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Data Science Report 02 - ITベンチャー企業のつながりを比較 / DSR2

Data Science Report 02 - ITベンチャー企業のつながりを比較 / DSR2

■ ITベンチャー企業のつながりを比較

他の業界と同じように、ITベンチャー企業にも産業集積の現象が見られる。しかし、物流に左右されないはずのITベンチャー企業が産業集積するのはなぜか。その考察の端緒とするため、渋谷、新宿、五反田におけるITベンチャー企業のつながりの特徴について分析を行う。その結果、いずれの地域においても、ハブと呼べるような企業は存在しなかった。一方で、つながりの密度には地域で大きな違いが見られた。

※本誌は当社サービスで定める利用規約の許諾範囲内で匿名化したデータを統計的に利用しています。

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Sansan R&D

May 31, 2018
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  1. Data Science Report 02 |  © Sansan, Inc. IT ϕϯνϟʔاۀͷͭͳ͕ΓΛൺֱ 1ɹ֓ཁ

    同じ業界であるにもかかわらず、同業他社が特定の地域に集積する現象がよく見られる※1。よく取り上げられる例として、 米国のシリコンバレーに集中するITベンチャー企業がある。シリコンバレーに集積する企業は互いに切磋琢磨し、IT技術や ウェブサービスの発展に大きく貢献してきた(Ferrary and Granovetter, 2009) 。日本においても例えば、大手町における金融 機関の集積は、近年のみならず戦後の日本経済の発展に伴って形成されたものであろう。また、他の業界についても、渋谷の ITベンチャー※2 企業、表参道の美容院、秋葉原のアニメショップなど、特定業界の企業や店舗が特定地域に集積する例をい くつも挙げることができる。特定の地域に同業他社が集積する背景には、多くの人に想起される場所に立地することで自社の ブランド力を高めるといった目的だけでなく、同業他社同士で弱みを補完し合う、ネットワークを形成し情報交換をしながら ビジネスを推進していくといった目的もあるだろう。 IT業界に注目をすると、先に挙げた渋谷だけでなく、新宿、五反田、六本木など、いくつかの地域にも集積が見られる。IT 業界もまた同業他社が特定の地域に集積している業界と言える。ただし、IT業界の企業が集積する理由は、他の業界とは異な るであろう。例えば、製造業の一部の業態では、原材料や完成品の運搬のために港湾を利用する必要があり、海に面した地域 に立地する必要性から港湾設備の整った地域に集積するといった理由がある。しかし、IT業界ではハードウエアを扱っている 企業を除いては物流に依存する必要性がほとんどないため、物流が理由で集積しているとは考えにくい。また、IT業界を支え るソフトウエアエンジニアは、インターネット上でコミュニティーを形成しており、オンライン上で密度の濃いコミュニケー ションが繰り広げていることも考えられる。そうであるとすれば、わざわざ同業他社が近接地域に集積したり、ましてやフェ イス・トゥ・フェイスで会ったりする機会がなくても、業務を進める上で必要な情報を簡単に入手できるため、同じ地域に集 積する必要は出てこないであろう。 対照的な意見として、IT業界だからこそリアルの出会いが重要だという見方もある。特にソフトウエアエンジニアは、学習 意欲が高く、仲間同士で勉強会を行うなどをして日々最新の情報をキャッチアップしているため、多くのエンジニアがエンジ ニア同士の出会いを求めている可能性がある。インターネット上にある情報は、誰でも容易にアクセスできるために価値があ まり感じられず、リアルな場で交換される情報に高い価値を感じているといった見方もできる。また、エンジニア同士に限ら ず、優秀なソフトウエアエンジニアを採用するために、各社の人事部門が連携し企業間で人材に関する情報を交換していると すれば、企業間にそれなりのつながりがあることが予想される。 これまで挙げてきた推察に従い、 本稿では、 個人向け名刺アプリ「Eight」のデータを基に、 渋谷、 新宿、 五反田のITベンチャー 企業※3 間につながりがどれくらいあるのか、地域によって違いが生じているのか、ネットワーク分析の視点から考察してい きたい。IT業界の企業が集積している地域としては、他に六本木や本郷三丁目なども挙げられるが、企業が特定されるおそれ や分析に耐えうる名刺交換の情報がないことを理由に、今回は分析対象から除外した。先んじて明かすと、地域によって出会 いのネットワークの密度が異なり、渋谷、新宿、五反田の順でネットワークの密度が濃いという結論が得られた。その結論に 至った背景については、最後に考察する。 ※1:産業集積の議論は古くからあり、例えば空間経済学の分野では、Fujita et al.,1999、佐藤ほか, 2011などがある。 ※2:ITベンチャーとネットベンチャーを分けて使う場合もあるが、本稿においてはITベンチャーとネットベンチャーを合わせて「ITベンチャー」とする。 ※3:本稿では、特に決められた定義は存在しないため、ウェブサービスやソフトウエア関連のシステムをサービスとして提供しており、かつ新技術の導入や新規事業の開拓を積極的 に進めている企業を「ITベンチャー企業」と定義して分析対象とした。
  2. Data Science Report 03 |  © Sansan, Inc. 2ɹ෼ੳର৅ 分析に当たっては、Eightのデータについて個人を匿名化し、2017年に登録された名刺交換履歴と、その名刺を登録した本 人のプロフィールデータを抽出して、Eightの利用規約で許諾を得ている範囲で使用した。そのうち、本人や名刺に記載され

    ている相手の勤務先がITベンチャー企業であり、勤務先住所が渋谷、新宿、五反田の範囲内に当たるものをさらに抽出した。 ITベンチャー企業の判定については、企業名から各種情報やインターネット上に公開された企業のウェブサイトで業務内容を 調べ、これらの情報を基に判定を行った。また、勤務先住所については、名刺に記載されている企業の住所が、渋谷駅、新宿 駅、五反田駅を中心にして半径1kmの範囲内にあることで判定を行った。 本分析では個人や企業が特定されないよう、企業単位をベースにして、ITベンチャー企業に属している社員同士の名刺交換 の有無によって、つながりの有無を判断している。つまり、企業Aと企業Bにおいて、それぞれの企業の社員のうち少なくと も一人同士が名刺交換を行い、いずれかの社員がEightに名刺を登録していれば、企業Aと企業Bの間につながりがあったと 見なしている。なお、 Eightに登録されている名刺枚数を数えることもできるが、 名刺枚数は企業規模に比例することが分かっ ており、個人や企業が特定されるおそれがあるため、名刺枚数に関する情報は本分析において用いていない。同様の理由で、 企業間のつながりに注目し、企業に属する個人単位での出会いには注目していないこと、名刺交換履歴が登録されていない企 業については分析対象に含めていないこともここで言及しておきたい。 3ɹ෼ੳ݁Ռ 名刺交換の情報を基に、企業間のつながりを示したのが図1である。図1では、それぞれの丸が企業を表し、企業間につな がりがある場合には線で結んでいる。渋谷、新宿、五反田とそれぞれの地域において、中心部分には他社とのつながりが多い 企業を配置しており、図の周辺部分にはつながりの数が少ない企業を配置している。ネットワーク分析では、ハブと呼ばれる ような1社ないし数社が多くの企業とつながりを持ち、ハブ以外の企業間ではつながりが少ないという現象が見られるが、図 1を見ても、また別途ネットワークの特徴を表す統計量を見て検討しても、ITベンチャー企業においてはどの地域においても ハブと呼べるような企業が存在しているとは言えないことが分かった。 その一方で、渋谷、新宿、五反田の間ではつながりの密度に違いが見られる。渋谷では、図の中心につながりの多い企業が 多数見られ、その企業同士においてもつながりが多いと言える。渋谷には従業員数が1000名を超えるメガベンチャー※4 と呼 ばれる企業もいくつか存在するが、メガベンチャー同士のつながりが濃いという話だけではこれだけ多くの企業のつながりの 密度が高いことは説明することができないであろう。また、新宿、五反田という順番で、つながりの密度が低くなっているこ とが分かる。五反田は、一部の企業は複数企業とつながりが持っているが、一社のみとしかつながりを持っていない企業も少 なからず見られる。一社のみとつながりを持つ企業と線で結ばれた相手の企業が同一ではないこともネットワークの構造を複 雑にし、ハブと言われる企業が存在していないことを示している。 ौ୩ ৽॓ ޒ൓ా ※4:メガベンチャーについては明確な定義は存在しないと思われるが、ここでは従業員数が1000名以上の企業としている。 図中の丸は企業(ノード)を表し、丸を結ぶ線は企業間において名刺交換がなされていることを示している。 ਤ1ɿौ୩ɾ৽॓ɾޒ൓ాʹ͓͚ΔITϕϯνϟʔاۀؒͷ໊ࢗަ׵ωοτϫʔΫ
  3. Data Science Report 04 |  © Sansan, Inc. 次に、渋谷、新宿、五反田の3地域をまたいだ企業間のつながりがどれくらいあるのかを見てみる。表1は、地域をまたい だ企業のつながりがどれくらいあるかを示したものである。 渋谷

    新宿 五反田 渋谷(N=26) 148 新宿(N=26) 191 92 五反田(N=23) 247 153 61 渋谷 新宿 五反田 3 地域を またいだ場合 密度 0.228 0.142 0.121 0.109 平均次数 12.840 7.192 6.304 15.857 平均パス長 1.513 1.791 2.020 1.925 クラスタリング係数 0.613 0.478 0.406 0.248 企業数(ノード数、頂点の数) 26 26 23 75 ද1ɹौ୩ɺ৽॓ɺޒ൓ాͷITϕϯνϟʔاۀؒʹ͓͚Δ໊ࢗަ׵ʹΑΔͭͳ͕Γͷ਺ ද2ɹITϕϯνϟʔاۀͷ໊ࢗަ׵ωοτϫʔΫͷಛ௃Λࣔ͢ࢦඪ 注:Nはそれぞれの地域のITベンチャー企業数を表す。表の値は、それぞれの地域の 企業のペアについて、名刺交換がある場合を1として数を数えたものである。なお、 表の対角線より右上については、左下の値と同数であるため記載を割愛している。 注:平均パス長は、実現しているネットワークにおいて、任意の2頂点の最短距離の平均を表している。クラスタリング係数は、任意の3頂点において それぞれにつながりがあり、つながりのグラフが三角形と見なせるケースがネットワーク全体にどれくらい存在するかを示す指標である。 表2の密度と平均次数について、ここで触れておきたい。密度とは、ネットワークの中で実現可能なつながりがどれくらい できているかを測る指標であり、1に近いほど密度が濃く、0に近いほど密度が薄い。図1でも見てきたように、密度は渋谷 が一番濃く、次いで新宿、五反田の順となっている。また、3地域をまたいだ場合、すなわち渋谷、新宿、五反田の相互地域 における名刺交換の密度は0.109と、 同じ地域間よりも値が低い。 その理由として、 地域間をまたいだ場合の名刺交換が珍しく、 地域間にはつながりの断絶が起きていることが考えられる。 また、平均次数とは、ある企業がどれくらいの企業と名刺交換をしているか、その平均社数のことである。渋谷では平均し て約12.8社と名刺交換している一方で、新宿では約7.2社、五反田では6.3社にとどまっている。渋谷と五反田で平均次数が 約2倍も異なるということから、同じIT業界においても渋谷と五反田にはかなり大きな違いがあると言うことができる。 表1を見ると、先ほど見たように、同じ地域同士におけるつながりの数は、渋谷、新宿、五反田の順番となっているが、地 域をまたいだつながりという点では、渋谷と五反田が他の地域の組み合わせよりも多いことが分かる。五反田内における名刺 交換はそれほど多くない一方で、渋谷との名刺交換が渋谷ー新宿における名刺交換よりも多いことは五反田の持つ特徴を示し ているであろう。この点は、後の考察において触れたい。 これまではグラフなどによる単純な観察であったが、ネットワーク理論ではネットワークの特徴を示すいくつかの指標があ るため、これらの指標についても表2において紹介しておきたい。
  4. Data Science Report 05 |  © Sansan, Inc. 4ɹ݁࿦ 本稿では、渋谷、新宿、五反田におけるITベンチャー企業のつながりについて見てきた。分析の結果、分かった事実をこ こでまとめる。

    第一に、渋谷、新宿、五反田のいずれの地域においても、ハブと言えるような企業は存在せず、名刺交換を密にしている企 業とそうでない企業に分かれる。第二に、渋谷のつながりの密度が最も濃く、次いで新宿、五反田の順となっており、同じIT ベンチャー企業といってもつながりの密度には地域で大きな違いが見られる。第三に、渋谷、新宿、五反田の相互のつながり の数を見ると、渋谷と五反田の組み合わせが他の組み合わせよりも多い。 五反田については、渋谷の再開発により五反田に移転した企業や、特に新宿と比べて最近に設立された企業が多いことが挙 げられる。そのため、五反田に存在するITベンチャー企業のエンジニア同士の出会いは少なく、また勉強会などの機会は渋 谷に多いため、 渋谷においてリアルな出会いの機会が多く存在するといった背景もあるであろう。また、 五反田のITベンチャー 企業を見ると、VRや機械学習の先端技術を活用し、技術を売りにしている企業が多数見られることからも、エンジニアを中 心にあまり名刺交換は行われず、既に知っているエンジニア同士のつながりが存在しているのかもしれない。名刺交換は頻繁 に行われていないが、知っているエンジニア同士による情報交換がなされており、そこで交換されている情報は、あまり公に されていないという意味では貴重かもしれないが、残念ながら本分析で対象とした名刺交換の情報からはここまで断言するこ とはできず、推察の域を出ない。 一方で、渋谷については再開発のために五反田など他の地域へオフィスを移転する企業が見られているにもかかわらず、新 たなITベンチャー企業も設立されている。また、勉強会の機会が多いことも併せて考えると、渋谷においては頻繁に出会い の機会があり、集積の効果を最大限に活用しているとも言える。今後、渋谷の再開発が進むにつれて、さらに多くのITベン チャー企業が渋谷に拠点を移すと言われている。ITベンチャー企業のつながりが、これからどのように変化していくのか、引 き続き注目していきたい。 5ɹReference Ferray, M. and M. Granovetter (2009) “The role of venture capital firms in Silicon Valleyʼs complex innovation network,” Economy and Society 38(2) pp.326-359. Fujita, M., Krugman, P. R. and Venables, A. J. (1999) The Spatial Economy: Cities, Regions and International Trade, MIT Press. 佐藤泰裕, 田渕隆俊, 山本和博(2011) 『空間経済学』有斐閣
  5. © Sansan, Inc. ໰͍߹Θͤ 2018೥5݄31೔ ൃߦ ୲౰ݚڀһ ށా३ਔɹAkihito Toda Data

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