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XP2024 っていう国際会議に行ってきたよの記 / XP2024 Conference Re...

Takeo Imai
September 28, 2024

XP2024 っていう国際会議に行ってきたよの記 / XP2024 Conference Report

XP祭り2024での登壇資料です
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6月4日から4日間、イタリアのボルツァーノというところでXP2024なるカンファレンスが開催され、そこに行ってきました。
現地で観測する限り、日本から参加したのは僕だけでした(間違ってたらごめんなさい!)。このセッションでは、そんな僕だけが現地で堪能したこの思いを皆さんにおすそ分けすべく、参加報告をしようと思います。

XPという国際カンファレンスは実はとても古いカンファレンスで、今年は25周年という記念すべき会でした。名前の通り元々はXPにまつわるカンファレンスだったのですが、今ではアジャイル全般を扱うカンファレンスになっています。

もう1つXPが特徴的なのは、他のアジャイルのカンファレンスと違って、アカデミックな学会の体裁を取っていることです。「サイエンスは我々の強みになる」という創設時以来のコンセプトから、実践者だけでなく、アジャイルを研究する研究者が世界中から集ってくるのです。
(実は、自分がこのカンファレンスに参加したのもこれが一番大きな理由でした。僕は現在アジャイルコーチの傍ら研究者としてアジャイルの研究をしているのですが、日本では、アジャイル実践者のコミュニティはとても大きいのに、研究コミュニティが存在しないのです…)

そして、研究者による学術的な発表なのか実践者の登壇なのか、プログラム上は一切区別がつけられていません。1つのトラックの中で、大学の先生や学生による研究発表があったかと思えば、すぐ後にアジャイルコーチによるプラクティスの紹介が続いたりします。聴衆も、実践者と研究者がごちゃまぜです。
そのためか、現地はアジャイルコミュニティらしいリスペクトに満ちた、しかし「自分の考えは違う」という批判的意見の表明が議論の中でなされる、そんな「建設的な対立」が穏やかに成り立っている、素敵な雰囲気のあるカンファレンスでした。

さて、偶然にも25周年記念というめでたい会に参加できたのですが、一方で、複数の講演から「今アジャイルは転換点にある」という、日本のコミュニティではなかなか感じられない空気感も感じられました。
海外では日本より遥かにアジャイルの普及が進み、今やとっくにアジャイルは開発手法のメインストリームになっています。そしてメインストリームになったからこそ、批判や否定的意見も多く聞かれるようになっています。カンファレンスの中でも "Agile is dead" というフレーズを何度も耳にしました。
もちろん、このカンファレンスの参加者にアジャイルに否定的な人はいませんでした。ただ、アジャイルをもっとちゃんとやればうまくいくはず、と思っている人もいる一方で、アジャイルを見直そう、もっと進化させよう、と思っている人も多数いました。
そんな、日本国内ではなかなか知ることのできない海外のアジャイルのトレンドも、XP2024での講演などの紹介を通じてお話できればと思っています。

Takeo Imai

September 28, 2024
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Transcript

  1. XP2024とは • なんと今年25周年! • 過去にはKent Beckが何度もキーノートなどで参加 (XP 2001, 2002, 2003,

    2010, 2015) • 日本から参加したのは僕だけだったっぽい • 日本人はもう1人スペイン在住の方が参加
  2. もう1つの特徴 • アカデミックな学会の体裁を取っている • 「サイエンスは我々の強い武器になる」という創設以来の コンセプトがそのまま受け継がれている • なので、 • アジャイルを研究している世界中の研究者が集まる

    • 研究者と実践者が同じトラックで区別なく発表するし、聴衆も 研究者と実践者がごちゃまぜ 僕は普段同じ分野の研究者との議論に飢えているので、とてもいい 機会だった
  3. OST

  4. 過去のパネリスト (紹介されていた人たち) • Ron Jeffries, Martin Fowler, Alistair Cockburn, Steven

    Fraser, Kent Beck, and Uncle Bob XP2000 (Cagliari, Sardinia, Italy) • Ken Schwaber, Mary Poppendieck, Martin Fowler, Kent Beck, and David Parnas XP2002 (Alghero, Sardinia, Italy)
  5. 過去のパネリスト (紹介されていた人たち) • Ron Jeffries, Martin Fowler, Alistair Cockburn, Steven

    Fraser, Kent Beck, and Uncle Bob XP2000 (Cagliari, Sardinia, Italy) • Ken Schwaber, Mary Poppendieck, Martin Fowler, Kent Beck, and David Parnas XP2002 (Alghero, Sardinia, Italy)
  6. “Agile is Dead” • 欧米では既にアジャイルを導入する企業が大半で、プロダクト開発の メインストリームになっている • スケーリングも日本と違い、企業まるごとが対象になることが多 い •

    メインストリームになった故、批判の声も大きくなっている • 特にスクラムは「レガシー言語」化した印象 • (SAFeが支配的になったことも大きい?)
  7. Kaynote Day2 Fitzgerald, Brian & Stol, Klaas-Jan. (2014). Continuous Software

    Engineering and Beyond: Trends and Challenges. 1St International Workshop on Rapid Continuous Software Engineering, Rcose 2014. 10.1145/2593812.2593813. より “BizDevOps: From Business Idea to Customer Product on a Weekly Basis” by Brian Fitzgerald
  8. Keynote Day3: “All the Small Things” by Alberto Brandolni リモート全盛の世の中になって、アジャイルは色々辛くなったという話

    • ファシリテーションでは “micro-laziness”(参加者にやらせる)が重要なの に、リモートだとできない • “Zoom Fatigue” … ちょっとずつ疲れる が蓄積する • オンサイトだと自然にできること(全体を見渡す、etc.)を、オンライ ンだと意識的にやらないといけない • それが意思決定を遅くする
  9. “Connetcting the Dots of Knowledge in Agile Software Development” by

    Raquel Ouriques • “Boundary Artifact”(ドキュメントなど、チーム間・部門間・チーム とステークホルダーの境界にある、知識を蓄積する成果物)が信頼で きないとき、どうなるか?を調査した • → ドキュメントを避けて代替手段を探したり、独自に資料を作り直 したりする • → 不具合やトラブルの原因に • だから、アジャイルといえどドキュメントいい加減にしちゃだめよ • 共通の用語集の作成とか、対話の促進とドキュメント化とか
  10. “Continuous Product Delivery” by Denis Chekhlov • CI/CDとかDevOpsとか、意味が「本来のXP」からずいぶん変わっ ちゃったね… •

    CI/CD とかツール群の名前になっちゃったし • DevOpsとかエンジニアの職種になっちゃったし • XP にプロダクト志向を加えて Continuous Product Delivery って名 前で再出発しよう! • ノリは「本来のXPに還れ」 • CPD = Lean + CI + CD + CT + 心理的安全性
  11. “How to Stop SpoftiSafe?” by Martijn Oost • SpotifyモデルとSAFeを魔合体させた “SpotiSafe”

    なるものがあるら しい • 流石にそんなのやらんほうが良くない?っていうセッション (僕は参加してませんが、趣旨が面白かったので紹介)
  12. “Neurodivergent Struggles in Agile” by Christiane Schabarum • Neurodivergent: 自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害など、脳の

    発達や機能が一般的なパターンと異なる特性を持つ人々を指す概念 • 別のセッションでもこの話題で議論になった • 登壇者はADHDのスクラムマスター、自身の体験談を紹介 • タスク管理ができない • うまくコミュニケーションが取れない • チームは重要と思ってないことを重要だと思い込んでしまう • 人口の10~20%はNeurodivergent 、「こういう人もありふれてい る」という事実を認知してほしい、というメッセージ
  13. “Selected Concepts of Leadership in Self-Organizing Teams” by Jakub Perlak

    (ポスター発表) アジャイルチームでは、 • 垂直方向のリーダーシップ(特定のリーダーにメンバーがついていく) • 水平方向のリーダーシップ(メンバー同士がリードしあう) の両方が存在して、そのバランスが重要 → その仕組みを研究してるよ、という話 • シェアードリーダーシップ、分散型リーダーシップ、バランス型リーダーシップ が鍵にな る? ※ 僕と研究の興味が近くて、彼と合間に議論できたのがとても貴重でした
  14. “Team evolution with DDD and Dynamic Reteaming” by Ornela Vasiliauskaite

    • 静的なチームの組織からFASTベースの組織に移行 • そのとき、DDDのドメインモデリングを使って自分たちの組織をモデリン グし、そのモデルをベースにしたのが成功のカギになった • フレームワークは便利だけど振り回されるのよくない • 移行前に机上で20以上のオプションを検討したがうまくいかなかった • → 失敗するのは当たり前で、失敗を避けようとしないことが一番重要
  15. おわりに やっぱり海外のカンファレンス はめちゃめちゃ刺激になる • めっちゃ読んだ本(+論文)の著者がそ こらを歩いてた • 日本国内のコミュニティでは得られない 知見や考え方に触れられる 1

    アジャイルの研究も触れてみる と面白いよ 2 語学力はあればあるほどいい • しかし、最近は翻訳アプリとか書き起こ しアプリがやたら性能いいので、数年前 と比べてはるかに敷居は下がってる • 疲れた時にiPhoneでアプリ起動したま ま座席で寝てたら、終わったころ全部 要約してくれてすごく助かったりした 3