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AI 時代の組織設計論 ~ 環境が行動変容を促す人材戦略 ~

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September 10, 2025
27

AI 時代の組織設計論 ~ 環境が行動変容を促す人材戦略 ~

AI 時代の組織設計論 をテーマにした講演資料です。
生成AI・LLM の進化によって 「人とAIが協働する組織」 をどうデザインすべきかを、経営・人事・教育・開発の視点から体系的に解説しています。

本資料では、

問題設定の質を高める組織デザイン

AI を「ツール」ではなく調達可能なリソースと捉える視点

ルンバブルな組織設計(環境が行動を決める)

End-to-End の最適化と Context Engineering

フィードバック駆動の人材育成とプロアクティブ AI

といったテーマを中心に、これからの企業経営・HR 戦略に求められる方向性を示します。

対象読者は、経営者・人事責任者・新規事業担当者・AI 活用を検討するリーダーです。

関連キーワード
AI時代の組織設計, 人材戦略, HRテック, 組織最適化, プロアクティブAI, ルンバブル, Context Engineering, フィードバック駆動, End-to-End最適化, システム思考, 組織変革, リスキリング

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Ryosuke Yoshizaki

September 10, 2025
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Transcript

  1. @2024-2025, Wadan inc. copyright All Rights Reserved 2 吉崎 亮介

    よしざき りょうすけ エンジニア 起業家 その他 2007~2014 2014~2016 舞鶴高専 京都大学大学院 2017~2023 2024~ 株式会社キカガク 代表取締役 株式会社和談 代表取締役社長 2022~2024 2024~ 株式会社エイチーム 社外取締役 株式会社RY Capital 代表取締役 2024~ 文部科学省アントレプレナーシップ推進大使 自己紹介・経歴 Profile 創業者 1人→80人 和やかなコミュニケーションを作りたい 東証プライム上場企業役員 ベンチャー投資家 日本を代表する 55人が任命
  2. @2024 wadan inc. copyright All Rights Reserved 4 AI 時代の組織設計論

    AI はチャット UI という誰でも使いやすい皮を被った本当は『超高度な技術』 AI と働くありたい組織の姿を考えていく前に前提のすり合わせ 技術をビジネスに寄せるよりも『ビジネスを技術に寄せる』方が合理的 個人的なスタンス
  3. 5 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 新しい技術であっても「問題設定」の質を高めることが先が鉄則で、解の質を高めることは後! ありたい姿に向かう時に解(ツール)から考えてはならない

    イシュー度 高 解の質 高 解の質 低 イシュー度 低 正 し い ル ー ト イシュー度を高めて から解の質を高める 間違ったルート イシューを深掘りする 前に解の質を高める 課題 解決 人事領域の課題解決 正しいルート 間違ったルート 少子化社会でも さらに価値を出す 人材戦略を練る AI のツールを導入 することで時代に ついていく AI を人と協働する 人事戦略の一環と 位置付けることで 最適な組織を構築 個別最適された ツールばかり枝葉で 導入されて整合性が 一切取れない AI 時代の組織設計論
  4. @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 6 AI はツールにあらず、

    調達可能なリソースである AI が変えるものはツールか? No!! イメージとしては「鎖国」。 鎖国の解放で調達が不可能 だったリソースが使えるように なったように外部環境が 大きく変化している 人事にとっては調達リソースと捉えて 組織の最適化が迫られているが ここが全然認識されていない。 AI 人間 候補者 従業員 鎖国の外側 鎖国の内側 調達可能な領域 実際に扱う領域 人間と働く前提で「無意識の制約」がかかっている AI でも働きやすい会社にしていくのも人事の仕事では? * 人を物のようにリソースと表現するのは抵抗があり本望ではないが、便宜上容赦してほしい
  5. STEP 01 STEP 02 STEP 03 STEP 04 @2024-2025 Wadan,

    inc. copyright All Rights Reserved 7 コスト構造の大変革こそ、AI の導入が不可欠な理由 AI 時代の組織設計論 AI は性能で語らず、ビジネスに必要なことは「費用対効果」 性能が足りない 性能は足りるが 費用が高い 性能に対する 投資効果が見合う 費用が下がり 費用対効果に納得 AI に関しては自社開発が難しいため外部要因が大きかった 【現時点がここの印象】最新のモデルを全員で使うのは難しい 最重要かつ努力が不可欠なパート。ここに注力しないと恩恵なし あらゆる仕事に消費するように大量の AI が使えるようになる
  6. 1 2 3 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved

    8 掃除機を前提に作られた空間ではルンバがどれだけ高性能でも通ることができない。 ルンバブルの観点で AI も取り組まないと性能を活かしきれない 個別最適した結果、整合性が取れない 時間経過とともにどんどん変えにくくなる 障害(中):高性能が必要な構造 障害(大):通れない構造 性能が向上すればある程度クリアできる ただし、その高性能なものを買うのは高い 障害(小):たまに失敗する構造 普段は現れないエッジケースによって ほぼ全自動で問題ないが不定期に止まる 1 2 3 AI 時代の組織設計論
  7. 9 • エージェント • 環境 強化学習は機械学習の一部であり、人以外にも動物の育成など多くに当てはまる AI 時代の組織設計論 システム思考的に教育は「強化学習」で考える 学ぶ、貢献する

    対象:人, 動物, AI, ... 評価される、怒られる 対象:組織, 親, 友人, ... 行動 報酬 エージェント 環境 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved
  8. 10 • エージェント • 環境 AI 時代の組織設計論 システム思考的に教育は「強化学習」で考える 学ぶ、貢献する 対象:人,

    動物, AI, ... 評価される、怒られる 対象:組織, 親, 友人, ... 行動 報酬 エージェント 環境 教育の分野はここをスコープに制御しようとしがち たしかに短期的な行動は変えやすいが、大きくは変わりにくい 例)AI を個人で努力して学ぶも、会社で使う場面がなくフェードアウト @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved
  9. 11 • エージェント • 環境 AI 時代の組織設計論 システム思考的に教育は「強化学習」で考える 学ぶ、貢献する 対象:人,

    動物, AI, ... 評価される、怒られる 対象:組織, 親, 友人, ... 行動 報酬 エージェント 環境 高品質なフィードバックを即時に返すことが最高の教育である 報酬が返ってくるなら行動するモチベが上がる 本質的な人材育成を考えるならば 質の高い報酬を返す環境作りこそがその正体である @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved
  10. STEP 01 STEP 02 STEP 03 STEP 04 @2024-2025 Wadan,

    inc. copyright All Rights Reserved 12 個別最適が進む人事のプロセス 採用 育成 配置 評価 それぞれのステップに向き合うも「正しい行動」とは何か?の正体が言語化できない 正しい行動とは何か?「正しい人事」とは? AI 時代の組織設計論 そもそも、人事のスコープだけで「最適な人事」を議論できるのか?
  11. @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 13 △ 権限に依存

    論理的思考力 全体最適のための判断材料がないために悪気なく個別最適に陥る 個別最適化 判断材料 判断力 現場の人間では経営会議や部長会議に参加できないために判断材料が少なく、判断がずれる 個別最適される判断の正体 AI 時代の組織設計論 AI の 得意分野
  12. 14 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved AI 時代の組織設計論

    個別最適を改善するためには少なくとも自分の上の階層に関しての理解が必要 End-to-End (E2E) での組織の最適化がこれからのトレンド 経営 人事 開発 採用 育成 カリキュラム作成 → 実施 → ... 市場調査 → プロトタイプ → ... 従来は KPI などの数値に落とした指標で繋がざるを得なかったが、AI の登場により行動を規定する プロセスの手続きが文章化すれば、AI が見て全体通した最適化ができる(筆者は既に地道に改善中) 募集 → 面接 → ... 新規事業 既存事業 機能改善 → 指標計測 → ... この図の階層は便宜上のイメージであり 実際には戦略から全部署や各業務プロセスまで 深く繋いでいく 行動 数値 結果の 一部 リソースの最適化 (ケースバイケースの正体)
  13. @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 15 人間から問いかけ トリガーをどのタイミングで使うかだけ

    性能は同じ リアクティブ(受動) 多くの人が AI を使えないという正体は使えないのではなく「問い」が立てられていない AI 時代の組織設計論 AI Agent よりもプロアクティブな AI がトレンドになると予想 AI から問いかけ プロアクティブ(能動) 人事でコスト的に 難しかった社員の 状態把握もより鮮明に
  14. @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 16 掃除機とルンバの真の違いはリアクティブかプロアクティブか。ルンバブルな組織を目指す道筋 AI

    時代の組織設計論 問題設定の質を高めることが先、解は後の正体 リアクティブ AI プロアクティブ AI コ ス ト 高 コ ス ト 低 多くの企業が使う 現在のチャットサービス ガイドラインを整備して AI が通りやすい組織作り イシューに刺さっていない AI のコストを下げようと してしまう 組織で End-to-End に 最適化された ガイドラインで仕組み化 向かっている未来 人はより新しい挑戦や 従来にない枠組みへの 挑戦に時間を使える
  15. STEP 01 STEP 02 STEP 03 @2024-2025 Wadan, inc. copyright

    All Rights Reserved 17 今日から始めるルンバブルな組織づくりへの3つのステップ AI 時代の組織設計論 まとめ 現状把握 小さな実験 大きな改善 「正しい人事」の正体を恐れずに言語化してみる 人事プロセスのガイドラインを日々の仕事から振り返り育てる プロアクティブな AI を導入して人事の問題を E2E で解決
  16. 19 AI 時代の組織設計論 自分の知らないユーザーにも届くための AI LLM は本番環境に提供するプロダクト向けでよく語られがち 自分の仕事を吸収して育っていく自分や組織のための AI 私はこっちが欲しい

    @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved AI に日々フィードバックを出しているけど、本当に育っている感じする? 本番環境向けとは要件が大きく異なり、多少粗があっても良い分だけ進化を続けて欲しい
  17. A B C D E F @2024-2025 Wadan, inc. copyright

    All Rights Reserved 20 “A Survey of Context Engineering for Large Language Models” で定義された6つの構成要素 AI 時代の組織設計論 Prompt Engineering から Context Engineering への移行 Instructions Knowledge Tools Memory State Query システム関連 ユーザー関連 Context Engineering システム指示とルール RAG などで統合される外部知識 利用可能な外部ツール(ex. MCP) 事前のやりとりからの持続的な情報 ユーザーなどの動的な状態 ユーザーからのリクエスト * https://arxiv.org/abs/2507.13334 Prompt Engineering との違いは “Art → Science”
  18. 21 AI 時代の組織設計論 マルチモーダルな構成要素を最適化することは非常に難易度が高い LLM は本番環境に提供するプロダクト向けでよく語られがち 日頃の仕事の延長線上で Context Engineering が成立するように設計すべきでは?

    これが重要 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 人間はチャットで膨大な数のフィードバックを出しており『フィードバック駆動』なら仕事と自然に調和
  19. STEP 01 STEP 02 STEP 03 STEP 04 22 未だに「犬と猫を言語化する」という機械学習の頃にとっくに終わった問題をここでも繰り返す

    AI 時代の組織設計論 今日からできるコンテキストの育て方 基盤モデル コンテキスト 成果物 ユーザー フィードバック ChatGPT や Claude, Gemini などが代表的 ここを構築したり、チューニングする難易度は非常に高い チャット形式の UI が登場したことにより一気に民主化 一方で未だにコンテキストは科学的に最適化がされていない 成果物をコンテキストというプロセスを通して得られた 予測値 y として認識できている人が少ない End-to-End で考えるならここが教師データ t となり学習源 一方でここのデータを溜めたり、振り返れるようにされていない @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved
  20. STEP 01 STEP 02 STEP 03 STEP 04 23 未だに「犬と猫を言語化する」という機械学習の頃にとっくに終わった問題をここでも繰り返す

    AI 時代の組織設計論 今日からできるコンテキストの育て方 基盤モデル コンテキスト 成果物 ユーザー フィードバック ChatGPT や Claude, Gemini などが代表的 ここを構築したり、チューニングする難易度は非常に高い チャット形式の UI が登場したことにより一気に民主化 一方で未だにコンテキストは科学的に最適化がされていない 成果物をコンテキストというプロセスを通して得られた 予測値 y として認識できている人が少ない End-to-End で考えるならここが教師データ t となり学習源 一方でここのデータを溜めたり、振り返れるようにされていない |t- y| をコンテキストの再学習に利用すべき フィードバック駆動で AI を育てるプロセスは人間の仕事と相性が良い 「プロセス = メタプロダクト」(ex. 産業機械) backward forward @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved
  21. 1 2 3 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved

    24 GitHub × Claude Code Actions で、特別な使い方は必要ないが仕組みで AI が育っている 今日からできるコンテキストの育て方 ChatGPT や Claude のサービスと同じように 問題に対して会話してログも残る(超重要) 問題を提案するだけで良い GitHub の Issue or PR で会話 GitHub は過去のやり取りの参照も簡単で 多岐にわたる問題を特定して即時に理解可能 実装だけでなくプロンプトも更新 GitHub 上に実装とコンテキスト関連を置き 両方とも更新できて AI が継続的に進化する 1 2 3 AI 時代の組織設計論 音声入力 OK
  22. 25 AI 時代の組織設計論 ユーザーからのフィードバックを貯める 今日からできるコンテキストの育て方 GitHub Actions の Cron などで定期的に振り返り、プロアクティブに

    AI が進化 (フィードバックにも粒度があるので、メタ解析して分類するなど細かいテクニックもある) 仕事に調和させる @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 最初は簡易なマークダウンでの管理から始めて、慣れてきたら TextGrad* のように最適化も導入していく * https://github.com/zou-group/textgrad まずここから
  23. @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 26 継続的インテグレーション (CI)

    がこの育成の鍵を握る エンジニアの文化にはすでに根付いている 新しい提案のレビューまでに自動でテスト 部署や時間を超えた背景まで 含んだ最適化や検証は 全ての人間には到底不可能 プロアクティブな AI はリアクティブな AI と 性能は変わらない。 「どう使うか」で成果が大きく変わる。 コスト的に AI を「大量消費」できるならば AI に新しい提案を都度検証させることは 現実味を帯びてきている。 質の高いフィードバックを即時に 行えることは最高の教育である ユーザーは AI を使っている 意識をしなくて良い
  24. 1 2 3 @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved

    27 エンジニアでは当たり前の GitHub × Claude Code Actions を使えばすでに仕組みは完成している 継続的インテグレーション (CI) が組織のガードレールになる 領域問わず資料の更新は1日に何度もあり、 この更新でプロアクティブにAIが動く 状況ごとにカスタマイズ可能 ドキュメントの更新がトリガー 判断基準は自然言語で記述可能であるため 役職や役割を問わず利用可能 即座に高品質なフィードバック AI がプロンプトで定めた振る舞いでレビュー するため、人は本質に集中できる 1 2 3 AI 時代の組織設計論
  25. 29 人間を最初から変えようとせず、組織の環境を AI と変えれば人間も自然と変わる AI 時代の組織設計論 システム思考に基づく組織の変え方 01 04 02

    03 組織のルール策定・更新 組織や部署などルールを策定する 最初は個別で試しながら、慣れたら End-to-End の組織全体で繋ぐ フィードバック レビュワーが追加で指摘した事項を 整理して定期的に自動で学習させ 人間のオペレーション内で完結する CI でルールを自動適用 プロアクティブな AI で資料更新 をイベントのトリガーとして 整合性などの確認を自動化する 実務で使ってみる AI によって人間に高品質かつ高速 フィードバックで人が自然に育ち レビュワーも本質に集中できる AI との 協働の流れ @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved
  26. 30 AI 時代の組織設計論 GitHub の導入や CI/CD の設定を非エンジニアへ普及することは難しい よくある質問 技術をビジネスに寄せるよりも『ビジネスを技術に寄せる』方が合理的 この機に、リスキリングしてみてはいかが?

    個人的なスタンス @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved ただし、ツールは時代とともに変わるのでツールの使い方でなく考え方が大事 そして、本質は学ばない人に合わせる組織から、学び続ける人と AI に合わせた組織への変革
  27. 31 AI 時代の組織設計論 Instructions などをブラックボックスで最適化して品質は大丈夫? よくある質問 全ての内容を人間が把握している場合よりは扱いが確かに難しくなる問題は正直ある 一方で「内容の把握 = 品質保証」でもなく、プロセス全体で品質保証を段階的に行う

    @2024-2025 Wadan, inc. copyright All Rights Reserved 現段階で、Instructions などの破壊的な変更が結構怖く、テスト駆動開発を参考に Context の構成要素も確率的な振る舞いのシステムと捉えて自然言語の受け入れ条件が 必要な印象で絶賛試行錯誤中のため、良い方法があれば教えてください!
  28. 32 AI 時代の組織設計論 Markdown ベースに対して最適化する難しさは? よくある質問 構造の自由度の高さが良さでもあり、最適化時の難しさに繋がっている。 @2024-2025 Wadan, inc.

    copyright All Rights Reserved ニューラルネットワークにおける層やノードなどの構造に対するハイパーパラメータと それらの値であるパラメータの最適化を同時に行っている印象であり、これが破壊的な変更に繋がっている。 TypeScript の interface などで構造は細かく設定した上で、その内容だけ最適化させる方針が多い印象。 一方で、構造が明確に定義できるタスクに限定され、ブラックボックスでの最適化の良さを失うデメリットも。