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HMDを使用したVR空間における 奥行き方向の情報呈示

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October 25, 2025
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HMDを使用したVR空間における 奥行き方向の情報呈示

Talked in 2025年10月20日(月)電子情報通信学会 ヒューマン情報処理研究会 (HIP)

https://ken.ieice.org/ken/paper/20251020mcNm/

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October 25, 2025
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Transcript

  1. 発表の流れ • 背景 / 課題設定 • 関連研究 • 目的・仮説 •

    実験方法 • 実験結果 • 考察 • 結論 • 今後の展望 2
  2. 背景 / 課題設定 HMD (ヘッドマウントディスプレイ) の急速な発展と 普及 • Apple Vision

    Proなど、高解像度なデバイスが登場。 • 3D空間をより現実に近い形で体験可能に。 https://www.apple.com/jp/apple-vision-pro/ https://www.meta.com/jp/quest/ 3
  3. 背景 / 課題設定 奥行き活用の可能性 • 情報の階層構造を物理 的な前後関係で表示 • 重要度の高いものを手 前に配置

    直感的で効率的な インターフェースを実現 できるのでは? 三変数の表を立体的に表現した事例 6 http://laweditor.blog.fc2.com/blog-entry-50.html
  4. 関連研究 HMD特有の課題:輻輳調節矛盾(坂本2021) • 眼のピント (調節) は、 常にスクリーン(1〜2m先)に固定されている • 脳が認識する奥行き (輻輳)

    は、左右の映像のズレ (視差)によって変化する この矛盾が眼精疲労や 認知負荷の一因となる 7 光学的奥行き 視差による 奥行き HMD (ステレオグラム式) 輻輳調節矛盾の模式図(坂本 (2021) を参考に作成)
  5. 目的・仮説 目的 • VR環境下で、情報の呈示方向 (奥行き・左右・ 上下) が、人間の視覚探索パフォーマンスに与 える影響を定量的に分析・評価する。 • パフォーマンスの指標として、ターゲット(3つの

    連続した数字)を発見するまでの反応時間を計 測。 仮説 • 「数字が奥行き方向に呈示される場合、他の方 向 (左右・上下) よりも反応時間が長くなる」 11
  6. 実験方法 (1) - 環境と刺激 実験環境: • HMD: Apple Vision Pro

    (visionOS 2.2) • VR空間: Apple RealityKit フレームワークで構 築 12 https://developer.apple.com/jp/augmen ted-reality/realitykit/ https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/i ntroducing-apple-vision-pro/
  7. 実験方法 (1) – 実験刺激 • 1軸に沿った連続する3セル: 0〜9の数字 • 残りの24セル: ランダムなアルファベット

    – ※視認性や混同を避けるために、 あらかじめ「O」、「I」、「C」、「Q」を 除いている • 方向:奥行・左右・上下の3軸 – 斜め方向へ配置する条件は 含めていない 1面x9パターンx3軸=合計27通りの条 件をランダムに呈示 X Y Z Z=0 Z=1 Z=2 X=0 X=1 X=2 Y=1 Y=0 Y=2 O 被験者 R S U S K A V N K V H E B F G R K W P Y 8 K T 4 G B 2 14
  8. 実験方法 (1) –奥行き方向の例 奥行き方向に「291」 X Y Z Z=0 Z=1 Z=2

    X=0 X=1 X=2 Y=1 Y=0 Y=2 O 被験者 R S U S K A V N 1 V H E B F G R K 9 P Y U K T X G B 2 15
  9. 実験方法 (1) – 左右方向の例 左右方向に「894」 X Y Z Z=0 Z=1

    Z=2 X=0 X=1 X=2 Y=1 Y=0 Y=2 O 被験者 R S U S K A V N K V H E B F G R K W P Y G 8 9 4 G B M 16
  10. 実験方法 (1) – 上下方向の例 上下方向に「248」 X Y Z Z=0 Z=1

    Z=2 X=0 X=1 X=2 Y=1 Y=0 Y=2 O 被験者 R S U S K A V N K V H E B F G R K W P Y 8 K T 4 G B 2 17
  11. 実験方法 (2) - 参加者と手順 • 参加者: 20代の男女10名 • タスク: •

    被験者がキーを押すと、刺激が呈示される。 • 直線状に並んだ3つの数字を探索する。 • 発見次第、キーを押す (→ 反応時間を記録)。 • 発見した数字を口頭で報告 (→ 正誤を記録)。 • 報告する数字の順番は問わない 20
  12. 実験方法 (2) – 全体の手順 • 先ほどのタスクを実施 • 全27試行を1ブロックとし、各被験者は 2ブロックを実施。 •

    ブロック内での呈示順序はランダム。 • 本実験の前に10試行のトレーニングを実施。 26
  13. 実験結果 (1) - データ分析と全体概要 正答率: 97.0% と非常に高く、課題の難易度は 適切であったと考えられる。 方向 総試行回数

    正答数 外れ値数 正答率 奥行き 180 175 15 97.2% 左右 180 177 10 98.3% 上下 180 172 17 95.6% 全体 540 524 43 97.0% 28 呈示方向ごとの正答数と外れ値数
  14. 実験結果 (2) - 呈示方向と反応時間 分散分析の結果: 呈示方向による反応時 間の主効果が 認められた (F(2, 14)

    = 9.37, p < .01)。 反応時間の平均値: • 左右方向が最も短く (2.36s) • 上下方向が最も長い (2.57s) • 奥行き方向は中間 (2.57s) 30 各呈示方向の応答時間
  15. 実験結果 (2) - 呈示方向と反応時間 多重比較 (Bonferroni法) の結果: • 奥行き vs

    左右 (p=0.012) • 左右 vs 上下 (p=0.002) 上記2つの組み合わせで 統計的に有意な差を 認めた。 31
  16. 考察 (3) - なぜ奥行き方向は遅いのか? 物理的な遮蔽 (オクルージョン) • 3D空間の性質上、手前のセルが、奥のセル の文字の一部を覆い隠す状況が発生しうる。 •

    隠された文字を確認するためには、頭部をわ ずかに動かすといった追加的な探索行動が 必要になる。 反応時間を増加させる一因 35
  17. 結論 • VR空間での視覚探索パフォーマンスは、情報の 呈示方向に影響され、水平方向 の探索が最も 効率的である。 • 上下方向と左右方向では、生物学的特性から 左右方向の方が反応時間が短い。 •

    しかし、奥行き方向の認識が難しいわけではなく、 遮蔽により反応時間が長くなっていることが示唆 された。 • オクルージョンを解決すれば奥行き方向の情報 提示も有効なのではないか。 38