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「熊本県内バス・電車無料デー」の振り返りとその後の展開@土木計画学SS:成功失敗事例に学ぶ公共...

Traffic Brain
November 17, 2024

 「熊本県内バス・電車無料デー」の振り返りとその後の展開@土木計画学SS:成功失敗事例に学ぶ公共交通運賃設定

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November 17, 2024
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  1. 2 話題 ①2019年「熊本県内バス・電車無料デー」 ②日本各地への広がり sponsored by 地方創生臨時交付金 ③熊本における展開 • 熊本市による無料デー、事業者による100円の日

    • 「利用者2倍」に向けた政策的割引 • 「渋滞なくそう半額パス」 • 乗継割引の試算、乗り放題パスの提案 ④運賃政策の転換点
  2. 8 振り返り ◼ きっかけ • バスターミナル併設の商業施設「サクラマチクマモト」開業日に渋滞が起きないように、 九州産交ホールディングスの社長が無料化の方針を提示(行政ではできない、民間ならではの決断) ◼ 展開 •

    太田が九州産交バスの遅延改善をしていたら、同社の今釜さんから本件を聞き、 データ活用の検討をしていたYahoo!の協力を得て、産官学の分析チームを発足 ◼ 結果 • 普段の2.5倍の利用、経費2500万円(うち運賃補填1700万円)の20倍の消費効果 • 開業したサクラマチクマモトは大盛況、市街地も人であふれ、県内観光地にも一定の集客 • バスは大混雑し遅延したが、一般車の渋滞はやや減少 ◼ 影響 • 運賃で人の移動や街の姿が変わるのを市民と体感 • 「年間90億円、県民あたり5000円強で乗り放題にできる」と社長や熊本市長も認識 • 日常に適用するには楽観的すぎる数字だが • また次も、という気運が地元で生まれたが、コロナで中断(個人的にはそれより日常の運賃に関心)
  3. 10 日本各地への広がり sponsored by 地方創生臨時交付金 地域・実施主体 年度・対象日 金額 利用倍率 長期的効果、現況など

    岡山市 (バス・路面電車) 2021 休1日・金1日 無料 休2.4倍、金1.6倍 • その後利用が増えたと答えた人が、 普段利用者30-44%、その他17% • 2024年度は路線再編等へシフト • 担当者の声 「2021年度は交付金の性質上ば らまかなければいけないお金」「今はばらまきよりも 投資」 • 宇野バスは独自の無料デーも追加実施 2022 休8日 無料 1.4~2.4倍 2023 休5日 無料 2.1~2.4倍 高知市 (バス・路面電車) 2021 休20日(3ヶ月) 無料 2020年比 2.49倍 2019年比 1.48倍 • 長期的な効果は不明 • 現在は実施していないが、検討会資料では運賃 割引への期待の声は散見 • 2022年は100円チャージICカード2万枚が2ヶ 月で完売 2022 休20日(3ヶ月) 現金100 IC10 2020年比 2.47倍 2019年比 1.47倍 佐賀県 (バス) 2022 日9日・水8日 無料 日1.61倍、水1.37倍 • 今後の利用意向について「積極的に利用したい」 25%「たまに利用したい」71% 2023 日4日・水5日 無料 ? 近江鉄道 2022 日1日 無料 12倍(非定期比) • タイアップイベントを2022年度は大々的に実施 • 「利用回数が増えた」13% • 2023-2024年度は「ガチャフェス」と同時開催 2023 土1日 100円 小人無料 6倍(非定期比) • その他、県単位では沖縄県(日水)・大分県(日水)、市単位では多数実施例あり • 利用倍率は休日のバスでは2倍前後が多い印象
  4. 13 熊本市による無料デー、事業者による100円の日 地域・実施主体 金額 年度・対象日 利用倍率 経済波及 事業費 備考 熊本市

    (鉄道(除JR) ・バス) 無料 2022/12/24土 1.5倍 1.1億 0.20億 • 道路の速度向上は見られ ない 2023/03/18土 1.7倍 1.6億 0.20億 2023/10/07土 1.8倍 1.8億 0.24億 2023/12/23土 1.7倍 1.9億 0.24億 100円 2024/02 1週間 調査中? ← ← ← 地域:熊本県 10/1実施主体: 花畑広場みらい創 造共同企業体 11/5実施主体: 共同経営推進室 100円 小人無料 2022/10/01土 1.13倍 ? 0.1億? • LINEチケット& ID連携をした人の 月間利用数が前年比 13.5→17.6回/月 LINE3162枚×4.1回 →12,964回/月の 利用増 2022/11/05土 1.20倍 ? 0.1億? • 100円で利用者が2倍、というような楽観的なことは起きなかった • 個人的には正直、何のためにやってるのかよくわからなかった • 2021/12/24(金)の渋滞が酷かったので、2022/12/23(金)の無料デーを提案したが、混雑が懸念され採用されなかった
  5. 14 14 利用者2倍に向けたアプローチ サービス(路線・ダイヤ) × 所要時間(速達性・定時性) × 運賃(割引) × 認知(案内・PR)

    縮小均衡を超えた人員確保 と増便には多大な費用 バスレーン等が必要 定時性は事業者の ダイヤ次第で改善可能 事業者負担では限界 政策的割引の確立へ 比較的低コストだが 効果はチリツモ 橙色:公的投資の覚悟が必要
  6. 17 乗継割引による渋滞緩和(太田推計) ◼乗継割引 • バス⇔バス、バス⇔市電/電鉄/JRの初乗り分を公費で補填 • 割引により乗継が2倍(現在約6%→12%)と仮定 • 乗継増加のうち7割が新たな公共交通利用と仮定 ◼利用増・収支

    • 年207万人(10%)利用増、4.4億円減収補填 ◼渋滞解消効果(増便・バスレーンに加えて) • 速度:15.1→15.5km/h(中央区平日8時)、走行時間:61万時間短縮 • 便益:16.2億円(公費支出の3.7倍の効果) シナリオ 推計結果
  7. 18 熊本都市圏パス イメージ(太田私案) ◼対象者 • 熊本都市圏 全員 ◼区間 • 熊本都市圏内の路線

    ◼期間 • 曜日、時間帯を問わず (定期 兼 オフピーク私用兼用) ◼価格 • 一般:8,000円/月、64,000円/年 • 水前寺公園→桜町BT1ヶ月定期: 240円×2(往復)×30日×0.6 = 8640円 • 学生:5,000円/月、40,000円/年 ◼財源 • 公費投入 ◼メリット • 雇用主:通常の定期と同程度の価格で支給でき る、駐車場の資産価値と張り合える • 従業員:会社に買ってもらった通勤定期で、 実質タダでどこにでも行ける、飲んで帰れる。 通勤用の車が不要 • 親:自転車に対抗できる価格設定、通塾などに も使える • 学生:親から買ってもらった通学定期で、 実質タダでどこにでも遊びに行ける ◼社会的便益 • 渋滞削減 (熊本市で1トリップ削減が約1182円の便益) • 自転車事故削減 • 送迎の負担軽減 運転手確保を前提に、実現を検討したい
  8. 20 20 運賃政策の転換点 道路運送法 熊本の課題 対象交通 (今や)超大都市交通 大都市交通 市場 採算・寡占市場

    部分採算市場(採算ベースでは縮小均衡) 運賃提案者 交通事業者 主に自治体(事業者から提案中) 運賃承認者 運輸局 実質地方議会? 解決したい課題 事業者の暴利 交通渋滞(・運転手不足) 解決方法 総括原価方式 暴利を得てないからOK 交通分担からの逆算 公共交通が選ばれるための水準 外部性の考慮 なし 車からの転換が主眼 費用負担 利用者 (+実態は外部/内部補助) 利用者・行政(・渋滞源企業) による分担 主たる運賃形態 普通運賃(特に上限) 割引 (サブスク・若者・高齢者・乗継…) 対象者ごとの差 一律が原則 積極的に差をつける 原価で決まるのではなく、社会課題解決のために決める運賃の方法論が必要