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ロケットの燃焼試験とは──ホットファイアと爆発の価値

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June 30, 2026
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 ロケットの燃焼試験とは──ホットファイアと爆発の価値

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Atsushi Ishii

June 30, 2026

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  1. 石井 敦 | Atsushi Ishii クーガー CEO couger.co.jp 日本IBMを経て、楽天やライコスの大規模検索エンジン開発を担当。その後、 日米韓を横断したオンラインゲーム開発の統括、Amazon

    Robotics Challenge上位チームへの技術支援、ホンダへのAI学習シミュレーター提供、 NEDOクラウドロボティクス開発統括などを務める。現在、人型AIプラット フォーム「LUDENS」の開発を進めている。スタンフォード大学2018年AI 特別講義の講師。電気通信大学 元客員研究員。 2 自己紹介
  2. 燃焼試験とは 燃焼試験の基本 • ロケットを飛ばさずにエンジンを実際に燃焼させる試験 • 打ち上げ前に機体やエンジンの状態を確認する • ロケット開発において最も重要な試験の一つ 燃焼試験で確認すること •

    推進剤が正常に供給されるか • エンジンが設計通りの推力を発生するか • 圧力・温度・振動に異常がないか • 制御システムが正常に動作するか なぜ実施するのか • シミュレーションだけでは再現できない問題がある • 実際に燃やして初めて分かる異常がある • 打ち上げ前に問題を発見するために行う
  3. Blue Origin’s New Glenn rocket experienced an anomaly during a

    ground test known as a hotfire Thursday in Cape Canaveral, Florida, the company shared on X. "All personnel are accounted for," according to the X post. https://edition.cnn.com/2026/05/28/science/video/ blue-origin-new-glenn-rocket-explosion-hnk-digvid
  4. Blue Originで何が起きたか New Glennで発生した事故 • Blue Originの大型ロケット New Glennで事故が発生 •

    発射台上で大規模な異常が発生した • 打ち上げ中ではなく地上試験中の出来事だった 事故が発生した段階 • エンジン単体試験は完了していた • 統合試験も進んでいた • ホットファイア試験中に異常が発生した この事故が示すもの • 完成に近いロケットでも事故は起きる • ロケット開発では試験そのものが重要である • 打ち上げ前に問題を発見することに価値がある
  5. 打上げまでの燃焼試験プロセス エンジン単体試験 • エンジン単体を試験設備へ固定して燃焼させる • 推力、圧力、温度、振動などを確認する • エンジンそのものが正常に動作することを検証する 統合試験 •

    タンク、配管、バルブ、制御系を含めて試験する • 推進剤供給から制御システムまで一体で確認する • 部品単体では見えない問題を発見する ホットファイア • 完成したロケット全体で実施する最大の燃焼試験 • 推進剤充填から点火まで本番とほぼ同じ手順で行う 打ち上げ • 発射台の固定を解除して実際に飛行する
  6. ホットファイア=地上で行う最終燃焼試験 打ち上げ前最大の燃焼試験 • 完成したロケット全体で行われる最終段階の燃焼試験 • 発射台上で実際にエンジンを点火する • 打ち上げ前に行われる最も本番に近い試験である 打ち上げとの共通点 •

    推進剤を充填する • タンクを加圧する • エンジンを点火する • ロケット全体を動作させる 打ち上げとの違い • ロケットを発射台に固定したまま実施することが多い • 飛行は行わない • 問題があればその場で停止できる
  7. ホットファイア:試験準備 点火前から試験は始まっている • ホットファイアは点火の瞬間だけの試験ではない • 数時間前から準備作業が始まる • 小さな異常でも試験中止になることがある 主な確認項目 •

    発射台設備が正常に動作するか • センサーが正しく計測できるか • 制御システムが正常に応答するか • 通信や安全システムに問題がないか なぜ重要なのか • 点火後は異常が急速に拡大する • 事前に発見できる問題は全て取り除く • 試験の成功率と安全性を高める
  8. ホットファイア:推進剤充填〜極低温管理 ロケットに推進剤を充填する • 燃料と酸化剤を機体内部へ送り込む • ホットファイアでは本番と同じ推進剤を使用する • 数百トン規模の推進剤を扱う場合もある 推進剤は極低温で管理される •

    液体酸素:約−183℃ • 液体メタン:約−162℃ • 液体水素:約−253℃ 極低温で発生する問題 • 金属が収縮する • シール部分から漏れやすくなる • 配管やバルブの挙動が変化する
  9. ホットファイア:加圧〜点火シーケンス 飛行状態を地上で再現する • 推進剤充填後、タンク内部を徐々に加圧する • エンジンへ安定して推進剤を供給できる状態を作る • 打ち上げ時と同じ条件へ近づけていく 点火は複雑な手順で行われる •

    バルブを順番に開く • 推進剤をエンジンへ送り込む • 点火装置を作動させる • エンジンを定格出力まで立ち上げる なぜ難しいのか • 高圧・極低温・可燃性物質を同時に扱う • タイミングがわずかにずれても異常が発生する • 多くの重大事故はこの段階で発生する
  10. ホットファイア:燃焼〜緊急停止 エンジンが本格的に動作する • 点火後、エンジンは短時間で定格出力へ到達する • 推進剤を大量に消費しながら推力を発生する • 燃焼室内部では数千℃の高温が発生する 燃焼中に監視すること •

    推力は設計値に達しているか • 圧力や温度に異常はないか • 異常な振動が発生していないか • 制御システムは正常に動作しているか 異常時は即座に停止する • 許容範囲を超える異常を検知した場合は試験を中断する • 自動停止システムが作動する場合もある • 機体や設備を守ることも重要な目的である
  11. 推進剤漏れ・機械故障 爆発の多くは小さな異常から始まる • ロケットは大量の燃料と酸化剤を搭載している • 小さな故障でも重大事故へ発展する可能性がある • 燃焼試験ではこうした兆候を見つけることが重要である 推進剤漏れ •

    燃料や酸化剤が本来流れるべき場所以外へ漏れる • 漏れた推進剤が高温部に接触すると発火する • ロケット事故の代表的な原因の一つである 機械故障 • ターボポンプは毎分数万回転で動作する • バルブや配管には高圧の推進剤が流れる • 部品の破損が火災や爆発につながる
  12. 燃焼不安定・連鎖爆発 ロケット特有の問題 • 燃焼室では推進剤が高速で燃焼している • わずかな変化でも燃焼状態が乱れることがある • この現象を燃焼不安定と呼ぶ 燃焼不安定とは •

    燃焼室内の圧力が周期的に変動する • 振動が増幅される • エンジン内部へ大きな負荷がかかる なぜ危険なのか • 配管や機体構造へ振動が伝わる • 一部の破損が次の故障を引き起こす • 短時間で大規模事故へ発展することがある • ロケットの爆発は複数の異常が連鎖して発生することが多い
  13. 推力・流量 推力はロケットの性能を示す • 推力とはロケットを前進させる力である • 打ち上げ能力や搭載能力を左右する重要な指標である • 設計値通りの推力が出ているか確認する 流量は推進剤の供給量を示す •

    燃料と酸化剤がどれだけ流れているかを測定する • 流量が不足すると推力も低下する • 混合比が崩れると燃焼状態が悪化する 異常時に起きること • 推力不足 • エンジン停止 • 燃焼効率低下 • 打ち上げ失敗
  14. 圧力・温度 ロケット内部の状態を監視する • 圧力と温度は燃焼状態を直接反映する • エンジンやタンクの健全性を判断できる • 多くのセンサーが常時監視している 主な測定箇所 •

    燃焼室圧力 • タンク圧力 • 配管圧力 • エンジン各部の温度 異常時に起きること • 推進剤漏れ • 配管破損 • シール破損 • エンジン損傷
  15. 振動・制御応答 ロケットは常に振動している • エンジン燃焼中は強い振動が発生する • 振動は燃焼状態や構造状態を反映する • 異常な振動は重大事故の前兆となる 制御応答も確認する •

    センサーが正しく計測しているか • コンピュータが正しく判断しているか • バルブやアクチュエータが正しく動作しているか 異常時に起きること • 燃焼不安定 • 構造破壊 • 制御不能 • エンジン停止
  16. 地上で爆発する価値 一般的なイメージ • ロケットの爆発は失敗として報道され、多額の費用や時間が失われたように見える 開発現場の見方 • 飛行中ではなく地上で発生したため詳細な調査と再現試験が可能である • 原因を特定し、次の試験や設計改善へ反映できる 飛行中の爆発との違い

    • 衛星やミッション全体を失う飛行中の事故より被害を限定できる • 地上では多数のセンサーや映像から詳細なデータを取得できる • 問題を修正した上で再試験できるため学習効果が高い 地上試験の価値 • 開発者が最も避けたいのは打ち上げ後の問題発覚 • そのため地上試験では積極的に問題を見つけようとしている
  17. 爆発が教えること 爆発は大量のデータを残す • 爆発そのものよりも、その直前に何が起きていたかが重要である • 燃焼試験では数千のセンサーが圧力・温度・振動などを記録している 爆発すると何が分かるのか • 最初に異常が発生した場所と、その異常が広がった経路 •

    故障した部品と、その故障を引き起こした原因 • 異常を検知できたか、停止判断は適切だったか 改善につながるもの • 設計の弱点、製造品質の問題、運用手順の不備を発見できる • 同じ事故を繰り返さないための具体的な改善策が得られる • ロケット全体の信頼性向上につながる 貴重な学習機会 • 爆発した試験はロケットの限界や隠れた問題を明確に教えてくれる
  18. 爆発はロケット開発の歴史そのものである 成功したロケットも爆発している • ロケット開発の歴史は、試験と失敗、そして改良の歴史でもある • 現在成功しているロケットの多くも、開発中に重大な事故を経験している • 爆発は特別な失敗ではなく、技術成熟の過程で繰り返し現れる 代表的な事例 •

    Saturn Vは開発中に数多くの技術課題や試験失敗を経験した • Falcon 9は2016年、地上での推進剤充填試験中に爆発した • Starshipは多数の試験機を失いながら改良を続けている 共通すること • 爆発した後に原因を解析した • 設計や運用方法を改善した • その結果として信頼性が向上した
  19. 学習サイクル ロケット開発は学習の繰り返しである • ロケットは設計しただけでは飛ばない • 実際に試験し、問題を発見し、改善する必要がある • 燃焼試験はそのための重要な学習機会である 学習サイクル •

    設計によって仮説を作る • 燃焼試験によって仮説を検証する • 異常や問題点を発見する • 改善した設計で再び試験する なぜ重要なのか • ロケットは極めて複雑なシステムである • シミュレーションだけでは全てを予測できない • 現実の試験からしか得られない知見が存在する
  20. AIは爆発を減らせるか AIが得意なこと • 大量のデータを同時に解析したり、過去の試験との違いを検出する • 人間が見逃しやすい異常の兆候を発見する 燃焼試験で期待される活用 • 故障予兆の検知 •

    異常発生の早期警告 • 原因候補の自動抽出 期待される効果 • 試験効率の向上 • 原因究明の高速化 • 開発期間の短縮 限界 • 未知の問題には対応できない
  21. AIでも最後は燃やす AIにも越えられない壁がある • 現実世界はシミュレーションより複雑である • 製造ばらつきや予期しない現象が発生する • 未知の故障は実際に起きるまで分からないことがある ロケット開発の現実 •

    最終的には実機で確認する必要がある • 本番と同じ条件で燃焼させるしかない • ホットファイアの重要性は今後も変わらない AI時代の燃焼試験 • AIは試験を置き換えるものではない • AIは試験をより効率的にする AI時代になっても、最後の関門はホットファイア
  22. まとめ ロケットは打ち上げ前に何度も試験する • エンジン単体試験、統合試験、ホットファイアを段階的に実施する ホットファイアは最後の関門 • 打ち上げ前最大の燃焼試験である • 推進剤充填から点火まで本番に近い状態を再現する •

    打ち上げ前に問題を発見できる最後の機会である 爆発は失敗だけではない • 爆発はロケットの弱点や限界を教えてくれる • 原因を解析することで設計や運用を改善できる AIが変えるもの • AIは大量の試験データを解析できる • 異常検知や故障予兆の発見が期待されている • しかし最終確認は今後も実機試験が必要である