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未来探索型リサーチ「みらいのしごと」

 未来探索型リサーチ「みらいのしごと」

山口県の過疎化の進む地域で創造的に働く方々をフィールドワークとして訪問した気づきから、今後加速する人口減少・高齢化の動きを見据え「トランジションの時代に働くということ」という新しい視点を創出した、デザインリサーチのプロジェクト「みらいのしごと after 50」という事例を通じて、海外では事例も多い未来洞察型・探索型のリサーチのプロセスと、そのインサイト、事業への展開についてご紹介したい。

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Transcript

  1. 海外の事例 TRUST / 2030 日立 X Method MITIGATION OF SHOCK

    superflux 海外では、スペキュラティヴ・デザインとしての事例も多い。 これからの社会の変化が人々の生活 や価値観をどう変えるのか、わたし たちは3つの方向性を描きました。 そして、そこで生まれる新しい「信 頼のかたち」とはどんなものかを思 索した。 気候変動による食料の調達が困難に なった時、私たちの日々の生活がどう 変化し、人々がどう危機に対応/順応 していくのかを描いたプロジェクト。 Black Mirror Charlie Brooker / Netflix 進化するテクノロジーと、その副作用につい て描いたサイエンス・フィクション。人間の 生活が、どう変わる可能性があるのかを描い ている。
  2. 探索型リサーチで必要な3つの視点 「世の中の動き」 世の中が今、どの方向を向いて動いているのかを探り理解しておくことは、 リサーチで得た情報を理解し、分析し、わかったことを元に 仮説を立てる際に、とても重要な視点。 視点 1 「テーマの読み直し」 情報収集を始めるとテーマの周辺をみる解像度が上がるので、 テーマを再定義/詳細化することで、テーマの方向性を定め直し、

    未来像に結びつく本質的な変化を見極めるための視点とする。 「対象者からの発見」 フィールドワークや有識者インタビューなどで、 テーマにおける対象者・関係者の声を聴き、テーマに関する現実的な視点を得る。 その分野の知見者・経験者の方からお話を伺うと、ビジョンに具体性が出る。 視点 2 視点 3
  3. 12 止まらない人口減少と高齢化 2021年6月 「国土の長期展望」国土交通省 2021年9月 「統計からみた我が国の高齢者 」総務省 2020年12月 「今後目指すべき地方財政の姿と令和3年度の地方財政への対応等についての意見」 総務省

    日本の人口は、既に2008年にピークを超え、減少の傾向にある。 2020年度の出生率は1.34%と低く、ここからも低迷は続き人口減 少が加速し、それと共に高齢化が加速していく。2050年には、高 齢化率が37.7%、つまり人口の1/3以上が65歳以上の社会がやっ てくる。 人口減少により税収は年々減少しており、地方の債務残高は約 200兆円にも上る。地方創生の一環として移住に力を入れ人口減 少に歯止めをかけようとしている地域もあるが、どこの地域でも 人口が減少するため、生産年齢人口の取り合いとなる。 限られた人口を取り合うのではなく、一人が関われる地域を多拠 点持つことで移住しなくともその地域に関係する人口を増加させ ることや、高齢者も主体的に生活していくことで、地域が自立的 に存在できる仕組みを作っていく必要がある。 2050年には、人口の1/2の生産年齢者で、 人口の1/3の高齢者を抱える時代となる
  4. 共催 KOEL DESIGN STUDIO by NTT Communications、株式会社 リ・パブリック、 山口情報芸術センター [YCAM]との共催という形で企画実行した。

    「デザイン×コミュニケーションで社会の創造力を解放する」を ミッションに、常識を超える新たなコミュニケーションを作るこ と、そして人や企業、その集合体である社会全体の創造力を解放す ることを使命とするNTTコミュニケーションズのデザイン組織。人 や企業に寄り添ったプロダクトやサービスを生み出し、人や企業の 個性や創造力が最大限に活かされる未来を目指して、ビジョン策定 や事業の開発・改善からコミュニケーション・組織設計、人材育成 まで幅広くデザインを手がけている。 持続的にイノベーションが起こる「生態系(=エコシステム)」を 研究し(Think)実践する(Do)シンク・アンド・ドゥ・タンク。 不確実性と複雑性がますます高まる社会・経済の中で、セクターを 超えて協働し、それぞれの資源や技術、文化を編み上げ、新たな展 開を生み出していく、ダイナミックな変化を生み出すプロジェクト を構想し、世界のフロンティアで挑戦する人たちと手を携えて、と もに実験と実践を繰り返す共同体を生み出している。 ひとりの市民から、組織、地域、社会まで。—あらゆるスケールの 視点を行き来しながら新たな可能性を紡ぎ上げ、パブリックを編み 直している。 展示空間のほか、映画館、図書館、ワークショップ・スペース、レ ストランなどを併設。2003年11月1日の開館以来、メディア・テクノ ロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動しており、展覧会や公 演、映画上映、子ども向けのワークショップなど多彩なイベントを 開催している。市民やさまざまな分野の専門家とともにつくり、と もに学ぶことを活動理念としながら、メディア・テクノロジーとの 適切な向き合い方、文化基盤としての情報の可能性、さらには人間 にとっての情報の意味について、幅広いアプローチで探求をおこ なっている。そして、この過程で生み出される表現や学びを世界に 向けて発信し、次世代を担う人材の育成に寄与することを目指して いる。
  5. 1999年 市営バス事業が撤退 2000年 小学校の廃校が始まる 2010年 山口市に合併される 地域唯一のスーパーが閉店 2008年の高齢化率 43.2% (平均22.1%)

    2021年の高齢化率 58.5% (平均29.1%) 山口県 山口市 阿東地区 広島 福岡 高松 大阪 名古屋 東京 新潟 仙台 札幌
  6. フィールドワーク 阿東文庫 明日香 健輔さん ほほえみの郷トイトイ 高田 新一郎さん 前小路ワークス 清水 博文さん

    まさに都市システムが崩壊しつつある阿東地区で、創造的に働く3者と出会った。 それぞれが特徴的なしごとのあり方を実践していた。
  7. フィールドワークからわかった阿東でのしごと 独自の価値観で動いている 三者とも従来の一般的な価値観と違う世界で生きて いる。特に「短期的な投資・回収」というサイクル からはみ出して活動している。何に価値を置き、ど う生きていくかを自らの力で設計している。 01 セーフティネットをもっている 身につけたスキルや幾つかの食い扶持、コネクショ ンやパートナー。これらの存在が「どうにかなる、

    どうにか生きていける」という姿勢につながり、新 たなことに挑戦する余裕を生んでいる。 04 プロトタイプマインド 長期的な計画を立て、その実行に注力するのではな く、やりながら考え、やりながら修正していく。一 見場当たり的にも見えるが、より長く続けるために 意識的・無意識的にそのスタイルを選択している。 02 場/モノを通したコミュニティ 大なり小なり、自らが関与するコミュニティを持っ ている3人。触れられるモノや集まれる場所を起点と したコミュニティ。 05 強みを“異なるところ”で生かしている 以前の仕事で身につけた知識・人脈や趣味で身につ けたスキル。それらを以前の仕事と違う場所・環境 で生かし、今の環境での強みとなって現在の生活・ 活動を下支えしている。 03 キャリアを“後ろ”から見ている 老いた自分をしごとの対象として捉え、老いた自 分、つまり人生の後ろ側から今を見て、みらいの自 分の幸せのために仕込むように仕事をしている。 06 三者に見た「6つの共通点」 三者三様な生き方をしていた彼らの言葉には、 「after 50のしごと」に繋がる共通点や気づきがあった。
  8. フィールドワークからわかった阿東という社会 「生産する側」と「消費する側」の 境界線がはっきりと存在し、役割が 固定化されている。生産されたモ ノ・サービスに関する責任は「生産 する側」に大きくある。 これまでの経済システムと三者の活動には違いが見られる。 その違いが「みらいのしごと」のヒントになるのではないだろうか。 これまでの経済システム 《

    生産と消費の関係 》 「生産する側」と「消費する側」の 境界線が曖昧で、現在もしくは将来 的に自分の役割が生産側↔消費側が 入れ替わる可能性を意識している。 阿東(これからの経済システム) 「生産側」は事業のスケールを目的 として、投資と回収のサイクルを大 きく回し、「いくら投資していつま でにどう回収するか」「いかに早く 回収して次の投資に移すか」を計 画・遂行するスタイルをとる。 《 投資と回収の関係 》 回収を前提とせずに手持ち(補助金 含む)でできる範囲で動き、上手く いく/いかないの状況に合わせて修正 しつつ、次にやるべきことがあれば トライする、いわゆるプロトタイプ ベースの動き方になっている。 投資 投資 投資 生産 消費 投資 回収 これまでの経済システム 阿東(これからの経済システム) 生産 消費
  9. • この先歳を取っても好きな環境で生きていくために、地域 のためにできることを探す • 自分が老後に欲しい部分を埋めていく • 複業を行う • 望ましい生き方、暮らし方を作るために働く みらいの社会システムとしごとの姿

    • 住んでいる地域の過疎化により、今までの社会システムが 成り立たなくなり、新たな社会システムが創り上げられる • 生活に最低限のことは集落内で賄えるが、ある水準以上の ものは近隣の小都市に頼っている みらいの社会システムの姿 みらいのしごとの姿 人口減少と高齢化が進む みらいの社会と、その中での働き方
  10. 33 人口減少が進む小さな町の診療所で医師をやり始めて 数年が経った。 人の少ないところではあるけれど、高齢者が多く、外 来の診察業務も忙しかったが、週に2回在宅診療もして いて、なかなか細かいところに手が回らない実情が あった。それでも、昔から優しくしてくれた地元のお じいちゃん、おばあちゃんの顔が見れるのは、仕事の 楽しみだった。 診療所に勤めて十数年もすると、患者さんの中には診

    療所まで来られない人も増えてきた。在宅診療も続け てはいたが、訪問件数に限度もある。 最近、新しい高速無線ネットワークが町にも届くよう になったので、家の設備の古い高齢者の住宅でもイン ターネットへのアクセスができるかもしれないと思 い、通院が厳しい患者さんに、自宅から病院と繋がれ る端末の貸し出しを開始した。介護に当たってるご家 族の方の同席も簡単だし、生活環境が見える部分もあ り、患者さんに 寄り添った診察ができているように思う。 また、町の診療所では足らないような疾患の診断のた めに、診療所の中に、近隣の都市部の病院と連携した リモート診断室を設置した。都市部で行った手術の術 後の経過診断など、遠くまで診察に出向く必要があっ た患者さんにも好評で、遠隔診療の大事さを実感し た。 リモート診断が当たり前になり、AI診断の精度と対応 範囲が広がってくると、実際に診療所に来る患者さん も減ってきて、医師としての診察業務の負担も軽減し た。その反面、地域の人との接点が減り、みんなの健 康状態が見え難くなっていたので、診療所の一部を近 隣の住民が集まれる場所にしていくことにした。 手始めに、趣味の手芸を活かして、地域の人たちと編 み物コミュニティーを作り、診療所内のスペースを拠 点として活動した。診察のない時間には自分も編み手 として参加し、編み物をしながら、雑談したり簡単な 健康相談を受けたりすることで、また地域住民の健康 状態を把握できるようになった。お喋りや手先を動か す作業をすることで、参加者の生き生きした暮らしが 続いている実感もあり、医療行為以外でも地域の健康 維持に貢献できている気がして嬉しくなった。 編んだセーターは、オンラインで販売している。都市 部のお店からのオーダーが入ることもあり、地域の人 のしごとにもなっている。 2020年 2030年 2040年 「過疎地域で診療所を営む医者の話」
  11. 34 過疎地域で診療所を営む医師 遠隔地の力を借りることで、地域の過疎化による人手不足を解消し、過疎地を存続させることができる 「過疎地域で診療所を営む医者の話」:登場人物と使用したテクノロジー 都市部の病院にいる名医 都市部の最新医療を、全国各地の過疎地域にリモートで 実施する 「遠隔地の力を借りる」を支えるテクノロジーの例 しごと 地域住民

    心の通ったコミュニティーの形成 役割 地域の人々に対して、負担の少ない医療を提供する 過疎化や高齢化の中でも、地域の人々の健康や幸せを目 指すコミュニティづくり しごと 目指している姿 例. リモート手術×地域コミュニティ 都会の大病院に行かなくても、オンラインで専門家の外科手術が受けられ る。手術ロボットと高速のデータ通信網を用いることで、患者も執刀医も 手術のために長い時間に移動する必要がなく、遠隔地から手術を行うこと ができる。 リモート手術は、実際の手術室で助手の役割や緊急時担当を行う地域の医 師と、遠隔地から手術を執刀する高度な技術を持つ都市部の医師により行 われる。 しかし、リモート手術は遠隔地の顔の見えない医師が執刀することから、 患者の心理的負担が大きい。そこでその壁を乗り越えるのが地域コミュニ ティである。病院と日頃交流している地域コミュニティの場が隣接してい ることで、手術前の心的負担を和らげることができる。 登場人物