■3.8節 スモールワールド現象を,ランダム・ネットワークモデルの範囲内で説明できるかについて議論.
■教科書 Barabási, A.-L. (2019)『ネットワーク科学』池田裕一・井上寛康・谷澤俊弘監訳、京都大学ネットワーク社会研究会訳、共立出版 【英語版】http://networksciencebook.com/
3.8 スモールワールド国際人間科学部 グローバル文化学科岩永悠希
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スモールワールド現象「6次の隔たり」として一般に流布した• 世界のどの二人であっても、6人程度の知人を介してつながっている• ネットワーク科学の言葉では「スモールワールド性」とも呼ばれるネットワーク内で無作為に選ばれた二つのノード間の距離が短いことBarabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.
スモールワールド性から生じる疑問1. 何に比べてノード間の距離が「短い」のか、また「小さい」とは何を意味するのか?2. 短い距離が存在するということをどのようにして説明するのか?
平均次数 𝑘 のランダム・ネットワークで考える𝑘 = 2 距離1ステップ2ステップ3ステップ𝑑ステップノード数𝑘 1 = 21= 2𝑘 2 = 22= 4𝑘 3 = 23= 8𝑘 𝑑 = 2𝑑𝑁(𝑑):起点となるノードから距離𝑑の位置までに含まれるノードの総数𝑁 𝑑 ≈ 1 + 𝑘 + 𝑘 2 + ⋯ + 𝑘 𝑑 =𝑘 𝑑+1 − 1𝑘 − 1(3.15)
スモールワールド性の定式化𝑁(𝑑) ≤ 𝑁より, 距離𝑑が無限に大きくなることはない.ネットワークの直径(最大距離)を𝑑𝑚𝑎𝑥とすると𝑁 𝑑𝑚𝑎𝑥≈ 𝑁と近似できる. 式(3.15)において 𝑘 ≫ 1と仮定すれば,𝑁 𝑑𝑚𝑎𝑥=𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥+1 − 1𝑘 − 1≈𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥+1𝑘= 𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥∴ 𝑘 𝑑𝑚𝑎𝑥 ≈ 𝑁両辺の対数をとって整理すると𝑑𝑚𝑎𝑥≈ln 𝑁ln 𝑘(3.18)(3.16)(3.17)
現実のネットワークの直径(3.18)Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.
スモールワールド性の定式化𝑑𝑚𝑎𝑥≈ln 𝑁ln 𝑘この式は無作為に選ばれた二つのノード間の平均距離についての良い近似となっている.• 最大距離𝑑𝑚𝑎𝑥は数少ない極端な経路の影響を強く受ける• 平均距離 𝑑 では, ノードのすべての組み合わせに関する平均をとるため,そのようなゆらぎの影響が抑えられる(3.18)スモールワールド性: 𝑑 がノード数𝑁と平均次数 𝑘 にどう依存するかを表す関係式で定義される𝑑 ≈ln 𝑁ln 𝑘(3.19)
現実のネットワークの直径(3.19)Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.
式(3.19)の解釈𝑑 ≈ln 𝑁ln 𝑘(3.19)• 平均距離 𝑑 は, 𝑁や𝑁のべきに比例するのではなく, ln 𝑁に比例する• 分母のln 𝑘 はネットワークが密になるほど, ノード間距離が小さくなることを表す• 一般にln 𝑁 ≪ 𝑁であるため, ランダム・ネットワークにおいてはノード間距離がネットワークの大きさに比べて何桁も小さい• スモールワールド性の「スモール(小さい)」という言葉は,ネットワーク内のノード間平均距離,あるいは直径がシステムの大きさの対数に依存することを意味している(疑問1)• 同じサイズの規格格子の場合と比べて, ノード間距離が平均して「短い」(疑問2)Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.
さまざまなスモールワールド性19次の隔たり(1999年)• WWW内の二つの文書は平均して19回のクリックでたどり着ける• 有限サイズスケーリング(WWWのサンプルサイズを大きくするにつれて平均距離がどのように増加するか測定)の結果から導いた下記の評価式から算出𝑑 ≈ 0.35 + 0.89 ln 𝑁6次の隔たり(1967年):ミルグラムの郵便実験友人に手紙を転送してもらうことを繰り返すことで、遠く離れた人に手紙が届くかを実験したもの• 住所と名前が記されている手紙がある• その人を知っていれば直接送る• 知らなければ、ファーストネームで気軽に呼び合える仲の友人に手紙を転送する実験の結果、平均して6人を介して目的の人に手紙が届いた。Barabási, A.-L. Network science (Cambridge University Press, 2016). http://barabasi.com/networksciencebook/.
3.8節のまとめスモールワールド性: 𝑑 がノード数𝑁と平均次数 𝑘 にどう依存するかを表す関係式で定義される𝑑 ≈ln 𝑁ln 𝑘(3.19)ネットワーク科学における重要性• スモールワールド現象は、ランダム・ネットワークモデルの範囲内でかなりの程度まで理解できるスモールワールド現象はランダム・ネットワークモデルによって合理的に説明することができる唯一の性質である。(p105)