Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

201900826

 201900826

Keio Orthopedic

August 26, 2019
Tweet

More Decks by Keio Orthopedic

Other Decks in Science

Transcript

  1. 要旨 理化学研究所 (理研) 生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの稲葉 (黄) 郁代上級研究員、大伴直央大学院生リサーチ・アソシエイト (慶應義塾大 学大学院医学研究科博士課程) 、池川志郎チームリーダーらと慶應義塾大学 整形外科を中心とした日本側彎

    (そくわん) 症臨床学術研究グループの共同研 究グループ※は、日本人集団の遺伝情報を用いた大規模なゲノムワイド関連 解析 (GWAS) [1] を行い、思春期特発性側弯症 (Adolescet idiopathic scoliosis:AIS) の発症に関わる疾患感受性領域 (遺伝子座) を新たに14 カ所 同定しました。
  2. これは、AIS に関する研究コホート[3] としては世界最大規模です。 その結果、AIS 発症に関わる新しい遺伝子座を14 カ所同定し、さらに女性AIS 患者のみを対象とした層別化解析により、女性のAIS 発症に関わる遺伝子座 を3 カ所同定しました。

    また、同定された14 遺伝子座の一つ、22 番染色体上の転写因子[4] TBX1[5] の遺伝子内に存在する一塩基多型 (SNP) [6] について解析し、このSNP を持 つ患者に多い対立遺伝子[7] はTBX1 の発現を低下させることが分かりました。
  3. 注1) 2011 年10 月24 日プレスリリース「思春期特発性側弯症の原因を解明、 治療への大きな一歩 −世界で初めて、全ゲノム解析により「LBX1」が疾患感受 性遺伝子であることを発見−」 https://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2011/kr7a43000007vdug.html 注2)

    2013 年5 月13 日プレスリリース「思春期特発性側彎症 (AIS) 発症に関 連する遺伝子「GPR126」を発見 http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130513_1/ 注3) 2015 年7 月24 日プレスリリース 「思春期特発性側彎症 (AIS) 発症に関連する遺伝子 「BNC2」を発見」http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150724_1/
  4. そして、今回新たに収集した日本人集団 (AIS 患者3,254 人、非患者63,252人) に対して大規模なGWAS を行い、さらにこれまでに収集した二つの日本人集団 を合わせて、三つの日本人集団 (AIS 患者5,327 人、非患者73,884

    人) におけ るGWAS 結果を統合し、大規模GWAS のメタ解析を行いました。 その結果、AIS の発症に関連する20 カ所の疾患感受性領域 (遺伝子座) を同 定しました。そのうち14 カ所は、これまでに報告されていない遺伝子座でした (図1) 。
  5. 図1 日本人AIS のゲノムワイド関連解析の結果 日本人5,327 人を検体とした、AIS についてのGWAS の結果。 縦軸はP 値の対数値で示した相関の強さ。 赤線は統計学的な有意水準

    (P=5.0×10-8) を示し、それを超える強い相関を示す 遺伝子座が20 カ所同定された。 赤字が新たに発見された遺伝子座で、黑字は既報の遺伝子座である。
  6. また、同定された20 カ所の遺伝子座において、各遺伝子座で関連が見られた 20 個の代表的な一塩基多型 (SNP) についてコンディショナル解析[10]を行っ たところ、上記20 個のSNP に加え、さらに5 個の独立したSNP

    が見つかりまし た。 次に、AIS は女児に多く発症することから、女性AIS 患者のみを対象とした層別 化解析を行いました。その結果、女性のAIS 発症に関連する遺伝子座が3カ 所 同定されました (表1) 。
  7. 表1 女性の解析で特異的に AIS 発症と関連が見られた三つの SNP の男女別相関 オッズ比は相関の大きさ、リスク多型の影響力の指標である。そのリスク多型を持つと AIS 発症リス クが、女性ではそれぞれ、上から

    1.15 倍、1.16 倍、1.52 倍高まる。同じリスク多型に対して男性で は、それぞれ上から 0.88 倍、1.05 倍、1.10 倍に留まっている。 SNP 女性 男性 リスク多型の頻度 オッズ比 p値 リスク多型の頻度 オッズ比 p値 患者群 対照群 (95%信頼区間) 患者群 対照群 (95%信頼区間) rs73235136 0.50 0.46 1.15 (1.10-1.20) 3.45 x 10-9乗 0.44 0.47 0.88 (0.75-1.03) 1.01 x 10-1乗 rs545608 0.76 0.73 1.16 (1.10-1.23) 1.03 x 10-8乗 0.75 0.74 1.05 (0.88-1.25) 6.15 x 10-1乗 rs142502288 0.028 0.020 1.52 (1.31-1.76) 3.11 x 10-8乗 0.025 0.023 1.10 (0.66-1.84) 7.13 x 10-1乗
  8. 図2 Heritability enrichment 解析の結果 今回は、組織・細胞種を 10 グループに分類し、 AIS との相関関係を解析した。 横軸はP

    値の対数値で示した相関の強さ。 統計学的な有意水準を表す点線 (P=5.0×10-3) を超える、六つの組織および細胞腫が同定され た。
  9. 理化学研究所 生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム  上級研究員 稲葉 (黄) 郁代 (いなば いくよ)  大学院生リサーチ・アソシエイト

    大伴 直央 (おおとも なお)   (慶應義塾大学 大学院医学研究科 博士課程)  チームリーダー 池川 志郎 (いけがわ しろう) ゲノム解析応用研究チーム  チームリーダー 寺尾 知可史 (てらお ちかし) 基盤技術開発研究チーム  チームリーダー 桃沢 幸秀 (ももざわ ゆきひで)
  10. 日本側彎症臨床学術研究グループ 慶應義塾大学 医学部 整形外科学教室  教授 松本 守雄   (まつもと もりお)  教授

    中村 雅也   (なかむら まさや)  准教授 渡邉 航太   (わたなべ こおた)  専任講師 八木 満    (やぎ みつる)  専任講師 藤田 順之   (ふじた のぶゆき)  専任講師 岡田 英次朗  (おかだ えいじろう)  助教 高橋 洋平   (たかはし ようへい) (研究当時)  助教 小倉 洋二   (おぐら ようじ) (研究当時)  研究員 武田 和樹   (たけだ かずき) (研究当時)
  11. 名城病院 整形外科  脊椎脊髄センター長 川上 紀明  (かわかみ のりあき) 豊田厚生病院 整形外科  脊椎外科部長

    辻 太一    (つじ たいち) 聖隷佐倉市民病院 整形外科  名誉院長 南 昌平    (みなみ しょうへい)  院長補佐 小谷 俊明   (こたに としあき)  せぼねセンター長 佐久間 毅   (さくま つよし)
  12. 聖マリアンナ医科大学 整形外科  病院教授 赤澤 努    (あかざわ つとむ) 神戶医療センター 整形外科  院長

    宇野 耕吉   (うの こうき)  医長 鈴木 哲平   (すずき てっぺい) 神戶大学医学部 整形外科学教室  特命教授 西田 康太郎  (にしだ こうたろう)  助教 角谷 賢一朗  (かくたに けんいちろう)
  13. 北海道医療センター 整形外科  総括診療部長 伊東 学   (いとう まなぶ) 北海道大学大学院 医学研究院 整形外科学教室

     特任准教授 須藤 英毅  (すどう ひでき)  特任助教 岩田 玲   (いわた あきら) 獨協医科大学 整形外科学教室  主任教授 種市 洋   (たねいち ひろし)  准教授 稲見 聡   (いなみ さとし)
  14. 獨協医科大学埼玉医療センター 第一整形外科  准教授 飯田 尚裕  (いいだ たかひろ) 奈良県立医科大学 整形外科教室  講師

    重松 英樹  (しげまつ ひでき) 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 整形外科学分野  講師 渡辺 慶   (わたなべ けい) 大阪大学大学院 医学研究科 器官制御外科  講師 海渡 貴司  (かいと たかし)
  15. 福岡市立こども病院 整形外科  脊椎外科部長 柳田 晴久   (やなぎだ はるひさ) 九州大学病院別府病院  准教授 播广谷勝三 

    (はりまや かつみ) 順天堂大学医学部・大学院 医学研究科 整形外科学講座  准教授 米澤 郁穂   (よねざわ いくほ) (研究当時)  助教 佐藤 達哉   (さとう たつや)
  16. 自治医科大学 整形外科  講師 菅原 亮   (すがわら りょう) 東京大学 整形外科学教室  助教

    谷口 優樹  (たにぐち ゆうき) 金沢大学医学部 整形外科学教室  准教授 出村 諭   (でむら さとる)
  17. <タイトル> Genome-wide association study identifies 14 previously unreported susceptibility loci

    for adolescent idiopathic scoliosis in Japanese <雑誌> Nature Communications <DOI> 10.1038/s41467-019-11596-w
  18. <著者名> Ikuyo Kou, Nao Otomo, Kazuki Takeda, Yukihide Momozawa, Hsing-Fang

    Lu,Michiaki Kubo, Yoichiro Kamatani, Yoji Ogura, Yohei Takahashi, MasahiroNakajima, Shohei Minami, Koki Uno, Noriaki Kawakami, Manabu Ito, IkuhoYonezawa, Kei Watanabe, Takashi Kaito, Haruhisa Yanagida, HiroshiTaneichi, Katsumi Harimaya, Yuki Taniguchi, Hideki Shigematsu, TakahiroIida, Satoru Demura, Ryo Sugawara, Nobuyuki Fujita, Mitsuru Yagi, EijiroOkada, Naobumi Hosogane, Katsuki Kono, Masaya Nakamura, KazuhiroChiba, Toshiaki Kotani, Tsuyoshi Sakuma, Tsutomu Akazawa, Teppei Suzuki,Kotaro Nishida, Kenichiro Kakutani, Taichi Tsuji, Hideki Sudo, Akira Iwata,Tatsuya Sato, Satoshi Inami, Morio Matsumoto, Chikashi Terao, KotaWatanabe, Shiro Ikegawa
  19. [5] TBX1 胚発生中の組織や臓器の形成に重要な役割を果たすT-box 転写因子の一つ。 TBX1 遺伝子の変異により、先天性の多臓器疾患であるディジョージ症候群を 発症することが報告されている。 [6] 一塩基多型(SNP) ヒトゲノムは30

    億塩基対のDNA からなるが、個々人を比較するとそのうちの 0.1% の塩基配列の違いがある。これを遺伝子多型という。遺伝子多型のう ち、一つの塩基がほかの塩基に変わるものを、一塩基多型と呼ぶ。SNP は Single Nucleotide Polymorphism の略。
  20. [10] コンディショナル解析 相関解析の手法の一つ。あるSNP の相関は、常にそのSNP と連鎖不平衡に あるSNPの影響を受ける。この他のSNP からの影響を排除した相関を調べる 方法。 [11] FOXA2

    胚発生や組織特異的遺伝子発現に関与する転写因子。脊索形成に重要な転 写因子で、肝臓、膵臓、肺などの内胚葉由来の複数の臓器の発生に関与し、こ れらの臓器において多くの遺伝子発現を調節している。
  21. 理化学研究所 生命医科学研究センター 股関節疾患研究チーム  チームリーダー 池川 志郎(いけがわ しろう)  上級研究員 稲葉 郁代(いなば

    いくよ)  大学院生リサーチ・アソシエイト 大伴 直央(おおとも なお)  (慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程) TEL:03-5449-5393(池川)FAX:03-5449-5509(池川) E-mail:sikegawa[at]ims.u-tokyo.ac.jp(池川) ※研究内容については発表者にお問い合わせください。 【発表者】