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科学の本質の理解の評価方法とその特徴に関するレビュー

 科学の本質の理解の評価方法とその特徴に関するレビュー

日本科学教育学会 第45回年会 2021年8月22日

Daiki Nakamura

August 22, 2021
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Transcript

  1. Science Education Book Club in Japan の参加者の皆様から貴重な意見を頂きました 科学の本質の理解の評価方法と その特徴に関するレビュー 〇中村大輝(広島大学大学院)

    藤原聖輝(広島大学大学院) 川崎弘作(岡山大学) 小林和雄(福井大学) 日本科学教育学会第45回年会 Nature of Science 2021年8月22日 オンライン開催 全12枚 小林優子(筑波大学大学院,学振DC) 三浦広大(広島大学大学院) 雲財 寛(日本体育大学) Assessment Acknowledgements
  2. 科学の本質とは何か 2 ◼ 科学の本質(Nature of Science, NOS)とは? 科学がどのように機能するのか,科学的知識はどのように生成・検証されるのか, 科学者はどのように仕事をするのか, といった科学の営みや科学に関する認識論的な特徴(McComas

    et al., 1998) ◼ 科学の本質の構成要素(McComas, 2020; NGSS, 2013) ⚫ 科学の人間的要素 創造性の役割 主観性・理論負荷性 社会・文化との相互作用 ⚫ 科学の方法・過程 経験的証拠の重要性 理論と法則の区別 科学特有の方法 ⚫ 科学の領域と限界 科学と技術・工学の区別 科学の暫定性 科学の限界 ◼ NOS理解の不足と社会課題 疑似科学 陰謀論、Qアノン、反科学 科学・技術が関わる社会問題 意思決定、合意形成 科学技術が日常生活に与える影響の増加 メディアに歪められた科学(者)像 何を知っているかが重視される学校教育 SNSとフィルターバブル 歪んだ科学観 素朴なNOS理解 対応できない 社会的背景 NOS理解の不足 対応が求められる社会課題
  3. 評価方法の必要性 3 ◼ NOS理解の効果 • NOS理解の5つの想定効果(Driver et al., 1996) 1.

    日常生活に関わる科学の理解 2. 科学が関わる社会問題について適切な意思決定を行う 3. 文化としての科学の価値の理解 4. 科学コミュニティの道徳性の理解 5. 科学の内容理解の促進 ➢ ただし、エビデンスは不足しており、評価方法の開発と実証研究が必要 ◼ 評価方法(Assessment)の課題 • 過去60年間、NOS理解を評価する方法が多く開発されてきたが、妥当性の検討が不十分な ものが多く、合意には至っていない(Lederman et al., 2014) • 日本人学習者を対象とした評価方法の開発・検討も十分に取り組まれてこなかった →日本語版NOS評価尺度の開発に向けた基礎研究が必要 ➢ これまでの評価方法をレビューし、それらの特徴や今後の課題を整理する必要がある
  4. 本研究の目的と方法 4 これまでのNOS理解の評価方法をレビューし、 評価方法の種類や特徴、歴史的変遷、今後の研究の課題を 明らかにすることを目的とする ⚫ 評価方法のコーディング(5人で分担) • 西暦 [1954-2020]

    • 回答形式[多肢選択、〇件法、自由記述、面接、他] • 調査対象[小、中、高、大、教師] • 測定要素[証拠、理/則、方法、創造、主観、社会、 区別、暫定、限界] 測定している=1, 測定していない=0 目的 ⚫ 評価方法の開発論文の抽出 a. Google Scholar を用いたキーワード検索 “Nature of Science” AND (Assessment OR Scale OR Questionnaire) →関連性が高い順に70件ほど確認 b. Lederman et al.(2014)に示された29件の評価方法 c. その他、探索的な文献収集 方法 Lederman et al.(2014)
  5. 集計結果 5 1950s 1960s 1970s 1980s 1990s 2000s 2010s 正誤判断・

    多肢選択 NOST VOSTS, TBA-STS R-VOSTS NOSI 両極尺度 (賛成-反対) (〇件法) SAQ ISAIA, NOSS, SPI, SSS, TSAS SAI, TOSRA, NSKS COST, LOS, POTSS R-NSKS, M- NSKS, VASS PNSS, SEVs, VOSE, SUSSI NSSm NOSI-E, SINOS, EPIST, NOSvs, UNOS, BANOS, ST 自由記述 VNOS-A, CI, VNOS-B VNOS-C, NOSSv, SUSSI 面接 その他 KS4NS (コンセプトマップ) ◼ 概要 • 49件の評価方法が確認(10件の評価方法は文献未入手) 0 10 20 30 40 50 60 1954 1957 1960 1963 1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 2011 2014 2017 2020 小学生 10% 中学生 17% 高校生 23% 大学生 27% 教師 21% 正誤・多肢 11% 両極尺度 60% 自由記述 14% 面接 13%
  6. 測定要素 6 ◼ どのような要素が多く測定されているか(N=39) 証拠, 25 理則, 23 方法, 23

    創造, 21 主観, 21 社会, 20 区別, 7 暫定, 32 限界, 9 他, 24 ⚫ 科学の人間的要素 創造性の役割 主観性・理論負荷性 社会・文化との相互作用 ⚫ 科学の方法・過程 経験的証拠の重要性 理論と法則の区別 科学特有の方法 ⚫ 科学の領域と限界 科学と技術・工学の区別 科学の暫定性 科学の限界 • 「科学の暫定性」の理解が相対的に多く測定されている • 「科学と技術・工学の区別」「科学の限界」の理解が 相対的に少ない ➢ “科学”の本質に含めるべきか? • 「その他」としては、科学的探究や科学の方法への理解 を問う項目(e.g., NOSI)が多く見られた 科学的知識は、十分な証拠があれば 信頼できるものとなる 例 科学者は新しい知識を探究するために 想像力と創造的思考を否定する 科学と技術は同じものである 科学的方法では調べられない現象もある
  7. 1950s-1980s|定量的評価の模索 7 NOSに関連する質問項目を提示し,それに対する 同意の程度を両極尺度で回答させる形式 多肢選択式によって正しい選択肢を選ばせる形式 ◼ 評価方法 ◼ 特徴 ◦

    NOSの理解度を定量的に評価することを可能にしている △ 得点とNOS理解の状態を対応付けて解釈することは難しい △ 質問項目の内容について、研究者と学習者で異なる捉え方をしている可能性(e.g., Lederman & O'Malley, 1990) ⚫ Wilson (1954) 科学者は、問題解決のための明確な方法に、 一貫して段階的に従うことで、高度な知識を得ている。 Scientists have advanced knowledge by consistently following, step by step, a definite method called the problem-solving formula. [賛成/反対] ⚫ Rubba & Anderson (1978) 科学的知識の根拠は、再現可能である必要はない。 The evidence for a piece of scientific knowledge does not have to be repeatable. [強く同意||どちらとも言えない||強く反対]5件法 ⚫ Billeh & Hasan (1975) 科学モデルについて最もよく説明しているのはど れか。Which statement best describes scientific models? A) モデルは自然現象を忠実に記述・表現する。 B) モデルは現象間の関係を説明する。 C) モデルは自然現象を単純化する。 D) モデルは、自然に内在する関係のパターンを表す。
  8. 1980s 後半~|質的評価の登場 8 ◼ 評価方法 ◼ 特徴 ◦ 学習者のNOS理解を言語(文字/音声)によって表出させることから, 質問項目への依存性の問題を部分的に回避

    ◦ NOSの下位要素間の理解のつながりを把握することができる ◦ その後の質問紙開発にも貢献 △ 回答が学習者の言語能力の影響を受ける △ 評価の実施に人的・時間的コストがかかる ⚫ 自由記述 ⚫ 半構造化面接 • 科学理論と科学法則には違いがありますか? • 科学者は調査において創造性をどのように使っていると思いますか? • 例を挙げて説明してください。 e.g., VNOS-A, B, C, D, E(Lederman et al.) ※自由記述の内容を基にNOSに関する説明を求める。
  9. 2000s-|調査対象者の拡大(低年齢化) 9 ◼ 評価方法 ◼ 特徴 ◦ 低年齢児でも理解しやすい表現 ◦ 回答負担を軽減させる工夫

    △ 言語能力の未熟さに伴う結果解釈の難しさ 低年齢の対象者に最適化した方法 ⚫ 小・中学生対象の多肢選択(R-BOSTS: Kang et al., 2005) • 科学者とは、科学に関する仕事をしている人のことです。 • 科学者の仕事を簡単に言うと... A) 新しい発見をして、自然に関する知識に加えること。 B) 自然現象を調査し、その現象の理由を説明すること。 C) この世界をより住みやすくするための発明をすること。 D) その他 ⚫ 幼児対象の集団面接(YCVS: Lederman, 2010) • 恐竜のことを知っている人は何人いるかな? • 1人1人、恐竜について知っていることをひとつだけ 言ってください • 今はもう恐竜がいないし、誰も見たことがないのに、 科学者はどうして恐竜が本当に生きていたとわかる の? • 科学者たちは、恐竜がどのような姿をしていたと考え ているの? • 科学者は、なぜ恐竜がこのような姿をしていると考え るの? • 恐竜が絶滅した理由について、科学者の間でも意見が 一致しないのはなんで?
  10. 2010s-|大規模調査に向けた量的評価(現代的テスト理論の導入) 10 ◼ 評価方法 ◼ 特徴 ◦ 現代的テスト理論に基づく詳細な項目特性の検討 ◦ 項目依存性・集団依存性の回避→同一尺度上で比較可能に

    △ 指導への還元が困難 項目反応理論に基づく質問紙開発 ⚫ PISA 2015 質問紙 (4件法) item beta d_1 d_2 d_3 alpha 1 何が真実かを確かめる良い方法は、実験することだ 0.00900 0.69269 1.00678 -1.69947 0.83989 2 科学的見解は、変わることがある 0.12064 1.37107 0.58817 -1.95924 1.11811 3 良い答えは、たくさんの異なる実験から得られた証拠に基づく -0.11558 1.01482 0.58431 -1.69947 1.16975 4 発見したことを確認するために、実験は2度以上行った方がよい -0.19914 0.95392 0.54680 -1.50072 1.06412 5 科学的に真実だとされていることについて、科学者が考えを変え ることがある 0.11261 1.37343 0.58717 -1.96059 0.96138 6 科学の本に書かれている見解が変わることがある 0.11386 1.39472 0.60798 -2.00270 0.84676 GPCM:
  11. 今後の研究の課題 11 ⚫ 論点1:NOS理解として何を評価するべきか ⚫ 論点2:どのような方法で評価するべきか ⚫ 論点3:何のために評価するか • NOSの下位要素のコンセンサスが形成されてこなかった

    ➢ 妥当性に関する議論の共通基盤の喪失 ➢ 科学哲学などの専門家との連携 • 評価されることの少ない側面が存在 ➢ 様々な側面を網羅的に評価することを目指すべき • 発達段階によって求められるNOS理解も異なる? ➢ NOS理解のラーニングプログレッションズに基づく選択 • 評価の目的が異なれば、適切な評価方法も異なる • スクリーニング、形成的評価、評定、大規模調査、ハイステークスな試験… 提示 情報量 取得 情報量 信頼性 実施 コスト 要素間の 関連 指導への 還元 文脈 正誤判断・多肢選択 多い 少ない △ △ △ △ 抽象 ⇔ 具体 両極尺度(質問紙) ↕ ↕ 〇 〇 × × 自由記述・面接 少ない 多い × × 〇 〇 証拠, 25 理則, 23 方法, 23 創造, 21 主観, 21 社会, 20 区別, 7 暫定, 32 限界, 9 他, 24
  12. 将来的な展望(中村の個人的な見解) 12 ◼ Step2: 面接調査 • 発話思考法を用いた面接調査(大学生→小学生) • 質問項目や用語の意味が理解できているか •

    NOSに関する誤概念、素朴概念の抽出 →誤答選択肢作成 • NOSを理解できていると判断できる表現の収集 →正答選択肢作成 • 収集した情報に基づき、多肢選択式問題の作成 ◼ Step1: 日本の科学教育が目指すNOS理解の明確化(コンセンサスビュー) • 科学哲学などの関連分野の専門家との連携 • 日本の理科教育の目標、カリキュラムの独自性の考慮 • 発達段階ごとに目指す理解度の設定(想定) • 質問項目の作成(すべての要素を網羅) ◼ Step3: 予備調査 • 少数サンプルに基づく 予備調査 • 問題や選択肢の修正 ◼ Step4: 本調査 • 大規模サンプルに基づく本調査 • 多肢選択式問題+既存の質問紙 • 項目反応モデルに基づくパラメータ推定 • 項目特性の検討(困難度、識別力、精度) • 外的な妥当性の検討(質問紙との相関) • 等化、垂直尺度化 • Can-Do Statements (学力進度文) の作成 ◼ Step5: 実証研究 • NOS理解の効果の検証 • 有効な指導法の検証 • 社会課題への対応可能性の検討 妥当性の 内容的側面 本質的側面 構造的側面 一般化可能性の側面 外的側面