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マレーシア・クアランプールの図書館を訪ねて:国際図書館連盟(IFLA)年次大会の参加報告とともに(古賀崇) / IFLA WLIC 2018 and Libraries in Kuala Lumpur

Takashi Koga
November 20, 2018

マレーシア・クアランプールの図書館を訪ねて:国際図書館連盟(IFLA)年次大会の参加報告とともに(古賀崇) / IFLA WLIC 2018 and Libraries in Kuala Lumpur

2018年11月20日、天理大学情報ライブラリーでの学内講演(学内学生対象のミニ・インターンシップの一環も兼ねる)。クアラルンプールでの公共・大学・国立図書館の様子を中心に紹介した。IFLA2018年次大会の模様については、第90回デジタルアーカイブサロン(アート・ドキュメンテーション学会SIG、2018年10月12日)での発表資料もあわせて参照。https://doi.org/10.13140/RG.2.2.15935.15520

Takashi Koga

November 20, 2018
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  1. 本日の概要 • はじめに • クアラルンプールの図書館 • IFLA大会での古賀の発表 • IFLA大会での話題や、印象に残った点など •

    その他、IFLA年次大会とクアラルンプールの様子 • おわりに ※今回の講演内容は、第90回デジタルアーカイブサ ロン(2018年10月12日)での報告と一部重複します。 https://doi.org/10.13140/RG.2.2.15935.15520 2
  2. マレーシアの特色 • 多民族国家 • マレー系、中国系、インド系 + 少数民族 • 英語が各民族・各言語をつなぐ共通語 •

    19世紀半ばからイギリス植民地 → 1957年「マラヤ連邦」とし て独立(のち、1965年にシンガポールが分離独立) • 多宗教国家 • イスラム教の影響が強い • 国家主導の経済開発・社会構築 • マレー系重視 「プミプトラ」 • 2018年に初の政権交代:マハティール氏(93歳)が15 年ぶりに首相復帰 7
  3. 国際図書館連盟(IFLA)とは: 『図書館情報学用語辞典』第4版(2013)より (コトバンク、ジャパンナレッジにも収録) • 「書誌活動,情報サービス,図書館員の養成など図書館活動の全分野 にわたって国際的な規模での相互理解・協力,討議,研究・開発を推進 することを目的として,1927年に設立された団体.世界各国の図書館協 会や図書館・教育研究機関を会員とする.運営理事会,実行委員会,専 門委員会,部会,本部事務局などから構成されており,活動は,ALP (Action

    for Development through Libraries Programme),CLM (Committee on Copyright and other Legal Matters),FAIFE (Committee on Free Access to Information and Freedom of Expression),Committee on Standards,PAC(Core Activity on Preservation and Conservation),UCA(UNIMARC Core Activity) という六つのコアプログラム(基本計画)と部会の2種類の形態で行われ る.部会は,図書館の種類,図書館のコレクション,図書館のサービス, 専門職の支援,地域活動の合計五つあり,それぞれの部会は,複数の 分科会やラウンドテーブルから構成されている.毎年各国持ち回りで年 次大会が開催されている.」 9
  4. IFLAの部会・分科会 https://www.ifla.org/activities-and-groups • 図書館の種類:公共、大学、学校、社会科学、自然 科学、視覚障がい者向け、美術 など • 図書館のコレクション:逐次刊行物、貴重資料、政 府情報、保存活動 など

    • 図書館のサービス:ナレッジ・マネジメント、レファレ ンス・情報サービス、児童・YA など • 専門職の支援:(新規の)教育、継続教育、図書館 建築、マネジメントとマーケティング など • 地域活動 10
  5. IFLA年次大会について • 1年ごとの持ち回りで開催 • 主に8月中旬~下旬、ただし2020年ニュージーラン ド・オークランド大会は7月下旬~8月上旬に開催予 定 • ここ数年の開催地 •

    2015:南アフリカ・ケープタウン、2016:米国オハイ オ州コロンバス、2017:ポーランド・ヴロツワフ、 2018:クアラルンプール、2019:ギリシャ・アテネ • 日本では1986年に東京で開催 11
  6. IFLA年次大会の主なプログラム • 分科会やテーマごとの「発表セッション」が中心 • 発表の公募も行われる → 古賀は今回「デジタル・スカ ラーシップ」(デジタル技術を活用した研究活動やその基 盤構築)に関するセッションにて発表 •

    展示:情報機器、出版社、国・地域単位の図書館・ 図書館協会など • 懇親会 • 図書館見学ツアー • 大会前後に、分科会やテーマに特化した「サテライ ト会議」も開催 12
  7. 今回のIFLA大会の主なデータ https://2018.ifla.org/ • 参加者 約3,500名 • 110を超える国や地域から • 公開セッション 約250件

    • 企業・団体展示 70件以上 • ポスター発表 122件(登録上。発表のなかったもの含む) • 日本からの参加者 30名以上? • 日本からの発表 計19件 • セッション発表 13件(サテライト会議含む。日本関係者限定の 会合(Japan Caucus)での報告は除く) • ポスター 6件 13
  8. 特色など • 市郊外の住宅地に位置(市 中心部から地下鉄で15分ほ ど→さらに徒歩10分ほど) • アパート内の3フロアが開架 スペース:小規模 • クアランプール市の中央図

    書館は市中心部の「ムルデ カ広場」隣にあるが、改装・ 閉館中 • http://www.u- library.gov.my/portal/pkl 17 子ども 大人 視聴覚
  9. 大学の特色など https://www.unikl.edu.my/ • 2002年開校の新興公立大学 • 工学・ビジネス系に特化 • クアランプールと他地域に12のキャンパスをもつ → 図書館として電子サービスに注力

    • メインキャンパスはクアランプール中心部に位置 • 32階建ビル、ショッピングモールに隣接 • LibraryではなくKnowledge Centreと称する • メインキャンパスでは13~15階が開架フロア 23
  10. 大学の特色など https://www.um.edu.my/ • 1949年開校(英国統治下)、マレーシアのトップ 大学 • キャンパスは広大かつ高低差あり:バス、自動車、 バイク等による移動が必要 • 図書館には目立った特色は乏しい?

    • 中央図書館含め15館に分散 • 中央図書館にはCollaborative Learning Area (CoLA)=いわゆるラーニング・コモンズを置く • 本部棟に美術ギャラリーあり 27
  11. 特色など http://www.pnm.gov.my/ • 1966年設立:設立時は国立公文書館の管轄下 に • 1992年に現在地に移転 • 2館体制 •

    開架資料(一般書・児童書)を中心とする館 • 貴重書・書庫を中心とする館 • 公共交通機関としてはバスの利用が可能(しかし 時刻表通りに来ない…) 31
  12. IFLA年次大会の発表公募について • 大会前年の12月末頃から、セッションごとに募集・選考 • 分科会単独のセッションもあれば、複数の分科会が合同で 行うセッションもあり • ペーパーの作成・発表が前提 • 締切もセッションごとに異なる:1月後半から3月はじめにか

    けて • ポスターセッション公募も同時期に • 古賀の場合 • 発表募集リストの中から、「言いたいことを言えそう」なセッ ションを選択(後述)→ 1月末の締切時に申込 → 3月末に 採択通知 37
  13. 発表予稿等(英語)の作成・提出等について • 6月1日締切までに作業を行う • 5月中旬に草稿作成 → 「英文校正専門業者」にチェッ クしてもらう(古賀はいつもEditage社を利用) • パワーポイントも早目の提出が必要

    • IFLA年次大会の場合、多くのセッションで同時通 訳を行う • IFLAでの公用語:英、仏、独、西、露、アラビア、中 (ド イツ語以外は国連公用語と共通) 38
  14. 古賀が発表したセッションと標題 • Session 206 “Digital scholarship and knowledge management: building

    confidence in the digital world” • 8月28日(火)午後 • ナレッジ・マネジメント、大学・研究図書館、貴重資料の各分科会の合同 セッション • 古賀の発表標題:Issue-oriented strategies or extensive infrastructure for digital scholarship? The policy, practices and projects of Japanese digital archives and libraries • ペーパー:http://library.ifla.org/id/eprint/2205 • 2時間のあいだに全6件(各15分)の発表+パネル・質疑 • シンガポール、中国、日本(古賀)、エジプト、米国、世界銀行の動向 • 全ペーパー:http://library.ifla.org/view/conferences/2018/2018- 08-28/958.html 39
  15. 古賀の発表とその要点(1): なぜ「日本のデジタルアーカイブ」なのか • ここ最近はデジタルアーカイブの取り組みが盛ん • 業界団体(デジタルアーカイブ推進コンソーシアム)やデ ジタルアーカイブ学会の設立など • 「アーカイブサミット」をこれまで3度開催:第3回(2017年9 月、京都)は古賀も登壇

    • 関連:http://archivesj.net/summit2017archive/ • しかし、政策推進の中で、見逃されている要素があ るのでは? • そもそもデジタルアーカイブとは何を意味するか:最近の 古賀の論考(本学リポジトリに掲載)でも追求 • http://opac.tenri- u.ac.jp/opac/repository/metadata/search/001/ 41
  16. 古賀の発表とその要点(2): ペーパーとプレゼンで述べたこと • 日本のデジタルアーカイブの政策:「アーカイブ立国宣言」 (2014)、知的財産推進計画など • 日本のデジタルアーカイブの活動:NDLデジタルコレクショ ン、アジア歴史資料センター、新日本古典籍総合データ ベース など

    • 日本のデジタルアーカイブの課題 • 持続性 • 「2020年東京オリ・パラ」を目標、でいいのか • 課題の解決策としてのオープン・ライセンス • もとの運営者によるデジタルアーカイブの運営が困難になっ ても、誰かが(ユーザーも含め)スムーズに引き継げるように 42
  17. マレーシアにおける公共図書館政策 • 大会内で政府高官や大臣が発表を行う • 電子図書館政策の振興に力点 • “e-Pustaka”:ICT機能を搭載した移動図書館 • “u-Pustaka”:ネットインフラの構築、電子コンテンツの活 用など、より包括的な電子図書館政策(u=ユビキタス)

    • http://www.u-library.gov.my/portal/web/guest/home • 特に地方部の図書館の振興策を課題とする • 図書館内のPC・ネット端末を活用した生活・起業支援も意 識 • 大会での紹介例:“Aishah’s Story”(障がいをもつ女性の起業) https://www.thestar.com.my/news/education/2013/10/27/spreading-hope-against- all-odds/ 45
  18. AI・ロボットの時代における 図書館の役割とは • 各国の事例発表 • フィリピン:レファレンス質問への回答の自動化を試みる 研究 • 「地方の図書館ではレファレンスに人手が足りない」ことが背景 •

    レファレンス事例集を自動処理する仕組みがあれば、実用化は 容易なはず→オーストラリアでは実例もあり • ドイツ:ロボット「Nao」に、「読書介助犬(Reading Education Assistance Dogs=R.E.A.D.)」と同様の役 割を持たせようとする取り組み • 読書介助犬:「読み聞かせ」などの相手になり、児童らのコミュ ニケ―ションスキルの向上をサポートする • 日本での読書介助犬の紹介事例(武庫川女子大学司書課 程):http://current.ndl.go.jp/e1806 46
  19. フィンランド「Kirjastokaista (Library Channel)」 • 国内外の図書館活動を紹介・発信するネット放送局 • 展示エリアでプレゼンと上映を実施 • 上映動画:“Tale of

    a Library (English narration)” • 18世紀末からのフィンランドの公共図書館の歴史をたどり つつ、さまざまな年代・身分の人々が図書館をどう使い、 どう思っているか、インタビューとして記録 • 退職男性のことば:“Sometimes I wonder if our society's attention span is becoming too short that no one has the time to stop for something ...” • ウェブ版はIFLA大会後に公開 https://www.kirjastokaista.fi/en/tale-of-a-library- english-narration/?autoplay 47
  20. 欧米の有力大学の アジアなどへの「進出」 • 英国ノッティンガム大学 • 中国・寧波、クアラルンプール郊外にキャンパスを置く • 寧波校は中国での海外大学進出の先駆(2004年開校) • 寧波校では図書館員が研究評価に関与

    • ニューヨーク大学 • 上海、アブダビにキャンパスを置く • シンガポールでもいくつかの事例あり • 大学と国それぞれの思惑、「世界大学ランキング」 への反映などが意識される 48
  21. スポンサー企業などは独自に会合・ レセプションを開催 • 例:CNKI社 • 中国学術情報データベース • 日本では東方書店が総代理店 • https://www.toho-shoten.co.jp/cnki/cnki.html

    • 会合・レセプションの内容 • 会場近くの「マンダリンホテル」の一室を貸切 • 中国、マカオ、マレーシア、タイほか近隣の関係者が参加・プレ ゼン実施 • (例)iGroup:タイ・バンコク拠点の学術ソリューション企業。東 京にもオフィスあり https://www.igroupjapan.com/ 50
  22. 少なくともクアラルンプールでは「普通」 に社会生活を送っているムスリムの人々 • 現地で見かけた光景 • 大会ボランティアとして参加した現地 の大学生たち • 地下鉄KLCC駅改札前で、宇多田ヒカ ルの歌を(日本語で!)歌ってパ

    フォーマンスする女性 • 「Anna Muslim」の絵本・マンガ(図書 館所蔵/書店・コンビニで販売) 58 • ただし、マレーシアにおいては(ムスリムに限られないが)「若 者の社会的排除」も課題 • 大会内での国会議員・大臣の基調講演より • 一例としての「未成年女性の妊娠」 • 図書館が「社会的包含」にどこまで貢献できるか?
  23. マレーシアとその国民にとっての「ムルデ カ(独立。マラヤ連邦として)」の重要性 • 国立博物館でも、スペースを割 き、またドラマ仕立ての動画も含 め展示を行う • 国立図書館では、マハティール 首相も出演する動画を上映 •

    8月31日が独立記念日(IFLA大 会終了直後!) • 軍隊も揃っての国家パレードを 毎年実施 • ムルデカ広場にて → • この場所での、アブドゥル= ラーマン初代首相の「ムルデ カ!」宣言(1957年8月31日) のレリーフ 59
  24. しかし、図書館(員)の今後は? • 「インダストリー(産業革命)4.0」とも言われる現 代 • 蒸気→電力→コンピュータ→データ • もとはドイツの国家戦略の名称 • マラヤ大学には専門の研究センターあり

    • AI・ロボットの時代において、これらにとって代わ られないだけの存在価値を、どのような形で提示 できるか? • 図書館(員)に限られない、産業・キャリア全体の課 題 63
  25. ありがとうございました • 本発表、および今回の IFLA大会への参加・発 表は、JSPS科研費 JP16K00454「政府情 報リテラシーの日米比 較と教育内容の体系 化に関する研究」(基 盤研究(C)、研究代表

    者:古賀崇)の助成に よるものです。 64 クアランプール・シティ・ギャラリーにて (ムルデカ広場となり、River of Lifeにも近い)