山口県の過疎化の進む地域で創造的に働く方々をフィールドワークとして訪問した気づきから、今後加速する人口減少・高齢化の動きを見据え「トランジションの時代に働くということ」という新しい視点を創出した、デザインリサーチのプロジェクト「みらいのしごと after 50」という事例を通じて、海外では事例も多い未来洞察型・探索型のリサーチのプロセスと、そのインサイト、事業への展開についてご紹介したい。
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本日の語り手DESIGN STUDIO KOELHead of Experience Design田中 友美子
社会インフラの新たな領域を切り開いてきたNTTコミュニケーションズNTTコミュニケーションズは、1999年の創設以降、社会インフラを提供し続けてきました。日本全国をつなぐ電話事業や、大陸間ケーブルにより国と国をもつなげる国際通信事業から始まり、インターネットを日本で初めてサービス化したOCN、国産のクラウド基盤事業や全国のTV中継網など、さまざまな事業を提供し続けてきました。ネットワークとICTでビジネスと生活を変えていく企業、それがNTTコミュニケーションズです。
Smart WorldSMART SMART SMARTSMART SMART SMARTSMARTICTで身近な生活から、産業、社会まですべてを豊かに、アップデートしていく。NTTコミュニケーションズが目指す世界
Smart World実現のためにさまざまな企業と共創し、ビジネスを作り上げていく
ビジョンデザインとは10年後・20年後の社会の在り方をビジョンとして描き、生まれるニーズの仮説から、ソリューションを構想し、具体的な事業として社会実装を目指すアプローチ
海外の事例TRUST / 2030日立 X MethodMITIGATION OF SHOCKsuperflux海外では、スペキュラティヴ・デザインとしての事例も多い。これからの社会の変化が人々の生活や価値観をどう変えるのか、わたしたちは3つの方向性を描きました。そして、そこで生まれる新しい「信頼のかたち」とはどんなものかを思索した。気候変動による食料の調達が困難になった時、私たちの日々の生活がどう変化し、人々がどう危機に対応/順応していくのかを描いたプロジェクト。Black MirrorCharlie Brooker / Netflix進化するテクノロジーと、その副作用について描いたサイエンス・フィクション。人間の生活が、どう変わる可能性があるのかを描いている。
ビジョンの見つけ方リサーチ起こり始めていること、業界/事象が向かっている方向を調査する現在の変化から、未来の社会のあり方を予測する有識者に話を聞くことで、仮説を検証/修正し、具体性/蓋然性をあげる想定する未来の世界観を具現化し、共有できるものにする現在未来仮 説 検 証 ビジョン
探索型リサーチで必要な3つの視点「世の中の動き」世の中が今、どの方向を向いて動いているのかを探り理解しておくことは、リサーチで得た情報を理解し、分析し、わかったことを元に仮説を立てる際に、とても重要な視点。視点1「テーマの読み直し」情報収集を始めるとテーマの周辺をみる解像度が上がるので、テーマを再定義/詳細化することで、テーマの方向性を定め直し、未来像に結びつく本質的な変化を見極めるための視点とする。「対象者からの発見」フィールドワークや有識者インタビューなどで、テーマにおける対象者・関係者の声を聴き、テーマに関する現実的な視点を得る。その分野の知見者・経験者の方からお話を伺うと、ビジョンに具体性が出る。視点2視点3
ビジョンの使い方想定する未来の世界で、人々がどのように暮らしているのかを想像し、共有する。新しく作られる道具/環境によって、人々の生活がどう変わるのかを想像し、共有する。使い方1使い方2
12止まらない人口減少と高齢化2021年6月 「国土の長期展望」国土交通省2021年9月 「統計からみた我が国の高齢者 」総務省2020年12月 「今後目指すべき地方財政の姿と令和3年度の地方財政への対応等についての意見」 総務省日本の人口は、既に2008年にピークを超え、減少の傾向にある。2020年度の出生率は1.34%と低く、ここからも低迷は続き人口減少が加速し、それと共に高齢化が加速していく。2050年には、高齢化率が37.7%、つまり人口の1/3以上が65歳以上の社会がやってくる。人口減少により税収は年々減少しており、地方の債務残高は約200兆円にも上る。地方創生の一環として移住に力を入れ人口減少に歯止めをかけようとしている地域もあるが、どこの地域でも人口が減少するため、生産年齢人口の取り合いとなる。限られた人口を取り合うのではなく、一人が関われる地域を多拠点持つことで移住しなくともその地域に関係する人口を増加させることや、高齢者も主体的に生活していくことで、地域が自立的に存在できる仕組みを作っていく必要がある。2050年には、人口の1/2の生産年齢者で、人口の1/3の高齢者を抱える時代となる
共催KOEL DESIGN STUDIO by NTT Communications、株式会社 リ・パブリック、山口情報芸術センター [YCAM]との共催という形で企画実行した。「デザイン×コミュニケーションで社会の創造力を解放する」をミッションに、常識を超える新たなコミュニケーションを作ること、そして人や企業、その集合体である社会全体の創造力を解放することを使命とするNTTコミュニケーションズのデザイン組織。人や企業に寄り添ったプロダクトやサービスを生み出し、人や企業の個性や創造力が最大限に活かされる未来を目指して、ビジョン策定や事業の開発・改善からコミュニケーション・組織設計、人材育成まで幅広くデザインを手がけている。持続的にイノベーションが起こる「生態系(=エコシステム)」を研究し(Think)実践する(Do)シンク・アンド・ドゥ・タンク。不確実性と複雑性がますます高まる社会・経済の中で、セクターを超えて協働し、それぞれの資源や技術、文化を編み上げ、新たな展開を生み出していく、ダイナミックな変化を生み出すプロジェクトを構想し、世界のフロンティアで挑戦する人たちと手を携えて、ともに実験と実践を繰り返す共同体を生み出している。ひとりの市民から、組織、地域、社会まで。—あらゆるスケールの視点を行き来しながら新たな可能性を紡ぎ上げ、パブリックを編み直している。展示空間のほか、映画館、図書館、ワークショップ・スペース、レストランなどを併設。2003年11月1日の開館以来、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動しており、展覧会や公演、映画上映、子ども向けのワークショップなど多彩なイベントを開催している。市民やさまざまな分野の専門家とともにつくり、ともに学ぶことを活動理念としながら、メディア・テクノロジーとの適切な向き合い方、文化基盤としての情報の可能性、さらには人間にとっての情報の意味について、幅広いアプローチで探求をおこなっている。そして、この過程で生み出される表現や学びを世界に向けて発信し、次世代を担う人材の育成に寄与することを目指している。
リサーチのテーマ50代以降の働きかた、生きかたを、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する日本の平均寿命は年々延びており、今後100歳を超えることが予想されている。この長寿化は人々の働き方にも変化をもたらすだろう。「70歳定年延長」が既定路線化する中、欧米を中心に議論と実践が進む「人生100年時代」を見据えたポートフォリオ・ワークの展開を踏まえ、今回行った2日間のワークショップでは、テーマ:「みらいのしごと after 50〜50代以降の働きかた、生きかたを、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する〜」を掲げた。日本、とりわけ山口などの地域において、どのような後半生の働き方、社会との接点の作り方がありうるかを探究し、地域を超えた新たな働き方について探索した。
1999年 市営バス事業が撤退2000年 小学校の廃校が始まる2010年 山口市に合併される地域唯一のスーパーが閉店2008年の高齢化率 43.2% (平均22.1%)2021年の高齢化率 58.5% (平均29.1%)山口県 山口市 阿東地区広島福岡 高松大阪名古屋東京新潟仙台札幌
フィールドワーク阿東文庫明日香 健輔さんほほえみの郷トイトイ高田 新一郎さん前小路ワークス清水 博文さんまさに都市システムが崩壊しつつある阿東地区で、創造的に働く3者と出会った。それぞれが特徴的なしごとのあり方を実践していた。
17阿東文庫阿東文庫明日香 健輔さん
1818阿東文庫
19阿東文庫
20阿東文庫
ほほえみの郷トイトイ高田 新一郎さん
ほほえみの郷 トイトイ
前小路ワークス清水 博文さん
前小路ワークス
フィールドワークからわかった阿東でのしごと独自の価値観で動いている三者とも従来の一般的な価値観と違う世界で生きている。特に「短期的な投資・回収」というサイクルからはみ出して活動している。何に価値を置き、どう生きていくかを自らの力で設計している。01セーフティネットをもっている身につけたスキルや幾つかの食い扶持、コネクションやパートナー。これらの存在が「どうにかなる、どうにか生きていける」という姿勢につながり、新たなことに挑戦する余裕を生んでいる。04プロトタイプマインド長期的な計画を立て、その実行に注力するのではなく、やりながら考え、やりながら修正していく。一見場当たり的にも見えるが、より長く続けるために意識的・無意識的にそのスタイルを選択している。02場/モノを通したコミュニティ大なり小なり、自らが関与するコミュニティを持っている3人。触れられるモノや集まれる場所を起点としたコミュニティ。05強みを“異なるところ”で生かしている以前の仕事で身につけた知識・人脈や趣味で身につけたスキル。それらを以前の仕事と違う場所・環境で生かし、今の環境での強みとなって現在の生活・活動を下支えしている。03キャリアを“後ろ”から見ている老いた自分をしごとの対象として捉え、老いた自分、つまり人生の後ろ側から今を見て、みらいの自分の幸せのために仕込むように仕事をしている。06三者に見た「6つの共通点」三者三様な生き方をしていた彼らの言葉には、「after 50のしごと」に繋がる共通点や気づきがあった。
フィールドワークからわかった阿東という社会「生産する側」と「消費する側」の境界線がはっきりと存在し、役割が固定化されている。生産されたモノ・サービスに関する責任は「生産する側」に大きくある。これまでの経済システムと三者の活動には違いが見られる。その違いが「みらいのしごと」のヒントになるのではないだろうか。これまでの経済システム《 生産と消費の関係 》「生産する側」と「消費する側」の境界線が曖昧で、現在もしくは将来的に自分の役割が生産側↔消費側が入れ替わる可能性を意識している。阿東(これからの経済システム)「生産側」は事業のスケールを目的として、投資と回収のサイクルを大きく回し、「いくら投資していつまでにどう回収するか」「いかに早く回収して次の投資に移すか」を計画・遂行するスタイルをとる。《 投資と回収の関係 》回収を前提とせずに手持ち(補助金含む)でできる範囲で動き、上手くいく/いかないの状況に合わせて修正しつつ、次にやるべきことがあればトライする、いわゆるプロトタイプベースの動き方になっている。投資 投資 投資生産消費投資 回収これまでの経済システム 阿東(これからの経済システム)生産消費
テーマの読み直し「トランジションの時代に働くということ」
• この先歳を取っても好きな環境で生きていくために、地域のためにできることを探す• 自分が老後に欲しい部分を埋めていく• 複業を行う• 望ましい生き方、暮らし方を作るために働くみらいの社会システムとしごとの姿• 住んでいる地域の過疎化により、今までの社会システムが成り立たなくなり、新たな社会システムが創り上げられる• 生活に最低限のことは集落内で賄えるが、ある水準以上のものは近隣の小都市に頼っているみらいの社会システムの姿 みらいのしごとの姿人口減少と高齢化が進むみらいの社会と、その中での働き方
33人口減少が進む小さな町の診療所で医師をやり始めて数年が経った。人の少ないところではあるけれど、高齢者が多く、外来の診察業務も忙しかったが、週に2回在宅診療もしていて、なかなか細かいところに手が回らない実情があった。それでも、昔から優しくしてくれた地元のおじいちゃん、おばあちゃんの顔が見れるのは、仕事の楽しみだった。診療所に勤めて十数年もすると、患者さんの中には診療所まで来られない人も増えてきた。在宅診療も続けてはいたが、訪問件数に限度もある。最近、新しい高速無線ネットワークが町にも届くようになったので、家の設備の古い高齢者の住宅でもインターネットへのアクセスができるかもしれないと思い、通院が厳しい患者さんに、自宅から病院と繋がれる端末の貸し出しを開始した。介護に当たってるご家族の方の同席も簡単だし、生活環境が見える部分もあり、患者さんに寄り添った診察ができているように思う。また、町の診療所では足らないような疾患の診断のために、診療所の中に、近隣の都市部の病院と連携したリモート診断室を設置した。都市部で行った手術の術後の経過診断など、遠くまで診察に出向く必要があった患者さんにも好評で、遠隔診療の大事さを実感した。リモート診断が当たり前になり、AI診断の精度と対応範囲が広がってくると、実際に診療所に来る患者さんも減ってきて、医師としての診察業務の負担も軽減した。その反面、地域の人との接点が減り、みんなの健康状態が見え難くなっていたので、診療所の一部を近隣の住民が集まれる場所にしていくことにした。手始めに、趣味の手芸を活かして、地域の人たちと編み物コミュニティーを作り、診療所内のスペースを拠点として活動した。診察のない時間には自分も編み手として参加し、編み物をしながら、雑談したり簡単な健康相談を受けたりすることで、また地域住民の健康状態を把握できるようになった。お喋りや手先を動かす作業をすることで、参加者の生き生きした暮らしが続いている実感もあり、医療行為以外でも地域の健康維持に貢献できている気がして嬉しくなった。編んだセーターは、オンラインで販売している。都市部のお店からのオーダーが入ることもあり、地域の人のしごとにもなっている。2020年 2030年 2040年「過疎地域で診療所を営む医者の話」
34過疎地域で診療所を営む医師遠隔地の力を借りることで、地域の過疎化による人手不足を解消し、過疎地を存続させることができる「過疎地域で診療所を営む医者の話」:登場人物と使用したテクノロジー都市部の病院にいる名医都市部の最新医療を、全国各地の過疎地域にリモートで実施する「遠隔地の力を借りる」を支えるテクノロジーの例しごと地域住民心の通ったコミュニティーの形成役割地域の人々に対して、負担の少ない医療を提供する過疎化や高齢化の中でも、地域の人々の健康や幸せを目指すコミュニティづくりしごと目指している姿例. リモート手術×地域コミュニティ都会の大病院に行かなくても、オンラインで専門家の外科手術が受けられる。手術ロボットと高速のデータ通信網を用いることで、患者も執刀医も手術のために長い時間に移動する必要がなく、遠隔地から手術を行うことができる。リモート手術は、実際の手術室で助手の役割や緊急時担当を行う地域の医師と、遠隔地から手術を執刀する高度な技術を持つ都市部の医師により行われる。しかし、リモート手術は遠隔地の顔の見えない医師が執刀することから、患者の心理的負担が大きい。そこでその壁を乗り越えるのが地域コミュニティである。病院と日頃交流している地域コミュニティの場が隣接していることで、手術前の心的負担を和らげることができる。登場人物
KOEL公式noteでは全5回にわたり、本プロジェクトのレポート記事を連載中https://note.com/koelnote
デザインリサーチャー正社員募集人や社会の営みから課題や機会を見つけ出す専門家。リサーチや評価から得られた、事業創出や既存事業の成長に必要な、新たな視点を社内に効果的に伝え、組織を動かして頂きます。市場調査• トレンドリサーチ注力領域定義• 未来探索• 事業戦略策定ユーザーリサーチ• ユーザーリサーチ• ペルソナ策定• 市場分析• 競合分析