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ポストIPOに向けてスタートアップ経営者が考えるべき備え

 ポストIPOに向けてスタートアップ経営者が考えるべき備え

本スライドは、「上場後どういったことが起こり得るか」「経営者はその難局にどう立ち向かうべきか」といったことを、私自身の経験と、私に近しい経営者から伺った話を元に取りまとめたものです。もともとがセミナー向けの資料であったため、ややくだけたトーンになっておりますが、限られた範囲の情報とはいえ、上場後にどういった変化が起き得るかということを発行体視点からまとめたものは非常に少ないのではないかと思います。この資料が将来上場を企図する企業の方々にとって何らかのご参考になれば幸いです。

Kenji Kobayashi

October 26, 2017
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Transcript

  1. CONFIDENTIAL AND PROPRIETARY Any use of this material without specific

    permission of Signifiant Inc. is strictly prohibited スタートアップ経営者が上場前に知って おくべき上場後のあれこれ 2017年 10 ⽉ 26⽇ γχϑΟΞϯגࣜձࣾ ڞಉ୅දɹখྛݡ࣏
  2. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ᷿Ͱ͸͜Μͳ͜ͱ͕ݴΘΕͨΓɾɾɾ 2 ‣ The

    New York Times に寄稿された記事:「株式公開は地獄なのか?」より
 (原⽂は“Fixing the ‘Brain Damage’ by Caused by the I.P.O. Process”, 2017/9/18)
  3. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ্৔͢Δͱɾɾɾ 4 ‣ こんないいことが!

    ‣ こんなアカンことが・・・ ✓ 資⾦調達の選択肢が増える ✓ 採⽤⼒が上がる ✓ 信⽤⼒が上がって取引先等の 開拓がしやすくなる ✓ 既存株主のExitを実現できる ✓ 短期⽬線の市場からの声に経 営が左右される ✓ 四半期業績を強く意識しすぎ るあまり、経営陣が短期主義 に⾛りがちになる ✓ ⼩規模の上場だと、上場維持 コストが負担になる ・・・ ・・・
  4. © Signifiant Inc. All Rights Reserved Newspicksͷࠤࢁxງߐxೇ໦ ఞஊʢ2017೥ʣ 6 Newspicks

    イノベーターズ・トーク vol. 59 佐⼭展⽣×堀江貴⽂×楠⽊建の新春⼤放談 #05「スモールIPOに意味ある?」より
  5. © Signifiant Inc. All Rights Reserved 7 Newspicksͷࠤࢁxງߐxೇ໦ ఞஊʢ2017೥ʣ Newspicks

    イノベーターズ・トーク vol. 59 佐⼭展⽣×堀江貴⽂×楠⽊建の新春⼤放談 #05「スモールIPOに意味ある?」より
  6. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ඇ্৔ג౤ࢿՈͱ্৔ג౤ࢿՈͷ໨ઢͷҧ͍ 9 ベンチャーキャピタル 上場株投資家

    (機関・個⼈) ✓ 君に投資させてくれ!
 (投資機会の限定性)
 
 ✓ ⾟い時でも⼀緒に頑張ろう! (極めて限定された流動性)
 
 ✓ アセットクラスはこれ⼀本
 (LPSの場合、国にも制限) ✓ 別にあんたでなくてもいい (上場会社であれば基本的 には何でも買える)
 
 ✓ アカンかったら即⾒切る
 (⾼い流動性)
 
 ✓ アセットクラスは柔軟
 (株式にこだわらない)
  7. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ࣗࣾͱࢿຊࢢ৔ͷΞϯάϧͷҧ͍ 10 ⾃社の想い 市場の⾒⽅

    ✓ これがやりたい ✓ これは⾃社だけのユニーク
 ネス ✓ だから競合はいないはず ✓ 業界に新しい価値を与え うる ✓ 違いを上⼿く使える経営 ⼿腕があるのか ✓ その中で他の会社と何が 違うのか ✓ ニーズがあれば必ず競合が 存在する ✓ 業界環境の変化によりどん な価値が求められるのか 定性分析 競争環境 業界分析 思考の プロセス 彼我分析 出所:コーポレイト・ディレクション社スライドを元に筆者改変 ‣ 企業側が⾃社を説明する際のプロセスと、資本市場が企業の魅⼒度 を⾒極める際のプロセスは、⼤抵の場合真逆
  8. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ౤ࢿՈͱ͸ʁ 12 ‣ お⾦持ちで株を買ってくれる⼈

    ‣ ベンチャーキャピタルのように、時には厳しくも、ずっと応 援してくれる⼈ ‣ ファン ‣ 外⼈ ‣ 経営陣に圧⼒をかける⼈
  9. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ͔֬ʹɺܦӦਞ΁ͷѹྗ͸্͕͍ͬͯΔ 13 ‣ 本当に信任されない例は極めて珍しい

    ‣ しかしながら、「株主は相当不満を持っている」ことが明⽰化され ることの意味は⼤きい ✓ 出光興産 2016年株主総会:⽉岡社⻑の信任率 52.3% ➡ 創業家からの合併反対+ISSの反対推奨に応じた海外投資家も ✓ 川崎汽船 2016年株主総会:村上社⻑の信任率 56.9% ➡ エフィッシモがROE低迷の責任を追及 ✓ ⿊⽥電気 2017年株主総会:株主からの社外取締役提案に賛成 58.6% ➡ 村上⽒が提案した社外取締役への賛成率が、社⻑のそれを上回る ✓ ほかにも、アサツー植野社⻑(賛成率59.5%)、ニコン⽜⽥社⻑ (68.1%)など、低ROEが続く企業の経営トップへのプレッシャーは 年々増している 昨今の株主総会で、株主からのプレッシャーが明確に表れた事例
  10. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ࢿຊࢢ৔Ͱ͸Ұੇઌ͸ҋ 15 ‣ 半年間待つと何が起こるかわからない

    (ICC KYOTO 2016 「メガ・ベンチャーのための⼤型ファイナンス戦略」【K16-9C】
 「上場すべきか?いつすべきか?」メガ・ベンチャーのCFOたちが語る”資本市場の⾒極め”より)
  11. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ʮࢿۚௐୡͷΦϓγϣϯ͕૿͑Δʯͱݴ͏͕ɾɾɾ 16 ‣ 様々な状況が重ならない限り、上場後のエクイティファイナン

    スは不可能 - ⾃社の株価が弱含んでいない(事業が順調で株価にもしっか り織り込まれている) - かといって過剰にbullishでもない(期待値先⾏になりすぎ ていない) - インサイダー情報を抱えていない(バスケット条項の怖さ) - マクロ的に⼤変動が起きていない/起きなさそう(北朝鮮情 勢など、直近でも⼤きなリスク要因は多々あり) - そもそもマクロ要因が弱すぎない(投資家がリスク資産に資 ⾦を振り向ける余⼒がある)
  12. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ʮ্৔͢Δͱ࠾༻ྗ্͕͕Δʯʹ͸ҧ࿨ײ͋Γ 18 ‣ ⼤きなキャピタルゲインを期する⼈材にとっては、むしろ上場前の企

    業の⽅が魅⼒的であることが多い - 企業側も積極的にSOを使ってエグゼクティブクラスを採⽤する - ⼀⽅、上場後はSOの利⽤もよりmodestになることが⼀般的(上 場“後”にjoinした⼈に対して、⼀発あてたら億万⻑者、というイ ンセンティブ設計を導⼊している例は稀) ‣ 上場したらいきなり⼤⼿総合商社のような安⼼感が⼿に⼊るわけでは ない(⼤⼿企業に勤めている層からすると、上場していても“新興”企 業への転職には不安を感じている層はいる) ‣ HR/部⾨⻑として上場後の採⽤に関わった経験でいうと、 「上場企業だから⾮上場会社よりも採⽤⾯で優位」ということ をあまり感じられなかった 上記の要因についての仮説
  13. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ͋ͷࡾਓ͸ͳΜͱݴ͍ͬͯΔͷͰ͠ΐ͏͔ʁ 20 Newspicks イノベーターズ・トーク

    vol. 59 佐⼭展⽣×堀江貴⽂×楠⽊建の新春⼤放談 #05「スモールIPOに意味ある?」より
  14. © Signifiant Inc. All Rights Reserved 21 ͋ͷࡾਓ͸ͳΜͱݴ͍ͬͯΔͷͰ͠ΐ͏͔ʁʢଓʣ Newspicks イノベーターズ・トーク

    vol. 59 佐⼭展⽣×堀江貴⽂×楠⽊建の新春⼤放談 #05「スモールIPOに意味ある?」より
  15. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ୺తʹԿͱઓ͍ͬͯΔ͔ͱݴ͑͹ɾɾɾ 22 ‣ 上場後に上記を強く意識するようになるのは、何かしら成⻑

    の踊り場が上場後に訪れることが多いから ‣ 端的に、利益や成⻑性以上に上記の⼆つを雄弁に語ってくれ るものがなかなか無い。が故に陥りやすい罠 ‣ 数値のプレッシャーは、株主よりもむしろ「社内の雰囲気」 や「協業先の冷たさ」から伝わって来る イケテル感を保つ (ための⾼成⻑の数値) オワコン感からの脱却 (を⽰すための数値の改善)

  16. © Signifiant Inc. All Rights Reserved εςʔΫϗϧμʔͷࢥ࿭͕ζϨͯ͘Δ 24 ✦ 経営陣:上場して⼤きくキャピタル

    ゲイン得られる! ✦ 投資家:上場でExitや! ✦ 従業員:SOやっと⾏使できる! ✦ 経営陣:株価上がってもどうせ売 れへんし ✦ 投資家:株価!配当! ✦ 従業員:株価倍になったところで ⼤して給料変わらんし 上場前 上場後 すごくシンプルに、
 「みんな株価を上げたい」 株価を上げることと インセンティブが⼀致しない ‣ 上場後に同床異夢が思いっきり明るみに出てくる
  17. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ্৔ޙʹϋϚΔύλʔϯ 25 ✓ 上場会社になって株価を上げることをより⼀層を強く求められる

    ✓ 株価向上は、「株主」が「経営陣に対して」求めるものである ✓ 従業員の⼤半は、株価を向上させても⼤してリターンが変わらない ‣ その状況下では、従業員は「経営陣が株主から怒られないようにす るために働かされている」という構造になりかねない 陥りやすい構造 上記のような構造に陥ることは上場企業として何としても避けたい
  18. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ্৔͔ͨ͠Βͦ͜Ͱ͖Δউෛ 27 ‣ 楽天が旅の窓⼝を買収したのは2003年9⽉、11⽉にはネット証券のDLJ

    ディレクトSFG証券を買収。共に300億円超 ‣ 2005年3⽉に国内信販の55.5%を120億円で譲り受け ‣ 2003年当時の楽天の時価総額は2,000億円強 (2003/10/10 Cnet Japan「時価総額5000億円突破、楽天のさらなる株価⼤化け説の真贋」より)
  19. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ্৔ͷ΋͏ҰͭͷϝϦοτ 28 ‣ 世界中のbluechip

    companyを⾒続けている投資家からのフィード バックを得るというのは、経営者にとっても⼤きなチャンス Adobe Systems Incorporated (NASDAQ: ADBE)の株価推移 2011 laterにValueAct が株式の5%を取得 ʢSean Loss, “Adobe Systems: An Activist Investment Analysis (ADBE),in INVESTPEDIA, Feb 29, 2016ʣ Ubben's analysis led him to believe Adobe would be better off with a subscription-based cloud computing product focus, with particular emphasis on mobile adaptability. ValueAct gobbled up 5% of Adobe in 2011 to force a constructive conversation with its management and board, after which Ubben argued for pricing models that lowered entry barriers for new customers and a more adaptive overall software design to ease the transition to other Adobe products. Adobe never showed strong resistance to ValueAct's imposition. In what would later be deemed an example of the proper way to cooperate with an activist movement, Adobe set up closed-door meetings with Ubben and other ValueAct partners. 2012年5⽉から定額制 スタート、2013年6⽉ から完全移⾏
  20. © Signifiant Inc. All Rights Reserved ্৔લ͔Βඋ͓͑ͯ͘΂͖͜ͱ͸ҙ֎ʹଟ͍ 30 ‣ 株主構成の⾒直し(上場後の優良株主基盤の構築に向けて)

    ‣ ⾃分たちのバリューの算定(⼀発売り逃げではなく、継続的 にもってもらうためのフェアバリュー) ‣ 中期的な成⻑に必要な資⾦⼒や資本⼒の⾒極め ‣ 経営陣の⼒量の⾒定め(上場会社のエグゼクティブたるだけ のポテンシャルがあるか?⾜りない場合どうするか?) ‣ 上場後を踏まえた組織・制度設計(なかんずくインセンティ ブ設計) ‣ 海外投資家とのコミュニケーションが出来る体制作り(株価 上昇には⼤⼿投資家の参加が不可⽋)
  21. © Signifiant Inc. All Rights Reserved 31 ⼩林 賢治(Kenji KOBAYASHI)


    シニフィアン株式会社共同代表。兵庫県加古川市出⾝。東京⼤学⼤学院 ⼈⽂社会系研究科美学藝術学にて「⻄洋⾳楽における演奏」を研究。⼤ 学院修了後、コーポレート・ディレクションにて経営コンサルティング に従事。 2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに⼊社し、執⾏役員HR本部⻑と して採⽤改⾰、⼈事制度改⾰に携わり、急成⻑企業の礎を築く。その 後、ソーシャルゲーム事業の急成⻑のさなか、同事業を管掌。就任から2 年で事業売上1,000億円規模にまで成⻑させる。 ゲーム事業を後任に譲った後は、経営企画などコーポレート部⾨全体を 統括。海外の⼤⼿機関投資家の注⽬度が⾮常に⾼まったタイミングで資 本市場との対話を⾏う。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部⾨、コーポレート部⾨、急成⻑期、成熟期と、企業の様々なフェ ーズで最前線に⽴った経験を有する。 චऀ঺հ