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A Theory of Scrum Team Effectiveness 〜『ゾンビスクラムサ...

Takeo Imai
January 11, 2024

A Theory of Scrum Team Effectiveness 〜『ゾンビスクラムサバイバルガイド』の裏側にある科学〜

Regional Scrum Gathering Tokyo 2024での講演資料です。
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2023年、ソフトウェア工学分野の論文誌であるTOSEM[1]、およびトップカンファレンスであるICSE 2023[2]に、スクラムに関する1本の論文が同時に採択されました。

僕は50ページを超えるその論文を読んで衝撃を受けました。こういう学会に投稿されるスクラム・アジャイルの論文は、アジャイル実践者の目線からするとあまりピンとこないものもあるのですが、この論文はまず、そういった点で一分のスキもありませんでした。
ただの研究者ではない、明らかにスクラム実践者が書いた論文でした。

一体誰が書いたのか、と思って調べてみると、2人の著者 Christiann Verwijs と Daniel Russo のうち、Christiaan Verwijsはあの『ゾンビスクラムサバイバルガイド』の著者の1人でした。

論文の内容は、スクラムチームが有効に機能するために鍵となる5つの要因(Key Factor)とその間の関係を、7年間の研究の末に洗い出したというものです。

そして、それらのKey Factorは、書籍『ゾンビスクラム〜』に記載された、チームが「ゾンビスクラム」の状態に陥る4つの症状と対応していました。つまり、この論文は『ゾンビスクラム〜』の理論的根拠となっていたものです。「ゾンビスクラム」はただの思いつきで定義されたものではなかったのです。

更に驚くべきは、彼らは7年の研究の中で明らかにした5つのKey Factorを元に、スクラムチームの効果性を客観的に評価するWebサービス("Scrum Team Survey")を開発しました。現在9000チームがこのサービスを利用しているとのことです。

彼らの研究は、完成された論文として学術界でも認められると同時に、Webサービスや書籍という形で実践者向けにも成果が非常にプラクティカルな形で提供されていて、私の知る限り、最も成功したスクラムの学術研究と見ることができます。

このセッションでは、書籍『ゾンビスクラム〜』では語られきれなかった彼らの研究成果を、論文 "A Theory of Scrum Team Effectiveness" を中心に紐解き、実践者向けに優しく解説します。同時に、関連するスクラム・アジャイルの学術研究に関する論文を紹介し、現在学術界でどこまでスクラムが科学的に研究され、何が明らかになっているのかを解説します。

更には、私が彼らの研究に触発されて始めたスクラムの実証研究について、この時点での成果を紹介できればと思っています。

[1] ACM Transactions on Software Engineering and Methodology
[2] The 45th International Conference on Software Engineering

Takeo Imai

January 11, 2024
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Transcript

  1. フリーランスアジャイルコーチ § スクラム導⼊⽀援、プロダクトマネジメント⽀援、 開発組織づくり⽀援 § 現在は主に ログラス にてスクラムマスター ソフトウェア⼯学研究 §

    以前、某電機メーカーの研究所にて企業研究者 § 現在、国⽴情報学研究所 にてスクラムの研究 § 本⽇はこのポジションに就いた経緯の話 2024/1/11 2
  2. § もともとソフトウェア⼯学の研究者だった私 は、気まぐれに⾯⽩そうな論⽂を漁っていま した。 § すると、その年のICSE(ソフトウェア⼯学で 世界最⼤のカンファレンス)に1本だけ、 スクラムの論⽂が発表されていました。 § TOSEM(ソフトウェア⼯学分野でトップクラスの

    論⽂誌)と同時採択されたものだった § スクラムの研究なんてまともにできっこない、 と従来から思っていた私は、⼤した期待も せずその論⽂を読んでみることにしました。 2024/1/11 4
  3. Christiaan Verwijs § オランダ在住のアジャイルコーチ § Scrum.org トレーナー § The Liberators

    共同代表 Daniel Russo § デンマーク Aalborg⼤学 准教授 6 2024/1/11 このうち Christiaan Verwijs は、 『ゾンビスクラムサバイバルガイド』の著者の1⼈だった
  4. § この研究における 理論 とは、観測された現象を説明するための概念的 枠組みのこと § 研究の過程で観測された現象は全て説明できないといけない (少なくとも⽭盾しない) § 観測していない現象について説明できるかどうかはわからない

    § その点で、物理や数学でいう理論とは違う § 分析⽅法や分析者の着眼点によって「説明」のしかたは変わる § 理論に現れない要因が「意味がない」わけではない § 実質的に「モデル」だが、この研究では統計的な裏付けも取っている 12 2024/1/11
  5. 2. 質的分析(ジオイア法)を使ってKey Factorの洗い出し、 仮説モデルを作成 2024/1/11 16 1次:観察とコンセプト 2次:テーマ Key Factor

    スプリントプランニング中にそのスプ リントで何をやるか考えているため、 ⻑引く傾向にある リファインメント 反応性 スプリントで必ず1つはリリース可能 なインクリメントを⽣み出している リリース頻度 反応性 要らなくなったPBIをチームで頻繁に 捨てている 価値への集中 ステークホルダーへ の関⼼
  6. 19 チームの 効果性 ステーク ホルダー への関⼼ 反応性 継続的改 善 チームの

    ⾃律性 マネジメン トの⽀援 チーム の⼠気 ステーク ホルダー 満⾜度 2024/1/11
  7. 20 • ステークホルダーに対して頻繁に リリースするチームはより効果的 • モチベーションへの効果も⼤きい 先⾏研究 [25, 74, 77]

    と⼀致 チームの 効果性 ステーク ホルダー への関⼼ 反応性 継続的改 善 チームの ⾃律性 マネジメン トの⽀援 チーム の⼠気 ステーク ホルダー 満⾜度 2024/1/11
  8. 21 チームの 効果性 ステーク ホルダー への関⼼ 反応性 継続的改 善 チームの

    ⾃律性 マネジメン トの⽀援 チーム の⼠気 ステーク ホルダー 満⾜度 2024/1/11 • 反応性だけでは不⼗分で、 リリースに価値を乗せないとい けない • スプリントレビューからの フィードバック、ゴールの共有、 価値への集中 が重要 • チームの効果性にもダイレクト に効く 先⾏研究 [152] と⼀致
  9. 22 チームの 効果性 ステーク ホルダー への関⼼ 反応性 継続的改 善 チームの

    ⾃律性 マネジメン トの⽀援 チーム の⼠気 ステーク ホルダー 満⾜度 • 反応性、ステークホルダーへの関⼼ の2つに影響 • 特に反応性への影響が強い • 「チームの学習能⼒が⾼い」とも⾔ い換えられる • チーム/組織の境界をまたぐときに特 に効果的 [36, 78] 先⾏研究 [143] に⼀致 2024/1/11
  10. 23 チームの 効果性 ステーク ホルダー への関⼼ 反応性 継続的改 善 チームの

    ⾃律性 マネジメン トの⽀援 チーム の⼠気 ステーク ホルダー 満⾜度 • 継続的改善とステークホルダーへの 関⼼ の先⾏条件 • 反応性への影響 … ⾃律的なチーム ほど⾃分たちの開発にオーナーシッ プを持つ [76] • チームの効果性を改善したければ、 ⾃律性向上に投資すべき [40, 104, 107, 109, 110]
  11. § ステークホルダーへの関⼼ への直接の影響は 確認できなかった § 何を作るべきかを決める権限をPOが持つチーム と、持てないチームが確認できた § POがそういった権限を持つと、チームが ステークホルダーへの関⼼を持つようになる

    の では、と予想したが、⽀持されなかった § これは、 § What の意思決定能⼒(”product mandate”) と § How の意思決定能⼒(⾃⼰管理) が互いに独⽴しているからでは § しかし、これを裏付ける⽂献は⾒つからな かった 2024/1/11 24
  12. 26 チームの 効果性 ステーク ホルダー への関⼼ 反応性 継続的改 善 チームの

    ⾃律性 マネジメン トの⽀援 チーム の⼠気 ステーク ホルダー 満⾜度 『ゾンビスクラム〜』に含まれない factor • ⾃律性、継続的改善、ステークホ ルダーへの関⼼ に間接的に影響 • チームの制約を取り除くこと に貢献 • 特に⾃律性、および POの質や 権限に⼤きく影響 • 境界コントロールの好例 2024/1/11
  13. § Verwijs&Russo が研究の過程で作ってし まった、Liberators の Webサービス § スクラムチームの効果性とKey Factorを アンケート調査を元に評価できる

    § 詳細は “Columinity” で検索 § もしくはMedium “A Guide On How To Improve Your Team With Columinity” で § https://medium.com/the-liberators/a-guide-on-how-to- improve-your-team-with-columinity-606fc9bf455d § 右の図もこちらから引⽤ 2024/1/11 28
  14. 現実の世界 2024/1/11 29 ② 現状の課題を考える ③ ⽬指すべき⽬標を ⽴てる ① 観測してみる

    ④ ⽬標に向かって がんばる ⑤ nヶ⽉後に もっかい観測してみる as is 単純化された世界
  15. § [Toikkanen+ 2023] では、POがPdMとどういう関係にあるのか実態調査 § 結果、ほぼ企業依存、コンテクスト依存だった 1. 社内ユーザー向けのプロダクトで、POのビジネスへの関与が限定的 2. POがPdMを兼ねる「なんでも屋」になる

    3. POはあくまで開発のリーダーで、チーム外のPdM組織とチームとの仲介役になって いる 4. SAFeを採⽤している組織では、PdMがプログラムバックログを作成し、POはそれを 受け取る⽴場 5. SaaSを展開する企業ではPOの役割はむしろPdM的 [Toikkanen+ 2023] Toikkanen, T., Hyrynsalmi, S., & Paasivaara, M. (2023). How does the role of a Product Owner relate to the role of a Software Product Manager? https://doi.org/10.18420/ICSPM2023-007 40 2024/1/11
  16. § ISPMA Framework § 「開発」は、PdMが担う7領 域の1つ § つまり、PdMとPOでやるべ きタスクが重複 §

    [Kittlaus 2012]は、PdMがPOを 兼務することは、プロダクト マネジメント上問題があると 指摘 § POのチーム運営上の責任が PdMが戦略的責任を果たす 時間を奪う可能性 § 特に⼤規模な開発では、PO とPdMは分業すべき、と ⾔われている 2024/1/11 41 [Kittlaus 2012] Kittlaus, H. B. (2012). Software Product Management and Agile Software Development: Conflicts and Solutions. Management for Professionals, Part F393, 83–96. https://doi.org/10.1007/978-3-642-31371-4_5/FIGURES/4
  17. タケオさんがこのセッションの中で私に⼀⾔話すよう声 をかけてくれました。機会をもらえてとても感謝していま す。 というのも、タケオ=サンは、私たちの業界にもっともっ と必要なものの素晴らしい⾒本だからです。 つまり、科学的研究です。 私たちが科学的研究を⽤いて、思い込みや信念が実際に 科学の精査に耐えられるかどうかをテストすることは、と ても重要なことだと思います。 私たちのコミュニティでは時として、オピニオンリー

    ダーの意⾒や個⼈的な好み、あるいは単なる直感に頼りす ぎてしまうことがあると思います。 そして、私たちは顧客や、⼀緒に仕事をしているチーム に対して、より良い結果を出す義務があると思います。 科学的な⽅法は、それを可能にします。それは確かに難 しいことですが、だからこそ、タケオさんのような研究者 が必要なのです。 このタケオさんのセッションは、私たちの分野において 科学的⼿法がいかに有益であるかを⽰す、ひとつの明確な 例を⽰しています。 そして、タケオさんや他の研究者と同じように、Daniel Russo教授と私も科学的な研究をさらに発表していくつも りです。 私たちの⽬的は、ただフレームワークや⽅法論を語るこ とから⼀歩進んで、実際に何がより効果的で、何がそうで ないのかを発⾒することです。 そしてそれが、私たちの今後のロードマップとなるで しょう。 あなたにとってRSGTが素晴らしいものになりますように。 私もいつか⽇本を訪れたいし、そうなることを願っていま す。では、また。 2024/1/11 45 ※ 当⽇流したビデオメッセージの字幕から⼀部を省略したものです