VISA審査が課せられない。 Brexit後はこの利点も不透明。 アカデミアに相次ぐ悲鳴 ... Image: NUI Galway Image: JEF Belgium Nature, 2016 “Scientists reacted to the Brexit” 12
  6. ASTRIUM & AIRBUS が 参加した(している) プロジェクト ExoMars 2016 オーロラ計画の一環 アストリウム・リミテッド社が中心と

    なり、ローバー(写真)の試験機を開発 Mars2020 NASA主導の火星探査計画。 ESAはNASAと合同で火星の無人探査計 画を行っている。 火星ローバーの製作はエアバスUKが担 当。環境耐久試験はトゥールーズ (仏)のエ アバスで行われる予定。 https://www.funkidslive.com/learn/deep-space-high/destination-mars/what-is-the-exomars-rover/
  7. ESAのプロジェクトに参加した英 国民間企業 (3)SSTL社 (Surrey Satellite Technology Limited ) - 小中型衛星の製造と運用において世界最大手

    - 2009年、ASTRIUM社に買収されたが契約上、 今もASTRIUM社から独立した英国企業 - 買収によって、SSTLはASTRIUMという巨大企業の設 計、製造そして試験設備等のリソースにアクセスでき るという利点を得た。ASTRIUMはSSTLの小中型衛 星の開発、試験のための技術を得た。
  8. 問題2:宇宙産業の物流への影響。 1.関税の復活 分かりやすい形で影響が生じ得る のがまず関税です。 原材料・部品ならびに完成品の 輸出入につき、英国・ EU間の 取引に関税が課されると、 直接的なコスト増となります。 2.通関の復活

    関税に加え、英国・EU間での 通関業務の復活が想定されます。 影響として、物流コストの上昇 および物流リードタイムの長期化が 懸念されます。 (出典:PwC, 2017) 19
  9. 補足:イギリスはアメリカの衛星を頼るのか ...。 →歴史と安全保障上の理由で他国の衛星に頼るのはありえない。加えてイギリスとアメリカには宇宙開発にも因縁が ...。 SPACE NEWS ところが、アリエル1号の運用後から半年、 放射線レベルセンサーがものすごく高い値を示した。 当初イギリス側の研究者らは、機器の誤作動や故障による ものだろうと考えていた。

    が、実はアリエル1号が地球の周りを回っていたと き、米軍が「フィッシュボール作戦」の一環として 1.4 メガトン級の核兵器「スターフィッシュ・プライム」を高 層大気で爆発させていた。 これにより地球周辺全体の放射線量が大幅に 増加。その結果アリエル 1号のシステムの一部 が壊れ、特にソーラーパネルが損傷を受けたこと で、最終的には衛星全体が機能停止して しまった。 star fish prime Nuclear test 1962 32
  10. 独自の測位衛星開発を決断。 (→ですよね...。) 英国政府は92 millionポンド (大体120億前後) を独自の衛星開発に充てる ことにしました。 この開発で今後自由に衛星使える ようになるし雇用も生まれます。 やったね!

    https://www.gov.uk/government/news/space-sector-to-benefit-from-multi-million- pound-work-on-uk-alternative-to-galileo 38 GalileoのPSR使えなくなるのは マジで痛いぜ... ※上記は英政府の発表だが、それが 客観的にコストに見合うリターンをもた らす投資なのかに関しては議論の余 地あり。一部の科学者からは、「グロー バルなシステムではなく、日本やインド のような地域特化型の測位システムに すべき」との声が。 http://www.gpsdaily.com/reports/UK_should_ditch_plans_for_GPS_to_tival_Galileo_999.html?mc_cid= ea849d46cb&mc_eid=a64e7742a0
  11. 例えBrexitで英国政府とEU(欧州連合)がバチバチしようが、前述の通りESAと UK Space Agencyはこれまで通り協力関係を続けます。 <ESA&UK Space Agencyで進行中のプロジェクト例> (3) JUICE計画 (木星探査)

    ESAが主導し、JAXAやNASAも参加する国際プロジェクト。一部 の重要な機器の設計を英国のインペリアルカレッジが担ってい る。 イギリスと木星と言えば、 英国出身の作曲家ホルストの 組曲「惑星」中の「木星」が有名。 なお、イングランドの愛国歌 “I vow to thee, my country”の 主旋律はまるまるホルストの木星である。 Image: Airbus DS 44 Image: Wikipedia
  12. 合意なし: 今後の労働者の扱いなど 法律面で何も決まらない状態でイ ギリスがEUからとにかく 離脱。関税はWTO基準に従う。 ※ただし、元々EU全体としてWTOに加盟していたところをイギリ ス単体として加盟し直すことになるので、 一からの加盟交渉が必要になる。 離脱後即座にWTO基準になる訳ではなく、交渉期間中は暫定 的にEU基準が施行される見通し。

    合意あり: イギリス全体がEUの関税同盟から離脱。 在EU英国民と在英EU市民の居住権や 社会保障を享受する権利を保持し、2020年 末までの移行期間中ならビザなしでの 人の移動が可能。 前任のメイ首相の離脱協定を大筋引継ぎ、北 アイルランドとアイルランドの境界に 関するルールを変更したものが2019年 11月9日時点での離脱案。 49 https://www.bbc.com/news/uk-50083026
  13. Brexitの宇宙開発への影響まとめ - ヒト、モノ、カネの面でEU-UK双方に短期間の打撃は確実。 - UKはESAに出資したガリレオとコペルニクスの両人工衛星が ほぼ国防や研究目的に使えなくなってしまった。 - 人工衛星の共同運用には政治的リスクが大きく影響する。 - Airbus始め、イギリスの宇宙業界の雇用はEU資本の割合が高く、

    雇 用と今後のビジネスプランに深刻な打撃。 - Brexitの離脱形態が未知数なため、EU&UKの民間宇宙業界はBrexit対策が 描けていない(ほぼ最悪のシナリオ、合意なし路線で準備している状態。) - Brexitの合意案によって、宇宙業界への打撃の震度が異なる。 - Brexitを機に、イギリスは独自の人工衛星開発を始め独立した宇宙政策に シフ トする可能性が高い。 - イギリスは人工衛星に強いものの、打ち上げ技術が弱い (スコットランドに宇宙港を建設し、打ち上げの拠点にしようとしている。) 54
  14. Brexitの宇宙開発への影響まとめ - ヒト、モノ、カネの面でEU-UK双方に短期間の打撃は確実。 - UKはESAに出資したガリレオとコペルニクスの両人工衛星が ほぼ国防や研究目的に使えなくなってしまった。 - 人工衛星の共同運用には政治的リスクが大きく影響する。 - Airbus始め、イギリスの宇宙業界の雇用はEU資本の割合が高く、

    雇 用と今後のビジネスプランに深刻な打撃。 - Brexitの離脱形態が未知数なため、EU&UKの民間宇宙業界はBrexit対策が 描けていない(ほぼ最悪のシナリオ、合意なし路線で準備している状態。) - Brexitの合意案によって、宇宙業界への打撃の震度が異なる。 - Brexitを機に、イギリスは独自の人工衛星開発を始め独立した宇宙政策に シフ トする可能性が高い。 - イギリスは人工衛星に強いものの、打ち上げ技術が弱い (スコットランドに宇宙港を建設し、打ち上げの拠点にしようとしている。) ん?? 55
  15. 実際に住民投票が行われたらどのような結果になりそう? 出典:Reuter (2019) https://www.reuters.com/article/us-britain-eu-scotland/ scots-favor-independence-from-united-kingdom-ashcr oft-poll-shows-idUSKCN1UV0HY • 4月に新設された英国からの独立団体「 Voices for

    Scotland」にはすでに2000人を超える人々 からの出資が集まった • 英調査会社ユーガブの 4月の世論調査では 49%が独立に賛成 しかし、 本当に独立するつもりなら もっと圧倒的な独立指示がないと2014 年の再来になってしまう… ⇒スタージョンが住民投票に打って出る 可能性は低い
  16. Everyone! Brace for Impact!!! So, will UK still be eligible

    to be involved in Space development with EU? What’s the impact on the space industry?? 61
  17. Reference [1] Airbus in the United Kingdom. (2018). Retrieved from

    https://www.airbus.com/company/worldwide-presence/uk.html [2] https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/intro-brexit/20160804_011127.pdf [3] Brexit: Lost in Space. (2019). Retrieved from https://medium.com/@will12000/brexit-lost-in-space-86ef65528d5e [4] Gannon, M. (2018). UK ends Galileo talks, says it will explore a homegrown alternative - SpaceNews.com. Retrieved from https://spacenews.com/uk-ends-galileo-talks-says-it-will-explore-a-homegrown-alternative/ [5] How scientists reacted to the Brexit. (2016). Retrieved from https://www.nature.com/news/how-scientists-reacted-to-the-brexit-1.20158 [6] JUICE-JAPAN - 木星氷衛星探査計画 ガニメデ周回衛星. (2019). Retrieved from https://juice.stp.isas.jaxa.jp/ [7] Maciel, T. (2018). The British Space Explorer’s Guide to Brexit - The National Space Centre. Retrieved from https://spacecentre.co.uk/blog-post/space-explorers-guide-to-brexit/ [8] Scottish - Centres of Excellence in Satellite Applications. (2018). Retrieved from http://www.sacatapultcoe.org/centre/scottish/news/size-health-of-the-uk-space-industry-2018-report-out 64
  18. Reference [9]Space sector to benefit from multi-million pound work on

    UK alternative to Galileo. (2018). Retrieved from https://www.gov.uk/government/news/space-sector-to-benefit-from-multi-million-pound-work-on-uk-alternative-to-galileo [10] The UK Space Agency Overview for CEOS September ppt download. (2012). Retrieved from https://slideplayer.com/slide/7518977/ [11] Tim Peake: 'Brexit will affect science'. (2019). Retrieved from https://www.bbc.co.uk/news/av/science-environment-36801981/tim-peake-brexit-will-affect-science [12] UK.gov finally adds Galileo and Copernicus to the Brexit divorce bill. (2018). Retrieved from https://www.theregister.co.uk/2018/09/14/galileo_brexit_guidance/ [13] UKSEDS. (2019). Retrieved from https://ukseds.org/ [14] 第1回 コペルニクス計画とは? - 連載. (2017). Retrieved from https://www.sorakoto.space/serialization/copelnicus/copelnicus-01/ [15] 英国EU離脱によるサプライチェーンへの影響. (2017). Retrieved from https://www.pwc.com/jp/ja/issues/the-eu-referendum/impact-supply-chains.html 65