スクリーニングを評価する際に考慮しないといけないバイアスについて紹介します。
スクリーニング評価の注意点1
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とあるスクリーニング利用者の声とあるスクリーニング検査でとある疾患の診断と治療を受けたら10年間生き延びることができました.検査を受けずに症状が現れてから診断と治療を受けたら7年しか生き延びられませんでした.⇒ スクリーニングは 3 年寿命を延ばしたので疾患の早期発見は至高です!!2
とあるスクリーニング利用者の声とあるスクリーニング検査でとある疾患の診断と治療を受けたら10年間生き延びることができました.検査を受けずに症状が現れてから診断と治療を受けたら7年しか生き延びられませんでした.⇒ スクリーニングは 3 年寿命を延ばしたので疾患の早期発見は至高です!!3
1. 疾患の自然経過4
正常 前臨床期 臨床期疾患なし生物学的な疾患の始まり最初の症状の出現診断 治療疾患の自然経過 (natural history)5
正常 前臨床期 臨床期1次予防疾患の原因の除去あるいは予防接種2次予防スクリーニング,検出および早期治療3次予防死亡や合併症予防のための治療疾患なし生物学的な疾患の始まり最初の症状の出現診断 治療6
正常 前臨床期 臨床期疾患なし生物学的な疾患の始まり最初の症状の出現診断 治療スクリーニング検査で疾患の検出が可能となる時点検出可能な前臨床期 :DPCP(Detectable PreClinical Phase)7
正常 前臨床期 臨床期疾患なし生物学的な疾患の始まり最初の症状の出現診断 治療スクリーニング検査の実際の早期診断リードタイム(lead time)8
2. スクリーニング評価関連のバイアス9
スクリーニング評価関連のバイアス① 選択バイアス (selection bias)② レングスバイアス (length bias)③ 新規/既存バイアス (incidence-prevalence bias)④ リードタイムバイアス (lead time bias)⑤ 過剰診断バイアス (overdiagnosis bias)10
① 選択バイアス• 受ける人々と受けない人々で特性が異なる可能性Ex.• スクリーニングを受ける人は健康意識高い人が集まる⇒ スクリーニングの効果と関係なく予後が良い結果⇒ 研究デザインがRCTならば, 群間の共変量が確率的にバランスするが, RCTでないならば, 調整する必要あり11
• スクリーニングで発見される患者は, スクリーニングの間に発病し, 発見される患者(インターバルケース)より予後が良い② レングスバイアス2回目スクリーニング1回目スクリーニングDPCP12
• DPCPが長い患者の方がスクリーニングで発見しやすい• DPCPが長い患者は病気の経過が緩やかで予後が良い⇒ スクリーニングで発見された患者とインターバルケースを比較してはいけない• 次の新規/既存バイアスにも関連している② レングスバイアス13
③ 新規/既存バイアス• スクリーニングを 2 回実施したとする• 最初に発見された患者(既存患者)と, その回では異常がなかったが 2 回目で発見された患者(新規患者)の比較⇒ 新規患者より既存患者の方が平均生存期間が長くなる(既存患者に長期生存者の割合が高くなるため)⇒ スクリーニングの導入で予後が悪化したように見える⇒ 新規患者と既存患者で比較してはいけない14
④ リードタイムバイアススクリーニングによる診断と治療診断と治療 死亡死亡生物学的な疾患の始まり生物学的な疾患の始まりスクリーニング群コントロール群20102010 2012 20222022201515
④ リードタイムバイアススクリーニングによる診断と治療診断と治療 死亡死亡生物学的な疾患の始まり生物学的な疾患の始まりリードタイムバイアス : 3 年スクリーニング群20102010 2012 202220222015コントロール群16
• スクリーニングの早期発見の有効性を示すには…1. スクリーニング群の生存期間を, コントロール群の生存期間とリードタイムを加えたもので比較する2. スクリーニングで発見された患者の致死率を調べるのではなく, スクリーニング群全体における疾患による死亡率を非スクリーニング群と比較する④ リードタイムバイアス17
• 過剰診断は, 治療しなくても症状を起こしたり, 死亡の原因になったりしない病気を診断すること(過剰診断の定義が異なることもあって, 検査関係者の意気込み等で誤診断(偽陽性)が増えることという意味の場合もあるが, これは古い定義か分野の違いか?⇒最後に補足)Ex.• 70歳以上の男性の65~100%に前立腺がんが存在する• ただし, その多くは非浸潤性のもので死因にならない⇒症状が出てから診断された患者の方が, スクリーニングで診断された前立腺がんの患者の方より, 悪性の割合が高くなり,そのまま比較するとバイアスが生じる⑤ 過剰診断バイアス18
[再掲]とあるスクリーニング利用者の声とあるスクリーニング検査でとある疾患の診断と治療を受けたら10年間生き延びることができました.検査を受けずに症状が現れてから診断と治療を受けたら7年しか生き延びられませんでした.⇒ スクリーニングは 3 年寿命を延ばしたので疾患の早期発見は至高です!!19
[再掲]スクリーニング評価関連のバイアス① 選択バイアス (selection bias)② レングスバイアス (length bias)③ 新規/既存バイアス (incidence-prevalence bias)④ リードタイムバイアス (lead time bias)⑤ 過剰診断バイアス (overdiagnosis bias)20
• Gordis(著), 木原ら(翻訳),『疫学 -医学的研究と実践のサイエンス』第18章• Szklo and Nieto(著),『アドバンスト分析疫学 369の図表で読み解く疫学的推論の論理と数理 』の第4章• 名取宏, NATROMのブログ『「過剰診断」の定義の違いを認識しよう』• https://natrom.hatenablog.com/entry/2022/03/30/110000• 坂本,『過剰診断(overdiagnosis)の定義と過剰手術(oversurgery)/過剰治療(overtreatment)の用法:病理医と疫学者の見解の差異』• https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/38/4/38_265/_pdf/-char/ja• 祖父江友孝,『検診の効果とバイアス』• http://www.haigan.gr.jp/journal/full/043071013.pdf参考文献21
• Gordisの方のテキストでは誤診断の方の定義になっていて, Szklo and Nietoでは死因にならない方の定義になっている.• 名取宏, NATROMのブログ『「過剰診断」の定義の違いを認識しよう』では,坂本『過剰診断(overdiagnosis)の定義と過剰手術(oversurgery)/過剰治療(overtreatment)の用法:病理医と疫学者の見解の差異』を引用して, 疫学と病理の違いとしている.• 祖父江友孝『検診の効果とバイアス』では定義が変わってきているとしている.[補足] 過剰診断の定義の違い22