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Scalling up Excellence and Friction

Scalling up Excellence and Friction

Scrum Fest Mikawa 2026(2026年9月12日、豊橋・emCAMPUS STUDIO)での講演資料です。

ロバート・サットン&ハギー・ラオの『Scaling up Excellence』(2014、邦訳未刊)を、スクラムフェス札幌2021でお話ししてから5年。前作が「スケールとは足し算と同じくらい引き算をすることだ」と言い残した続きを、続巻『FRICTION(フリクション) 職場の問題を解決する摩擦の力』(高橋佳奈子訳、日本能率協会マネジメントセンター、2025)が一冊かけて掘り下げました。副題は "How Smart Leaders Make the Right Things Easier and the Wrong Things Harder"——正しいことをやりやすく、まちがったことをやりにくくする。

このセッションでは、前作の7原則をダイジェストでおさらいしたうえで、続巻の核である「良い摩擦/悪い摩擦」「フリクション・フィクサー(摩擦最適化請負人)」「他者の時間の受託者」「足し算病と引き算のマインドセット」を紹介し、よくある5つの摩擦の罠(無自覚なリーダー/足し算病/連携の破綻/無意味な専門用語の乱用/過剰なスピード主義)を、本書のエピソードとともに読み解きます。

中心性の誤謬、カバからゾウへ、Googleが一度マネジャーを追い出して戻した話、「大いなる力には大いなる責任が伴う」
引き算のターゲットを見つける7つの確認事項と、ユーザーストーリーマッピングとの接続
専門家が陥りやすい罠、サティア・ナデラの One Microsoft
ホラクラシーの顛末に見る「ルールブックだけでは組織は運営できない」
テレサ・アマビールの「創造性の死」、Uberの組織的負債、バースト的なコミュニケーション

あわせて、サットンがアジャイルを高く評価しながらも本書で「アジャイル」という言葉をあえて使わなかった理由と、「フリクション・フィクサーとはスクラムマスターのことではないか」という読み方を提案します。スクラムガイドはルールブックとして「何を」を書き、Frictionは「どう動くか」を書く。二冊は補完的です。

後半は、スクラムフェスというボランティアコミュニティの運営を、5つの罠への対策として読み直します。全員が作業者であること、やる人がいないことはやらないこと、毎週Discordでモブで準備すること、「それってどういうことですか?」と聞ける空気、意図的に遅くすること——「燃え尽きない、抱え込まない」ための仕組みを、本書の言葉で言語化してみました。

参考文献

Robert I. Sutton & Huggy Rao, Scaling Up Excellence, 2014
ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ『FRICTION(フリクション) 職場の問題を解決する摩擦の力』高橋佳奈子訳、日本能率協会マネジメントセンター、2025
Bjarte Bogsnes, This is Beyond Budgeting
ジェフ・パットン『ユーザーストーリーマッピング』オライリー・ジャパン
前作スライド:Scaling up Excellence(Scrum Fest Sapporo 2021) https://speakerdeck.com/kawaguti/scaling-up-excellence

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Yasunobu Kawaguchi PRO

September 11, 2026

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Transcript

  1. かわぐち やすのぶ 川口 恭伸 X: @kawaguti YesNoBut株式会社 代表取締役 / アジャイルコーチ

    一般社団法人スクラムギャザリング東京実行委員会 実行委員(代表理事) 一般社団法人DevOpsDays Tokyo 代表理事 / 品川アジャイル
  2. どうして規模拡大したいのか? • • • • • • • 人類の夢だから 敵が大きいから

    ガンプラが売れるから 多くの人を助けたい 時期を逃したくない 所属企業が大きいから ビルぐらい建てたい
  3. 原則2 口先だけでなく、マインドセット • 強い信念は、行為によって伝 わる • JetBlue の Bonny Simi

    はある 施策についてスタッフに聞いた 「これがうまく行くと思っている 人は何人いる?」だれも手を上げ なかったので、とりやめた。
  4. Dunbar’s Number ダンバー数 • 一人が対応できる人数の 認知的限界は100-250人 (150人くらい) https://ja.wikipedia.org/wiki/ ダンバー数 “ダンバー数を超えると、大抵の場合

    で、グループの団結と安定を維持する ためには、より拘束性のある規則や法 規や強制的なノルマが必要になると考 えられている。”(Wikipedia)
  5. 原則5 人をつなぎ、卓越性を連鎖させる • • • • 働いている人が、 次に他の人のメンターになる よいフランチャイズ店と 悪い店舗をペアにする

    米Zynga 「まず自分の代わりに なる人を育てる」 まず多様性の高いチームを作る。 似た者同士になる力(power of similarity)を使って能力を高める
  6. 原則7 破壊的な行動を避ける • 悪い行動の印象は、 よい行動の印象の5倍残る • Cost Plus Market 社のCEOの

    店舗観察のポイント 1. 快くゲストを迎えてくれるか 2. トイレは清潔か
  7. 10年後、「引き算」がまるまる一冊になった Scaling up Excellence (2014) The Friction Project (2024) 原則3「迷ったら削れ」

    邦訳『FRICTION 職場 の問題を解決する摩擦の 力』 「スケールは足し算と同じ くらい引き算」 邦訳なし → 高橋佳奈子 訳・JMAM・ 2025年6月 今度は日本語で読めま す!
  8. 副題がすべてを言っている How Smart Leaders Make the Right Things Easier and

    the Wrong Things Harder 正しいことをやりやすく まちがったことをやりにくくする
  9. 摩擦は悪とは限らない 悪い摩擦(減らす) 良い摩擦(足す) • 無意味な承認・会議・報告 • • 誰も読まない書類 安全・品質のための「あえて 遅く」

    • 見当違いのルール • 大きな決定の前の一呼吸 • たらい回し • 本番デプロイ前のレビュー • → 人の時間と気力を奪う • 破壊的な行動へのブレーキ • → 取り返しのつかない失敗を 防ぐ
  10. フリクション・フィクサー(摩擦最適化請負人) • 邦訳では「摩擦最適化請負人」。 修繕する人。スクラムマスターそのものですね。 • 仕事は2つだけ • 悪い摩擦を取り除く • 良い摩擦を足す

    • 役職は関係ない。CEOでも、現場の一人でも、コミュニティ のスタッフでも • まず自分の「摩擦円錐」の大きさを知る • 自分のひと言・ひとつのルールが、何人の何時間に影響するか
  11. サットンは、あえてアジャイルの言葉を使わない アジャイル宣言の4つの価値観は「優れたフリクション・フィクサーがどのように考え、 行動するか」を思い出させる アドビ、グーグル、セールスフォースなどとの共同の取り組みで、長年この運動に大い に魅力を感じてきた(第7章) 本書で「アジャイル」を使わない理由 スミス『40分で40のアジャイル』 • • •

    • 売り手たちが「アジャイル」の旗のもとでツー ル・本・講演を売り込み、あらゆる病の治療法 として宣伝したせいで、情報の洪水に カーネマンの「ノイズ」:各人が別のものを 「アジャイル」と見なし、何が良い仕事か合意 できない 「真にアジャイルを実践するには」の終わりの ない議論 • • 105ページのスライド:スクラム、Scrum PLoP、TDD/ATDD/BDD、ホラクラシー、 ライトシフティング、スクワディフィケーショ ン、プログラマーアナーキー、脱予算経営、そ の他32 用語警察は存在しない。全員で辞書を作るには 手遅れ → 単にその言葉を使うのをやめるのが最善策。 「私たちがやめた理由もそこにある」
  12. スクラムガイドとFrictionは補完的 スクラムガイドが書いていること Frictionが書いていること • • • スクラムマスターの責任 (what) 摩擦を直す人の動き方 (how)

    • 障害物の除去を促す • • イベントを前向き・生産的に、タ イムボックス内で 摩擦の見つけ方:自分で導線を通 る、時間を測る • 減らし方:引き算の定例化、一つ 足したら一つ減らす • 足し方:あえて遅くする場所の設 計 • チームの集中を助ける • 組織へのスクラム導入を導く 「どう動くか」はほぼ書い ていない • 役職の名前は出てこない
  13. スクラムマスターの動きを、Frictionの言葉で 1 観察する 自分でチームの導線を通る。「待ち」と「たらい回し」を時間で 測る 2 引き算を議題にする レトロで「何をやめるか」を毎回問う。一つ足したら一つ減らす 3 良い摩擦を設計する

    DoD、レビュー、タイムボックス。あえて遅くする場所を決める 4 境界をまたぐ ステークホルダーと開発者の間で、落ちる仕事を拾う人と場を作 る 5 言葉を翻訳する スクラム用語を組織の言葉に、組織の言葉をチームの言葉に 6 自分の摩擦円錐を知る 権限はない。影響は「言葉と場」で出す。だから他者の時間に敏 感でいる
  14. 他者の時間の受託者(第1章) trustee of others' time リーダーは、他人の時間を預かっている • 自分の「ちょっと聞かせて」が、現場の何百時間になる か想像できるか •

    権力を持つほど、他人の時間の重さが見えなくなる • だから意識的に、自分の時間ではなく他人の時間を守る
  15. 足し算病(addition sickness) • 人は放っておくと足す。会議、役割、ルール、ツール、 報告書 • 足すほうが「仕事した感」が出る。減らしても誰も褒 めてくれない • 組織のコモンズの悲劇

    • • 評価・お金・面白い仕事は「足す」動機を個人に与える • その結果、全体の負荷は増え続ける。抗う動機は弱い だから、引き算は意識的に・仕組みとしてやるしかな い
  16. よくある5つの摩擦の罠 1 無自覚なリーダー 権力が現場の摩擦を見えなくする 2 足し算病 足すのは簡単、減らすのは難しい 3 連携の破綻 部門・チームの間で仕事が落ちる

    4 無意味な専門用語の乱用 ジャーゴンで思考が窒息する 5 過剰なスピード主義 拙速と慌ただしさが品質と人を壊す
  17. 1 無自覚なリーダー • 権力を持つと、他人の摩擦が見えな くなる • GMの幹部:新車代・価格交渉・ガソ リン代すべて会社持ち • →

    顧客のディーラー体験の酷さを、50 年間実感できなかった • CEOですら「自分の会社への影響力 は限られている」と嘆く
  18. 中心性の誤謬(fallacy of centrality) 1 「組織にとって重要なことは必然的にすべて把握できていると考えること」 —— ロン・ウェストラム(サットン&ラオ『FRICTION』第4章) • • 由来:1950〜60年代の小児科医の調査

    • 名声あるリーダーも同じ • 両親の嘘を見抜けず、怯えた子どもが黙ってしまう • • 「虐待があれば私が気づかないはずがない。だから 起きていない」という誤った結論 報告書とスプレッドシートを見て「ここは私の 組織だ」 • 何が困難で何が簡単か、実は分かっていない 内部事情に通じているほど、「見えてい ないもの」の存在に気づけなくなる • 例:あるコンサル会社の幹部たち • 長時間働くのが成功の道と確信。誰が猛烈に働 いているか把握しているつもり • エリン・リード(マクマスター大)の100回超 のインタビューで、どちらも誤りと判明
  19. 1 意思決定だけでは何も変わらない 「意思決定は仕事のゴールではなくスタートである」 —— サットン&ラオ『FRICTION』第4章 アドバイス1:決めただけでは動かない アドバイス2:会議が終わる前に確認する • 決定が受け入れられ、実行する意 思・スキル・リソース・影響力を持

    つ人に伝わって、はじめて行動が起 きる • 決定したのか、何を、誰が担当する のか • 全員が同じ認識か確かめ、書面で フォローアップ フリクション・フィクサーは、空虚 な言葉の力を徐々に削っていく • 当たり前だが、やらないリーダーが 多い → 決定事項・賛否・実行方法の 記憶がずれる •
  20. 1 カバからゾウへ:内なるHIPPOを抑え込む カバ(HIPPO) ゾウ • • • • • •

    大きな口、小さな耳 自分ばかり話し、他人の話を 遮る 喋るほど、人を苛立たせる → 大きな耳、小さな口 話す時間を減らし、質問を増やす 発言しない人に注意を払う 「会議の監査」:リーダーの行動を2つの数字で測る • • リーダーが話す時間(他のメンバーと比 べて) リーダーの質問と発言(断定)の比率 • • 新米CEO:8人・11分のスタンドアップで 発話の50%、発言10回に質問は2回 質問したあとに場が活気づくことに気づき、 話す時間を減らして質問を増やした
  21. 1 ヒエラルキーをなくすことも、正解ではない Google、2001年:ラリー・ペイジが中間管理職を一掃した • • • 従業員400人ほど。古き良き日々に戻りたくて、マネージャーを全員なくした たった1人のエグゼクティブに100人以上のエンジニアが報告する状態に → 不満と混

    乱 エンジニアも仕事を進められず、エグゼクティブも実態を把握できない → すぐにマ ネージャーを呼び戻した ヒエラルキーは本質的に避けられない フリクション・フィクサーの仕事は • • • 指揮者のいないオルフェウス室内管弦楽団に も、曲目ごとのコンサートマスターと、プロ グラムを決める設立者がいた Googleのプロジェクト・オキシジェンでも、 有能なマネージャーは不可欠と確認 • できる限り効果的な序列を確立し、影響力を 及ぼせる中で最良の序列を実現すること 「ヒエラルキーの必要性」と「人々への接し 方」は別の問題(シトリックス 前CEO テン プルトン)
  22. 大いなる力には、大いなる責任が伴う 1 「大いなる力には、大いなる責任が伴う」 —— 映画『スパイダーマン』(2002)でベンおじさんがピーター・パーカー に贈った言葉。第4章の締めくくりに引かれている • • • •

    チームや組織で権力を握っているなら、この言葉を心に留めておいてほしい ヒエラルキーと敬意を混同しない • 「下位の人には敬意を払わなくてよく、上位の人には払わなければならない」は取り違え • ヒエラルキーは複雑な問題に対処するための必要悪。敬意は個々人に払うべきもので、まったく別 ヒエラルキーを操り、権力の負の側面を緩和し、人々が円滑に働き、敬意を払われてい ると実感できるようにする 自分の摩擦円錐が他者にどう影響するかを理解し、意思を通すときと、他者に敬意を払 うときを知る
  23. 2 引き算といえば、ストーリーマッピング Frictionの引き算(第5章) パットン『ユーザーストーリーマッピング』 • ばかげた仕事を挙げてもらう • • 会議・評価・メールのコストを測る 作れるものは、いつだって時間より

    多い • ユーザーを観察し、インタビューす る • アウトプットを最小に、成果(アウ トカム)を最大に • ジャーニーマップで全体を見る • • 完璧主義を疑う:やる価値のあるこ との多くは、うまくやらなくてもい い ユーザーの一日を、左から右へ物語 として並べる • マップを横にスライスして、最小の リリースを切り出す=引き算そのも の • 「見つけて減らす」ための地図。作 るためではなく、話し合うために
  24. 3 専門家が陥りやすい2つの罠 1 専門外への自信過剰 2 焦点の分割 • • • •

    狭い専門分野の知識しかないのに、他の 分野でも高い能力を発揮できると考えが ち 自分なら他人の仕事も理解できる、と思 い込む 専門外の領域で人々が懸命に取り組んだ 成果や技能を軽視する • • 優れたパーツで組織を組み立てることに ばかり注意を向け、パーツ同士の連携を 考えない がんセンター:世界トップクラスのス タッフを集めながら、調整をおろそかに する 米海軍:英海軍のUボート対策を真似たの にうまくいかず、船が沈み続けた フリクション・フィクサーの仕事は「土台を築く」こと • • • 有能なリーダーとは、調整をおろそかにすることで生じる問題を回避・解決できる人 同僚が実績を上げられるように支援する人に報いる組織を作る。裏切る人ではなく 「分化」は必要だが、「よそ」のチームを敵と見なすのは人間らしい性質。友人を敵と見なして はならない
  25. 3 ナデラ:連合国から One Microsoft へ バルマー時代(2000〜2014) ナデラ(2014〜) • • •

    • • • • スタック・ランキング:上位20%が報酬、 下位10%は「劣等」 同僚を顧みず、中傷し、陰で攻撃する従業員 が生まれる報酬システム 「マイクロソフトでは、敵はアップルではな く従業員同士」 自社のOSは、自社のスマートフォンより iPhoneとのほうが相性がいい • • • 就任して最初にやったのが、スタック・ラン キングの廃止 「何でも心得ている」人間ではなく「何でも 学ぶ」人間に 「それぞれの領地からなる連合国」ではイノ ベーションで太刀打ちできない 報酬体系を変更:サイロ間をつないだ従業員、 他者の成功に手を差し伸べる人がスーパース ター 陰で攻撃する人は、やり方を変えるか、会社を去るか、追い出されるかになった 従業員の支持:バルマー時代末期46% → 2018年に95%(グラスドア)。時価総額:約3000 億ドル(2014)→ 2.5兆ドル超(2023年秋)
  26. 3 調整の混乱を防ぐ処方(第6章) 「L6戦略」現場を知る トッド・パーク:トップから6階層下にあたる人が、旧方法の実態を理解している。そこに降り て聞く 3 優れた物語が調整を促す アエタ族の長老が語る「太陽と月」(89の物語)。「人を助ける筋肉」を活性化させ、力を合 わせたときの仕事の姿を示す 4

    「連携」専門の職務・チームを作る 中枢センターのルディ:列車運行・セキュリティ・電力・緊急対応「そのすべてですよ」 5 引き継ぎを改善する 混乱の最大の原因は、職務やサイロ、シフト、タイムゾーンをまたぐ情報交換の失敗(ワイク: 森林局のルーティン) 6 迅速に調整を行う 2つのマインド:緊急事態が次々起こる職場を恐れる/「人生とは、別のことが起きるものだ」 (レノン) パーツが少なければ混乱も少ない 人とチームを減らせば、連携が失敗するリスクも減る。関与させすぎたら引き算。調整が不要な 環境を作れば、そもそも混乱は生じない
  27. ルールブックだけでは、組織は運営できない 4 ホラクラシーの顛末(第7章) 憲章と格闘する3つの方法 • バッファ、ミディアムなど、断念する企業が相 次いだ • • ミディアム:「記録の保存とガバナンス」に時間がかかり、主体性と

    共同責任の感覚が損なわれた(2016) • ザッポス:新入社員は「サークル」「役割」に 「何の話?」。旧来のマネジャーが率いる伝統 的システムのまま「ホラクラシーごっこ」 • • • 2017年「ホラクラシー・ライト」へ。2022年には「個人的にはもう 行われていない」 1 意味のよく分からない憲章に従って組織を運 営するのを放棄する 2 「コンバート」に頼る:複雑なルールを分か りやすい言葉に置き換え、自社の文化に調和さ せる専門家 3 編集長を頼る:ロバートソン自身が憲章を簡 潔にした(v2.1で10回以上の「herein」が、 v5.0ではゼロ) • ルールブック(憲章)が精密なほど、現場は「何たらかんたら」にしか聞こえなくなる • だからスクラムガイドは薄い。そして、薄いからこそ「コンバート」=翻訳して文化に馴染ませ る人が要る。それがスクラムマスター
  28. 5 • • 組織的負債:Uberはブレーキを踏まなかった スティーブ・ブランク:「組織的負債」とは「とにかく仕事を終わらせよう」とすることで生じる妥協。 技術的負債よりも早く組織を破滅させうる 経営が順調であるべきときに組織的負債が蓄積すると、成長するはずの企業が混沌とした最悪の状態に 陥る Uber 2013〜2017:フルスロットル

    返済に何年もかかった • • • • • 製品領域ごとに独立したチームに、ほぼ完全な自由 裁量。「大興奮」「どんどん構築させろ」「出しゃ ばれ」 各チームが疾走を続けた結果、会社全体の「組織的 な速度」は右肩下がりに 兆候:修復時間が増えメンテナンスが減る/新機能 で他チームの支援を得られず妨害も/24時間呼び 出し、「週に15回も真夜中に叩き起こされたくな い」と有能なエンジニアがグーグルへ 未熟なマネジャーを大量採用・昇進。いつ減速すべ きか判断できなかった • • • 2017年 トラビス辞任。ダラ・コスロシャヒが技 術的・組織的負債の返済に着手 2017年 損失40億ドル超 → 2018年 約10億ドル の利益 → 2019年 損失80億ドル超 → パンデミッ クで逆風 2023年第3四半期、ライドシェアとフードデリバ リーで初の記録的な収入と黒字 CTOトアン・ファム「負債が存在しなければ、わ れわれの歩みは恐ろしいほどのろくなっていた」— —負債そのものが悪ではない。返済を遅らせすぎた
  29. 5 バースト的なコミュニケーション 処方6:コミュニケーションを集中的に行う時間と、まったく行わない時間を作る 「今は全員でこの作業に取り組もう」/「来週までの仕事は済んでいるので、それまで は何もする必要はない」 リードル&ウーリーの調査(原注313) スクフェスの準備は、これそのもの • • •

    • • 50カ国のソフトウェア開発者260人を、5人か らなる52の仮想チームに無作為に振り分け 課題:宇宙飛行向けの医療用品キットとして最 適な内容を提案するアルゴリズムの開発 最も優れたチーム:短期間で大量のメッセージ を交換したあと、長い時間をかけて1人で作業 最も低かったチーム:常時コミュニケーション を取っていたが、ペースはゆっくり。いくつも のトピックを一度に話し合っていた • • • 毎週Discordに集まってモブでやる時間=バー スト 宿題を作らない=バーストの間は何もしなくて いい 「今日はここまで」=いつ止めるかが明確 共通のリズムがあるから、いつ協力して働き、 いつ1人で働くべきかが分かり、極度の疲労を 避けられる
  30. スクフェスの場合:Frictionで読み直す 手が回らないこと、やる人がいないことは絶対やら ない → 足し算病への抵抗 裏方の頑張りではなく、受益者のよろこびを考える → 他者の時間の受託者 燃え尽きない、抱え込まない →

    過剰なスピード主義の回避 ほかのスクフェスをやった人が教える、一緒にモブ で終わらせる → 連携の破綻を防ぐ 急いで成長しても誰もうれしくない。有機的な成長 → 前作の罠「群生とスケーリン グの混同」と地続き
  31. 1 無自覚なリーダー × スクフェス スクフェス/RSGTでやっていること Frictionの処方との対応 • 実行委員長も実行委員も、全員が作業者 • •

    マネジメントだけの人、指示だけの人は ゼロ 処方「自分で現場の手続きをやっ てみる」を、役割として徹底して いる形 • 権力がそもそも存在しない。共有された パワーをみんなで運用 • リーダーが現場から隔離される構 造を、最初から作らない • ボランティアなので、偉そうにする人が いない
  32. 足し算病 × スクフェス 2 スクフェス/RSGTでやっていること Frictionの処方との対応 • やる人がいないことは、やらない • •

    「やりたい」人がいるなら、その人に任 せてみる。みんなで決める 「誰がやるの?」が自然な承認プ ロセス(良い摩擦) • 引き算の定例化と、引き算した人 への評価がセットで回っている • できる量以上のことはやらない=それが 制約になる • 一つ足したら一つ減らす。減らした人は 称えられる • 例:経理処理、配信の手間を大幅に削減
  33. 3 連携の破綻 × スクフェス スクフェス/RSGTでやっていること Frictionの処方との対応 • 企画も準備も、全員モブでやる。宿題を 作らない •

    「お互いの仕事が見えるようにす る」を、モブで実現 • Wix や pretix も、みんなで画面を見なが ら操作 • 境界をまたぐ役割=複数イベント を掛け持ちする人 • 毎週 Discord に集まって、リモートのモ ブで準備を進める • 連携の破綻が「起きにくい」構造 を先に作る • 他のスクフェス/RSGTと兼任するス タッフが、ノウハウを運ぶ
  34. 4 無意味な専門用語の乱用 × スクフェス スクフェス/RSGTでやっていること Frictionの処方との対応 • そもそもジャーゴンは少ない • •

    「それって、どういうことですか?」が 毎回の実行委員会で出る 処方「聞ける空気」を、心理的安 全性として運用 • モブが、ジャーゴンを発生させな い装置になっている • モブなので、見て分からないことはその 場で聞く • 聞いた人を褒める。伝えきれていなかっ たことが、そこで分かる • 手を動かす前提の人には、快く説明する
  35. 過剰なスピード主義 × スクフェス 5 スクフェス/RSGTでやっていること Frictionの処方との対応 • 速さを目的にする必要が、そもそもない • •

    モブに制約することで、意図的に遅くし ている 処方「意図的に遅くする場所(良 い摩擦)を設計する」そのもの • 「急がないことを決めている」 • 手分けして速くすると、他の罠が全部起 きる • • その人しか分からないことができる/連携が破綻する 「今日はここまで」で終わる。前年の実 績から「いつ動くか」を話す
  36. やれないことは、やらない スクフェスでやっていること Frictionで読むと • 手が回らないこと、やる人が いないことは絶対やらない • • やったらよさそうなことも、 だいたいやらない

    足し算病への免疫:足す提 案に「誰がやるの?」が自 然に付く • しんどいこと、必須でないこ とは「また考える」 引き算のコストがゼロ:や めても誰も怒らない • 「やる人がいる」が唯一の 承認プロセス(良い摩擦) • • お金の使い方も、やらないこ とが結構明確
  37. 裏方の頑張りより、受益者のよろこび スクフェスでやっていること Frictionで読むと • 参加者・登壇者・スポンサー が何をうれしいと思うかから 考える • 他者の時間の受託者:ス タッフの手間ではなく参加

    者の時間で測る • 参加できる・みんなで作れる 入り口をたくさん作る • • 廊下やDiscordのわいわい感、 相談できる感、地続き感 無自覚なリーダーへの対 策:スタッフ自身が参加者 導線を通る • 連携の破綻を防ぐ:入り口 が多い=境界が薄い
  38. 燃え尽きない、抱え込まない スクフェスでやっていること Frictionで読むと • やりたい人が自分でやる。そ の場でモブでやる • • 誰かが疲れたりイライラする ことは、次から減らしていく

    過剰なスピード主義の回 避:急がないことを決めて いる • 参加者が急増することは望ま ない。有機的に育つ 疲れ・イライラ=悪い摩擦 のセンサーとして使う • モブ=連携の破綻を起こさ ない最小単位 • • ほかのスクフェスをやった人 が教える、一緒に終わらせる
  39. まとめ - Friction Fixer の流儀 • スケール=足し算ではない。引き算こそが効く • 摩擦は悪とは限らない。足すべき良い摩擦と、減らすべ き悪い摩擦を見分ける

    • リーダーやスタッフが無意識に生んでいる摩擦に気づ く:5つの罠 • 自分は他者の時間の受託者である • コミュニティを楽しく続ける仕組み:やらないことを決 め、燃え尽きず、受益者で測る
  40. 参考文献 • Robert I. Sutton & Huggy Rao『Scaling Up Excellence』

    (2014、邦訳未刊) • ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ『FRICTION(フリクション) 職場の問題を解決する摩擦の力』高橋佳奈子訳、日本能率協会マネジメ ントセンター、2025 • Bjarte Bogsnes『This is Beyond Budgeting』 • 前作スライド:Scaling up Excellence(Scrum Fest Sapporo 2021) • https://speakerdeck.com/kawaguti/scaling-up-excellence