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3.8節 スモールワールド / Small Worlds

Yuki Iwanaga
February 27, 2023

3.8節 スモールワールド / Small Worlds

■3.8節
スモールワールド現象を,ランダム・ネットワークモデルの範囲内で説明できるかについて議論.

■教科書
Barabási, A.-L. (2019)『ネットワーク科学』池田裕一・井上寛康・谷澤俊弘監訳、京都大学ネットワーク社会研究会訳、共立出版
【英語版】http://networksciencebook.com/

Yuki Iwanaga

February 27, 2023
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Transcript

  1. 3.8 スモールワールド
    国際人間科学部 グローバル文化学科
    岩永悠希

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  2. スモールワールド現象
    「6次の隔たり」として一般に流布した
    • 世界のどの二人であっても、6人程度
    の知人を介してつながっている
    • ネットワーク科学の言葉では
    「スモールワールド性」とも呼ばれる
    ネットワーク内で無作為に選ばれた二つのノード間の距離が短いこと
    Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.

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  3. スモールワールド性から生じる疑問
    1. 何に比べてノード間の距離が「短い」のか、また「小さい」とは
    何を意味するのか?
    2. 短い距離が存在するということをどのようにして説明するのか?

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  4. 平均次数 𝑘 のランダム・ネットワークで考える
    𝑘 = 2 距離
    1ステップ
    2ステップ
    3ステップ
    𝑑ステップ
    ノード数
    𝑘 1 = 21= 2
    𝑘 2 = 22= 4
    𝑘 3 = 23= 8
    𝑘 𝑑 = 2𝑑
    𝑁(𝑑):起点となるノードから距離𝑑の位置までに含まれるノードの総数
    𝑁 𝑑 ≈ 1 + 𝑘 + 𝑘 2 + ⋯ + 𝑘 𝑑 =
    𝑘 𝑑+1 − 1
    𝑘 − 1
    (3.15)

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  5. スモールワールド性の定式化
    𝑁(𝑑) ≤ 𝑁より, 距離𝑑が無限に大きくなることはない.
    ネットワークの直径(最大距離)を𝑑𝑚𝑎𝑥
    とすると
    𝑁 𝑑𝑚𝑎𝑥
    ≈ 𝑁
    と近似できる. 式(3.15)において 𝑘 ≫ 1と仮定すれば,
    𝑁 𝑑𝑚𝑎𝑥
    =
    𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥+1 − 1
    𝑘 − 1

    𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥+1
    𝑘
    = 𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥
    ∴ 𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥 ≈ 𝑁
    両辺の対数をとって整理すると
    𝑑𝑚𝑎𝑥

    ln 𝑁
    ln 𝑘
    (3.18)
    (3.16)
    (3.17)

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  6. 現実のネットワークの直径
    (3.18)
    Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.

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  7. スモールワールド性の定式化
    𝑑𝑚𝑎𝑥

    ln 𝑁
    ln 𝑘
    この式は無作為に選ばれた二つのノード間の平均距離についての良い近似となっている.
    • 最大距離𝑑𝑚𝑎𝑥
    は数少ない極端な経路の影響を強く受ける
    • 平均距離 𝑑 では, ノードのすべての組み合わせに関する平均をとるため,
    そのようなゆらぎの影響が抑えられる
    (3.18)
    スモールワールド性: 𝑑 がノード数𝑁と平均次数 𝑘 にどう依存するかを表す関係式で定義される
    𝑑 ≈
    ln 𝑁
    ln 𝑘
    (3.19)

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  8. 現実のネットワークの直径
    (3.19)
    Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.

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  9. 式(3.19)の解釈
    𝑑 ≈
    ln 𝑁
    ln 𝑘
    (3.19)
    • 平均距離 𝑑 は, 𝑁や𝑁のべきに比例するのではなく, ln 𝑁に比例
    する
    • 分母のln 𝑘 はネットワークが密になるほど, ノード間距離が小
    さくなることを表す
    • 一般にln 𝑁 ≪ 𝑁であるため, ランダム・ネットワークにおいては
    ノード間距離がネットワークの大きさに比べて何桁も小さい
    • スモールワールド性の「スモール(小さい)」という言葉は,
    ネットワーク内のノード間平均距離,あるいは直径がシステムの
    大きさの対数に依存することを意味している(疑問1)
    • 同じサイズの規格格子の場合と比べて, ノード間距離が平均し
    て「短い」(疑問2)
    Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.

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  10. さまざまなスモールワールド性
    19次の隔たり(1999年)
    • WWW内の二つの文書は平均して19回のクリックでたどり着ける
    • 有限サイズスケーリング(WWWのサンプルサイズを大きくするにつれて平均距離がどのよ
    うに増加するか測定)の結果から導いた下記の評価式から算出
    𝑑 ≈ 0.35 + 0.89 ln 𝑁
    6次の隔たり(1967年):ミルグラムの郵便実験
    友人に手紙を転送してもらうことを繰り返すことで、
    遠く離れた人に手紙が届くかを実験したもの
    • 住所と名前が記されている手紙がある
    • その人を知っていれば直接送る
    • 知らなければ、ファーストネームで気軽に呼び合える仲の友人に手紙を転送する
    実験の結果、平均して6人を介して目的の人に手紙が届いた。
    Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.

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  11. 3.8節のまとめ
    スモールワールド性: 𝑑 がノード数𝑁と平均次数 𝑘 にどう依存するかを表す関係式で定義される
    𝑑 ≈
    ln 𝑁
    ln 𝑘
    (3.19)
    ネットワーク科学における重要性
    • スモールワールド現象は、ランダム・ネットワークモデルの範囲内で
    かなりの程度まで理解できる
    スモールワールド現象はランダム・ネットワークモデルによって合理的に説明することができる
    唯一の性質である。(p105)

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