Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

土壌センシングにおけるIoT技術活用

 土壌センシングにおけるIoT技術活用

農業情報学会 2024年度年次大会
2024年5月26日(日)
オーガナイズドセッションの発表予稿です。

K.Masaki

May 26, 2024
Tweet

More Decks by K.Masaki

Other Decks in Technology

Transcript

  1. 土壌センシングにおける IoT 技術活用 〇眞崎 康平 1),中村 真理 1) 1) 株式会社

    B&B Lab. 〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神2丁目5−28 西通りセンタービル 6F 要旨 IoT 技術のコモディティ化により Raspberry Pi などのシングルボードコンピュータ, Arduino 等のオープンプラ ットホームのスマート農業への活用も大きく進展している. センシング技術に関しても, 気温 / 湿度 / 気圧 / CO2 などのエアモニタ, 地温, 日照などは コモディティ化された安価なデバイスを用いても再現性が高い情報 が得られやすいため活用が進んでいる. 一方で, 土壌のセンシングはセンサの耐久性や測定の再現性の問題を抱 えており, それ故のデータ活用が難しい課題がある. そのような状況の中, 昔から生産現場で活用されている手法 である pF という測定手法に着目した. コモディティ化により安価に提供されているデバイスと実績のある従来 手法に組み合わせることで, 現場のニーズに即した手法を安価に提供することを目的に手法の開発を行った. キーワード pF, 土壌水分, 土壌センシング, スマート農業, ユビキタス環境制御システム(UECS) 緒言 生産性の向上への要求, 人手不足などの社会的背景か ら DX 化が緊急の課題とされ, 農業分野においてもスマ ート農業の実現という形で大きな期待が持たれている. その具体的取り組みとして, ユビキタス環境制御システ ム(UECS)が挙げられ, Raspberry Pi や Arduino 等のオー プンプラットフォームの IoT 機器を活用することで低コ ストのスマート農業の導入やノウハウの横展開が試みら れており一定の成果に繋がっている. エアモニタや日射量 地温などの測定や, 測定データ に基づくビニールハウスの換気窓の開閉等 の応用につ いては詳細な製作方法が書籍化されており, 比較的高い 再現性で環境制御を構築することが可能である. 土壌のセンシングに関して重要な指標である水分量は, 土壌の誘電率やマイクロ波の伝搬速度といった土壌の電 気的特性から土壌水分を求める方法がよく用いられる. ただしこれら方法は土壌の種類, 接触状態の再現性, コ スト等の問題があり, 安定した測定の実現には課題が残 されている. pF は土壌水分が毛管作用や吸着により孔に 引き付けられているエネルギの大きさであるマトリック ポテンシャルを測定する手法であり, 含水率という物理 量というより植物の水を吸い上げる力という実際に知り たい情報に近い指標であり, 昔から生産現場で活用され ている手法である. 実績のある手法である反面, 安価な 機器の測定値はアナログメーターで指示されるため, ス マート農業への活用が困難である. デジタル測定できる 製品は高価であり生産現場での普及に難がある. pF はマトリックポテンシャルを負圧に変換して測定 するものであるが, 負圧を電気信号に変換する圧力セン サは MEMS (Micro Electro Mechanical Systems : 微小電気 機械システム) デバイス技術の進歩で安価に入手可能で ある. この現状を踏まえ, 安価な pF の測定を実現する ために従来の pF 計に組み合わせて使うセンサヘッドを 開発し検証を行った. その試作検証について報告する. pF 測定の概要 以下 pF の測定原理の概要について述べる. 先端に多 孔質のポーラスカップが取り付けられた管に水を満たし てそれを測定対象の土壌に差し込む. 先端から土壌に水 が染み出すことで管内に発生する負圧をブルドン管式圧 力計または圧力センサで検出する. 圧力値と pF 値の換算については, cm 単位の水柱の 高さの常用対数 ( log10 ) を pF 値と換算する. 換算例として, pF=0 1cm 水柱 pF=1 10cm 水柱, pF=2 1m 水柱 pF=3 10m 水柱 である. なお 1m 水柱 9806.65 Pa であり, 前提条件として水の 密度を 1 g/cm3 (4℃の最大密度)と想定している.
  2. 圧力センシングの方法 使用する圧力センサは, 低価格かつ入手性の良さから 秋 月 電 子 通 商 な

    ど か ら 入 手 で き る METRODYNE MICROSYSTEM 社製の MIS-2503-015V を選定した. 仕 様については以下のとおりである. ・測定範囲 -1000 hPa ・電源電圧:3.0V (標準) ※2.7 ~ 3.3V ・レシオメトリック電圧出力 ※電源電圧比例 以下に製品の特性例(5V 品)及び製品外観を示す. 図 1 圧力センサ MIS-2500 シリーズ特性, 外観 信号変換の方法 電気信号に変換した pF 値を後段に接続されるデジタ ルデバイスで取り扱えるようにするために, アナログ値 からデジタル値に変換する AD 変換を行う必要がある. そのために AD コンバータを用いるが, その選定に当た って測定や製作の再現性から以下の条件を考慮した. ・AD 変換の基準となるリファレンス電圧の精度 が高いこと. 温度特性が良好なこと ・AD 変換の変換可能な入力範囲が適切であること ・高い分解能を持つこと (16bit 程度以上) この条件を満たすものとして, Microchip 社の AD コン バータである MCP3425A を選定した. 仕様は以下の通 りである. ・16 bit 分解能 / 差動入力 / PGA 内蔵 (x1 ~ x8) ※Programable Gain Amp: 可変ゲインアンプ ・リファレンス電圧 2.048V (±0.5% ) この部品選定において, センサの出力レンジが AD コ ンバータの入力範囲外となり変換範囲が制限される. 外 部に回路を付加すればこの問題は回避できるが個体差 (製造バラつき)の原因となりうる. 変換範囲の制限は pF 換算で 2.8 となるが測定対象の範囲外であるため再 現性を重視し pF 2.8 を測定最大値との仕様にすること で再現性や測定に問題ない仕様にしている. IoT 機器との連携 pF 値のデジタル変換値の出力については, 汎用性を 重視し, 人気のある IoT プロトタイピング環境であり USCS の実行環境も移植可能な M5Stack Technology 社 の M5Stack シリーズでも採用されている Grove 仕様の コネクタで接続できるインターフェイスを採用した. そ の仕様に合わせセンサ回路電源とインターフェイス回路 の設計を行った. 基板開発及び pF 計接続部分開発 これまでに述べた回路と 3D プリンタでの製造を前提 とした接続部分の設計の外観を以下に示す 図 2 pF 計接続部分(左), 及び試作基板外観(右) 性能確認及び校正について pF 値は測定器管内に生じた負圧からの演算値である ため測定の妥当性については圧力測定値の妥当性を確認 する必要がある. そこで大気圧との差圧を2つの絶対値 出力可能な圧力センサ(BME280)を用い, シリンジで負 圧を発生させ2つのセンサの差分を入力とし検証した. 相関係数から直線性に疑問がない点を確認した. 図 3 pF 測定センサ検証結果 謝辞 本報告の開発の発端は, 長崎県農林技術開発センター 大林, 内山 両氏の助言による. この場を借りて謝意を表 す.