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オーロラ4Dプロジェクト 文理融合研究とオープンサイエンスの一事例
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オープンサイエンス・ミートアップ
July 24, 2016
Science
0
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オーロラ4Dプロジェクト 文理融合研究とオープンサイエンスの一事例
第2回勉強会
スピーカー:早川尚志さん(京都大学大学院文学研究科)
日 時:2016年7月20日(水)18:00-19:30
場 所:京都大学吉田泉殿
オープンサイエンス・ミートアップ
July 24, 2016
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Transcript
オーロラ4Dプロジェクト 文理融合研究とオープンサイエン スの一事例 早川尚志 京都大学大学院文学研究科 第二回オープンサイエンス勉強会 2016/06/25 京都大学 Aurora in
15/01/2016 at Poker Flat in Alaska
自分の研究分野
Aurora4D project http://aurora4d.jp 2015/5/25
太陽黒点の観測の歴史:400年 フレアの観測の歴史:150年 黒点の数 太陽活動 高 多 低 少 過去400年の黒点の数 Galileo
Galilei フレアの観測第一号(1859年9月1 日、Carrington(UK)により) 約11年の活動周期 ではそれ以前を知 るには?
• C14 (年輪),Be10 (氷縞コア) etc. – ex. Miyake (2012; 2013)
=> CE 775, CE 994 の天文イベントを 示唆 (スーパーフレアの候補 ?) • 問題点 – 原理上1年刻みの精度が限界 – 一部年代を除き,10年刻みのデータくらいしかない(Solanki et al. 2004; Steinhilber et al. 2009) – 誤差から年代のずれが生じるケースも => 補正が必要 方法1:放射性同位体比分析
方法2:文献史料は2500年 • Eddy (1980) → 利用の重要性を指摘 • 黒点・オーロラの形で記録が残る – 黒点:BC
465 ギリシア〜(Wittman et al. 1978) – オーロラ:BC 567 バビロニア〜(Stephenson et al. 2004) • 以降世界中で記録 => 特に東アジア – 中国:Keimatsu (1970-76), Yau et al. (1988), 斎藤(1992), Yau et al. (1995),荘(2009),Hayakawa et al.(2015) – 日本:神田(1933), Matsushita (1956),Matsushita (2005) – 韓国:Lee et al. (2004)
• 黒点 … 黒子,黒氣(日中) • オーロラ … 用語論にも変遷 – 神田(1933):赤氣…「極光らしい場合が多い」
– Keimatsu(1970-76):「夜間の発光現象全て」 – 斎藤&小澤(1992):赤氣,白氣 – Yau et al.(1995):基本的に赤氣…慶松から「流星」を除外 – 荘(2009):夜間の発光現象 − 流星・彗星 – Hayakawa et al.(2015):氣,雲,光 – Hayakawa et al.(2016):白虹にもその可能性 • 用語は日中韓でほぼ共通 => 漢字文化圏の所以 用語論 天元玉曆祥異賦,国立公文書館 昌平坂學問所本 内閣文庫 305-257 実際の所,各々の用語にどれほどの妥当性があるのか => 有名な短期イベントを元に検証 しかし,冷静に考えてみると, とんでもない作業量!
今までの研究 膨大な量の文献から 必要情報を拾い出す必要
最近:テキストデータの公開 ↑ キーワード 検索結果→ 台湾・中央研究院が整備する「新漢籍全文」:正史他有名史料を多数収録
最近の変化:写本画像の公開 Vatican Digital Library:NTT DATAの後援で所蔵史料のデジタル化を進展
オープンサイエンスの恩恵 • 今まで – 文字史料:一頁ずつめくる必要 – 写本史料:所蔵先に出向いて手続きする必要 • 現状の変化 –
文字史料:一括検索が可能に! – 写本史料:現地に出向かずともアクセス可能に • 即ち,自宅に居ながらに能率良い研究が可能な時代に • 無論,最後は原典に当たる必要性あり(入力段階のミスetc)
Aurora4D project http://aurora4d.jp 2015/5/25 オーロラに思いを馳せるのは研究者だけじゃない 目指すは三つのオープンサイエンス
① 史料調査成果の発信 時間軸を示しつつ(地図も追加予定),オーロラの歴史を視覚的に説明
None
③ 地方の史料を集める • オーロラ記録は日記類に残りやすい(異常気象として) • 観測地点が増えた方がオーロラのオーバルが再現可能 – e.g. 1770年の巨大イベント(Hayakawa et
al., in prep) – => 世界はもとより,日本全国の文献を蒐集する必要 • 当然,扱う範囲が膨大になりすぎて手が回りきらない • 地方の民間人の協力が不可欠 • 2016/03/12 「古典オーロラハンター」開催 => キャパ以上の応募
• 人類史上初めて科学的に観測されたフレア(Carrington、 1859)…観測史上最大の磁気嵐(~1760nT) => ハワ イ,キューバなど低緯度でもオーロラ!(N16°まで) • 電信機などの火花放電が原因の火事が多発(Loomis 1859-64)) •
いわば観測史上最初の極端宇宙天気に拠る災害例 具体事例:キャリントンイベント(1859) Sunspots sketched by Richard Carrington on Sept. 1, 1859. Copyright: Royal Astronomical Society Green 2005
日本歴史書哀史 • キャリントン・イベントの日本での観測地点は全4箇所(Hayakawa et al. PASJ, submitted) – J1和歌山県新宮,J2和歌山県印南,J3弘前,J4秋田県大館 –
この内,原史料が残るのはJ3弘前の金木屋日記のみ – 残りの史料は自治体史に引用される形で残存 • 原史料は何処に…? • 実際に聞いてみると… – 自治体史編纂後,所有者に返却 – 所有者が引っ越してしまうと,自治体も把握できず => 行方不明 • 市民参加 => 貴重な歴史書の足取りを掴む意味でも重要
クローズな研究会x3 →H28はオープンに 古典オーロラハンター
None
新手法と社会的な意義の発見 • 市民参加で今までの研究から漏れていた新記述を発掘 – 「北斗七星にかかり淡く広がる白気」、1189年、吾妻鏡。 • 老若男女の幅広さ、市民参加はネットだけではない。 – 終了後、多くのお年寄りから「今日はきて良かった、ありがとう」と声をかけていた だきました。今回、グループで活動することで、お年寄り同士が友達になりまし
た。また、なかには家で予習をしてきて、となりのお年寄りに教えてあげたりして、 人の輪がひろがりました。 – 高校生グループは「もっと漢字がよめたら、できるんだけど」言っていました。現在、 高校では古文・漢文は必修ではありません。そうした高校の教育の問題点、 真のグローバル教育のあり方も見えてきたかと思います。
第一回オーロラハンターの印象 • 立川と言う微妙(?)な立地にも関わらず,開催すれば来る • 抽選漏れで苦情まで来たとか… • 国文研のネームバリューが大きい面は否定できない? • 遠路来てくれた人の存在も •
地方で開催してもそれなりの集客を見込める? • 中には在野の地方史家も来る可能性 • しかし,開催のための人員・資金は必要… 潜在的な需要は明らか <=> しかし,同時に問題点も浮き彫りに
情報の質をどう担保するか • 市民参加型研究が進むにつれて浮き彫りになる問題点も • 市民 ≠ プロの学者…情報の質を吟味する必要 • (ex)廿日/甘日,卅日/冊日etc. •
データで入力してもらってもそのままは使えない。 • 出典を頁数まで書いてもらうのを徹底する必要 • 1000頁くらいもある文献を一から読み直して探すなら,自分でやる 方が早い
情報をどう管理するか • 著作権・知財権:学術・教育目的は免責が効く – => オンラインデータベースでのネット公開はさすがに逸脱 • 他の文献からの引用も,引用の範囲で止める必要 – 『日本近世天文史料』の内容の無断公開は,刑事罰対象
• 図像史料・写本等,非出版物は所蔵先の許可を取る必要 – Vatican Library等は規定がネット公開されているが,多くの図書館で は直接問い合わせないと規定は分からない – ネットでの無断改変を恐れる流れ(金沢市玉川図書館) – 公開の都度,版権交渉が必要 => 下手うつと出禁に(東丸神社)
情報をどう管理するか • 情報公開が研究を促進するのは事実 – (ex)スバルの観測データ:1年後には全公開 • 歴史学では誰が最初にその記録を見つけたかも重要 – 論文発表前に無批判にネット公開して良いのか? –
歴史学者はデータ観測用の人工衛星ではない! – 目下,Aurora4D Projectでの文理での争点 • データへの責任は持てるのか – 論文公開後の方がなおさら良いのでは • 公開のタイミングも問題
史料利用は実は大変 • 閲覧のため現地に行く必要 – 最近オンライン公開が進んでると言っても,ごく一部 • 閲覧できるかは,図書館の規定と裁量次第 • 画像の正式取得,掲載許可で各々料金がかかる –
バチカンの事例(回覧資料) – 史料保管のために止むを得ないコストとはいえ • 図書館の司書達に聞いてみる – 無断で変な意図の下に使われたくない
便利と責任の狭間で • データの質の担保 – ホームページ上に即反映は危険 – 市民の報告を専門家がチェックする形が良いか • 公開のタイミング –
論文公開前/公開後? – 何処までのデータを隠して,何処までのデータを出すか • 史料の利用・公開 – 版権交渉はしっかりやる必要 – 史料所蔵機関への敬意
結論 • 展望とメリット – オープンサイエンスによって歴史学にも変化 – 市民参加で地方史料の蒐集・行方の特定が可能に? – 史料自体へのアクセス自体も容易に? •
問題点と改善点 – 情報の確度の担保 – 著作権・知財権との棲み分け – 集めた情報をどう管理・発信して行くか