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英語教育 “研究” のあり方:学術知とアウトリーチの緊張関係
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TerasawaT
March 01, 2026
Research
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英語教育 “研究” のあり方:学術知とアウトリーチの緊張関係
TerasawaT
March 01, 2026
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Transcript
英語教育 “研究” のあり方 学術知とアウトリーチの緊張関係 1 言語教育エキスポ 2026年3月1日 寺沢拓敬(関西学院大学) Contact: http://terasawat.jimdo.com/
本講演の目的 • 英語教育研究における「知見の実務への還元の仕方/アウト リーチ」の再検討 • 研究倫理の観点から問題を整理 • 不適切な研究アピールの具体例を検討 • 学会・学界が運動体として検討すべき点を提案
2
アウトリーチ (石井・植木, 2026) 基礎科学に比べて,英語教育研究のア ウトリーチは容易 • 実務との距離が近い • というより,そもそも実務(英語教 育)の存在を前提とした学問
「容易=適切にできている」とは限ら ない • 容易なほうが野放図になる事もあり える • 学術知と実務(実践知・意思決定) の間の緊張関係が軽視されるリスク 3 学術知 一般社会 英語教育研究におけるアウトリーチ 学術知 一般社会 特定実務 他の 基礎科学 基礎科学におけるアウトリーチ
医療研究のアウトリーチと比べてみる 医療研究=帰結の重大視・制度設計重視・性悪説的 • 野放図的な情報発信は一般社会(患者および一般市民)への深刻な不利益 • 政府や学会による情報発信ガイドライン 英語教育研究=帰結に対する楽観主義・制度未整備・性善説的 • 「情報発信=善」観 •
「教育的示唆を述べるべし」原理主義 • 情報発信に関するガイドラインはない • そもそも研究関係のガイドライン自体が少なく,よく言えば自由,悪くいえば(略) 5
枠組み: エビデンスベースト英語教育 (EBEE: 亘理ほか, 2021) 前提とするモデル • 処遇 X →
アウトカム Y • 例:特定の指導法 → 英語力向上 このモデルに基づく利点 • 既存の英語教育研究の多くは因果モ デル採用 • エビデンスの根本思想は,現場の意 思決定支援であり,アウトリーチと 相似的 6
不適切事例① 程度問題の無視 7
不適切事例① 程度問題の無視 問題点 • (有意な)効果が存在したことだけを書き, 大きさに言及しない • 微弱効果を実質的効果のように提示 • 統計的有意至上主義,効果量の軽視
建設的対処策 • 効果量の併記を義務付ける • 程度問題を曖昧にすることを倫理違反である ことを周知する 8
不適切事例② チェリーピッキング 9 例文 ◦◦大学が行った△△能力のテストによる と,3歳から英語を学び始めた子供のほう が6歳から始めた子供よりもスコアが高い ことがわかりました。同じ研究者が5年後 に行ったフォローアップ調査でも同様の成 果が報告されています。しかし,××大学
の研究チームが★★★市で行った研究では, むしろ遅く開始した子供のほうがスコアが 高く,論争に決着はついていません。
不適切事例② チェリーピッキング 問題点 • 不都合な研究を無視 • 自説に都合の良い知見だけ「つまみぐい」 • 医学や安全工学など分野によっては深刻かつ重大 な帰結がある(リッチー,
2024) 英語教育研究の現状 • 非倫理性が十分共有されていない • むしろ「一貫性のあるストーリーテリング」とし て評価さえされているかも? 建設的対処策 • 学界内での合意形成 • 【市民リテラシーとして】 「そのレビューはフェアですか」と率直に聞く 10 例文 ◦◦大学が行った△△能力のテストによる と,3歳から英語を学び始めた子供のほう が6歳から始めた子供よりもスコアが高い ことがわかりました。同じ研究者が5年後 に行ったフォローアップ調査でも同様の成 果が報告されています。しかし,××大学 の研究チームが★★★市で行った研究では, むしろ遅く開始した子供のほうがスコアが 高く,論争に決着はついていません。
不適切事例③ 生態学的妥当性の無視 問題点 • 実験室研究の結果を現場効果へ飛躍 • 「つまり」「~かもしれない」で飛躍を正当化 • 「効果がある」と明言しなくても,一般市民にそう思わせるよう な書き方をするのは非倫理的
• 場合によっては法律違反(例,優良誤認) • エビデンスレベルの混同 英語教育研究の現状 • 非倫理性が十分共有されていない • むしろ「明示しないのに,巧みに匂わせるレトリック」が優れた 文章力として評価さえされているかも? 建設的対処策 • 学界内での合意形成 • 【市民リテラシーとして】 「それはエビデンスと言えるんですか」と率直に聞く 11 例文 ◦◦大学が行った実験によると,△△を学 習した直後に脳の××の血流量が有意に上 昇したことが明らかになっています。つま り,△△は,言語学習の効率性を高めるこ とが期待できると言えるかもしれません。
英語教育研究者と「動機づけられた推論」 動機づけられた推論 (motivated reasoning) (林, n.d.) • あらかじめ自身がコミットした方向性に都合がよい形で推論が行われる (=捻じ曲げられる) •
確証バイアス • 例:早期英語プログラムについて,「成果」らしい実証研究・知見・エピソードを 選択的に拾い集める • 特定の方向にだけ発揮される懐疑主義 • 例:早期英語の効果について,否定的な研究に対しては懐疑主義が発揮され,限界 を逐一指摘し,多くを「参考にならない」と切り捨てるのに,肯定的な研究の問題 点は大目に見てレビュー対象にどんどん含める 12
動機づけられた推論は英語教育研究者の宿命? • 純粋な基礎科学的・メカニズム的関心で研究テーマを選んでいる人は少な い • 「Xメソッドに効果があろうがなかろうがどっちでもいいけれど,どっち なのか白黒つけたい!」という動機で始まる研究は比較的少ない • 自分の教育観や実存に動機づけられることは研究を駆動するうえでは適切。 したがって,推論としての不適切さとどこかでバランスをとる必要
13
児童英語推進に動機づけられた研究 1980–90年代の児童英語教育研究の動向 • 「早期英語の有効性の実証」に動機づけられた 研究が隆盛(寺沢, 2020, pp. 32-33) • 疑似科学的脳科学論文の掲載
• 早期英語の意義アピールのために行なわれた… • 程度問題の無視 • チェリーピッキング • 文脈を超えた一般化 14 JASTECプロジェクトチーム. (1986).「早期英語学習経 験者の追跡調査:第一報」『日本児童英語教育 学会研究紀要』第 5 号, 49-67.
15 前掲 JASTECプロジェクト チーム. (1986) の結論 部分 (p. 57)
16 前掲 JASTECプロジェ クトチーム. (1986) の 結論部分 (p. 58)
おとなりの人と話しあってみましょう Q. 80年代の児童英語教育の研究慣行は,学界として反省すべきか? →反省しなくてよい • 個人がやったこと • 問題だが学会としては行動できない • そもそも倫理違反ではない(当時はみんなやってた等)
• 過去のこと。現在は研究水準が向上している →反省すべきだ • 問題であることの合意形成が大事 • 反省のポーズを示さないと不信を招く • 社会正義や誠実性についてきちんと意見表明をする 学会に生まれ変わらなくては 17
現代の小学校英語教育研究は • 質は飛躍的に向上している • 研究倫理やリサーチ方法論への意識の向上? • 学会のサポート体制? • そもそも小学校英語必修で「前のめり」の研究を行う必要がなくなっ た?
• 傍証:年を経るごとに「早期英語の効果・成果」を問う研究が減少し,制度運用 に関する研究が増えている • 例,『JASELE40回大会記念本 (2015) 』と 『同50回記念本 (2025)』の比較 → であれば,問題が解決したわけではなく潜行しただけ 18
蔓延する,動機付けられた「英語教育改革」推論 1) 自治体 • 自治体の成果アピールは野放図 • 「英語教育改革お国自慢」ナラティブ 19 さいたま市 東京都
茨城県境町 (photo by Masaru Yamamoto)
蔓延する,動機付けられた「英語教育改革」推論(続き) 2) 英語学習業者 • アピール性 > 学術的正確さ 20 IBSバイリンガルサイエンス研究所(ディズニー英語システム)
蔓延する,動機付けられた「英語教育改革」推論(続き) 21 教育委員会・ 各校教員 教育業者 テスト業者 学習サービスの提供 言語習得論・教育科学・技術 に関する情報提供 対価
データ(生徒の学力等)の提供 因果推論の知識乏しい 情報発信をめぐる制約なし リサーチ方法論・倫理や教育科 学・技術に関する知識乏しい 3) 教育業者・テスト業者と自治体 • 高度化した教育技術・テストによって,知 識・情報が極度に非対称的に • 「コンサル」化する教育/テスト業者 • 業者側の「ビジネス倫理」頼みであり,研 究倫理(知的誠実性)のような強い制約で はない
提案 学界として • 「動機づけられた推論」のリスク周知 • 研究倫理(情報発信倫理・アウトリー チ倫理) • 科学コミュニケーション上の制約設計 学会として
• 啓蒙 • その前提となる反省 • ガイドラインの設計 • 「健全な批判」の制度化 23
文献 石井雄隆・植木美千子 (2026) 「科学コミュニケーションの観点から考える研究の アウトリーチ:外国語教育の研究成果を社会とつなぐために」『中央評論』 中央大学出版会 寺沢拓敬 (2020) 『小学校英語のジレンマ』岩波書店 林岳彦
(n.d.) 「はじめての「相関と因果とエビデンス」入門:“動機づけられた推 論” に抗うために」https://speakerdeck.com/takehikoihayashi/hazimeteno-xiang- guan-toyin-guo-toebidensu-ru-men-dong-ji-dukeraretatui-lun-nikang-utameni リッチー, S. (2024). 『Science Fictions: あなたが知らない科学の真実』ダイヤモンド 社 亘理陽一・草薙邦広・寺沢拓敬・浦野研・工藤洋路・酒井英樹. (2021). 『英語教育 のエビデンス:これからの英語教育研究のために』 研究社 25