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文系・理系の自己認識の形成時期に関する一考察

Daiki Nakamura
September 18, 2022

 文系・理系の自己認識の形成時期に関する一考察

日本科学教育学会第46回年会
2022年9月18日
3G2-J1 pp.564-567

Daiki Nakamura

September 18, 2022
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  1. 文系・理系の自己認識の形成時期に関する一考察 1 中村 大輝 (広島大学) 松浦 拓也 (広島大学) 2022年9月18日 日本科学教育学会年会

    @オンライン 全17枚+補 日本科学教育学会第46回年会 3G2-J1 pp.564-567
  2. 理系人材の需要増加と理系離れ 2 ⚫ 理系人材の需要増加 • STEM領域の職業需要が世界的に増加傾向にある • 米国労働統計局(BLS)の2019-29年の雇用予測(Zilberman & Ice,

    2021) • 職業全体の予測成長率 +3.7% • STEM領域の職業 +8.0% ⚫ 理系離れの問題 • 2000年以降の20年間で理学・工学分野の大学生が約19600人減少(科学技術・学術政策研究所,2021) • 小学校から中学校にかけて理系科目の学習意欲は低下傾向(国立教育政策研究所,2022) ➢ 「理科の勉強は好きですか」 「将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか」 – 小6:〇79.8% △20.1% 小6:〇26.7% △73.1% – 中3:〇66.5% △33.4% 中3:〇22.6% △77.2% • 高校3年生で理系コースを選択する生徒の割合は約22%と文系の半分程度(国立教育政策研究所, 2013) • 理系離れが指摘されている(e.g., 長沼,2015) • 文系・理系という枠組み自体にも問題はあるが、理系選択者を増やすことは重要な課題
  3. 文系・理系選択の時期とその要因 3 • 多くの高等学校では第2学年の4月に文系・理系コースが分かれる(国立教育政策研究所,2013) • 高校生を対象としたキャリア教育や理系キャリアイベントが多く実施されている • しかしながら、近年の調査では中学校の段階で文系・理系の自己認識が形成される可能性が 複数指摘されている ➢

    Maltese & Tai (2010):物理・化学の学位を持つ人たちの65%が中学卒業までに科学 に興味を持ち始めていた ➢ 花野木ら(2017): 文系・理系を選択した時期(高校生307名) – 特に、理系の方が早期に決定されている ➢ 岡本(2020): 学校の教科の学習を通した自身の適性の自覚や他者からの影響などを 通して文系・理系の自己認識が形成される 時期 小4以前 小5 小6 中1 中2 中3 高1 文系 3% 3% 1% 13% 11% 31% 38% 理系 1% 7% 6% 13% 17% 36% 20% 80%
  4. 本研究の目的とリサーチクエスチョン(RQ) 4 ⚫ 目的 文系・理系の自己認識の形成時期を明らかにすること ⚫ 仮説 すでに中学校段階で文系・理系の強固な自己認識が形成されている ⚫ 方法

    中学3年から高校3年までの継続的な縦断調査のデータを分析 分析1:自身の文理適性を意識した時期の分析 分析2:文系・理系の自己認識の変遷過程の分析 分析3:将来の文系・理系選択の予測精度の分析
  5. 研究の方法:使用データ 5 ⚫ 「子どもの生活と学びに関する親子調査」 • 東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2015年より毎年 実施している縦断調査 • 対象は、全国の小学1年生から高校3年生の子供とその保護者 •

    母集団(日本の子供)に対する代表性が担保されている ⚫ 今回の使用データ • 本研究では、初年度に中学3年生だった集団に注目し、 中学3年(2015年)から高校3年(2018年)にかけての毎年の回答データ を分析に使用する(N use = 1000) 2015年 夏 中学3年 2016年 夏 高校1年 2017年 夏 高校2年 2018年 夏 高校3年 2019年 春 高校卒業
  6. 分析1:自身の文理適性を意識した時期 6 ◆ 高校卒業時(2019年春)の質問項目 1.意識したことはない 156名(15.6%) 2.小学生のころ 111名(11.1%) 3.中学生のころ 345名(34.5%)

    4.高校1年生 290名(29.0%) 5.高校2年生 78名(7.8%) 6.高校3年生 20名(2.0%) ◼ 回答集計(N = 1000) ➢ 約半数は、中学生のころまでに文理適性 を意識し始めている ⇒ 本研究の仮説が支持された 45.6% • 本研究の仮説が正しければ、中学生のころまでに意識したという回答が多く見られるはず
  7. 分析2:文系・理系の自己認識の変遷過程 7 ◆ 毎年設定されていた質問項目 • 本研究の仮説が正しければ、文系・理系の自己認識は中3から高3にかけて 入れ替わりの少ない固定的な状態が見られるはず

  8. 結果2:文系・理系の自己認識の変遷過程 8 中学3年夏 高校1年夏 高校2年夏 高校3年夏 高校卒業 時 n =

    369 文系層:35.77% 中間層:23.30% 理系層:40.92% 文系層:42.00% 中間層:16.53% 理系層:41.46% 文系層:50.68% 中間層:11.65% 理系層:37.67% 文系層:50.13% 中間層:12.73% 理系層:37.12% 文系:58% 理系:42%
  9. 考察2:文系・理系の自己認識の変遷過程 9 • すでに中学3年の時点で全体の76.7%が文系・理系の自己認識を形成している • 緑で示す文系層と青で示す理系層の間での入れ替わりは4年間を通して少ない • 文系・理系の認識者数の増減は「3.どちらともいえない」を選択していた中間層が 自己認識を形成することで生じている •

    中学3年時点では文系よりも理系の自己認識を持つ者が多かったのに対して、高校入 学以降は中間層が文系へ相対的に多く流れることで高校1年時に逆転が生じる • 高校2年以降は文系の自己認識を持つ者が相対的に多い状況が続いている • その結果として、高校卒業時の在籍コースは理系よりも文系の方が多い状況となって いる • 以上の結果から、中学3年から高校3年にかけて文系・理系の自己認識は固定的 ⇒ 本研究の仮説が支持された
  10. 分析3:将来の文系・理系選択の予測精度の分析 10 ⚫ 中学3年時の質問紙34項目のデータを用いて、高校卒業時点の在籍コース(文系/理 系)をどの程度の精度で予測できるかを検討 • 本研究の仮説が正しければ、高い精度で在籍コースを予測できる=中学段階から固定的 ✓ 訓練データ(n =

    500)とテストデータ(n = 179)に分割 ✓ 6つの機械学習モデルによる予測 2015年 夏 中学3年 2019年 春 高校卒業 ◆質問紙34項目 1. 性別 2. 学習意欲 3. 学習時間 ⋮ 35. 経済状況 機 械 学 習 モ デ ル ◆卒業時の在籍 1. 文系コース 2. 理系コース 予測
  11. 使用した機械学習のモデル 11 ⚫ ナイーブベイズ(Naive Bayes) • ベイズの定理に基づき特徴量に条件づけられた場合のカテゴリー分類確率を推定するシンプ ルなモデル ⚫ ニューラルネットワーク(Neural

    Network) • 入力された特徴量の線形変換をネットワーク状に複数階層繰り返すモデル ⚫ ランダムフォレスト(Random Forest) • 訓練データからのブートストラップサンプルを使用して構成した複数の決定木(CART)の 結果を並列に統合するアンサンブル学習の一種 ⚫ サポートベクターマシン(Support-Vector Machine, SVM) • データを分割する境界面に最も近いデータ点同士の距離を最大化するよう推定を行うモデル ⚫ Xgboost • 複数の決定木の結果を直列に統合することで誤差を小さくしていくモデル ⚫ 深層学習(Deep Learning) • ニューラルネットワークをより複雑化した応用的モデル
  12. ニューラルネットワークとディープラーニングのモデル 12 入力層(中3時の質問紙) 出力層 隠れ層 理系/文系 (高3卒業時) ドロップアウト (20%) シグモイド関数

    ドロップアウト (20%) ニューラルネットワーク:隠れ層1、ドロップアウト層2 ディープラーニング :隠れ層4、ドロップアウト層4
  13. 入力層のデータ一覧(中3時点) 13 • 性別 • 母親:最終学歴 • 父親:最終学歴 • 世帯収入

    • 時間:携帯電話やスマートフォンを使う • 時間:学校の宿題をする • 時間:学校の宿題以外の勉強をする(学習塾の時間 を除く) • 学習塾:週あたりの回数 • 生活習慣:朝ごはんを食べない • 人間関係:親に悩みを話す • 情報機器:パソコン • 情報機器:スマートフォン • 経験:美術館や博物館に行く • 経験:自分の進路(将来)について深く考える • 経験:疑問に思ったことを自分で深く調べる • 経験:夢中になって時間がたつのを忘れる • 経験:難しいことができて自信がつく • 学校:授業が楽しい • 「勉強」がどれくらい好きか • 教科好き:国語 • 教科好き:算数、数学 • 教科好き:理科 • 教科好き:社会 • 成績:国語 • 成績:算数、数学 • 成績:理科 • 成績:社会 • 自分のことを「文系」だと思うか「理系」だと思う か • 得意:図や表(グラフ)を見て理解すること • 得意:問題の解き方を何通りも考えること • 得意:難しい問題にじっくり取り組むこと • 得意:論理的に(筋道を立てて)考えること • 自分:自分の良いところが何かを言うことができる • 自分:将来の目標がはっきりしている
  14. 結果3:将来の文系・理系選択の予測精度の分析 14 • 中学3年時点で71.8%、高校1年時点で76.3%の確率で将来の文系・理系選択の予 測に成功していた ⇒ 本研究の仮説が支持された モデル 中3時点 高1時点

    Naive Bayes 69.9% 73.3% Neural Network 69.2% 73.6% Random Forest 70.7% 75.6% SVM 71.8% 76.3% XGboost 70.7% 74.7% Deep Learning 69.2% 73.3% ◼ モデルごとの予測精度(20 回平均)
  15. 総合考察 15 • 本研究の仮説は「すでに中学校段階で文系・理系の強固な自己認識が形成されている」 というものであった • 中学3年から高校卒業までの縦断調査を対象に行った二次分析の結果は、3つの分析とも に本研究の仮説を概ね支持する結果であった • 学校教育の中で各教科の成績を教科間で比較したり、他者と比較したりする中で、小・

    中学校の段階から各教科に対する適性が自覚され、文系・理系の自己認識が形成されて いると考えられる • 文系・理系の自己認識は、中学3年からの4年間を通して変化しにくい固定的な状況にあ り、自己認識を双方の間で変更する者は稀である • 本研究の仮説が支持されたことは、理系人材を増やすことを目的とした今後の介入を早 期化する必要性を示している
  16. まとめ 16 ⚫ 目的 文系・理系の自己認識の形成時期を明らかにすること ⚫ 仮説 すでに中学校段階で文系・理系の強固な自己認識が形成されている ⚫ 方法・結果

    中学3年から高校3年までの継続的な縦断調査のデータを分析 分析1:自身の文理適性を意識した時期の分析 ⇒ 約半数が中学卒業までに文理適性を意識 分析2:文系・理系の自己認識の変遷過程の分析 ⇒ 中3から高3にかけて文系・理系の自己認識は固定的 分析3:将来の文系・理系選択の予測精度の分析 ⇒ 中3時点で3年半後の文理コースを71.8%の精度で予測可能
  17. 参考・引用文献 17 • ベネッセコーポレーション(2005):平成17年度経済産業省委託調査 進路選択に関する振返り調査 ―大学生を対象と して―. Retrieved from https://berd.benesse.jp/koutou/research/detail1.php?id=3170(2022年6月17日)

    • Chen, T., & Guestrin, C. (2016): Xgboost: A scalable tree boosting system. In Proceedings of the 22nd acm sigkdd international conference on knowledge discovery and data mining (pp. 785–794). • 花野木政信, 磯崎哲夫, 林武広(2017):大学進学を目指す高校生の文系・理系コース選択の時期と要因―特に中学校理 科の内容理解に関連して―. 日本教科教育学会誌, 40, 1, 85–93. • 科学技術・学術政策研究所(2021):科学技術指標2021. Retrieved from http://hdl.handle.net/11035/00006696 (2022年6月17日) • 木村治生(2020):「子どもの生活と学び」研究プロジェクトについて, 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研 究所(編)子どもの学びと成長を追う:2万組の親子パネル調査から(pp. 3–26),勁草書房. • 国立教育政策研究所(2013):中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究 最終報告書. Retrieved from https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h24/2_3_all.pdf(2022年6月17日) • 国立教育政策研究所(2018):平成30年度 全国学力・学習状況調査 報告書. • 国立教育政策研究所(2022):令和4年度 全国学力・学習状況調査 報告書. • Maltese, A. V., & Tai, R. H. (2010): Eyeballs in the fridge: Sources of early interest in science. International Journal of Science Education, 32, 5, 669–685. • 長沼祥太郎(2015):理科離れの動向に関する一考察 ―実態および原因に焦点を当てて―. 科学教育研究, 39, 2, 114– 123. • 岡本紗知(2020):文系観・理系観の形成プロセスの解明―国立大学の学生を対象としてー. 科学教育研究, 44, 1, 14– 29. • Tai, R. H., Qi Liu, C., Maltese, A. V., & Fan, X. (2006): Planning early for careers in science. Science, 312, 5777, 1143–1144. • Zilberman, A., & Ice, L. (2021): Why computer occupations are behind strong STEM employment growth in the 2019–29 decade. Computer, 4(5,164.6), 11-5.
  18. 補足:サポートベクターマシーン(SVM) 18 https://kit.socinno.com/2_3_ai/

  19. 補足:ランダムフォレストとXGboost 19 ⚫ ランダムフォレスト ⚫ XGboost https://toukei-lab.com/xgboost