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マネージャーの「責任」、サーバントリーダーの「精神」 スクラムマスターの「行動」

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October 06, 2025

マネージャーの「責任」、サーバントリーダーの「精神」 スクラムマスターの「行動」

マネージャーの「責任」、サーバントリーダーの「精神」スクラムマスターの「行動」
「チームの成果」に責任を持つと決めた、あるマネージャーの変革の記録

scrum祭り2025 zen trackでの登壇資料

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October 06, 2025
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Transcript

  1. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 自己紹介 石井食品株式会社  IT戦略部

    マネージャー  津留 一仁 Tsuru Kazuhito 経歴 1. SIer 2. toC向けスタートアップベンチャー 3. アドテクベンチャー 4. 石井食品 「ITの力で食品会社をより良くする」へのチャレンジ中💪
  2. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 今日お話しすること 1. 「自分がやらなければ」という責任感に縛られたPL時代

    2. マネージャーとしての理想の探求 3. 「チームの成果」に責任を持つための具体的な行動 4. 成功の先で待っていた「新たな葛藤」 5. 私の「持続可能なリーダーシップ」
  3. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. ★ 困難を極めた販売管理基幹システムリプレイスプロジェクト ◦

    部署として初の大型案件 ▪ 30年近く稼働していたシステムのリプレイス • ブラックボックス多数、積み上げられた無数の機能 ◦ メンバーの大半が外部パートナーで、「初めまして」の状態からチーム立ち上げ ◦ 全てゼロからの組み立て ▪ 全体アーキテクチャー ▪ 開発フロー、技術選定 ▪ 設計ドキュメント ▪ ミーティング設計 ◦ 3工場の業務標準化 ◦ 掘れば掘るほど出てくる課題や問題 成功体験と、強すぎた「責任感」
  4. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 成功体験と、強すぎた「責任感」 ★ 責任感から生まれた「俺がなんとかする」スタイル

    ◦ 「この状況を打開するには、自分がやるしかない」という強い責任感 ▪ チームをまとめなければという思いから、無意識に声が大きくなってしまった ◦ あらゆる意思決定を自ら主導するつもりで挑んだ ◦ 課題が山積みで、議論を前に進めるために会議ではメンバーの意見を待たずに自分 の意見をどんどんぶつけ意思決定していった ◦ あらゆる問題の一次相談窓口となり、議論をリード ▪ 自分が一番詳しく、課題を解決して少しでも早く前に進めないとという焦りが あった
  5. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 安堵と同時に訪れた、「このままではまずい」という危機感 ▪ 新システムに無事リリース。しかし、心に残ったのは・・・

    • 無事リリースできたことに大きな達成感と安堵感 • それ以上に強く残ったのは、「このやり方は、持続可能ではない」 • もう一度やれと言われてもきつい • チームとしてもこれから複数のプロジェクトを回していかなければいけない状況 この「このままではまずい 」という強い危機感が ちょうどマネージャーになったタイミングで私のこれからの役割と チームとしてどうありたいか、1から見直すタイミングになった
  6. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 転換 - マネージャーとしての「責任」の再定義

    - ▪ 「強いチーム」とは何か?を自問自答  メンバー一人ひとりが「自律性」と「責任感」を持っているチームと仮説 ▪ どうすればその「自律性」と「責任感」は育まれるのか?  自分の経験から「自律性」と「責任感」は「意思決定」を行った回数に比例すると仮説  自分で決めたことに対して責任を感じ、主体的に動く。これが成長に繋がる ▪ マネージャーとしての「責任」の再定義 (Before) PLとしての責任の取り方 • 自分が議論をリードし、課題・タスクを解決する (After) マネージャーとしての責任の取り方 • チームが成果を出せる「環境」を整える • チームが自ら答えを出せるように「問い」を立てる
  7. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. マネージャーとしての責任の定義を決めたので、そのヒントを探しネットで情報収集してい たらサーバントリーダーシップという言葉が目に留まった ▪

    サーバントリーダーシップとは? サーバントリーダーシップとの出会い Leader Member Customer サーバントリーダーシップは、ロバート・K・グリーンリーフ(1904~1990) が1970年に提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を 導くものである」というリーダーシップ哲学です。 サーバントリーダーは、奉仕や支援を通じて、周囲から信頼を得て、主体的に 協力してもらえる状況を作り出します。 (参照)NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会            https://www.servantleader.jp/about 「この考え方こそが、自分が感じていた『このままではまずい』という危 機感を乗り越えるための、具体的な指針だと確信した」
  8. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. サーバントリーダーシップの10の属性 属性 具体的な行動

    傾聴  (Listening) 大事な人達の望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。 同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両 面から考えることができる。 共感  (Empathy) 傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが 共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解 し、共感することができる。 癒し  (Healing) 集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒 すことを学習する事だ。欠けているもの、傷ついているところ を見つけ、全体性(wholeness)を探し求める。 気づき  (Awareness) 一般的に意識を高めることが大事だが、とくに自分への気づき (self-awareness)がサーバント・リーダーを強化する。自分 と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わ る。 説得  (Persuasion) 職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要す ることなく、他人の人々を説得できる。 属性 具体的な行動 概念化  (Conceptualization) 大きな夢を見る(dream great dreams)能力を育てたいと願 う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチし て広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。 先見力、予見力 (Foresight) 概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ 見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見 えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将 来のための決定のありそうな帰結を理解できる。 執事役  (Stewardship) エンパワーメントの著作でも有名なコンサルタントのピーター ・ブロック(Peter Block)の著書の書名で知られているが、 執事役とは、大切な物を任せても信頼できると思われるような 人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信 託できること。 人々の成長に 関わる (Commitment to the Growth of people) 人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在 をそのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひ とりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。 コミュニティ づくり (Building community) 歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度に活動母 体が移ったのは最近のことだが、同じ制度の中で仕事をする (奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。 (引用)NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会 サーバントリーダーシップとは https://www.servantleader.jp/about/10s
  9. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 精神を「行動」に移すための試行錯誤 主に下記の3点に注力した 1.

    ゴールの明確化 • チームが意思決定する際の判断に迷った時、いつでも立ち返れる「拠り所」を作成する • 具体的な行動 • プロジェクトゴールの言語化:「このプロジェクトは何のためにやるのか」を誰に でも説明できる言葉に落とし込み、いつでも見れる状態に • 「社内プレスリリース」の作成: プロジェクトが完成した未来から逆算して、その 成功イメージを具体的に描き、共有 2.仕組み化・仕組み化・仕組み化 • チームが迷わず成果を出すための『環境』を整える • 同じ失敗は繰り返さない、成果物の品質を一定に保つ • 状況の可視化し、リスクポイントを把握する
  10. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. • 具体的な行動 •

    ADR等の成果物定義、テンプレート化 • プロジェクト管理・Jira運用ルールの整備、 • 各プロジェクトの状況が一目でわかるようにする 3. 集中できる環境の提供 • メンバーが自分達のプロジェクトゴール達成に向けて集中できる環境にすることを常に 意識 • 具体的な行動 • 他部署からの調査依頼や仕様に関するちょっとした質問などチームへの割り込み依 頼は、対応できるものは対応し、適切に振り分けた • プロジェクト外のやらなければいけないことへの対応 • たたき台を作成し、ゼロから議論は始めない • メンバー間の期待値のズレの調整 精神を「行動」に移すための試行錯誤(続き)
  11. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. サーバントリーダー ≒ スクラムマスター?

    私がやったこと(サーバントリーダーとして) スクラムマスターの役割 チームの「盾」になる(集中環境の提供) 障害物の除去 「問い」を立てる コーチングと自己組織化の促進 成果の定義 ≒ 完了の定義 ゴールの明確化 プロダクトゴールの明確化支援 サーバントリーダーとして行った行動が自然とスクラムマスターのように振る舞っていた
  12. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. ▪ チームの自律化がうまく動き始めた •

    優秀なメンバーにも恵まれ、チームを信頼して任せるようになったことで、私たちは、 より自律的なチームへと変わることができていると感じている ▪ その光の裏で私に生まれた「2つの不安」 1. 存在価値への不安 a. 各チームが自律的に動けるようになっていく一方で「自分は本当に役に立っている のか」という漠然とした不安 2. 自己成長への不安 a. 現場から離れ、自分のスキルが鈍っていくのはないかという不安 b. 「このままで自分のキャリアは大丈夫か?」という焦り 成果と、新たな葛藤 チームの成果 = マネージャーの評価は理解しているが 「チームへの奉仕」と「自分自身の成長」は、トレードオフなのだろうか?というモヤモヤ
  13. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. ▪ 「やりたいこと」と「責務」の交差点を探して 「チームへの貢献」と「自己成長」、この2つが重なり合うところがないか探す

    「やりたいこと」と「チームの課題」の交差点 私が「やりたいこと」 チームが抱える、現在と未来の課題 持続可能な仕組 みの構築 ・成果物の品質向上と属人化を防ぐための持 続可能な仕組みを構築すること 成果物の品質向上と、属人化の解消 ・人による品質のばらつき ・時間をかけるべきところに集中させる エンジニアとし ての探究心 ・技術を理解し、アイデアの引き出しを増や したい ・運用を見据えたレジリエンスな設計力を身 につけたい ・AIを活用した開発組織 エンジニア採用難と、内製化組織の構築 ・食品会社でどうエンジニアを採用し、育成していくか
  14. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 1. 自分の「弱さ」を見せる勇気 ▪

    行動 「助けてほしい」、「貢献できているかの不安」という弱さをメンバーにオープンに言う ▪ 結果 マネージャーとして、全て理解することは不可能ということを自分に受け入れた チームに任せやすくなった マネージャーは役割である。完璧を演じなくていい
  15. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 2. 自分の「やりたい」を表明する勇気 ▪

    行動 自分の欲望を口にするのはわがままだという思い込みを捨て、「私はここをやっていきた い」と自分の情熱をオープンにしました ▪ 結果 目の前の課題ではなく、この先の課題解決に向けて動くことの期待値のすり合わせ マネージャーは役割である。完璧を演じなくていい(続き) これらは、サーバントリーダーシップ効果で信頼関係の 構築できていたからこそ
  16. © Ishii Food CO.,Ltd. All Rights Reserved. 結論 - 私の持続可能なリーダーシップ

    ▪ 持続可能なリーダーシップの鍵 • 「チームの未来への貢献」と「自分のやりたいこと」が重なる点を見つけ、そこに情熱 を注ぐこと ▪まとめ • サーバントリーダーとしてチームに奉仕し、一体感のある「強いチーム」を育んでいく ことは、非常に価値のある、素晴らしい考え方である • しかし、 もしそれが「自己犠牲」だけになってしまったら、いつか必ず燃え尽きる • リーダーは直近の課題を解決する人ではなく、この先の課題を解決するために、自分自 身を磨き続ける人 • 自分への投資は、決してチームからの逃避ではなく、それは未来のチームを救うための 効果的な貢献である • そう思うようになってマネージャーの仕事も楽しいぞ