Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

熟達者の思考過程に基づく仮説設定の段階的な指導

 熟達者の思考過程に基づく仮説設定の段階的な指導

日本理科教育学会第68回全国大会 岩手大会 2018年8月5日

Daiki Nakamura

August 05, 2018
Tweet

More Decks by Daiki Nakamura

Other Decks in Education

Transcript

  1. PISA2015の枠組み 4 科学的リテラシー S c i e n t i

    f i c L i t e r a c y (OECD,2016) ① 現象を科学的に説明する力 ② 科学的な調査のデザインと評価の力 ③ データと証拠を科学的に解釈する力 仮説設定能力 コンピテンシーの構成要素
  2. 学習者の実態 6 (益永・小林,2006) (今田・小林,2004) 0 28% 62% 10% 仮説を立てる能力は生徒に定着しているか ◆中学校教員へのアンケート

    定着していない ◆大学生へのアンケート 小~高等学校で仮説を立てた経験はどの程度あるか 9.7 34.1% 44.2% 12.0 経験が少ない
  3. 仮説設定の思考過程 7 目標 方向性 因果関係 変数同定 問題理解 仮説の表現 ⚫ 仮説設定における大学生の思考過程

    (中村・松浦,2018) • 目標・方向性を明確化した方が、合理的な思考になりやすい (中村・松浦,印刷中) 従来:知識や経験をもとに仮説を立てている
  4. 認知的徒弟制 8 徒弟制 ⚫ 雑用から始める中で、 作業過程全体が見えている ⚫ それぞれの作業が、製品を 完成させるという目標の 中に位置づけられている

    認知的徒弟制 ⚫ 熟達者の思考過程を提示し、 全体像が見えるようにする ⚫ 学習が文脈に埋め込まれ ている Collins & Kapur(2014)
  5. 調査の概要 11 対象 小学校第5学年 計120名 時期 2018年 4月 ~ 5月

    調査方法 2種類の調査問題 熟達者の思考過程を提示した際の児童の思考の把握
  6. 調査の流れ 12 補助なしで 仮説設定を求める 補助ありで 仮説設定を求める 質問紙調査の実施 「自分なりに説明してみよう」 自然現象 思考過程1

    思考過程5 ~ 理科における認知欲求尺度 (雲財・中村,2018) ワークシート ワークシート 自然現象
  7. 結果1 17 類型 人数 比率 空気や水が入っているから圧力でつぶれない 2 3.2% 水は縮まないから, 重さを水が分散させる

    6 9.7% 豆腐が軽いから, 豆腐自体が軽い 2 3.2% 容器の構造が関連している 12 19.4% 空気があるから 7 11.3% 水が関連している 5 8.1% その他 10 16.1% 無答 18 29.0% ⚫ 豆腐のパック ―補助なし 因果関係 まで説明 変数への 着目のみ 因果関係まで説明(n=10)…16.1% 変数への着目のみ(n=34)…54.8% 無答 (n=18)…29.0%
  8. 結果2 18 類型 人数 比率 標高の高いところのほうが、 日光や雨が先に当たるから育ちやすいため 1 3.0% 温度変化に驚いて色が変わる

    1 3.0% 葉が温度を上げるために赤くなる 2 6.1% 木が寒いと感じるのが早いから 2 6.1% 紅葉してだんだんと高いところから低くなる 1 3.0% 気温が下がると紅葉する 3 9.1% その他 4 12.1% 無答 18 57.6% ⚫ 紅葉の進み方 ―補助なし 因果関係 まで説明 変数への 着目のみ 因果関係まで説明(n= 6 )…18.8% 変数への着目のみ(n= 8 )…25.0% 無答 (n=18)…56.2%
  9. 結果の比較1 19 ⚫ 豆腐のパック 因果関係まで説明(n=10)…16.1% 変数への着目のみ(n=34)…54.8% 無答 (n=18)…29.0% 補助あり 因果関係まで説明(n=

    8 )…24.2% 変数への着目のみ(n= 8 )…24.2% 無答 (n=17)…51.5% 補助なし • 因果関係まで説明できる比率が上がった • 無答の比率が上がった →思考過程の途中であきらめてしまう児童
  10. 結果の比較2 20 ⚫ 紅葉の進み方 補助あり 補助なし 因果関係まで説明(n= 6 )…18.8% 変数への着目のみ(n=

    8 )…25.0% 無答 (n=18)…56.2% 因果関係まで説明(n=18)…28.6% 変数への着目のみ(n=12)…19.0% 無答 (n=33)…52.4% • 因果関係まで説明できる比率が上がった • 無答の比率は、高いまま
  11. 2問を統合した分析 21 ⚫ ベイズ統計学に基づく残差分析 e > 0 (%) 低 ←

    合 理 性 → 高 無答 変数 因果 補助なし 3% 100% 5% 補助あり 97% 0% 95% 補助あり↔因果まで説明 95%の確率で関連がある n 低 ← 合 理 性 → 高 無答 変数 因果 補助なし 36 42 16 補助あり 50 20 26 補助あり↔無答 97%の確率で関連がある 仮説1 合理的な仮説設定が 促進される
  12. 躓きの傾向 24 変数の同定 見出した変数を用いて、 現象に応じた因果関係を認識できている 77.4% 見出した変数を用いて因果関係を説明して いるものの、現象には関係のないものに なっている 6.5%

    因果関係を説明できていない 16.1% 因果関係の認識 見出した変数の数 多くの児童が、複数の 変数を見出せていない 仮説2:学習者の躓きを明らかにできる