Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

TIMSS 2019 環境認識尺度に関する日本人学習者の特徴

TIMSS 2019 環境認識尺度に関する日本人学習者の特徴

2023年5月20日
2022(令和 4)年度 日本理科教育学会九州支部大会
@沖縄県市町村自治会館

Daiki Nakamura

May 20, 2023
Tweet

More Decks by Daiki Nakamura

Other Decks in Education

Transcript

  1. 環境教育の重要性 2 ⚫ 環境問題への取り組みの増加 • 気候変動や海洋汚染をはじめとした様々な環境問題が人類にとっての緊急かつ重要な課題と なっている • 環境保護活動の取り組みが世界中で増加しており、教育分野では環境リテラシーの育成が取 り組まれている

    ⚫ 環境リテラシー(Environmental Literacy)とは何か • 環境とそれに関連する問題に対する認識と関心、そして現在の問題の解決と新たな問題の予 防に取り組むための知識、スキル、動機からなるもの(NAAEE, 2004) ⚫ 国内の状況 • 教育基本法第2条教育の目標「自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」 • 1993年環境基本法 • 2003年環境教育推進法→2011年環境教育等促進法 • 2021年文部科学省・環境省の連名による教育委員会通知 「気候変動問題をはじめとした地球環境問題に関する教育の充実について」 • 各教科を通した環境教育
  2. TIMSS 2019 環境認識尺度 3 ➢ 環境教育のニーズの高まりは、国際的な学力調査において環境リテラシーを 測定することの外圧として作用している ⚫ TIMSS 2019

    環境認識尺度(Environmental Awareness Scale) • TIMSS 2019の理科の調査問題の中から環境に関連する項目を抽出して事後 的に構成した尺度であり、調査設計時の計画には含まれていなかったもの (Yin & Foy, 2021) • 当該尺度は環境リテラシーの中でも環境問題を理解する上で必要な基礎知識 を測定していると解釈できる • 環境リテラシーの大規模な国際比較研究はこれまでに無かったことから、 当該尺度を二次的に分析することには価値がある
  3. 研究の目的と使用データ 4 本研究では,TIMSS 2019 環境認識尺度のデータを分析すること を通して、環境リテラシーに関する日本人学習者の特徴を明らか にすることを目的とする ⇒ 今後の環境教育への示唆を得る ◼

    使用データ • IEAの公開しているTIMSS 2019 の公開データのうち,理科の調査問題の一部か ら構成される環境認識尺度と理科に関連する質問紙のデータを分析に使用 • TIMSS 2019 には64の国と地域が参加しており,小学校第4学年(grade 4)と 中学校第2学年(grade 8)に相当する児童・生徒が調査の対象となった • 日本からは,小学校147校に所属する約4200名の児童と,中学校142校に所属す る約4400名の生徒が対象となった(国立教育政策研究所,2021)
  4. 分析に使用した変数と測定方法 5 ◼ A. 環境認識尺度(3-10問) • 環境問題を理解する上で必要な基礎知識を測定するもの • 生物・地学領域の複数の調査問題から構成されている ◼

    B. 理科が好きな程度(4件法9項目) • 理科の勉強がどの程度好きであるかを測定するもの 「理科の勉強は楽しい」「理科の勉強が楽しみだ」 ◼ C. 理科への自信の程度(4件法7-8項目) • 理科の勉強に関してどの程度の自信を持っているかを 測定するもの ◼ D. 家庭の教育資源(3項目) • 家庭の教育資源の量を測定するもの – 「家庭の蔵書数」 – 「家庭での学習支援の量」 – 「親の最終学歴」
  5. 結果|環境認識尺度の国際比較 6 ⚫ 環境認識尺度の順位(IEA(2021)を基に著者作成) 順位 小学校(grade 4) 中学校(grade 8) 国名

    平均点 国名 平均点 1 韓国 584 シンガポール 591 2 シンガポール 573 台湾 581 3 台湾 564 日本 563 4 ロシア 559 韓国 560 5 フィンランド 559 フィンランド 543 6 ノルウェー 549 オーストラリア 534 7 スウェーデン 548 ロシア 533 8 アメリカ 545 リトアニア 526 9 イングランド 544 スウェーデン 525 10 日本 543 アメリカ 525 • 日本は小学校と中学校の両方で上位10 か国以内に入っているものの、小学校の 方が相対的に順位が低い • TIMSS 2019における理科全体の日本の 順位は小学校で4位、中学校で3位であ ることを考えると、日本の小学生は環境 問題に関する問題を苦手としていると解 釈できる • 調査参加国の中には,韓国のように環境教育を教科として設定している国もあれば、日本のよう に対応する教科を設定せずに教育課程全体を通して環境教育に取り組んでいる国もある • しかし、環境教育の形態による得点の差は検出できなかった
  6. 日本の小学生が苦手とする問題 7 ◼ 太陽光や風力発電の利点を答える問題 日本の小学生の正答率(22%)が国際平均(23%)を下回った この問題では、太陽光や風力を利用 した発電方法の利点を自由記述形式 で答えるよう求めている。 • 日本のカリキュラムの都合上、電気の利用(小6)や燃焼の仕組み(小6)に関する

    内容を習っていない • しかし、同内容が未習である他の参加国よりも順位が低いことや、理科の問題全体 との順位のギャップを考えれば、日本の小学生は環境問題に関する基礎的な知識が 不足しているとも解釈できる
  7. 日本の小学生が得意とする問題 8 ◼ 海中のプラスチックの危険性を答える問題 日本の小学生の正答率(83%)が国際平均(61%)を上回った この問題では,海中のプラスチック がウミガメにとって危険である理由 を自由記述形式で答えるよう求めて いる •

    日本のカリキュラムにおいてウミガメの食性を直接的に学習することは無いにもかか わらず、高い正答率を示していることは注目に値する。 • 周辺を海に囲まれた海洋国家である日本では、海に関する環境問題への社会的関心が 高く、様々な場面で学習機会が生じていた可能性がある。
  8. 環境認識尺度の関連要因と性差 9 • 環境認識尺度の性差は小4から中2にかけて拡大している(Δd=0.14) • 小学校段階では性差の少ない国の上位に位置づくのに対して、 中学校段階では国際平均と比べて有意に性差の大きい国となっている • 小学校から中学校にかけて理 科学習への動機づけ変数(B,

    C)との相関が高くなる • 家庭の教育資源との相関は小 学校から中学校にかけて一貫 してr = .34 程度である • 家庭の教育資源が豊富である と環境問題に関する知識を得 る機会が多くなり、そのよう な知識の獲得は理科学習への 動機づけを高めることに貢献 している可能性 +女子が高い −男子が高い SES 環境認識 動機 <仮説>
  9. まとめ 10 1. 環境問題に関する基礎知識の得点順位は小学校よりも中学校の方が高い傾向に ある一方で、性差は小学校の方が小さい傾向にある ➢ 日本の小学生が男女ともに環境問題に関する知識が不足しているという実態 を踏まえれば、今後はより早い学年段階から環境問題を取り扱うことが望ま しいと考えられる。その際、社会で高い関心を集めている環境問題のみなら ず、多様な環境問題をバランスよく扱うことも重要

    2. 環境問題に関する基礎知識の得点は、理科学習への動機づけや家庭の教育資源 と相関する ➢ 特に、家庭の教育資源との相関が相対的に高かったことは、学習者が学校 外で環境問題に関する様々な知識を獲得していることを示唆している。 ➢ このような知識の獲得経路をより詳細に検討することで,今後の環境教育 への示唆を得られる可能性がある 本研究では,TIMSS 2019 環境認識尺度のデータを分析すること を通して、環境リテラシーに関する日本人学習者の特徴を明らか にすることを目的とする
  10. 引用文献 11 • Caplan, P.J., & Caplan, J. (2009). Thinking

    Critically about Research on Sex and Gender (3rd ed.). Psychology Press. • IEA (2021). TIMSS 2019 Environmental Awareness Results. Retrieved from https://timssandpirls.bc.edu/timss201 9/TIMSS_2019_Environmental_Results.pdf(accessed 2023.05.07) • 国立教育政策研究所(2021)『TIMSS2019算数・数学教育/理科教育の国際比較―国際数学・理科教育 動向調査の2019年調査報告書』明石書店. • McBride, B. B., Brewer, C. A., Berkowitz, A. R., & Borrie, W. T. (2013). Environmental literacy, ecological literacy, ecoliteracy: What do we mean and how did we get here?. Ecosphere, 4(5), 1-20. • North American Association for Environmental Education [NAAEE] (2004). Excellence in environmental education: guidelines for learning (K–12). NAAEE, Washington, D.C., USA. • Yin, L., & Foy, P. (2021). Chapter 18: Constructing the TIMSS 2019 Environmental Awareness Scales. In M. O. Martin, M. von Davier, & I. V. Mullis (Eds.), Methods and Procedures: TIMSS 2019 Technical Report (pp. 18.1- 18.30). International Association for the Evaluation of Educational Achievement.