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kyoto-u_20200903_speakerdeck.pdf

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Summer Intensive Course at Kyoto University (Sep. 3, 2020)
2020年度前期京都大学開講科目「西洋文化学系(ゼミナールII)」第1回および第2回のスライド

※一部の画像は著作権の関係上非表示になっています.

Tetsufumi Takeshita

September 03, 2020
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Transcript

  1. 授業の進め方 第 1 回と第 2 回の予定 1. 第 1 回:導入と概説

    1.1 イントロダクション 1.2 ⻄洋古典学について 1.3 ラテン文学の特色 1.4 ルクレーティウスとその時代 2. 第 2 回:作品の読解 2.1 ウェヌス讃歌 2.2 ギリシアの伝統と「言葉の貧困」 2.3 詩と哲学,蜜と薬 2.4 全巻の構造と反復の意味 2.5 文献案内 4
  2. ギリシア語の場合 最古の文学:ホメーロスの二大叙事詩(紀元前 8 世紀) •『イーリアス』 •『オデュッセイア』 古典期(紀元前 5-4 世紀) •

    歴史‧哲学‧劇‧弁論などに優れた作家が輩出 • ペルシア戦争以後のアテーナイの隆盛からマケドニアのア レクサンドロス大王の東征(前 334 年)まで 7
  3. ラテン語の場合 最も古いラテン語:紀元前 6 世紀以来(ほとんどが碑文) 古典期:前 1 世紀〜後 2 世紀 •

    前 80 年頃〜後 14 年:⻩金時代 • 後 14 年〜180 年ごろ:白銀時代 この時代に,散文‧韻文両分野で主要な作家が活躍 • 散文:カエサル,キケロー • 韻文:ウェルギリウス,オウィディウス 8
  4. 本文批判とクリティカル‧エディション 本文批判(textual criticism) :現存する諸写本の比較 (recension) ,必要な訂正(emendation)を行い,できるだけ 正しい本文を復元する試み 校訂版(critical edition) :上記手続を踏まえて復元された本文

    と,異同の有無や編者の判断を記した資料(critical apparatus) を併せた書物 こうした校訂版は同じ作品であっても編者によって違いが出 てくる 誰の,どんな版を読んでいるのかを意識することの重要性 11
  5. 作者と作品 今回取り上げる作品 • 著者:ルクレーティウス(Titus Lucretius Carus, 前 99/94-55/51) • 作品:

    『事物の本性について』 (De rerum natura) 伝記的な事実はほとんど何もわからず,生没年についても資料 の信憑性に問題がある 19
  6. 表題の意味 『事物の本性について』 (De rerum natura) 参考に英語訳のタイトルだと On the Nature of

    Things (of the Universe のことも) • 事物=世界 • 本性=自然 この世界の成り立ちについて語る哲学詩 その主張はギリシアの哲学者エピクーロスの教説 21
  7. エピクーロス エピクーロス(前 341-270) :ヘレニズム時代の哲学者の一人 ヘレニズム時代: (おおまかに)前 323 年〜前 31 年

    • 古典期のギリシア哲学:小規模な都市国家(ポリス)社会 を前提 • ヘレニズム‧ローマ時代=グローバリゼーションの時代 の哲学 理論よりも実践(倫理学)への関心 拡大する世界における個人の生き方,その不安や苦悩の解消を 問題とする 22
  8. 専門用語の「翻訳」 原子(ἄτομα)という専門用語をルクレーティウスは様々なラ テン語に言い換える • corpora「物体」 • semina「種子」 • materia「素材,⺟体」 •

    rerum primordia「事物の始原」 • elementa「要素,元素」 生命を強く想起させる訳語を多用(corpora, semina, materia) 原子論の持つ唯物論的,機械論的自然観を変化させるルクレー ティウスの試み 37
  9. 初期ギリシアの自然学者たちの詩作と思索 初期ギリシアの自然学者たち(前 6-5 世紀) :世界を「物語‧神 話」 (μῦθος)ではなく「理性」 ( (λόγος)で説明する試み 彼らは自身の思想をしばしば韻文で語った(パルメニデース,

    エンペドクレース) • 記憶しやすく洗練された表現形式として •「物語」を語る詩人たちへの対抗手段として ルクレーティウスもまた改めて詩によって哲学を語る試みへ 39
  10. ルクレーティウスの答え この点をルクレーティウス自らが語る箇所(資料 IV) • 詩=心地よいもの=蜜(mel ≒ melos「歌」 ) • 哲学=苦いが有益なもの=薬(ニガヨモギ)

    「欺かれても害されない」 しかしあくまで詩=手段,哲学=目的なのか? 原子論的な宇宙を詩で描く更なる意味を考える 40
  11. 文字と原子 原子(ἄτομα)という専門用語にあてられるラテン語 • corpora「物体」 • semina「種子」 • materia「素材,⺟体」 • rerum

    primordia「事物の始原」 • elementa「要素,元素」 この中にある elementa は,しかしまた「文字,字⺟」をも意味 できる 41
  12. 生と死の主題化のパターン • 第 1 巻 • 序:ウェヌスの勝利(生) • 第 2

    巻 • 結び:世界の成⻑と老衰 • 第 3 巻 • 死の恐怖と不可避性(資料 VIII) (死) • 第 4 巻 • 性愛と生殖の解明(資料 IX) (生) • 第 5 巻 • 世界には始まりと終わりがあること • 第 6 巻 • 結び:疫病による死と苦痛の勝利,信仰の廃棄(資料 X) (死) 対応関係と反復の存在 45
  13. ウェヌスの解体 第 4 巻で主題化される性愛論は,第 1 巻の序のウェヌスのはた らきを異なる角度から取り上げなおすもの(資料 IX) • 第

    1 巻:伝統的な神への讃歌の形で • 第 4 巻:原子論の立場で感覚のメカニズムを解明する延 ⻑上で 「物語‧神話」 (μῦθος)から「理性」 (λόγος)への変化 46
  14. 第 4 巻の序歌の意味 実は第 4 巻冒頭には第 1 巻からの大きな繰り返しが含まれる (資料 IV)

    近年この箇所を削除するべきとの議論があるが…… 上に見た構造と主題の対応関係を考慮すると,第 4 巻で主題化 される生=第 1 巻のそれの繰り返し(=再生) ,と理解できる? 生まれ成⻑し老いて死ぬという生命のプロセスを詩の構造その ものにも反映させるというルクレーティウスの企て 47
  15. テクスト‧翻訳 • Bailey, C., Lucretius: De Rerum Natura, Edited, with

    Prolegomena, Critical Apparatus, Translation and Commentary, 3 vols., Oxford, 1947. • ルクレーティウス(樋口勝彦訳) , 『物の本質について』 (岩波文庫) ,岩波書店,1961 年. • ルクレティウス(藤沢令夫‧岩田義一訳) , 『事物の本性に ついて――宇宙論――』 , 『世界古典文学全集』21, 筑摩書 房,1965 年. 48
  16. 入門書‧参考書 • 小池澄夫‧瀬口昌久, 『ルクレティウス『事物の本性につ いて』――愉しや,嵐の海に――』 ,岩波書店,2020 年. • S. グリーンブラット(河野純治訳)

    , 『一四一七年,その一 冊がすべてを変えた』 ,柏書房,2012 年. • 寺田寅彦, 「ルクレチウスと科学」 ,小宮豊隆編『寺田寅彦 随筆集』第 2 巻(岩波文庫) ,岩波書店,1947 年,207-262 頁. 49
  17. 入門書‧参考書 • 内山勝利編『哲学の歴史 2――帝国と賢者――』 ,中央公論 新社,2007 年. • A.A. ロング(金山弥平訳)

    『ヘレニズム哲学――ストア派, エピクロス派,懐疑派――』 ,京都大学学術出版会,2003 年. • 田上孝一‧本郷朝香編『原子論の可能性――近現代哲学に おける古代的思惟の反響――』 ,法政大学出版局,2018 年. 50
  18. ⻄洋古典文学への入門 • 逸身喜一郎, 『ギリシャ‧ラテン文学――韻文の系譜をた どる 15 章――』 ,研究社,2018 年. •

    L.D. レイノルズ‧N.G. ウィルソン(⻄村賀子‧吉武純夫 訳) , 『古典の継承者たち――ギリシア‧ラテン語テクスト の伝承にみる文化史――』 ,国文社,1996 年. • Hunt, J.M., Smith, R.A., Stok, F., Classics from Papyrus to the Internet: An Introduction to Transmission and Reception, University of Texas Press, 2017(イタリア語原書は 2012 年 初版) 51