2022年のキーワードは「OSINT」 オープンデータとジャーナリズムの新潮流を総括する

Data Visualization Japan Meetup 2022（2022年12月27・28日開催）における、熊田 安伸さんのスライド資料です。

#datavizjp

https://peatix.com/event/3452708/view

Transcript

2. Visualization Japan Meetup 2022 2022年のキーワードは OSINT オープンデータとジャーナリズムの 新潮流を総括する 2022/12/28 SlowNews 熊田安伸
3. 自己紹介～熊田安伸 1967年 岐阜市で出生 岐阜北高→早稲田大 1990年 NHK入局 沖縄局で“地面師”と呼ばれる 1995年 社会部 国税庁 →外務省 →国会 担当 公金テーマに調査報道 2004年 新潟局 デスク 中越・中越沖地震の取材指揮 2005年 Nスぺ「調査報告 日本道路公団」で芸術祭優秀賞 2006年 民事裁判で証言拒否「取材源秘匿」最高裁の初判断を勝ち取る 2007年 社会部 デスク →検察キャップ →調査報道班 2011年 仙台局 震災キャップ 2012年 Nスぺ「追跡 復興予算19兆円」でギャラクシー大賞 2013年 おはよう日本 チーフプロデューサー 2014年 社会部 ネットワークデスク 2017年 ネットワーク報道部設立専任部長 2018年 政治マガジン発刊、AIリポーターヨミ子ローンチ 2020年 NHK取材ノート発刊 2021年 スローニュース社に移籍 2022年 「調査報道講座 オープンデータ活用術」が Internet Media Awardsのアクション・フォー・トラスト部門賞に 35kg減
4. 本日のお題 ①OSINTの新時代がやってきた ②2022年 世界の優れた データジャーナリズム一挙紹介 ③2022年 日本のデータビジュアライズ報道 一挙紹介と考察 ④持続可能性を考える
5. OSINTの新時代
6. OSINTという言葉は 実は古い もともと インテリジェンスは 諜報機関や 日本でも国税当局が やっていること！
7. 謎の調査集団Bellingcatとは
9. 日本でも上映された 映画「ナワリヌイ」 ベリングキャットが 暗殺者を割っていく様子が 映像に収められている！
10. スローニュースと独占契約 邦訳記事を配信
11. ではBellingcatの最新テクニックを 見てみましょう
12. 「セブ湖畔の処刑」 ベリングキャットが最新の GEOINTテクニックを （Geospatial Intelligence） いくつも駆使した 教科書になる記事 アゼルバイジャン軍による アルメニア人兵士処刑の 映像を分析
13. 「セブ湖畔の処刑」 映像の一部の ほんのわずかな地形から GoogleEarthProで場所を推測 Planet Labsの衛星データと 重ね合わせることで 人為的な動きの形跡を 明らかに
14. 「セブ湖畔の処刑」 山頂の画像をもとに どの山なのかを 特定する無料ツール Peakvisorを利用して 位置を裏付け 太陽の軌跡を示す 機能を使って 映像が撮影された日時も 絞り込んでいく
15. 「セブ湖畔の処刑」 ほぼリアルタイムで 火災情報の位置データを 提供している NASA FIRMSで痕跡を追い 衛星の映像と合わせて 事件の発生時刻を特定 ※戦場の取材にも このツールを推奨
16. 「セブ湖畔の処刑」 オープンデータである 軍事迷彩データベース Camopediaで 映っている人物が アゼルバイジャン軍の 軍服を着ていると指摘
17. ただ、ビジュアライゼーションには そんなに力をいれていない…
18. 一方で、影響を受けたNYTは Visual Investigationのチームが大活躍中
19. 「中国人民解放軍基地及び施設」 台湾の音大生で軍事マニアの 温約瑟さんが 論文や ネットの公開資料を基に Googleマップで作成 軍が可視化されてしまった OSINTは誰でもできる
20. 2022年 世界の優れた データジャーナリズム を一挙に紹介！
21. まずはマイクロストーリー的な シンプルな表現
22. Texty「ロシアの影響力ネットワーク」 ウクライナの データサイトTextyが オープンソースから ヨーロッパ全域の ロシアを支援する個人と グループの地図を作成
23. プロパブリカ「冷戦の遺産が地下水を汚染」 米原子力規制委員会の オープンデータなどを基に 48カ所のウラン工場 7カ所の関連処理場 多数の尾鉱の浄化作業を 初めてカタログ／可視化
24. elDiario.es「スペインの病院での帝王切開率」 スペインでは 4人に1人が帝王切開で出産 保健省への情報公開請求で 病院の報告書などを入手 （当初、国は開示拒否） 病院によっては必要以上に 実施している疑惑を可視化
25. スクローリーテリング
26. ワシントンポスト「議会の奴隷所有者」 国勢調査の記録と 歴史的資料を基に 米国議会での 奴隷所有者の データベースを作成
27. NYT「ハイチの失われた数十億」 当時の台帳や銀行の明細や 公文書などを基に ハイチがフランスからの 独立のために 異常なまでの高額を 負担させられていたことを 明らかに
28. ガーディアン「水の利権を握るのは誰だ」 イギリスの上場している 水道会社15社の 財務アニュアルレポート などを基に株主を追跡 世界中のファンド、銀行、 億万長者に所有されている 実態を明らかに
29. The Pudding「女性に関するニュースの見出し」 アメリカ、イギリス、 インド南アフリカの4か国の 英字メディアで 女性中心のニュースの 見出しで使われている言葉と その言葉がどう変化したかを 可視化
30. おまけ アメリカでは 「メディアバイアス チャート」で 立ち位置が可視化され メディアリテラシーの 授業で教材として 活用されているとか
31. ３Dマッピング
32. ベルリン・モルゲンポスト「住めなくなる地球」 IPCCの気候変動に関する 報告を基に 今世紀末までに 生活が困難か不可能と 予測される地域を 3Dの地球上に可視化
33. 原点に帰るビジュアライズ
34. Vox「ワクチン接種の分かれ目」 アメリカの保守派と リベラル派の間の ワクチン接種の格差を シンプルかつ 独創的な方法で説明 手書きビジュアライズという 全く新しい手法です
35. 2022年 日本でもOSINT由来の データビジュアライズ が熱かった！
36. ①発見のビジュアル
37. 朝日「みえない交差点」 警察庁が公開している 約68万の交通事故の データをマッピング 信号機がない小さな 交差点での事故多発や 名前のない交差点は 対象外になっていることを 明らかに
38. 秋田魁「秋田の交通事故マップ」 朝日と同じ警察庁の データを利用 秋冬（9-2月）の事故が 春夏（3-8月）の約2倍で 日没が早まる 10-1月の17,18時に 集中していると発見
39. 秋田魁「ふるさと納税データ読み解き」 総務省が公開している 「ふるさと納税に関する 現況調査等」などの6 データをマッピング 北海道や九州の端、 日本海側の自治体などが 潤っていることを可視化
40. 朝日「都心に潜む限界集落」 国勢調査のデータから 23区の町丁目単位で 高齢化率の推移を マッピングして可視化 15カ所の限界集落が 浮かび上がった
41. 日経「ロシア石油が欧州へ裏流通」 航路情報の オープンデータなどから 動く航路地図を作製 対ロ制裁が骨抜きに なっていることを明らかに 写真使用で「おわび」を 出したことが 話題になってしまったが 報道そのものは良質
42. 中国の世界規模での 海洋戦略を明らかに 大元となった記事は 無料ツールの Marine Trafficで 中国船の航跡を調査 （Nスぺでは 有料のデータ） NHK「追跡・謎の中国船」
43. NHK「埋もれかけた踏切事故 ～A4 2枚の報告書の真相」 「ビジュアルな記事」 ではありませんが 状況を絵で説明すると 確かになるほどと思う 報道にはやはり 「ストーリー」が必要と 強く感じた記事 不覚にも泣かされました
44. ②検証のビジュアル
45. NHK「橋がトンネルが崩れる」 NHKが定番で出している インフラ老朽化報道 「全国道路施設点検 データベース」と 情報公開で 全国規模での可視化 新潟の独自の事情などに 「発見」感（知ってたけど）
46. 朝日「ひったくりは今」 大阪府警のオープンデータ 約1万2千件を利用 ひったくりが発生した場所の 住所データをTableauで可視化 「ひったくり件数の密度」で比較 ただ残念ながら「発見」には 至らず…
47. 小宮山亮磨さん「旧統一教会は参院選で 井上義行氏の得票を増やしたのか」 旧統一教会の全国290カ所の 「家庭教会」の立地と 井上氏のUC入会前後の 得票増加数を 統計学の手法で分析 朝日の本紙記事ではなく 個人のnoteで詳述する スタイルも今風
48. 中日「選挙の夜のはかない予測」 開票の早い段階で統計モデルに よって最終得票を予測する試み （数理上の予測で 当確判定ではない） 2020年にワシントンポストが 使用した統計モデルが参考に （選挙制度が異なるため 結局は全く違うモデルに）
49. これ、結構好きです
50. 現代ビジネス「室温28度のワナ… 7万円の光熱費の節約で4000万円の損」 政府が省エネのために提唱する 「室温28℃」は実は不快 姫路市役所で25℃冷房を 1か月続けたところ 光熱費は7万円増えたが 残業時間が平均2.9時間減で 4000万円の人件費が浮いた
51. 鳥海不二夫さん「Adoさんがプリキュアを歌っ たことが批判された件は非実在型炎上か」 Adoと「プリキュア」や 「謝罪」が一緒に出現した ツイートなど35,147件を クラスタ分析 批判者は確かにいたが少数 批判をことさら取り上げ アクセスを稼ぐメディアの問題
52. 日刊スポーツ「検証 投高打低2022」 プロ野球をデータから徹底分析した 「調査報道」 数字を並べてみると 投打の成績が急に変わる理由は 試合数の大幅増減や 使用球の影響だと見えてくる
53. スポーツ報知「大谷翔平が見逃した ストライクのうち16.67％は確実にボール」 MLBの公式データサイト 「Baseball Savant」の データから算出 グラフによる可視化 田中孝憲記者はRを使った データ分析方法も詳述
54. NHK「あなたのコロナ予算」 オープンデータである 行政事業レビューシートを基に コロナ予算の可視化を目指す 「クイック診断」や 「あなたの視点をシェア」で インタラクティブに 「わが事化」を狙っていますが んーどうでしょう…
56. 復興予算の防衛費への転用問題も
57. ③記録のビジュアル
58. 読売「ウクライナ 3Dで伝える悲劇と再生」 ウクライナの被害を 3Dのデジタル地図で 可視化 戦場の実態を知るための 記録として新しい表現
59. 古橋大地さん「Ukraine2022data」 青山学院大学の 古橋教授が ウクライナ関連の GEOINTに使える データなどを GitHubで公開中
60. 日経「戦火を追う」 ウクライナのマリウポリ ロシア軍が市街地の大半を 制圧した後も アゾフ連隊などが 製鉄所に立てこもり抵抗 激戦地で何か起きていたか スクローリーテリングで
61. 日経「やまぬ弾圧 消えた村」 ミャンマーのクーデター 1年のタイミングで 武力紛争発生地・事件データ プロジェクト（ACLED）の データと Google、Planet Labsの 衛星写真から分析
62. 日経「地球を覆う小型衛星3万基 3Dで描く新時代」 ３Dの スクローリーテリングで 衛星の急激な増加や 利活用の変化を実感
63. 朝日「アーバン・ベア 動くクママップ」 熊の出没場所を 年代ごとに動く デジタル地図で可視化
64. NHK広報局note「ヘヴィメタルの歴史」 ヘヴィメタル大好き 吉田一貴アナウンサーが ヘヴィメタルの歴史を 超概略で可視化 ファンに刺さり バズりました（笑）
65. 鈴木智彦さん「沖縄ヤクザの歴史」 これ貴重！ 私も沖縄局時代 暴力団抗争を 取材したのでわかりみ
66. わろたｗ
67. ④災害のビジュアル
68. 日経「都市と気象危機」 福祉施設・高齢者住宅の データベースや 津波浸水想定の 「国土数値情報」などを 重ね合わせて マッピングすることで 震災後の危ない施設の 増加を明らかに
69. NHK「急増〝津波浸水域〟の高齢者施設～」 福祉施設・高齢者住宅の データベースや 津波浸水想定の 「国土数値情報」などを 重ね合わせて マッピングすることで 震災後の危ない施設の 増加を明らかに
70. 秋田魁「あなたの地域の雨の降り方は？」 気象庁HPの 「過去の気象データ検索」 観測値を分析 作業はPythonで自動化 作画はFlourishで
71. NHK鹿児島「12歳の依頼で避難所調査」 QGISで国交省や自治体の データを重ね合わせて分析 最大規模の雨で少なくとも 63か所が浸水と判明 地方局の記者が 「普段使い」するように
72. 災害時の利用では… 大災害の際に必ず起きる 「最大被災地が分からない」を 解消するには データマッピングが不可欠 ただ行政も そのためのデータを十分には 提供できていない
73. NHK「大雪で立往生 ビッグデータ分析」 ①ヤフーが個人識別できない形で 集計した位置情報の ビッグデータをもとに機械学習 平常時の人出との差を数値化 異常値を検出 ②対象地域で 全国で検索されたワードとの 差を数値化
75. 「計画外避難所」 こそ、 取材すべきポイント
78. Yahoo!研究所 坪内孝太さん 2016年の熊本地震の際 位置情報で普段の人流との 異常値を検出 計画外避難所を発見可能に 検索と組み合わせれば 最大被災地のいち早い解明にも
79. ⑤サービス＆データベース
80. NHK「全国ハザードマップ」 国交省のハザードマップ ポータルサイトは 存在していたが 地方の情報などが不十分 業を煮やしたNHKが 自ら開発してしまった
81. 秋田魁「秋田の洪水・土砂災害リスクマップ」 道新「津波危険度MAP」 秋田魁はNHKの全国マップ より若干早くローンチ 読者向けに 地元のハザードマップを提供 独自の分析も
82. スマートニュースメディア研究所 「国会議案データベース」 衆参両院のサイトからデータ抽出 国会に提出された議案を データベース化 審議状況や政党別の賛否 どの議員が提出したのかも 視覚的に分かる データとソースコードは GitHubでも提供
83. Tansa「みんなで調べよう 交付金の使い道」 内閣府のポータルサイト 「地方創生図鑑」から 自治体ごとの 地方創生臨時交付金 3兆円分約6万5000事業を 統合してデータベースに
84. 東洋経済「主要商品の価格推移」 国内で販売されている 主要商品について 単価の推移をビジュアル化 データは インテージ社から
85. 国会図書館「NDL Ngram Viewer」 次世代デジタルライブリーの 28万点の図書の中から 検索したキーワードが 本文中に表れる頻度を 刊行年ごとに時系列で グラフ化できるツール
86. 九州大学「3Dデジタル生物標本」 超高精細な３DCGの 生物標本1400点以上を オンライン公開 誰でも自由に ダウンロード・利用可
87. 日本動画協会「アニメ大全」 国内の全アニメの情報を 網羅したデータベース これ結構な偉業ですよ
88. NHK「しゃべる選挙ポスター」 ビジュアライズとは ちょっと違いますが サービスジャーナリズムの すばらしいアイデアとして 選挙ポスターに スマホをかざすと 実際の演説動画が見れたり 詳しい情報が！
89. 正直、ワードクラウドには飽きました
90. 2023年 課題は持続可能性
91. Open Government Partnership 「データのオープン化こそが 民主主義国家の条件」が 世界の潮流 2011年から 各国が共通フォーマットで オープンデータ化の取り組み 残念ながら日本は不参加
92. 「DATA.GO.JP」 各省庁が公開するデータの 案内・横断検索を可能にする 「データカタログサイト」 しかし期待通りの 機能は果たせず… 2022年にデジタル庁に移管 果たしてやりきれるか
93. オープンデータは諸刃の剣
95. 「官報情報検索サービス」月額2200円 https://search.npb.go.jp/kanpou/
96. あの事件でも…
97. flight trader 24など航空機の位置情報
98. これは単純な問題ではない イーロン・マスク氏が 著名記者のTwitterアカウントを 凍結してしまった問題 背景には自家用ジェットの 位置情報の公開が 一方で情報の再支配という オープンデータに逆行の動き
99. 民主的な社会のためのオープンデータは 個人や組織の利害と衝突も
100. 持続可能にできるのか？
101. Bellingcatのスタイルに 今後のメディアの可能性を見る
102. ①対象としているソースがちょっと違う 同じOSINTでも 従来使われてきた オーソライズされた データだけではなく、 SNSなど ネット上に溢れる 一般人提供の映像も 解析の対象に →「ソース」の拡大
103. ②調査の手法がこれまでと違う GEOINTを駆使 →「現場」というFACTを 最大限に利用
104. ③調査に携わる人間が違う Discordのコミュニティや TwitterのSNSで メンバーだけでなく 外部の専門家や 一般の人ともつながって データを解明 →「リソース」の増大 「透明性」の確保
105. テクニックを使えるよう ジャーナリストの育成やコラボ 世界各地で ワークショップを開催 プロのジャーナリストから 一般の人までが 学べる場を提供 メディアとのコラボも
106. 壁となっているのは… オープンデータといっても 「使えない形式」 「年度ごとに変わる書式」 「自治体ごとに違うスタイル」 は大きな障害に みんなで声を上げましょう
107. まずは やってみることから！ オープンデータ収集の テクニックは この本にまとめました 今回ご紹介したような 最新情報は スローニュースの ニュースレターで 来年から無料配信
108. ご清聴 ありがとう ございました
109. おまけ
110. おまけ
112. なぜ、こんなマニュアルが 作られたのか
113. 津波で被災したのは17校 うち８校では、 津波の想定すらなかった！
114. 各校のマニュアルを分析すると、 なぜか内容がそっくりなものが 大まかに４種類に 分類できることが判明
115. 比較的、防災に詳しい教師がマニュアル作成 コピーさせて！ コピーさせて！ コピーを！ コピーを！ コピーを！ コピーを！
116. 系統の大元として 浮かび上がったのが