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オーロラ4Dプロジェクト 文理融合研究とオープンサイエンスの一事例

オーロラ4Dプロジェクト 文理融合研究とオープンサイエンスの一事例

第2回勉強会
スピーカー:早川尚志さん(京都大学大学院文学研究科)
日 時:2016年7月20日(水)18:00-19:30
場 所:京都大学吉田泉殿

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Transcript

  1. 太陽黒点の観測の歴史:400年 フレアの観測の歴史:150年 黒点の数 太陽活動 高 多 低 少 過去400年の黒点の数 Galileo

    Galilei フレアの観測第一号(1859年9月1 日、Carrington(UK)により) 約11年の活動周期 ではそれ以前を知 るには?
  2. •  C14 (年輪),Be10 (氷縞コア) etc. –  ex. Miyake (2012; 2013)

    => CE 775, CE 994 の天文イベントを 示唆 (スーパーフレアの候補 ?) •  問題点 –  原理上1年刻みの精度が限界 –  一部年代を除き,10年刻みのデータくらいしかない(Solanki et al. 2004; Steinhilber et al. 2009) –  誤差から年代のずれが生じるケースも => 補正が必要 方法1:放射性同位体比分析
  3. 方法2:文献史料は2500年 •  Eddy (1980) → 利用の重要性を指摘 •  黒点・オーロラの形で記録が残る –  黒点:BC

    465 ギリシア〜(Wittman et al. 1978) –  オーロラ:BC 567 バビロニア〜(Stephenson et al. 2004) •  以降世界中で記録 => 特に東アジア –  中国:Keimatsu (1970-76), Yau et al. (1988), 斎藤(1992), Yau et al. (1995),荘(2009),Hayakawa et al.(2015) –  日本:神田(1933), Matsushita (1956),Matsushita (2005) –  韓国:Lee et al. (2004)
  4. •  黒点 … 黒子,黒氣(日中) •  オーロラ … 用語論にも変遷 –  神田(1933):赤氣…「極光らしい場合が多い」

    –  Keimatsu(1970-76):「夜間の発光現象全て」 –  斎藤&小澤(1992):赤氣,白氣 –  Yau et al.(1995):基本的に赤氣…慶松から「流星」を除外 –  荘(2009):夜間の発光現象 − 流星・彗星 –  Hayakawa et al.(2015):氣,雲,光 –  Hayakawa et al.(2016):白虹にもその可能性 •  用語は日中韓でほぼ共通 => 漢字文化圏の所以 用語論 天元玉曆祥異賦,国立公文書館 昌平坂學問所本 内閣文庫 305-257 実際の所,各々の用語にどれほどの妥当性があるのか => 有名な短期イベントを元に検証 しかし,冷静に考えてみると, とんでもない作業量!
  5. オープンサイエンスの恩恵 •  今まで –  文字史料:一頁ずつめくる必要 –  写本史料:所蔵先に出向いて手続きする必要 •  現状の変化 – 

    文字史料:一括検索が可能に! –  写本史料:現地に出向かずともアクセス可能に •  即ち,自宅に居ながらに能率良い研究が可能な時代に •  無論,最後は原典に当たる必要性あり(入力段階のミスetc)
  6. ③ 地方の史料を集める •  オーロラ記録は日記類に残りやすい(異常気象として) •  観測地点が増えた方がオーロラのオーバルが再現可能 –  e.g. 1770年の巨大イベント(Hayakawa et

    al., in prep) –  => 世界はもとより,日本全国の文献を蒐集する必要 •  当然,扱う範囲が膨大になりすぎて手が回りきらない •  地方の民間人の協力が不可欠 •  2016/03/12 「古典オーロラハンター」開催 => キャパ以上の応募
  7. •  人類史上初めて科学的に観測されたフレア(Carrington、 1859)…観測史上最大の磁気嵐(~1760nT) => ハワ イ,キューバなど低緯度でもオーロラ!(N16°まで) •  電信機などの火花放電が原因の火事が多発(Loomis 1859-64)) • 

    いわば観測史上最初の極端宇宙天気に拠る災害例 具体事例:キャリントンイベント(1859) Sunspots sketched by Richard Carrington on Sept. 1, 1859. Copyright: Royal Astronomical Society Green 2005
  8. 日本歴史書哀史 •  キャリントン・イベントの日本での観測地点は全4箇所(Hayakawa et al. PASJ, submitted) –  J1和歌山県新宮,J2和歌山県印南,J3弘前,J4秋田県大館 – 

    この内,原史料が残るのはJ3弘前の金木屋日記のみ –  残りの史料は自治体史に引用される形で残存 •  原史料は何処に…? •  実際に聞いてみると… –  自治体史編纂後,所有者に返却 –  所有者が引っ越してしまうと,自治体も把握できず => 行方不明 •  市民参加 => 貴重な歴史書の足取りを掴む意味でも重要
  9. 新手法と社会的な意義の発見 •  市民参加で今までの研究から漏れていた新記述を発掘 –  「北斗七星にかかり淡く広がる白気」、1189年、吾妻鏡。 •  老若男女の幅広さ、市民参加はネットだけではない。 –  終了後、多くのお年寄りから「今日はきて良かった、ありがとう」と声をかけていた だきました。今回、グループで活動することで、お年寄り同士が友達になりまし

    た。また、なかには家で予習をしてきて、となりのお年寄りに教えてあげたりして、 人の輪がひろがりました。 –  高校生グループは「もっと漢字がよめたら、できるんだけど」言っていました。現在、 高校では古文・漢文は必修ではありません。そうした高校の教育の問題点、 真のグローバル教育のあり方も見えてきたかと思います。
  10. 第一回オーロラハンターの印象 •  立川と言う微妙(?)な立地にも関わらず,開催すれば来る •  抽選漏れで苦情まで来たとか… •  国文研のネームバリューが大きい面は否定できない? •  遠路来てくれた人の存在も • 

    地方で開催してもそれなりの集客を見込める? •  中には在野の地方史家も来る可能性 •  しかし,開催のための人員・資金は必要… 潜在的な需要は明らか <=> しかし,同時に問題点も浮き彫りに
  11. 情報の質をどう担保するか •  市民参加型研究が進むにつれて浮き彫りになる問題点も •  市民 ≠ プロの学者…情報の質を吟味する必要 •  (ex)廿日/甘日,卅日/冊日etc. • 

    データで入力してもらってもそのままは使えない。 •  出典を頁数まで書いてもらうのを徹底する必要 •  1000頁くらいもある文献を一から読み直して探すなら,自分でやる 方が早い
  12. 情報をどう管理するか •  著作権・知財権:学術・教育目的は免責が効く –  => オンラインデータベースでのネット公開はさすがに逸脱 •  他の文献からの引用も,引用の範囲で止める必要 –  『日本近世天文史料』の内容の無断公開は,刑事罰対象

    •  図像史料・写本等,非出版物は所蔵先の許可を取る必要 –  Vatican Library等は規定がネット公開されているが,多くの図書館で は直接問い合わせないと規定は分からない –  ネットでの無断改変を恐れる流れ(金沢市玉川図書館) –  公開の都度,版権交渉が必要 => 下手うつと出禁に(東丸神社)
  13. 情報をどう管理するか •  情報公開が研究を促進するのは事実 –  (ex)スバルの観測データ:1年後には全公開 •  歴史学では誰が最初にその記録を見つけたかも重要 –  論文発表前に無批判にネット公開して良いのか? – 

    歴史学者はデータ観測用の人工衛星ではない! –  目下,Aurora4D Projectでの文理での争点 •  データへの責任は持てるのか –  論文公開後の方がなおさら良いのでは •  公開のタイミングも問題
  14. 史料利用は実は大変 •  閲覧のため現地に行く必要 –  最近オンライン公開が進んでると言っても,ごく一部 •  閲覧できるかは,図書館の規定と裁量次第 •  画像の正式取得,掲載許可で各々料金がかかる – 

    バチカンの事例(回覧資料) –  史料保管のために止むを得ないコストとはいえ •  図書館の司書達に聞いてみる –  無断で変な意図の下に使われたくない
  15. 便利と責任の狭間で •  データの質の担保 –  ホームページ上に即反映は危険 –  市民の報告を専門家がチェックする形が良いか •  公開のタイミング – 

    論文公開前/公開後? –  何処までのデータを隠して,何処までのデータを出すか •  史料の利用・公開 –  版権交渉はしっかりやる必要 –  史料所蔵機関への敬意
  16. 結論 •  展望とメリット –  オープンサイエンスによって歴史学にも変化 –  市民参加で地方史料の蒐集・行方の特定が可能に? –  史料自体へのアクセス自体も容易に? • 

    問題点と改善点 –  情報の確度の担保 –  著作権・知財権との棲み分け –  集めた情報をどう管理・発信して行くか