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学校教育で「持続可能な社会づくり」を実現する教員養成のあり方:志村 喬(上越教育大学大学院学校...

学校教育で「持続可能な社会づくり」を実現する教員養成のあり方:志村 喬(上越教育大学大学院学校教育研究科教授)

学校教育で「持続可能な社会づくり」を実現する教員養成のあり方:志村 喬(上越教育大学大学院学校教育研究科教授)
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持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実
-SDGs実現における教育の役割-
日本学術会議公開シンポジウム(2017Nov04)開催報告

http://www.iknowshachu.org/scj/

Taichi FURUHASHI

November 04, 2017
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Transcript

  1. Ⅰ はじめに ‐ 目指されている学校教育目標 「何を学ぶか」 – 各教科等において習得する知識や技 能であるが、個別の事実的な知識のみ を指すものではなく、それらが相互に関 連付けられ、さらに社会の中で生きて

    働く知識となるものを含むもの。 「どのように学ぶか」 – 「アクティブ・ラーニング」の視点につい ては、深まりを欠くと表面的な活動に 陥ってしまうといった失敗事例も報告さ れており、「深い学び」の視点は極めて 重要である。学びの「深まり」の鍵とな るもの・・・各教科等の特質に応じた「見 方・考え方」である。 • 「何ができるようになるか」 – 各教科等の特質に応じた物事を捉える 視点や考え方が「見方・考え方」であり、 各教科等の学習の中で働くだけではな く、大人になって生活していくに当たっ ても重要な働きをするものとなる。 • より良い「持続可能な」社会を創る力 文科省(2017)『新しい学習指導要領の考え方-中央教 育審議会における議論から改定そして実施へ-』
  2. Ⅰ はじめに ‐ 目指されている教員養成の方向 平成31年度以降の免許法 • 「教科に関する科目」と「教 職に関する科目」の区分が 廃止され •

    【教科及び教科の指導法 に関する科目】に統合され る。 – 教科専門「社会」「地理」等 +教科指導法「社会」「地 歴」 • 【教科及び教科の指導法に 関する科目】においてはア クティブ・ラーニング等の視 点を取り入れること。 • 大学院レベルでは教職大 学院化へ 文科省(2017)『教育職員免許法・同施行規則の改正及び 教職課程コアカリキュラムについて』
  3. Ⅱ 教師の地理的専門性の実態 -新潟県での調査結果(2013)からー 実施期間:2013年7月中旬~8月対象校へ送付・無記名返送 対象校:上越市・妙高市・糸魚川市の全市立小中学校 小学校:79校 中学校:29校 1校内での対象者 小学校:社会科主任1名+社会科担当者2名=1校3名 (個人回答)

    中学校:社会科主任1名+社会科担当者1~2名=1校2 ~3名(個人回答) アンケート形式・質問項目 A4版10頁の冊子,全28問/全29問(選択式を主に一部 記述回答式) 質問項目 ①回答者属性, ②社会科授業の実践実態, ③社会科授業への意識,④社会科授業づくり過程実態, ⑤社会科カリキュラム内容への意識,⑥その他 志村喬・茨木智志・山本友和・大崎賢一 (2014):社会科授業実践と教師の社会 科専門性の実態分析研究-新潟県上越 地方における調査からの知見-,上越 社会研究,29号,pp.31‐40
  4. Ⅱ 教師の地理的専門性の実態 -調査結果の概要① (1)回答者属性 小中とも40代中心の中堅教員層が回答 母集団に近似 小学校 社会科研究は1割以下(算・国・体が盛ん) 社会系専攻者は3割 中学校

    6割が現在も社会科研究だが,歴史分野が半数を占める 主担当分野では,地理が著しく低い 大学での専攻分野は,公民(46%)>歴史(33%)>>地理(8%)
  5. Ⅲ 教員養成制度と地理授業の関係 -英国における伝統的教員養成:大学ベース- 志村喬(2006):イングランドにおける中等教育地理教員の養 成課程.日本社会科教育学会全国大会発表論文 集,2,pp.116‐117. • 中等教員養成は伝統的に,学部卒 者が大学提供の資格取得(PGCE) コース(1年)でなされてきた。

    • 学位コースとは異なる。 • 学部で地理学等の分野を専攻した 学生が入学。 • 従って,学校実習が24週以上と多く なる。 • 注意:日本の教職大学院(専門職 学位)コースとは全く異なる思想・制 度設計 ロンドン大学教育研究院の地理中等免許コース (2005/2006)の年間授業プログラム(青色は大 学,黄色は実習校での学修)
  6. • 学卒者が学校現場での学修(実習)だ けで免許を取得する教員養成制度 (SCITT)等が1990年代頃から徐々に導 入される。 • 大学(高等教育機関)での学修を経な い教員養成者は,最近増大し半数に達 する。 •

    その結果,教科教育の専門性欠如が 問題化してきている。 – 教科教育理論・内容を学ぶ機会がない まま教員免許取得 – 汎用的方法論のみを重視した授業実践 が拡大(教育の「学習化(Learninfication)」 G.ビースタ) • ブルックス,C. (2016):「今現在」のイギリ スにおいて地理を教える.新地理,64(1), pp.22‐28. Roberts,M.(2010): Where's the geography? Reflections on being an external examiner. Teaching Geography,35(3),pp.112‐113 Ⅲ 教員養成制度と地理授業の関係 -英国における学校ベース養成制度導入と問題発生-
  7. • 2010年教育白書『教えることの重要性』 – 知識を教えることを再評価 • 教育社会学者ヤング,M.(ロンドン大学教育研究院)が, 学校教育における「powerful knowledge(力強 い知識)」を主張 ヤング(2008)『知識を取り戻す:教育社会学における

    社会構成主義から社会実在主義へ』 – 柳田雅明(2015):「知識に基づくカリキュラム」を今 日提起する意義とは。青山学院大学「教職研究」, 1,pp.115‐125. – 柳田雅明・中野和光ほか(2016):カリキュラム理論 におけるすべての者にとっての学問知を検討する. 日本カリキュラム学会第27回大会発表 – ヤング,M.,菅尾訳:(2017):「力あふれる知識」はす べての児童・生徒にとっての学校カリキュラムの基 盤となりうるか.カリキュラム研究,26,pp.91‐100. • ヤングの主張に地理,歴史・技術等の教科教 育が呼応 Ⅲ 教員養成制度と地理授業の関係 -「学習化」授業から「知識への転回」への新潮流-
  8. Young,M. & Lambert,D. et al.(2014) 教科(地理)教育研究者D.ランバート(ロンドン大学 教育研究院地理教育学教室教授)による「力強い知識 (PK)」の説明(Young&Lambert,2014,p.168) – 伝統的教育観・NCの言う「中核知識」(伝統主義者ハー

    シュなどが言う知識)とは異なる次のような知識 • 抽象的で理論的(概念的)である。 – 固有性ではなく一般性に関係する。 • 諸概念は相互に関連づいている。 – 体系の一部である。 • 確実であるものの,異論(challenge)に開かれている。 • しばしば反直感的である。 – 地動説の経験を我々は持たない。 • 教師・学習者の直接経験に関わりなく現実性を持つ。 – 社会or重力を経験していないが,その法則に抗すれば現実 となる。 Ⅳ 「知識」を教授できる教師の力量 -学校で教授すべき「知識」とは?-
  9. The Geographical Association • 地理教育で扱う「都市」を事例にすると • 生徒は自分が住んでいる都市の日常・経験知は持っ。 – 自分の家や商店街の位置・地名等 –

    しかし,それは固有の事実知識で,他都市には当ては まらない • しかし,地理授業は,「都市」を思考対象として「問う」 – どんな条件だと都市は成長(衰退)するのか? – どのように都市は組織されているのか? – 都市は規制・計画・統制できるのか? – 理想の都市とは? – 持続可能な都市とは? • このような「問い」は,「地理授業でしか獲得できない PK」により発することが出来るようになる。 • (地理という)教科の学校カリキュラムにおける存在 意義は,「力強い学問的知識(PDK:powerful disciplinary knowledge)」獲得の教育意義にある。 Ⅳ 「知識」を教授できる教師の力量 -教科で教授すべきは「力強い学問的知識(PDK)」-
  10. カリキュラム・メーキン グ論の特色 • 全体が「学問として の地理の文脈」の 上にある。 • 「生徒」・「教授学習 手法」と「教科地理」 が同一平面に配置。

    • 三要素の中央に教 師が存在し「問う」。 • カリキュラム(内容 +学習方法)におけ る教師の主体的・教 育思想的創造を極 めて意図する。 – 「単元づくり」に近 似 Ⅳ 「知識」を教授できる教師の力量 -優れた授業を創る教師の立ち位置-
  11. Ⅴ 結語 ‐ 国際潮流で目指される教科の教員養成 地理教師は「何を学ぶか」 • 各教科等において習得する知識や技能であ るが、個別の事実的な知識のみを指すもので はなく、 –

    教科の基盤をなすディシプリン(地理学)の 概念(見方・考え方や理論)を,教育学と共 に学ぶ。 地理教師は「どのように学ぶか」 • 「アクティブ・ラーニング」の視点については、 深まりを欠くと表面的な活動に陥ってしまうと いった失敗事例も報告されており、「深い学 び」の視点は極めて重要である。 – 地理学固有の「事象を地表空間(geo)次元 で調査・分析・考察・表現する手法(特に フィールドワークとGIS)」で学ぶ。 地理教師は「何ができるようになるか」 • 各教科等の学習の中で働くだけではなく、大 人になって生活していくに当たっても重要な 働きをするものとなる。 – 様々な素材を,教授目的・学習者実態と組 み合わせ地理教材化し,地理授業化できる。 「より良い「持続可能な」社会を創る力」を育 む地理授業の創造・実現へ 文科省(2017)『新しい学習指導要領の考え方-中央教 育審議会における議論から改定そして実施へ-』