■3.10節 現実のネットワークをランダム・ネットワークモデルがどの程度説明しているのか,ネットワーク科学におけるランダム・ネットワークモデルの意義を確認.
■教科書 Barabási, A.-L. (2019)『ネットワーク科学』池田裕一・井上寛康・谷澤俊弘監訳、京都大学ネットワーク社会研究会訳、共立出版 【英語版】http://networksciencebook.com/
3.10 まとめ:現実のネットワークはランダムではない国際人間科学部 グローバル文化学科岩永悠希
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実ネットワークはランダムか?✓ ランダム・ネットワークモデルは,複雑なシステムで観察されたランダムに見えるネットワークを,単純に(純粋に)ランダムなものとして描くべきだとする.→「複雑さ=ランダムさ」✓ しかし現実には,非常に複雑なシステムの背後には何らかの秩序があると考えられる.この秩序はネットワークの構造に現れるものであり、結果として実ネットワークは完全にランダムな配位から組織的に逸脱してくる.✓ ランダム・ネットワークがどの程度現実のシステムを説明できるかは,系統的に行われる定量的な比較によって決められなければならない.✓ ランダム・ネットワークモデルは定量的な予測を導くので実際に比較することが可能.
RNモデルが導く定量的な予測次数分布• 二項分布に従う(𝑘 ≪ 𝑁のときポアソン分布で近似可能)→ポアソン分布では実ネットワークの次数分布を捉えることができない(ハブの存在)連結性• 𝑘 > 1のときどんなネットワークでも巨大連結成分が出現する(相転移)• 多くの実ネットワークでは 𝑘 < ln 𝑁なので(表3.1),孤立したクラスターに分かれているはず→多くの実ネットワークの連結性を説明できない平均距離• 平均距離 𝑑 は Τln 𝑁 ln 𝑘 で近似できる→観測された平均距離の良い近似であり,スモールワールド現象の出現を説明できる
RNモデルが導く定量的な予測クラスター係数• 局所クラスター係数𝐶𝑖は各ノードの次数𝑘𝑖に依存しない• 平均クラスター係数 𝐶 はシステムの大きさ𝑁に依存する→実ネットワークの観測値によると,クラスター係数𝐶 𝑘 は次数の増加に伴って減少し,システムの大きさからほぼ独立している結論✓ 実ネットワークについて,ランダム・ネットワークモデルで合理的に説明できる性質はスモールワールド性のみ✓ ランダム・ネットワークによって正確に説明される現実のネットワークは知られていない
ランダム・ネットワークモデルの有用性ランダム・ネットワークモデルは,実ネットワークの性質(現実のシステムの特徴)を探究する上で重要なレファレンス(i.e., 帰無モデル)となる1. 問題となっている性質がランダム・ネットワークにも存在する場合→ランダム性によって(偶然の産物として)説明できる2. 問題となっている性質がランダム・ネットワークに存在しない場合→何か別の秩序の存在を示しており,さらなる調査・説明が必要となる重要な問い:観察されたネットワークの性質は,偶然の産物だろうか?