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AIのグローバルトレンド2025 #scrummikawa / global ai trend

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September 06, 2025

AIのグローバルトレンド2025 #scrummikawa / global ai trend

グローバルなAIにかんするサーベイであるThe State of AI 2025 およびソフトウェアエンジニア向けのアンケートである State of Web Dev AI に基づくトレンドと論点を提示します。

「意味のある企業全体の価値創出の実現」「生成AIソリューションの効果的な導入とスケールアップの実践」「生成AIに関連するリスクの包括的なガバナンスと軽減」という3つの課題が大きくとりあげられており、関連する論文およびサーベイ結果を交えて紹介します。また、グローバルカンファレンスと日本国内カンファレンスの傾向を比較検討し、これらの動向とサーベイ結果との相互関係から各国のAIの状況について考察します。

AIの現状と未来に関する議論の土台として聞いていただけます。

https://confengine.com/conferences/scrum-fest-mikawa-2025/proposal/22891/ai-2025

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September 06, 2025
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  1. 2

  2. セッション概要 • 各種サーベイからAIのグローバルトレンドを紹介します。 • Tech Trends : https://www.deloitte.com/jp/ja/Industries/technology/about/tech -trends.html •

    State of AI : https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our- insights/the-state-of-ai • State of Web Dev AI : https://2025.stateofai.dev • それぞれ発行が半年前くらいです。ゆえに大きな流れと 2025/09における差分をあじわえるセッションとなっておりま す。 4
  3. 技術変革のなかでも現在のAIは1つの大きな波である • 18世紀後半 • 蒸気機関 • 19世紀後半 • 電気 5

    第一次産業革命 第二次産業革命 • 20世紀後半 • デジタル技術 第三次産業革命 • 21世紀前半 • AI 第四次産業革命 産業革命がおきると政府も人々の生活も変化していく
  4. Tech Trendsはデロイトが発行するテクノロ ジーレポートで3つの基礎と3つの発展で業界 を分析している • デロイトを代表するテクノロ ジーレポートであるTech Trendsでは、3つの発展する 力(インタラクション、イン フォメーション、コンピュ

    テーション)と、3つの基礎 となる力(ビジネスオブテク ノロジー、サイバーとトラス ト、コアモダナイゼーショ ン)におけるトレンドの出現 を考察している。 7 出所 : Deloitte Tech Trends 2025 2025/08/01 参照 2025/08/01 参照
  5. 発展する力 • 空間コンピューティング は、情報のサイロ化を解 消し、従業員や顧客がよ り自然に情報に接する方 法を生み出す能力を備え ていることから、企業の 関心は高まる一方である •

    今後数年間で、AIの進歩 はシームレスな空間コン ピューティング体験と相 互運用性の向上に寄与し、 最終的にはAIエージェン トがユーザーのニーズを プロアクティブに予測し、 満たすことができるよう になる可能性がある。 • 生成AIを取り巻く熱狂に便 乗すべく、さまざまなユー スケースで最適な選択肢と されるLLMを導入している 企業は多いが、一部の企業 はさらにその先を見据えて いる。 • より小規模で正確なデータ セットでLLMをトレーニン グできるよう、SLMとオー プンソースの活用を検討し ている。マルチモーダルモ デルやAIベースのシミュ レーションを含めた新種の AIの登場によって、企業が 各タスクに適したAIを見つ けられるようになり始めて いる。 8 インタラクション インフォメーション • 長年にわたってソフトウェ アがITデジタルの世界で支 配の中心であるが、最近で はハードウェアが再び脚光 を浴びている。AI利用には、 特化したコンピューティン グリソースを必要とするた め、企業はAIのワークロー ドを処理するための先進的 なチップに目を向けている。 • 将来的には、AIがデバイス に次々と統合されることに よってIoTおよびロボティ クスに革命がもたらされ、 よりスマートで自律的なデ バイスを通じてヘルスケア などの業界を変革するだろ う。 コンピュテーション 出所 : Deloitte Tech Trends 2025 2025/08/01 参照
  6. 基礎となる力 • 何年にもわたってリーンな IT(無駄を省いたIT運用) およびEaaS(Everything as a Service)を指向して きた企業では、AIの進歩を 受けて、仮想化からの移行

    と予算縮小からの脱却を進 めている。 • 従来型AIと生成AIの双方の 能力が向上するにつれて、 テクノロジーデリバリーの すべてのフェーズで、人間 主体からHitL(Human in the Loop、人とAIを統合し たシステム)に移行する可 能性がある。 • 2000年問題(コンピュー ターが西暦2000年を誤認 し、障害を引き起こす可 能性があるとされた問 題)が生じた際、組織は 差し迫ったリスクを認識 し、迅速に対処した。 • 専門家は、今後5年から 20年の間に量子コン ピューターの性能が向上 すると、既存の暗号化手 法やデジタル署名の安全 性は喪失し、サイバーセ キュリティは重大な影響 を受けると予測している。 9 ビジネスオブテクノロジー サイバーとトラスト • コアエンタープライズシ ステムへのAIの統合は、 競争上の優位性を得るた めの組織活動やテクノロ ジー活用における重要な 変化の表れである。 • コアシステムにAIを追加 することで、ユーザーエ クスペリエンスはシンプ ルになるかもしれないが、 アーキテクチャーレベル ではより複雑になる。 コアモダナイゼーション 出所 : Deloitte Tech Trends 2025 2025/08/01 参照
  7. 生成AIによるIT業務 変革 • 今後1年半から2年の間に、生成AIがま すます業務に組み込まれるにつれて、 企業のテクノロジーチームの大幅な改 善が進む可能性がある。 • デロイトの予測分析によると、最も保 守的なシナリオでも、2027年までにす

    べての企業のデジタル製品・ソフト ウェアに生成AIが組み込まれる見込み だ。 • コードレビュー、インフラ構成、予算 管理といった時間のかかる手作業は、 IT部門においてAI活用が進むにつれて、 自動化され改善されるだろう。 11 出所 : Deloitte Tech Trends 2025 2025/08/01 参照
  8. 大企業では、CEO主導のガバナンスやワーク フローの抜本的な見直しが収益向上に直結し ている AI導⼊率 78%の企業が少なくとも1つの業務でAIを使⽤ GenAI導⼊率 71%がGen AIを定常的に使⽤ Gen AIによる収益増加

    最⼤で70%の企業が収益増加を報告(部⾨別) CEOによるAIガバナンス 28%の企業でCEOがAIガバナンスを監督 ワークフロー再設計 21%の企業がGen AI導⼊に伴い業務を抜本的に再設計 AI関連⼈材の需要 50%の企業が今後データサイエンティストの増員が必要と回答 14 出所 : The State of AI 2025/08/01 参照
  9. 企業全体の価値創出に向けてのリーダーシップ不足 • 多くの企業が部門レベル では収益増やコスト削減 を実感しているが、全社 的な財務インパクトはま だ限定的 • EBIT(営業利益)への影 響が最も大きい要素は

    「ワークフローの再設 計」であるが、実際に再 設計を行っている企業は 21%にとどまる 15 意味のある企業全体の 価値創出の実現 生成AIソリューションの 効果的な導入とスケール アップの実践 • 大企業はサイバーセキュ リティやプライバシーに は積極的だが、AI出力の 正確性や説明可能性には 十分対応していない 生成AIに関連するリス クの包括的なガバナンス と軽減 出所 : The State of AI 2025/08/01 参照
  10. 2025/02までにつかわれているツールは モデルはChatGPT、IDEはCursorが多い モデル 1. ChatGPT 2. Claude 3. Microsoft Copilot

    4. Gemini IDE 1. Cursor 2. Zed 3. Windsurf 4. Void 17 出所 : State of Web Dev AI 2025 2025/08/01参照
  11. AIを活用方法ではコード生成とリサーチ がメインである 18 回答者の大多数 (69%)がAIに よって生成され たコードは25% 未満で、75%以 上を生成してい るのは少数派

    (8%) 生成しているの はヘルパー関数 とドキュメント がメインになる 出所 : State of Web Dev AI 2025 2025/08/01参照
  12. AIは企業の価値創出と競争力強化に不可欠であり、導 入・運用には倫理・文化・戦略面での対応が求められる。 • PRISMAモデルを使用した体系的文 献レビューをした。2013年から 2023年までの382の文献が対象で、 最終的に37件まで絞り込んだ。 • ビジネス文脈では「リスク管理、 倫理、CSRの限界、

    AIガバナンス、 イノベーション文化がAI導入を促 進、 AIと人間の協働による意思決 定構造の設計、 AIフィードバック が営業成果に影響する」などが テーマとしてあげられている 20 Artificial Intelligence (AI) in Business: A Systematic Literature Review Bandara, W.M.H.K. and Malalage, G.S. (2025) ʻArtificial Intelligence (AI) in Business: A Systematic Literature Reviewʼ, Journal of Business and Technology, 9(2), p. 140-152. Available at: https://doi.org/10.4038/jbt.v9i2.175.
  13. 機械学習プロジェクトが実運用に至らせるため 「MLOps」の定義と構成要素を体系的に提示 • 1,864件の論文を検索し、194件を 精査、27件を採用したうえでモデ ル化した。また、ツールレビュー と専門家インタビューもまぜてい る。 • ML製品の開発から運用までを支え

    る原則・技術コンポーネント・役 割・アーキテクチャを包括的に整 理した。 21 Machine Learning Operations (MLOps): Overview, Definition, and Architecture D. Kreuzberger, N. Kühl and S. Hirschl, "Machine Learning Operations (MLOps): Overview, Definition, and Architecture," in IEEE Access, vol. 11, pp. 31866-31879, 2023, doi: 10.1109/ACCESS.2023.3262138. keywords: {Interviews;Machine learning;Training;Collaboration;Bibliographies;Automation;Codes;CI/CD;DevOps;machine learning;MLOps;operations;workflow orchestration},
  14. LLMが職務タスクへ与える影響と技能構成変化評価およ び再訓練 • 職務タスク粒度でLLM影響率を初期 包括推計した労働市場分析 • 高付加価値タスク再配分で専門人 材逼迫緩和可能性が示された • 影響度職種分析によるリスキリン

    グ優先順位化指針をだしている • (2023年から想定される未来のGPT においてでさえ)仕事の約19%で最 低でも50%のタスクがGPTの影響を 受けるという予測ができた 22 GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models doi
  15. 大規模分散サービス遅延尾部低減とコスト効率化手法評 価指標分析 • 尾部遅延を中心に大規模分散システム性能とコストの関係を体系化 • 尾部遅延(Latency tail)削減が過剰オーバープロビジョニング抑制 • 冗長化/再試行戦略のコスト vs

    可用性トレードオフ整理 • サービス階層化で資源利用最適化指針提供 • 遅い5%のリクエストが 全体のレイテンシを 大きく引き上げる。 23 The Tail at Scale Jeffrey Dean and Luiz André Barroso. 2013. The tail at scale. Commun. ACM 56, 2 (February 2013), 74‒80. https://doi.org/10.1145/2408776.2408794
  16. デジタル赤字とAI時代という2つのトレンド • 高利益率・高成長率の資本・知識 集約型事業(アプリケーション、 ミドルウェア/OS、計算資源インフ ラ、デジタル広告)の市場シェア は軒並み外資に押さえられている • ベースシナリオで2035年に約18兆 円のデジタル赤字を計上する見込

    み • 第四次産業(AI)革命に伴う悲観シ ナリオでは、約10兆円の追加赤字 が見込まれ、総額約28兆円に達す る • AIのための学習データは今後 2028年には枯渇の可能性 • 一次データの重要性が急激に高 まる • データの保存先や所有権が国益 を大きく左右する世界がくる • データがなければ価値あるソフ トウェアが生み出せず、競争力 が維持できない「聖域なきデジ タル市場」が確実に迫っている 25 デジタル赤字 AI 出所 : 経済産業省 デジタル経済レポート 2025/08/01 参照
  17. 日本の産業との接合点 - データ品質 • Epoch AIやデジタル経済レポートでいわれているようにAIの学 習データは枯渇するであろう。またインターネットにあるデー タは低品質であることがおおい。これはコード生成の質に直結 している。 •

    TypeScriptでclassをつかうべきではない場面でclass利用した コードを生成してくることで保守性が低くなる • ソフトウェア設計のプラクティスはひろまるほどその意味が希 薄化、形骸化するため、プラクティスを指示しても元来の意味 でのプラクティスを実践してくれない • 相対的に日本語のデータは不足するため英語であつかうほうが 低コストである 26
  18. 日本の産業との接合点 – 業界 • 日本経済においては自動車をはじめとする製造業がおおきな要 素となっており、エンタープライズデータ活用が日本のV字回 復に必要な要素となる。 • 生成AI以後による非構造化データ活用のミドルウェアやサービ ス開発および自社での活用を日本の産業に特化していくことが

    ポイントになる • AI活用による機能的チャレンジによってセキュリティやプライ バシーの問題はより複雑になるため組織が前進しやすくなるた めにも、DevSecOpsやITインフラ監視などのガバナンスにたい する積極的な投資が必要となる 27
  19. 今後の展望 • 量子コンピュータの活用先は多岐 にわたるため、輸出しやすく外貨 獲得にも効果がたかい • 日本の重要産業とも相性がいい • 創薬テクノロジー •

    Climate Tech • 各種AIへの基盤利用 • 死蔵しているデータを活用しやす くなる新技術の確立と市場形成 • データスペースをある種のミドル ウェアとみたてつつ、ハイパース ケーラーとして成立すると外貨の 獲得にもつながる 28 量子コンピュータ前提への切り替え データ中心世界への切り替え
  20. 2つの産業革命によって情報伝達速度が高速に • 18世紀後半に英国で始まった産業 革命は、工学の各分野を飛躍的に 発展させた。 • 特に機械工学は蒸気機関の発明に よって産業の主役となり、土木工 学は運河・鉄道建設や橋梁建造 (例:1883年完成のブルックリン

    橋)など大規模インフラを可能に した。 • 19世紀末には電気工学も確立し、 1880年代にトーマス・エジソンが 世界初の実用的な発電・送電シス テムを導入した。 • 技術分野の専門化に伴い、各国で 工学教育機関や学会が19世紀中盤 までに設立され、工学が専門職と して制度化された。 32 第一次産業革命 第二次産業革命
  21. 大規模プロジェクトと管理手法がうまれる • 19世紀から20世紀初頭にかけて、産業規 模の拡大により工場生産や鉄道敷設など 多数の人員と資本を要するプロジェクト が増加し、それらを効果的に遂行する管 理手法が模索された。 • 例)米国のヘンリー・ガントと仏国のアン リ・ファヨールは、第一次大戦下の1916

    年にそれぞれ工場管理に関する著書を発 表し、近代的管理論の礎を築いた。 • 例)フレデリック・テイラーによる科学的 管理法も普及し、工場運営の効率化に寄 与した。 • また、19世紀末にはドイツなどで機械製 図や規格化が進展し、標準化されたエン ジニアリング手法が国際競争力の源泉と なり始めた。こうした管理と工学の融合 への志向が、後のエンジニアリングマネ ジメント専門職の萌芽となっていく。 • フランスではナポレオン期にエコー ル・ポリテクニーク等の官立工学教育 機関を設立し、国家事業を担う技術者 を養成した。 • 米国では西部開拓や軍事目的で陸軍工 兵隊が測量・インフラ整備を主導した。 • 日本では明治期にお雇い外国人技師の 指導の下で鉄道・造船などの近代産業 基盤が構築された。 • これらの大型プロジェクトは、今日で いうプロジェクト管理の原型とも言え る手法(進捗管理、予算管理、人員統 制など)の必要性を認識させ、エンジ ニアリングマネジメントの重要性が 徐々に顕在化している。 33 民間によるうごき 政府によるうごき
  22. 第二次世界大戦での発展と日本から品質の発展 • 世界大戦期にはレーダー・核兵器・ロケッ トなど先端技術の開発競争が繰り広げられ、 各国政府は大学・産業界と連携して巨額の 研究開発プロジェクトを推進した。 • 米国のマンハッタン計画やソ連の宇宙開発 競争は、数千から数万人規模の科学者・技 術者を組織的に動員し、プロジェクトを期

    限内に完遂するための組織マネジメント手 法が洗練される契機となった。 • 特に米ベル研究所では、大規模通信システ ム開発の中でシステムズエンジニアリング の概念が生まれ、1940年代初頭には「シス テム工学」という用語が使われ始めたらし い。 • システム工学は複雑な技術システム全体を 俯瞰し、要件定義から統合・試験までを体 系的に計画・管理する手法として整理され ていった。 • 第二次大戦後、日本では米国人統計学者 のデミング博士らが提唱する統計的品質 管理手法が導入された。 • デミングは1950年に訪日し、日本の経営 者・技術者に品質向上のための管理手法 を指導し、その結果、日本企業は従来の 職人的手法からデータに基づく品質管理 へ移行し、製造業の品質水準が向上する。 • 1950年代から60年代にかけて日本で確立 したTQM(全社的品質管理)の手法は、30 年遅れて米国にも伝播し、1980年代以降 デファクトスタンダードとなる。 • これはエンジニアリングマネジメントに おける品質管理分野の発展を示すもので、 製品・プロジェクトの品質を管理する体 系的手法が国際規格(ISO9001など)とし て定着する基盤となった。 34 第二次世界大戦 品質工学の発展
  23. 1950年代から手法の整理や経営への組込みがおきる • 1950~60年代には、米軍やNASAのプロジェ クトで近代的プロジェクト管理手法が確立 しました。1958年に米海軍が開発したPERT 法(計画評価検討技法)や、民間で開発さ れたCPM法(Critical Path Method)は、大 規模プロジェクトの工程を可視化・最適化

    する方法であった。 • 1969年には米国でプロジェクトマネジメン ト協会(PMI)が設立され 、プロジェクト 管理が一つの職能・学問分野として体系化 され始める。 • 以降、プロジェクトマネージャー向けの資 格制度や知識体系(PMBOKなど)が整備され、 技術プロジェクトを予算・納期・品質目標 内で完遂するための手法論がグローバルに 普及した。 • これはすなわち、エンジニアリングマネジ メントが専門職種として社会的に確立され たと捉えてもいいのではないか。 • 1970年代のオイルショックを契機に、 エンジニアリングマネジメントは経営 戦略と不可分の存在となりはじめる。 • エネルギー制約下で技術開発・政策・ 産業構造の変革が迫られたため、技術 リーダーには経済性評価や長期計画の 視点が求められた。 • 企業は技術プロジェクトの選択と資源 配分を経営戦略の中で位置づけ始め、 研究開発ポートフォリオ管理や技術 ロードマップ策定といった戦略的技術 マネジメント手法が発達した。 • エンジニアリングマネジメントはプロ ジェクト現場の管理手法から企業戦 略・政策立案に資する知的枠組みへと 発展していった。 35 手法として確立される 技術戦略がうまれる
  24. ようやくソフトウェア工学マネジメントの時代 • 1960年代後半には「ソフトウェア危 機」と呼ばれる、大規模ソフト開発の 失敗が社会問題化し、1968年にNATO会 議で「ソフトウェア工学」という概念 が提唱される。 • ソフトウェア開発プロセスの体系化が 進み、1970年代にはウォーターフォー

    ル型の開発手法が普及する。 • 1990年代以降、インターネットとPCの 普及でソフトウェア開発はさらに複雑 化・高速化し、従来手法の限界が露呈 します。2001年には米国でアジャイル 開発宣言(Agile Manifesto)が公表 され、ソフトウェア産業を中心に俊敏 かつ適応的なプロジェクト管理手法が 急速に広まった。 • 冷戦終結後の1990年代、製造業からソフ トウェア開発までエンジニアリング活動 のグローバル化が進んだ。 • 企業はコスト削減や市場開拓を目的に生 産拠点・R&D拠点を海外展開し、異なる国 や文化のエンジニアが協働する体制が一 般化しました。 • 例えば、自動車産業では設計を本国、部 品製造を新興国、組立を消費地近くで行 うといったグローバル分業が進み、サプ ライチェーンマネジメントがエンジニア リングマネジメントの重要要素になる。 • 地理的に離れたチーム間の綿密なコミュ ニケーションとリスク管理の重要性が再 認識され、コラボレーションツールの活 用や標準化されたプロセスの検討/導入が すすむ。 36 ソフトウェア工学の誕生 My Job went to India!!!
  25. AIにより現実的な第四次産業革命がおきる • 2010年代に入り、IoT(モノのインター ネット)やAI、ロボット技術の進展によ り「第4次産業革命(Industry 4.0)」が 提唱される。 • ドイツ政府が2011年に打ち出した Industry

    4.0戦略は、製造業のデジタル 化・高度自動化を目指すもので、欧州委 員会もこれを各国政策に取り入れた。 • Industry 4.0の下では、従来の生産技術 者に加え、ITエンジニアやデータサイエ ンティストとの協働が不可欠といえる。 • 結果としてエンジニアリングマネジメン トも変革を迫られ、ITと製造の垣根を超 えた統合的なチーム運営や、セキュリ ティ・プライバシーを考慮したリスクマ ネジメントが重視されるようになる。 • 日本では経済産業省が「コネクテッドイ ンダストリーズ」や「Society 5.0」と いったビジョンを掲げ、製造現場のDX (デジタルトランスフォーメーション) を推進している。 • 一方で、既存システムの老朽化とIT人材 不足により2025年以降に最大12兆円の経 済損失が生じうると警鐘を鳴らし(いわ ゆる「2025年の崖」問題)、企業に対し 早急なDXと人材育成策の実行を促してい る。 • デジタル技術の波は工学とマネジメント の在り方を根本から変えつつあり、各国 政府も政策面からその変革を支えていま す。 37 Industry 4.0 日本の現在
  26. デジタル赤字とAI時代という2つのトレンド • 高利益率・高成長率の資本・知識 集約型事業(アプリケーション、 ミドルウェア/OS、計算資源インフ ラ、デジタル広告)の市場シェア は軒並み外資に押さえられている • ベースシナリオで2035年に約18兆 円のデジタル赤字を計上する見込

    み • 第四次産業(AI)革命に伴う悲観シ ナリオでは、約10兆円の追加赤字 が見込まれ、総額約28兆円に達す る • AIのための学習データは今後 2028年には枯渇の可能性 • 一次データの重要性が急激に高 まる • データの保存先や所有権が国益 を大きく左右する世界がくる • データがなければ価値あるソフ トウェアが生み出せず、競争力 が維持できない「聖域なきデジ タル市場」が確実に迫っている 38 デジタル赤字 AI 出所 : 経済産業省 デジタル経済レポート 2025/08/01 参照
  27. AIを普通のものとして扱うということ 1. 抽象度シフトを先取り:物理→情報→知識→意味レイヤの主戦場 に早期投資。 2. 学習ループ最適化:データ→モデル→デプロイ→利用→フィード バック→改善のサイクルタイムを極小化およびマルチプロセス化。 3. 標準とガバナンスを設計側に回す:後追い遵守でなくデファクト スタンダードづくり。

    4. 無形資産指標の内部KPI刷新:データ鮮度、モデル半減期、プロン プトROI、AIエージェント稼働率などを財務相当で管理。 5. 人的価値集中領域の再定義:構想策定・倫理的判断・多領域横断 組織(Orchestration)を育成。 6. リスクは安全性ケイパビリティ構築で差別化(Trust as a Feature)。 39
  28. まとめ • 第四次産業革命での競争優位は「高速学習+信頼性+無形資産 化」を回す組織設計に集約される。早期にデータ・モデル・ガ バナンスを統合し、人的創造力の高付加価値領域への再配置を 完了できる主体が、規制と市場形成の両面で主導権を握るだろ う • 不作為の最大損失はPoC乱立による学習資産の未蓄積である。 Tipping

    Point(性能停滞/コスト不整合/信頼低下/規制加速/ 人材ミスマッチ)を早期検知する必要がある。 • 評価/安全性チームをファーストクラス市民とし、学習曲線を 絶えず再勾配化することで過度な競争による摩耗を抑制する。 40