■データ活用における市民社会組織の役割Part II
〜市民社会組織のデータ・リテラシー向上によるエンパワメントに向けて〜
【パネルのねらいと論点】
市民社会組織は、現場の活動や様々なステークホルダーの声を聞く中で、日常的に生きた情報に接しており、言語化や可視化されていないものも含めて、質量ともに豊かな情報を有している。市民社会の持っている当事者に関する生の情報を、一般にもわかりやすくデータ化・指標化することにより、取り残されがちな人々の状況を当事者目線から伝え、社会の理解を広げることが可能になり、当事者の立場に立った取り組みの創出につながっていくことが考えられる。
昨年の本大会のパネルセッションにおいて、私たちは、オープンデータの時代の市民社会組織の役割として、既存の公開データの市民社会的な翻訳と見える化を挙げ、多様性や持続可能性から読み解いたデータのビジュアライゼーションやそれによって促進される参加やアクションについて、北米のコミュニティ指標に関する取り組みや日本の黒部や静岡における参加型のローカル指標づくりの事例を紹介しながら議論した。
今回の本パネルでは、データをめぐる市民社会組織の役割として、既存データの解釈や可視化による市民参加の促進という昨年の議論を一歩進めて、市民社会組織による、当事者発のデータ・指標づくりについて、その意義や可能性について考えてみたい。
データや指標にはそれぞれに目的や背景があり、作成側の意図や立場が反映されているはずである。行政統計や民間のオープンデータが、行政の役割や方向性、民間企業の戦略のもとにつくられ表現されているとするなら、それらの中で汲みとりきれていなかったり、捨象したりしている、現場でしかわからない情報や当事者の願いを、掬い上げ社会に示していく役割が、市民社会組織にはあるのではないだろうか。現場の活動の中で言葉として蓄積されている情報をまとめ、わかりやすい形で伝えていくことは、現場で当事者に寄り添っている市民社会組織だからこそできることであるとともに、現場の声を根拠にした活動の展開は、市民社会組織の市民性の担保にもつながるものと思われる。
一方で、現場で蓄積されているナラティブな情報を当事者目線でデータ化・指標化するためには、一定程度のデータに関する知識が必要になるだろう。印象としては、 市民社会組織のデータリテラシーのレベルには非常にばらつきがあり、概して、データよりは共感、統計よりは目の前の人という志向が強いように感じられる。
本パネルでは、そのような業界全体の傾向の中でも、 データや指標を活用して、取り残されがちな人々への 社会の理解を進めたり、事業を創出・改善したりしている事例を紹介し、その意図や取り組みのポイント、成果などについて掘り下げる中で、今後、現場の声をデータや指標として活用していくための課題や展望について議論してみたい。今後、データや指標を、市民社会組織のエンパワーメントにつなげていくために必要な、市民社会組織向けのデータリテラシー向上のための研修や、データを扱うプロである研究者や学会との連携の仕組みづくりについても議論できればと考えている。
【パネリスト】
岡島 克樹(おかじま かつき)
大阪大谷大学人間社会学部 教授、国際子ども権利センター(C-Rights)副代表理事、関西NGO協議会 理事
専門は開発学(フィールドはカンボジア)で,人権基盤型アプローチや,地方分権と住民参加の関係について研究。著書は,『SDGsと人権 Q&A: 地域・学校・企業から考える』(共編著,2021年)ほか
村木 真紀(むらき まき)
認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表(理事長)
茨城県出身、京都大学総合人間学部卒業、社会保険労務士、日系大手製造業、外資系コンサルティング会社等を経て現職。LGBTQ当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かしてLGBTQと職場に関する調査、講演活動を行なっている。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー 2016チェンジメーカー賞」受賞。
小柴 徳明(こしば のりあき)
黒部市社会福祉協議会 総務課課長補佐 経営戦略係
2003年黒部市社会福祉協議会に入社。法人の基盤強化、経営中長期ビジョンの策定、シンクタンク事業の立ち上げなどに取り組む。地域福祉分野におけるICT利活用、社会参加や地域の見える化などに尽力中。情報通信研究機構(NICT)ソーシャルICTシステム研究室協力研究員。
長谷川 雅子(はせがわ まさこ)=モデレーター
一般財団法人CSO ネットワーク事務局長・理事
横浜市役所、公益社団法人アジア協会アジア友の会等を経て、2010年CSOネットワーク入職、2019年10月より現職。横浜市立大学非常勤講師。大阪大学国際公共政策研究科博士課程修了(国際公共政策博士)。