Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
小杉考司(専修大学)
Search
Koji E. Kosugi
September 06, 2024
Science
2
560
小杉考司(専修大学)
日本心理学会第88回大会 SS-028 「構成概念はこうせい!心理学者が測っているものは何か」で話したスライドです。
Koji E. Kosugi
September 06, 2024
Tweet
Share
More Decks by Koji E. Kosugi
See All by Koji E. Kosugi
多次元展開法を用いた 多値バイクラスタリング モデルの提案
kosugitti
0
190
電子計算機のイロハ
kosugitti
1
1.5k
Shinyで親父の威厳を回復した話
kosugitti
0
590
ベイズ統計学勉強会 2022年春合宿資料「はじめてのTeX」
kosugitti
2
7.9k
Tokyo.R #94 脱rstan初心者
kosugitti
3
1k
Tokyo.R #90 RStudioで日本語論文を書く(2)
kosugitti
1
1.1k
Other Decks in Science
See All in Science
How were Quaternion discovered
kinakomoti321
2
1.1k
いまAI組織が求める企画開発エンジニアとは?
roadroller
2
1.3k
創薬における機械学習技術について
kanojikajino
13
4.4k
深層学習を利用して 大豆の外部欠陥を判別した研究事例の紹介
kentaitakura
0
230
大規模言語モデルの開発
chokkan
PRO
84
33k
(Forkwell Library #48)『詳解 インシデントレスポンス』で学び倒すブルーチーム技術
scientia
2
1.4k
マテリアルズ・インフォマティクスの先端で起きていること / What's Happening at the Cutting Edge of Materials Informatics
snhryt
1
130
論文紹介: PEFA: Parameter-Free Adapters for Large-scale Embedding-based Retrieval Models (WSDM 2024)
ynakano
0
150
重複排除・高速バックアップ・ランサムウェア対策 三拍子そろったExaGrid × Veeam連携セミナー
climbteam
0
110
Boil Order
uni_of_nomi
0
120
LIMEを用いた判断根拠の可視化
kentaitakura
0
340
大規模画像テキストデータのフィルタリング手法の紹介
lyakaap
6
1.5k
Featured
See All Featured
Happy Clients
brianwarren
98
6.7k
Being A Developer After 40
akosma
87
590k
How STYLIGHT went responsive
nonsquared
95
5.2k
VelocityConf: Rendering Performance Case Studies
addyosmani
325
24k
Practical Orchestrator
shlominoach
186
10k
How to Ace a Technical Interview
jacobian
276
23k
Building an army of robots
kneath
302
43k
How To Stay Up To Date on Web Technology
chriscoyier
788
250k
GraphQLとの向き合い方2022年版
quramy
43
13k
Keith and Marios Guide to Fast Websites
keithpitt
409
22k
Build The Right Thing And Hit Your Dates
maggiecrowley
33
2.4k
GitHub's CSS Performance
jonrohan
1030
460k
Transcript
構成概念はこうせい! 心理学者が測っているものは何か 1 ຊ৺ཧֶձୈճେձ ެ։γϯϙδϜ 話題提供者 小杉考司(専修大学) いまこそ心理測定学を 研究法と統計法の架け橋 αɹΠɹίɹϝɹτɹϦɹΫɹε
自己紹介 • 名前;小杉考司(こすぎこうじ) • 専門;心理統計,統計モデリング 2 書籍購入 サイト↓
心理学において「測定」はすごく大事 • データ解析のプロセスは手続きを全て書き下せる=客観性,再現性が 担保されていることが,科学としてとても重要! • その前に,心理測定,すなわち何をデータにするかについてを考えな いと後続の話が全て根幹から崩れ落ちます ㅟ ㅟ ㅟ
ㅟ 3
お題;心理学者が測っている ものはなにか • この問いには「理論」と「方法」の2側面から答えられるが,えて してこの両者を混ぜて答えがち。これが惨憺たる現状の一因。 • 理論的な説明は杓子定規な感じで,「現実的にはそれほど 理想的にはいかない」という言い訳がいつも成り立つ • 方法論的な説明はHow
toの解説になり,何をしてるのか わからなくても実践できてしまう • 心理測定学は研究法的側面と統計法的(数理的)側面をあわ せもっており,方法論の礎になるこの「学」が授業などで展開 されていないという構造的問題を指摘します 4 ҎԼɼ৺ཧईʹݶఆ͓ͨ͠ʹͳΓ·͢ɻ
理論的に考えてみる • 「心理学者が測定しているもの」=「心」である,というので は解像度が低すぎる • 「心」はもちろん,そのほかの多くがスーツケースワード • 心理学の領域は生理ー知覚ー認知ー人格ー社会ー教育ー 臨床と幅広く,全員が同じ「心」を想定していないから, 「心理学者は測っているものは何か」「心を測定するとは
いかなることか」という問いが,実はすでに違うものを指 していて,議論になっていないことが少なくない 5
あなたにとっての (測定したい) 心とは何ですか
৺ཧֶత࿈ଓମʢ৺ཧֶ͕ରͱ͢Δൣғʣ ཧతԠ ใ ݸਓͷ ओ؍తҙຯ ࣾձత ؒओ؍త߹ҙ ଌఆํ๏ 物理的測定 (狭義の)心理測定
態度測定 テスト ? 物理モデル 計算モデル 多変量解析 ? ଌఆϞσϧ ݚڀର ݸਓͷओ؍తʮҙຯʯʮܦݧʯΛଌఆ͢Δํ๏Ϟσϧʹ͍ͭͯ΄ͱΜͲސΈΒΕͣɼ ࣾձతɾؒओ؍తҙຯͷଌఆϞσϧΛޡͬͯར༻͍ͯ͠Δέʔε͕ଟ͘ΈΒΕΔ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ
「心」のモデル 8 ຊೳతԠʀJGˠ%P ֶशԠʀJGˠ%Pˠ5IFO ख़ߟʀJ%5ύλϯͷൺֱ লతࢥߟʀهԱΛؚΊͨൺֱ ࣗݾলతࢥߟʀলͷল ࣗݾҙࣝʹؔ͢Δײʀଞऀࢹ ຊೳతͳߦಈγεςϜ Ձ؍ɼݕӾɼཧ
.ϛϯεΩʔ ʮϛϯεΩʔത࢜ͷͷ୳ݕʯڞཱग़൛ΑΓ ܹ Ԡ ߦಈ ݴޠ
社会のモデル 9 個人の内からでるも 他者システムの外郭まで 心は閉じたシステム (オートポイエーシス) 同じと見做しうる言語・行動を通じて互いに 「合意した」と表現する = 客観的or間主観的に「一致」とする
ࢀߟ ౻ᖒ ʮιγΦϯཧͷίΞʯ େ࿏ॻ
10 ࣾձతʹҰகͨ͠ର ࣾձతଶͷԾఆ ㅟ ㅟ • 態度は対象がある • 態度は正と負がある •
極端な態度を取る人は 少なく,中庸的態度が 一番おおい ෯E ΧςΰϦͷईZE ີͷࠩZ 測定の モデル ਖ਼نΛԾఆ͢Δ
11 心理測定のモデル • 個人を潰して項目間相関にし,次元性を 算出する(共通意味空間の基底) • この空間に個人を射映することで個人 差を数量的に表現したと考える <latexit sha1_base64="eagoRZ1qetmiBx7JYlekdawVLr8=">AAACrHichVE9T9tQFD0YKDTQEmCpxAAiSssUXSMQCAkJwdIJQUggIoki2zyDhb9kO5HA8sjCH2BgAqkDYoWJsUv/QAd+QsUYJBYGrh1LVRu1udbzve+8c+57R1d1TcMPiB77pP6BwXdDw+8zI6MfPo5lxyd2fafpaaKsOabjVVTFF6Zhi3JgBKaouJ5QLNUUe+rxRny+1xKebzh2KThxRd1SDm1DNzQlYKiRna7pnqKFchRuRjXVCvejL520Gqdi1MjmqEBJzHQXclrkkMaWk31ADQdwoKEJCwI2Aq5NKPD5q0IGwWWsjpAxjysjOReIkGFtk1mCGQqjx/w/5F01RW3exz39RK3xLSYvj5UzyNNPuqE2/aBb+kWv/+wVJj3it5xwVjta4TbGzj/tvPRUWZwDHP1W/UehMrs3L/YWQMdy4slgj26CxG61jr51etHeWSnmw890TU/s84oe6Ts7tVvP2rdtUbxEhgcl/z2W7mJ3viAvFmh7Ibe2no5sGFOYxRzPZQlr+IotlPneM9ziDvdSQSpJVaneoUp9qWYSf4SkvwFkqZ7G</latexit>
1 N Z0Z = R = AA′  + D2 ;標準化されたスコア ;相関行列 ;因子負荷行列 ;誤差の因子負荷行列(対角) Z R A D
構成概念の「接地」 12 ݱ࣮ੈք ֓೦# ֓೦" ֓೦$ ཧత݁߹ Պֶతମܥ ݱੈք ܦݧత݁߹ʢૢ࡞తఆٛʣ
؍Մೳͳࣄɾࣄ ݱ࣮ੈքͱՊֶతମܥͱͷؔʢӬढ़࿕ ʮࣾձ৺ཧֶݚڀೖʯ౦ژେֶग़൛ձ
構成概念はこうせい • 構成概念は「共通意味空間の基底」とみなしてもよいかもしれ ないが,少なくとも「心の中」ではなく「言語空間構造」の記述で あるから,個々人の属性や心的要素を記述するものではない。 13 ֓೦" ֓೦#
理論的に言えること • 尺度作成の根本は学力検査,態度調査 • 社会の側に基準(正誤,個人差に対する仮定)がある • 「正規分布する」,すくなくとも何らかの理論的分布に従う,ということ が明らかにされていなければ適切な尺度化(数値化)はできていない • 個人の内部に関する要素の同一性(局所均質的構成概念の仮
定;Borsboom(2005))が満たされないものは,カテゴリの度数を数え上 げることさえ限定的な意味しか持ち得ない • 本当はわからないけどこのカテゴリに反応したという意味で「同じ」とみ なす,という無機質な解釈なら可能 • →リッカートのような得点化は原理的に無理 • →因子分析のようなデータ生成メカニズムを扱うモデル化は不適切 ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ 14
「理論」が求められている • 社会心理学の理論が弱い • 個人と社会(内と外)を分ける明確なアイデアがなく,社会的 刺激に反応する個人の内的プロセスを「態度」としてしまっ たのではないか。(ex.社会的態度の感情的側面) • 次第に 感情>感想>お気持ち>心,のように徐々に解釈が
緩んでいったのでは? • 「方略」「思考」「イメージ」「評価」「動機」「〜感」はどの要素? • 個人内心理学をしたいのであれば,尺度化の理論はまだない • 我々は心の中を測れてはいない • そもそも個人の主観的経験を言葉でまとめること自体が可 能なのかという哲学的,原理的議論からやり直そう 15
LLM/場面想定法/国語 • 大規模言語モデル(LLM)はテキスト化された世界がかつて ないほど多く含まれているから,言語空間を分析するので あればLLMは優秀な被験者であり,もしかして母集団 • 状況を詳細に記述した条件下での反応パターンを測定する 場面想定法はいわばアナログなLLM • 「この時の筆者の気持ちを答えよ」は国語か心理学か
• 「人間/社会とは常に開かれたシステムであり,無限に言語 と意味を生成する」のであれば,心理学は科学かSFか 16 ͝ΊΜͳ͍͞ɼ͜Εεʔπέʔεϫʔυ
方法論としてはどうか
方法論的に語られること • 尺度作成の手順と諸注意(ノウハウ) • 構成概念の明確化,尺度項目の準備,サンプリング,ワーディン グ,倫理的配慮,翻訳するときの標準的手順 • 尺度水準,信頼性と妥当性 • 因子分析(探索的,確認的)の様々なオプション
• 語られないこと • 態度理論(=リッカート法はなぜカテゴリに数字を振れるのか) • 因子分析の数理的意味;相関行列の固有値分解など • 因子分析以外の多変量解析的アプローチ 18
小塩編(2024)心理尺 度構成の方法,誠信書房 • ちゃんと書いてる本が出た • 等現間隔法,シグマ法にもちゃんと 言及している! • 正規分布の仮定を強調している! •
BorsboomからCOSMINまで幅 広く理論・実践をカバーしている! 19 分布の仮定がピュアすぎること,因 子 分析以外のモデルに 言 及していないことなど マニアには物 足 りない部分もありますが今のところ最良の 一 冊。
改めて数値化の根拠 • 学力検査,社会的態度,性格検査は反応パターンが一義的 • 学力検査は正答・誤答についての共通見解がある • 社会的態度は正規分布すると仮定する(ただし態度対象 が社会通念的に「一致した意味」を持っているべき) • 性格検査は正規分布すると仮定する(ただし「言語の用
法・意味のパターン」と考えるべき) 20 カテゴリを数え上げ(蓄積),分布から数値化できる
方法論的に取りうる対応 • 尺度作成の手順としては,項目作成→EFA/CFAで終わることが多 いが,加えて標準化まで進めること • 大規模調査に基づく得点分布の報告,数値化の手続き・プロ フィールなど類型化の手続きを規定して,報告するべき • 毎回のEFA/CFAは得点が相互比較できないので推奨されない •
潜在変数間関係(構造方程式)は,その変化量で議論する • 理論空間での変化を現実世界での変化にしっかり接地させる • 応答性(意味のある変化とは何か)についてしっかり考える 21
方法論的に取りうる対応 • 因子分析で取り出せるのは,静的構造にすぎない • 静的;一時的に止まっている,あるいは安定的で変化しない 状態にある何かであること • 構造;複数の機能(はたらき)の背後にある共通した枠組み (仕組み)であること 22
言い換えると,「時間的・概念的に不安定」であったり,「共通して いない個別性の高いもの」は測ることができない
方法論的に取りうる対応 • 非計量多次元尺度構成法をもっと活用しましょう • 項目間相関でも個人間距離でもデータにできる • 測定モデルではない;距離関係を反映したモデル空間上での可視化 を目指したもの • 古くから個人差モデル(INDSCAL等)が提案されており,個人の内
的世界の共通するところ・しないところが明示的にモデル化されて いる • クラスター分析ももっと活用しましょう • 用途が個人差の分類にあるのなら,測定モデルを介さなくても十分 23 ωοτϫʔΫੳ͍͍ΑͶʂ
1. 外的基準で数量化でき,それに対応する尺度である→心理尺度 である必要はないが,ラフな近似としての意味があるかも? 2. 反応パターンが一義的でそれに対応して直接意味のある数値化 ができる→テスト理論 3. 反応パターンが一義的で,反応カテゴリの集積が確率分布に従う と仮定できることから,尺度値が数値化できる→態度理論/因子 分析モデル
4. 反応パターンが一義的だが,確率分布が仮定できない→測定モ デルを止める。MDS,クラスタリング,パターン分類へ 5. 反応カテゴリが一義的でなく,程度の評価は個人ごとに異なる→ 非計量MDSの3相モデルなど積極的に個人差をモデル化する 6. 反応カテゴリに個々人の意味が付与されており,その人にしかわ からない→測るという目的に合致しない 24 ৺ ཧ ई ͷ ར ༻ Մ ೳ ੑ
まとめ • 理論的に;尺度を使う前にちょっと落ち着いて考えよう • 古い論文を読むと,Paper and Pencilで得られるものは本質 的でなく精度の低い近似値でしかないという扱いを受けていた • 発展したのは統計モデルにすぎない
• 方法論的に;因子分析を使う前にちょっと落ち着いて考えよう • スコアの分布とその意味についても考察・報告するようにしよう • 非計量MDSやクラスター分析も検討しよう • 制度的に;研究法でも統計法でもない心理測定学を教えよう 25