Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

幻想としての自律 ──人とチームが動かない理由と育てるべき力

Avatar for tkkz1009 tkkz1009
September 02, 2025
110

幻想としての自律 ──人とチームが動かない理由と育てるべき力

Avatar for tkkz1009

tkkz1009

September 02, 2025
Tweet

More Decks by tkkz1009

Transcript

  1. 自己紹介 吉野 高一 (Yoshino Takakazu) @tkkz1009 株式会社タイミー DevEnable室 プロフィール 開発組織人事←人事・総務・法務・購買←SI営業←エンジニア 今やってること:

    エンジニア向けの制度企画、オンボーディング、 組織運営含めた社内施策、等など   ジンジニアMeetup企画運営
  2. マネジメントスタイルの変化 従来:命令型マネジメント ・上司が部下に指示・命令を出す ・トップダウン型の意思決定 現在:自律性重視のマネジメント ・メンバーの主体性・自律性を尊重 ・ボトムアップ型の意思決定も重視 現在普及している手法 スクラム ・自己組織化チーム

    ・短期サイクルの改善 1on1ミーティング ・定期的な対話 ・成長支援と関係構築 背景要因 不確実性の高い、変化が目まぐるしい外部環境 問いかけ 「でも、このやり方でうまくいっている組織って、 実際どれくらいあるのでしょうか?」 命令型から⾃律型へのマネジメント変化が進む中、 その実効性について⽴ち⽌まって考える必要があります マネジメント潮流の変化と実効性への問い
  3. 自律に任せたつもりが放置に 近い 遠い 自律 適切な距離感 放置 関与不足 → ・自律を促すつもりが ・コミュニケーション不足に

    ・関与の度合いが低下 結果:2つのギャップ ギャップ1:期待値のズレ 組織の期待 やりたいこと ギャップ2:評価の認識差 実際の評価 成果の自己認知 気づき:自律に必要な前提条件 1. 明確な期待値の共有 2. 定期的なフィードバック 3. 適切な距離感の維持 4. 成長を促す関与 自律と放置は紙一重。 適切な関与がなければ期待値と評価に深刻なギャップが生じます。 マネジメント放置がもたらす2つのギャップ
  4. 学術的にみた「自律性が機能しない理由」 • 自律・有能感・関係性の3欲求が満たされて 初めて動機づけが機能 • 欠けると「やらされ感」や停滞を招く 自己決定理論  (Deci & Ryan,2000)

    目標設定理論 (Locke & Latham, 2002) 心理的安全性 (Edmondson, 1999) • 明確で挑戦的な目標が行動を促進 • あいまいな「任せるだけ」では行動につながらない • 「否定されない」「安心して話せる」環境で学習行動 が生まれる • 安全性が低いと発言が減り、学習も停滞 POINT:「自律は放置では成立しない。理論的にも“支援と環境整備”が前提条件」
  5. 問題状況 ・メンバーの自律性がない状態で  始めた1on1 → ただの雑談 or 業務MTGに  なってしまう 原因 ・メンバーが正解をほしがる

    ・1on1の目的がすりあっていない ・業務の相談が中心になる 悪影響 ・マネージャーが仕事を代行して  いるような状態になる ・メンバーが考えなくなる ・意思決定が遅れる 効果的な1on1のための対策 1. 目的を明確にする ・1on1の目的を事前に明確に設定する ・何を達成したいのかを共有する 2. 業務相談に関するルールを設ける ・業務MTGと1on1の役割を明確に分ける ・自律的な判断を促す質問を心がける メンバーの自律性が低い状態では1on1が形骸化します。 目的の明確化と業務相談の線引きが重要です。 1on1が機能しない原因と効果的な対策 ・メンバー自身の権限で判断できないことだけ意思決定をする
  6. 自律型マネジメントの特性 自律型マネジメントは高度なスキルと 適切な環境設計が必要な難易度の高い手法です 失敗パターン①:放 任 明確な方向性や支援なく 「自分で考えなさい」と任せるだけの状態 失敗パターン②:形式だけの仕組み 制度や仕組みを導入しても 実質的な支援や文化が伴わない状態

    成功のための要件 必要なのは「ケイパビリティを支える設計」 自律性を発揮できる能力開発と環境整備が重要です 自律型マネジメントは「放任」や「形式だけの仕組み」では機能せず、 「ケイパビリティを支える設計」が必要です 自律型マネジメント成功の鍵
  7. ケイパビリティの定義 メタ認知 戦略的思考 関係構築 POINT ケイパビリティは単なるスキルではなく、自律的な行動を支える 総合的な能力の基盤です ケイパビリティは自律的な行動の基盤となります。これらの力が不足していると、 権限を委譲されても効果的に機能せず、期待される成果を出すことができません。 他者と効果的にコミュニケー

    ションを取り、信頼関係を築く能 力です。協働を促進しチームの力 を最大化することができます。 ケイパビリティの3つの構成要素と重要性 全体像を把握し、長期的視点で計 画を立てる能力。複雑な状況を分 析し、最適な選択肢を見出す思考 力を含みます。 自分の思考プロセスを客観的に 認識・分析・調整する能力。 自己の強みや弱みを理解し、学習 と成長を継続的に行います。 組織や個人が持つ「能力」を意味し、知識やスキルだけでなく、それらを効果的に活用して 成果を生み出す総合的な力を指します。 単なる技術や知識の保有ではなく、実践的な価値創出能力を含みます。
  8. 組織の自律性の3段階モデル 自律 部分自律 依存 各段階に適した指示と支援 【自律段階】 ・メンバーが自ら判断し行動できます ・指示:方向性の提示のみ ・支援:高い裁量権の付与とコーチング 【部分自律段階】

    ・一部の判断と行動が自律的に行えます ・指示:基準の明確化 ・支援:部分的な裁量権の付与と定期的なフィードバック 【依存段階】 ・指示がないと行動できません ・指示:役割と手順の明確化 ・支援:密接な指導と具体的なフィードバック POINT エンパワーメントは組織の成熟度によって効果が変わる 「任せれば育つ」という単純な考え方は危険です 組織の自律性は段階的に発展し、各段階に適した指示と 支援の設計が成功の鍵となります 組織の自律性を高める3段階アプローチ
  9. 自律性に固執しない 自律性は目的ではなく手段であることを 理解しましょう。 POINT ・過度な自律性の追求は逆効果になる  場合があります ・組織の成熟度に合わせた自律性の  レベルを設定しましょう ・自律と支援のバランスを常に  見直すことが重要です

    ・目標達成のための最適な手段として  自律性を位置づけましょう 組織・メンバーに合わせた支援 一律の支援ではなく、状況に応じた 適切な支援を設計します。 支援の種類 ・スキルレベルに応じた段階的支援 ・チームの成熟度に合わせた介入 ・個人の特性を考慮したアプローチ ・プロジェクトの複雑さに応じた  サポート体制 ・状況変化に柔軟に対応できる  支援の仕組み 効果的な仕組みの実践 実際に効果のあった具体的な手法を 取り入れましょう。 効果的な手法 問いの設計 ・思考を促す適切な問いかけ ・自己発見を促す質問の工夫 フィードバックの仕組み ・定期的な振り返りの場の設定 ・多角的な評価システム ・改善につながる具体的な指摘 自律性に固執せず、状況に応じた支援と効果的な仕組みで 組織の再設計を成功させましょう 組織再設計の3つの実践的ヒント 自律性を主体と する場合マネジ メント難易度が 高く、レベルの 高いMgrアサイン が必要になる
  10. 「任せれば育つ」の幻想 ・明確な指示なく任せるだけでは  チームメンバーは混乱します ・放任と権限委譲は異なります ・成長には適切な支援が必要です 自律を支える土台づくり 自律的な 行動 明確な期待値 と権限

    適切な支援 と環境整備 自律を育むには段階的な土台づくりが必要です あなたのチームへの問い あなたのチームは "任せられる準備"が できていますか? 自律を支える具体的な要素 ・明確な目標と期待値の設定 ・適切なフィードバックの仕組み ・失敗を学びに変える文化 ・必要なスキルの習得支援 ・定期的な振り返りの機会 自律を育む3つのステップ 1 現状の土台を評価する 2 不足している要素を特定する 3 段階的に自律の範囲を広げる 自律的なチームを育てるには「放任」ではなく 「適切な支援と環境整備」が不可欠です 「任せれば育つ」は幻想、自律を支える土台づくりが本質