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(論文読み)贈り物の交換による地位の競争と社会構造の変化 - 文化人類学への統計物理学的アプロ...

ymgc
September 08, 2024

(論文読み)贈り物の交換による地位の競争と社会構造の変化 - 文化人類学への統計物理学的アプローチ -

元論文:Emergence of economic and social disparities through competitive gift-giving
Kenji Itao,Kunihiko Kaneko
https://journals.plos.org/complexsystems/article?id=10.1371/journal.pcsy.0000001

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September 08, 2024
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  1. Appendix: 用語辞書 バンド: 小規模な狩猟採集社会 ▶ トライブ: 部族社会、血縁や共通の信念で結びついた社会 ▶ チーフダム: 首長制社会、階層化が進んだ社会

    ▶ キングダム: 王国、中央集権化された社会 ▶ 指数分布: の形の確率分布 ▶ べき分布: の形の確率分布 ▶ 変動係数 (CV): 標準偏差を平均で割った値 ▶ 半減期 ( ): 指数分布の特性値 ▶ べき指数 ( ): べき分布の特性値 ▶ 4
  2. 5

  3. 序論 (1/2) 社会組織の定量的特徴づけと移行メカニズムの解明が課題 ▶ バンド、トライブ、チーフダム、キングダムなどの社会組織分類の定量化 - 経済的・社会的格差の程度による特徴づけ - 人口や領土の規模増大に伴う階層的組織化と役割分化の観察 -

    贈与交換が伝統社会の経済活動と社会関係を形成 ▶ 人類学者の観察:贈与は社会的地位を向上させ、他者に義務を課す - 市場交換ではなく贈与交換が伝統社会で支配的 - 贈与の形態:経済交換、社会交換、純粋贈与のspectrum - 競争的贈与:適切な返礼が社会的紐帯を強化、大規模な贈与が社会的評判を向上 - 6
  4. モデル (2/3) 社会関係の変化: ▶ 贈与と返礼の回数 をカウント - 評判スコア を計算 -

    贈与の選択確率: - 債務と信用の取り扱い: ▶ 返礼不可能な場合、債務が発生 - 債務者は返済完了まで新たな贈与不可 - 死亡時に関連する債務と信用は消滅 - パラメータ: ▶ : 返礼の利子率 - : 生涯における贈与の頻度(期待寿命) - : 人口サイズ(デフォルト100) - 9
  5. 数値結果 (1/3) 富と評判スコアの分布が4つの相を形成: ▶ i. バンド: 両分布が指数分布(経済的・社会的格差なし) - ii. トライブ:

    富のみべき分布(経済的格差あり、社会的格差なし) - iii. チーフダム: 両分布がべき分布(経済的・社会的格差あり) - iv. キングダム: 富がべき分布、評判が指数分布(君主を除く) - 10
  6. 数値結果 (2/3) 相の遷移は の値に依存: ▶ バンド→トライブ: - トライブ→チーフダム: - チーフダム→キングダム:

    - 分布の特徴: ▶ 変動係数CV、半減期 、べき指数 を計算 - CVが1.0より大きい場合をべき分布と判定 - キングダム相の出現はNに依存 - 11
  7. 数値結果 (3/3) シミュレーション結果の統計的特徴: ▶ 富の分布: 増加に伴い 増加、 減少、 減少 -

    評判スコアの分布: 増加に伴い 増加、 増加後減少、 減少 - 債務者の頻度: で急増 - 12
  8. 分析結果 (1/2) 経済的格差の遷移: ▶ : 指数分布(ランダムな交換が支配的) - : べき分布 (指数

    )(富の成長が支配的) - 理論的導出: 富の動態方程式の解析 - 連続時間近似による微分方程式の導出 - 定常状態の解析解 と の導出 - 遷移条件:成長項と変動項の大小関係 - 13
  9. 分析結果 (2/2) 社会的格差の遷移: ▶ : 指数分布(即時返礼が支配的) - : べき分布(債務の発生により評判格差が拡大) -

    極めて大きい : 指数分布 (半減期 )(君主の出現により他者の活動が抑制) - 理論的導出: 評判スコアの動態方程式の解析 ▶ 信用獲得の条件と期待値の計算 - 「君主」の出現とその影響の分析 - 14
  10. 考察 (3/3) 戦略的行動や他のメカニズムの影響を今後の課題として提示 ▶ 贈与の拒否、戦争、富の生産管理などの影響 - 利他的互恵性や高コストシグナリング理論との関連 - モデルの拡張と限界: ▶

    複数種類の贈与の共存 - パラメータ値の変更による影響(部分的贈与、複数受取人への分配など) - キンシップや他の社会的要因の考慮 - 17
  11. まとめ 競争的贈与モデルにより、社会組織の進化を定量的に説明 ▶ 富と評判の分布形状が社会組織の特徴を反映 ▶ (返礼の利子率)と (贈与の頻度)が重要なパラメータ ▶ 値の増加に伴い、経済的・社会的格差が拡大 ▶

    4つの相(バンド、トライブ、チーフダム、キングダム)の出現と遷移を説明 ▶ 人類学的観察と整合性のある理論的枠組みを提供 ▶ 社会科学における定量的アプローチの可能性を示唆 ▶ 19