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教育思想史学会2026_コロキウム報告_谷島_確定.pdf

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September 29, 2026
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  1. 自己紹介/報告者の立ち位置 2 / 26 技術哲学、メディア研究、パースの記号論の視点を踏まえて、デジタルアー カイブについて考えてきた 1 技術哲学 ベルナール・スティグレール——記憶と技術の関係 2

    メディア研究 『アテンション資本論』——注意をめぐる経済と技術 3 記号論 パースの指標論——今日の報告の軸 デジタルアーカイブ論として ・「ミシェル・フーコーのデジタルアーカイブ論——アーカイブをめぐる権力を考えるための理論的整理の試 み」(デジタルアーカイブ学会第8回大会、2023) ・「ポストメタデータ時代のデジタルアーカイブ——ジャック・デリダの〈痕跡〉概念をめぐって」(同第9回 研究大会、2024) ・「主体投錨型インデックス——利用者の関心からアーカイブを再構成する設計指針」(同第10回研究大会、 2026) 『デジタルアーカイブの教育活用ガイド』(勉誠社、近刊)——1-1「学ぶ主体の問いから出発すること」を執 筆、6-4「学びの時間を取り戻す」(吉見俊哉)の聞き手・構成 『アテンション資本論』新曜社、 2026年刊
  2. 個人的な地図 8 / 26 人は各自の経験と関心からしか世界と出会えない 1 個人的な経験の蓄積 2 社会的な形成 経験・記憶・既有イメージ・関心・手持ちの語彙に

    密着した、暫定的な見取り 個人的な地図は、個人的であると同時に社会的に形 成される——家族・地域・メディア・これまでの授 業を通じて作られ、対話のなかで動く 学校 うち 公園 おばあちゃんの家 個人的な地図のある場所に、錨が降りる 自分が生きてきた世界の 特定の場所 に錨が降りている
  3. 制度化された地図 9 / 26 カリキュラムと記述体系は、〈知〉に制度化された住所を与える 1 投錨:公共的な座標空間 学習指導要領・教科書・件名・メタデータによって構造化されている 2 選択と脱落

    3 体系性 何を載せ、どの名称を与え、何を見えにくくするか——アーカイブの権力性 知るべきことの総体——現在知らないことも含め——に住所を与える 教える側は、この地図を誰もが持っていると想定しがちである。 知識を教えても、それを位置づける地図を持っていなければ、霧散してしまう。 制度化された地図は、無知の在り処 を名指せるようにする。 しかし、その地図を持っていなければ参照できない。 単元1 歴史 単元2 学童疎開 地理 公民 体系のなかの住所
  4. 指標という考え方 11 / 26 パースの指標概念のいくつかのバリエーション 1 指標——因果的つながりで指し示す 2 象徴的指標——意味のシステムのなかでの指し示し 3

    因果的、隣接的なつながりによる指し示し。 煙は火を、足跡は通った人を、体温計の目盛りは熱を指す。 社会的な枠組みの中での指し示し。 地図の上の「現在地」や、「あれ」、「わたし」などのダイクシスなど。 現在地 社会的指標——社会的枠組みの指し示し(言語人類学) 指し示しを可能とするのがどの社会的枠組みであるのかを示す。 どの地図を使っているのか。 指標は、何かが指し示されるという事態を、複数の次元で制御し、実現している
  5. 同じ写真をめぐる二つの地図と二つの錨 15 / 26 子どもの言葉とアーカイブの記述は、同じ写真を別の配置の中に置く 子どもが連想する(かもしれない)言葉 みんなで押す おてつだい いなか おとなが一人

    アーカイブの記述 標題:初等部児童集団疎開 那須 1944年9月〜1945年8月頃 説明:「初等部5,6年生は昭和19年9月10日〜20年10月25日那須農場近くの馬事研究所 に疎開、女子部高等科1年生5名が交替で世話をした」 キーワード:「教育」「大正新教育」/資料番号:N3000002-20 戦争は、画面のどこにも写っていない。 この写真を戦争に結びつけているのは、標題の「疎開」という言葉。 資料と結びつく言葉はそれぞれの地図と結びつき、アーカイブを検索する際の錨となる
  6. アーカイブの言葉を手がかりに、大文字の地図へ 16 / 26 記述のなかの語が、それぞれ別の地図への通路になる。 1 「集団疎開」 2 「1944年、那須」 3

    「高等科1年生5名が交替で世話」 戦時の制度へ ——学童疎開という施策、歴史の単元。写真に写っていない戦争への通路 制度化された空間(地理)と時間(歴史)の地図へ ——那須という場所、1944年、45年という時期への通路 社会の編成へ ——世話をするのはなぜ生徒なのか。大人の働き手はどこにいるのだろう——戦争に行っているのだろうか 子どもの言葉で降ろされた錨と、 大文字の地図 に降ろされた錨が接続される
  7. 荷車を引いているのは誰? 17 / 26 「疎開」という語を錨にして、大文字の地図の中を探索してみる。 1 「疎開」で資料室を検索する 2 写真どうしを突き合わせる 3

    服装から推理する 3件のヒット。その一枚「那須疎開生活最後の日 記念集合写真」 (1945年10月24日)の解説——「初等部4,5,6年生と教師、生活指導 にあたった高2(25回生) 那須馬事研究所にて」 現地の年長者は、教師と世話役の女子部生。後列の白い上衣は、荷車 の白い帽子・白い上衣と重なる——生徒か、教師か。 戦時下の男性教員の服は国民服が基本で、白い服を着ることはなかっ たのではないか。白い帽子・白い上衣は、世話役の女子生徒か女性の 教師を思わせる——断定はできないまま。 初等部児童 那須疎開生活最後の日 記念集合写真(1945年10月24日) 自由学園資料室所蔵「自由学園100年+資料データベース」CC BY 答えは決まらないまま、問いは 資料から資料へ と具体的になっていく。
  8. 絵巻のなかの証言 18 / 26 子どもたち自身が残した記録『初等部疎開絵巻』を、二つの場面から読む。 絵巻の作成は1945年度。帰京は1945年10月25日—— 描かれた十二月は、戦中の1944年12月になる。 敵性語とされた「クリスマス」の語と行事が、疎開先 の生活で続いていた(自由学園はキリスト教信仰に基 づく学校)。

    大八車を確かめるために開いた絵巻が、思いがけず、 戦時下のクリスマスの記録へと変わる。 資料の「厚み」=「発見不可能な内部性」(アップ ウォード 2023: 218) 「リヤカーの材料運搬は大八にかわる」 「みんなで樂しいクリスマス。」 付記:デジタル化の外に眠る証言 『あしおと——私達の学童疎開体験』(初等部14回生の文集、 1977年。日記と手紙を収録)/村上せつ『那須疎開生活記録』 (1987年)——いずれも未デジタル化・資料室所蔵。 『初等部疎開絵巻』(1945年度・資料番号20220463002)自由学園資料室所蔵「自由学園100年+資料データベース」CC BY-NC-ND 資料は、何についての資料であるかが 事後的に 決定され直す厚みを持つ。
  9. 二つの投錨 20 / 26 地図の中の地点に降りる錨と、資料そのものに掛かる錨がある。 地図の中の地点への投錨 地図の手前での資料の〈厚み〉への投錨 象徴的指標のはたらき 「現実」との接触としての指標のはたらき 地図——記述の体系——を前提とする

    地図のない、まだ理解ができない何らかの地 点に錨が降りる 「疎開」という語が、標題・件名の回路を通 って、資料の住所を指す 説明のできない写真の細部に目が留まる 投錨は、地図の中の定位と、地図なき 接触 の二つの仕方で起こる。 資料に「出会う」ということは、地図を超える資料の厚みに錨を降ろすということではないか
  10. 二つの地図と資料 21 / 26 資料から受ける「感じ」が地図を横断する足場になる 個人的な地図 個人の経験や関心に基づいてさまざまな出来 事を位置づけていく ズレ=着目点 (移動は資料を経由する)

    制度化された地図 カリキュラム・件名・記述体系/教科語・標 題・見出しなど、体系的分類による整理 照合 「同じ」資料という〈厚み〉によって接続される 〔共同参照できる錨地〕 資料の痕跡を構成する「現実」の多元的次元 資料の〈厚み〉が喚起する「感じ」(「付帯的経験」パース)を介して、 個人的な地図に制度化された地図を 「接地」 させていく
  11. 教師が扱う二つの地図 22 / 26 教師は、生徒の地図とカリキュラムの地図の両方を扱っている。 1 一人一人の生徒の地図 生徒はどのような地図(理解の基点)を手に しているのか 地図を推定するための指標を活用する——資

    料から連想した言葉、リアクション、生徒同 士の会話、普段の様子 2 カリキュラムの地図 教えるべきことの全体と、授業計画における 現在地 カリキュラムが体現する、制度化された大文 字の地図 二つの地図を出会わせる手立て 教材作成——どの資料を選び、どの層(画像・記述・件名)を見せるか 発問設計——資料のどこに目を向けさせ、どんな言葉を引き出すか 反応の読み取り——連想の言葉やつぶやきから、生徒の地図を推定する 資料の〈厚み〉を介して、二つの地図を 出会わせる。
  12. 教える/学ぶの再定式化 23 / 26 資料をめぐる様々な活動を通して、生徒の地図の変容に伴走する 1 モニタリング 2 伴走 生徒たちの地図の更新(制度的地図の取り込み)を、活動のなかでモニタリングする

    その更新のリズムに、介入的に伴走する 補助線:ランドスケープの時間的変容(平井靖史)——学びを、地形が時間のなかで描き変わることととらえる 知識を与えるのではなく、地図が少しずつ変容していく 時間的なプロセス をデザインする。
  13. まとめ——地図の変容としての学び 理解は、自分の地図から出発してしか生まれない。 1 直接アクセスの不在 2 資料の〈厚み〉 3 「教える」の再定位 他の地図に直接アクセスする方法は存在しない 資料の厚みの経験が、他の(制度化された)地図への経路を開き、

    個人の地図を変容させていく契機となりうる 地図の変容としての「学び」の、時間的なデザインとして位置づけられるのではないか 宮坂報告へ——「ずれ」は多層構造のうちにだけでなく、それぞれの地図の間にも見出されるのでは? 大井報告へ——ネットワークとしての〈問い〉の創発は、個人的地図と制度的地図の相互作用なのでは? 宮田報告へ——解釈のずれから出発する段階的な発問設計は、地図の変容に伴走する時間的デザインとなるのでは? 資料を経由して、学び手の地図が 描き直されていく プロセスをいかにデザインするか 25 / 26
  14. 参考文献 26 / 26 Peirce, C. S. Collected Papers of

    Charles Sanders Peirce. Harvard University Press.(CP 8.178–179, 8.314) Silverstein, M. (1976). "Shifters, Linguistic Categories, and Cultural Description." In Basso & Selby (eds.), Meaning in Anthropology. University of New Mexico Press. デリダ, ジャック(2017)『アーカイヴの病〈新装版〉』福本修訳、法政大学出版局 アップウォード, フランク(2023)「レコード・コンティニュアム」マケミッシュ/ピゴット/リード/アップウォード編『続アーカイブ ズ論——記録の仕組みと情報社会』安藤正人監修、石原他訳、明石書店 平井靖史(2022)『世界は時間でできている——ベルクソン時間哲学入門』青土社 國崎大恩(2023)「メディアの厚み」をめぐる議論(書誌は確定後に補記) 宮田諭志・大井将生・宮坂朋彦 各コロキウム報告資料(2026) 「初等部児童集団疎開 那須」(資料番号N3000002-20、CC BY)/「初等部児童 那須疎開生活最後の日 記念集合写真」 (20191716014、CC BY)/『初等部疎開絵巻 全5巻』(20220463002、CC BY-NC-ND)——いずれも自由学園資料室所蔵「自由学園 100年+資料データベース」https://archives.jiyu.ac.jp/ 『あしおと——私達の学童疎開体験』(自由学園初等部14回生、1977年)/村上せつ『那須疎開生活記録』(1987年)——いずれも自由 学園資料室所蔵(未デジタル化) 谷島貫太(2024)「ポストメタデータ時代のデジタルアーカイブ——ジャック・デリダの〈痕跡〉概念をめぐって」デジタルアーカイブ 学会第9回研究大会発表 谷島貫太(2026)「主体投錨型インデックス」デジタルアーカイブ学会第10回研究大会発表 谷島貫太(2026予定)「学ぶ主体の問いから出発すること」『デジタルアーカイブの教育活用ガイド』勉誠社