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主体投錨型インデックス―利用者の関心からアーカイブを再構成する設計指針―

 主体投錨型インデックス―利用者の関心からアーカイブを再構成する設計指針―

本発表は、デジタルアーカイブ(DA)における「インデックス」の役割を、利用主体の関心という観点から再検討するものである。従来の主題索引は、利用主体の関心を制度化・客観化したものとして機能してきたが、生成AIによる対話型検索の普及は、個別的で文脈依存的な関心を直接的に探索の起点とする可能性を開いている。本発表では、言語人類学における指標性と投錨の概念を手がかりに、〈個別の関心〉と〈制度化された主観性〉という二つのレイヤーへの投錨を組み込んだ「主体投錨型インデックス」という設計指針を提案する。主観と客観の二項対立を超え、利用主体と資料との関係を動的に生成・更新していくインデキシングの可能性を理論的に検討する。

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Kanta Tanishima

January 10, 2026
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  1. 制度化された関心としての主題索引 8 国立国会図書館件名標目表 (National Diet Library Subject Headings, NDLSH )

    主題を示すこれらの統制語彙が個々の資料に件名として 付与されることで資料検索のためのインデックスとなる
  2. 9 主題索引≒主観的索引 主題索引(subject index)の根底には 主観的索引(subjective index)がある (デニス・ダンカン) 用語索引(concordance) VS 主題索引(subject

    index) 主題に関する判断が(原則として)入らない用語索引 に対し、主題索引においては誰がどのように主題を判 断するのか、という主観的契機が不可避
  3. アーカイブズ学における 「出所原則」と利用主体にとっての利便性」 10 アーキビストの主観を排除 ☞「出所原則 principle of provenance 」(Jenkinson, 1922)

    利用主体にとっての利便 ☞ 「知的アクセス (intellectual access)」(Lytle, 1980) 客観性の担保という課題と、利用主体にとっての利便性の 追求をどのように調停するのかという課題
  4. 11 「効果的な主題索引作成とは、ある文書が何についてのものであるかを判断するだけ でなく、それが特定の利用者集団にとってなぜ関心の対象となりうるのかを判断する ことも含んでいる。言い換えれば、いかなる資料についても、唯一「正しい」と言える索 引語の集合が存在するわけではない。」 (Lancaster, 1991,p.8)※下線は引用者 ① 統制語彙(controlled vocabulary)の採用

    ② 規範的(prescriptive)語彙設計 ③ インデキシング規則・マニュアルの整備 ④ 国際標準・専門機関による規格化etc. 〇 課題 純粋な客観性に依拠できないことを前提としたうえで〈一貫性(consistency)> と<再現性(reproducibility)>をいかに担保するか 主観性(関心の構造)は制度化されることで 客観化(個々の主観から独立)される
  5. 言語人類学における指標性 (indexicality) 15 「記号媒体が、ある存在者の文脈的な『存在』を信号するという性質」 “the property of sign vehicle signaling

    contextual ‘existence’ of an entity” (Silverstein, 1976, p.29) 個別に出現した記号(トークン)が、どの文脈内に位置しているのかという文 脈を示すという性質 ※チャールズ・サンダース・パースの記号論および指標概念が下敷き もう少し敷衍すると 記号の解釈が準拠すべき特定の枠組みに解釈を「投錨 anchoring」させる働き
  6. ・非言及的指標 nonreferential indexes 「一つあるいはそれ以上の状況的(コンテクスト的)変数が持つ特定の価値を指示す るような発話の側面」(Silverstein 1976: 29, シルヴァスティン 2009: 278)

    ☞ジェンダー指標、敬意指標、言語変種 ☞特定のジェンダーを指標する男性/女性らしい語尾、社会的関係性を指標 する「先生」「先輩」などの敬称、出身地を指標する方言 ・言及的指標 referential indexes 特定の対象を参照referする指標 ☞時間/空間/人称ダイクシス ☞「さっき」/「ここ」/「わたし」 どのようなコミュニケーションを可能にする どのような枠組に投錨するかを制御(社会的指標性) 16 特定の参照空間という枠組みを前提にした上で対象を指示 二つの指標の区別
  7. アーカイブにおけるインデックスとの関係 17 観点 言及的指標 非言及的指標 インデキシングの対象 特定の資料の位置 参照空間枠組みそのもの 問いの形式 それはどこにあるか?

    どの枠組みで扱うか? アーカイブ的実践 件名付与/分類 主題索引体系の切り替え どのSubject(主体)に投錨するかで何をSubject(主題)とするかが 決まり、それらの主題群が各資料にインデキシングされる
  8. もちろんそれだけでは問題が 24 ① 再現性・検証可能性の喪失 ☞アーカイブ的知の要件である再現性・説明責任が崩れる ② 検索プロセスのブラックボックス化 ☞利用主体と資料と結びつける原理が不可視化される ③ 主体的関心の過度な私有化・孤立化

    ☞知が「社会的に共有される問い」にならず、私的消費に閉じる ④ 知の歴史性・制度的蓄積の消去 ☞アーカイブが〈知の履歴〉を保持する装置でなくなる ⑤ 出所原則・文脈秩序の弱体化 ☞資料が〈意味のある束〉ではなく、断片的情報として消費される ⑥ バイアスの不可視化・自然化 ☞制度的に調整・批判可能だった主観性が、不可視な形で固定化される ⑦ 主題の公共性の崩壊 ☞主題索引が担ってきた公共的調停機能が消失する
  9. 参考文献 Agha, A. (2003). The social life of cultural value.

    Language & Communication, 23(3–4), 231–273. Jenkinson, H. A Manual of Archive Administration. Clarendon Press, 1922. Lytle, Ronald H. “Intellectual Access to Archives: I. Provenance and Content Indexing Methods.” The American Archivist, 43(1), 1980, pp. 64-75. Lancaster, F. W. (1991). Indexing and abstracting in theory and practice. University of Illinois at Urbana–Champaign, Graduate School of Library and Information Science. Silverstein, Michael, 1976. “Shifters, linguistic categories, and cultural description.” In: Keith H. Basso and Henry A. Selby, eds., Meaning in Anthropology, pp. 11-55. University of New Mexico Press:Albuquerque. シルヴァスティン, M. (2009)「転換子、言語範疇、そして文化記述」小山亘 (編著), 記号の思想 現 代言語人類学の一軌跡: シルヴァスティン論文集 (pp. 251-316). 三元社. 30