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 日本マーケティング学会2025発表_組織の市場志向形成におけるバウンダリースパナー行動とマーケターの越境的役割

日本マーケティング学会2025で発表したスライドを公開しています。

https://www.j-mac.or.jp/oral/dtl.php?os_id=568
--概要--
組織の市場志向形成におけるバウンダリースパナー行動とマーケターの越境的役割
矢倉 和雄
三井不動産株式会社 DX二部
黒澤 友貴
株式会社なぞる 代表取締役

分類:一般報告
掲載形態:フルペーパー

要約 :
本研究は,組織の市場志向を高めるための要因として,制度や構造といった「仕組み」だけではなく,実際に機能させる「人の行動」に注目した。特に,組織の境界を越えて情報・知識・関係性を翻訳・調整する「バウンダリースパナー行動」が,市場志向の形成に果たす役割を実証的に検証した。131名のマーケティング実務者に対するWeb調査と共分散構造分析の結果,トップマネジメントの支援と組織システムは市場志向に直接影響を与える一方で,組織間連携はバウンダリースパナー行動を介して市場志向に寄与することが明らかとなった。また,バウンダリースパナー行動は,市場志向の中で,情報生成と情報普及には有意な影響を与えるが,情報反応には影響を及ぼさないことも示された。生成AIの進展により情報収集・分析が効率化される一方で,文脈を理解し橋渡しを行う人の行動の重要性は今後さらに高まると考えられる。

キーワード : 組織間連携 マーケティング組織 越境行動

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Transcript

  1. 2 三井不動産株式会社 兼 株式会社東京ドームマーケティング企画部 早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。 マーケティングリサーチ会社を経て、三井不動産に入社。 現在は、自社内のマーケティング戦略立案・施策実行 マーケティング組織の立ち上げを推進。 株式会社なぞる 代表取締役

    「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」を ミッションに、 10,000人以上が集まるマーケターの 学習コミュニティ #マーケティングトレースを主宰。 支援企業数 200社超 矢倉 和雄 黒澤 友貴 事業側 マーケター 支援側 マーケター
  2. 4 先行研究 市場志向を高める(マーケティングが機能するため)には、3つの行動プロセスから構成される。(Jaworski & Kohli ,1993) 経営層の支援 経営層によるマーケティングの 重要性の 発信、

    方針の提示 組織間連携 異なる組織間に おける 情報共有、 協働体制の整備状態 組織システム 市場情報や 顧客ニーズを活用するための評 価制度、裁量制度、情報管理体制など) 情報生成 顧客や市場から情報を集める 情報普及 収集した情報を組織内で共有する 情報反応 収集した情報をもとに行動を起こす 組織要因 マーケティングが機能する組織は、3つの活動が適切に行われている。 Kohli&Jaworski(1990)Jaworski&Koh(1993)Kohli et al.(1993) 市場志向(≒マーケティングが上手く機能している)
  3. 5 先行研究 市場志向を高める(マーケティングが機能するため)には、3つの行動プロセスから構成される。(Jaworski & Kohli ,1993) 経営層の支援 経営層によるマーケティングの 重要性の 発信、

    方針の提示 組織間連携 異なる組織間に おける 情報共有、 協働体制の整備状態 組織システム 市場情報や 顧客ニーズを活用するための 評価制度、裁量制度、情報管理体制など) 情報生成 顧客や市場から情報を集める 情報普及 収集した情報を組織内で共有する 情報反応 収集した情報をもとに行動を起こす マーケティングが機能する組織は、3つの活動が適切に行われている。 Kohli&Jaworski(1990)Jaworski&Koh(1993)Kohli et al.(1993) 市場志向(≒マーケティングが上手く機能している) 組織要因
  4. 6 先行研究で明かされていないこと マーケティングが上手く機能するために、マーケター個人がとるべき行動とは何か? 経営層の支援 経営層によるマーケティングの 重要性の 発信、 方針の提示 組織間連携 異なる組織間に

    おける 情報共有、 協働体制の整備状態 組織システム 市場情報や 顧客ニーズを活用するための 評価制度、裁量制度、情報管理体制など) 情報生成 顧客や市場から情報を集める 情報普及 収集した情報を組織内で共有する 情報反応 収集した情報をもとに行動を起こす 市場志向(≒マーケティングが上手く機能している) 組織要因
  5. 11 仮説モデル 構成概念 説明 トップ マネジメント 経営層による市場志向の重要性の発信、方針の提示、 部門横断的な活動の支援に関する姿勢・行動。 組織間連携 異なる組織間における円滑なコミュニケーション、

    情報共有、協働体制の整備状態。 組織システム 市場情報や顧客ニーズを活用するための制度的支援 (評価制度、裁量制度、情報管理体制など)。 バウンダリー スパナー行動 組織の境界を越えて情報・知識・関係性を調整・ 翻訳する活動 市場志向 情報生成、情報普及、情報反応の行動プロセス全体。 情報生成 顧客や市場に関する情報の収集や分析活動。 情報普及 市場から集めた情報を組織全体で共有する活動。 情報反応 収集・共有された情報をもとに迅速に行動する活動。 成果 売上成長、投資収益率などの業績指標。 RQ1:モデル1 RQ2:モデル2
  6. 12 研究方法 検証方法 • WEBアンケート調査を実施 • 共分散構造分析を用いて、仮説モデルのパスが統計的に有意であるか定量的に仮説検証 • RMSEAが0.1以下であるモデルを採択 ※豊田(2007)参照

    調査期間 • 2025年6月27日〜2025年7月12日 調査対象者 • 従業員数50名以上 かつ 自社のマーケティング業務に携わっている • クライアント企業のマーケティング業務に携わっている方は調査対象外 • 1社1回答に限定していない 集計処理 • 自由回答やトラップ設問を用いて、不正回答を除外 • Cronbach’s α が.70 以上、CR が.70 以上 • 天井効果およびフロア効果の対応、Harmanの一因子テストなどの確認 構成概念 • 測定項目は 29 問で構成しており、 7 段階のリッカート尺度を用いて測定。 その他 • バウンダリースパナー行動のみ回答者自身の自己評価、他の構成概念は組織全体に関する認知評価である。
  7. 13 測定項目 モデル1 モデル2 設問 参考文献 市場志向 情報生成 私の企業・組織では、顧客の将来ニーズに基づいて、新商品・サービスについての検討を行っている Kohli&Jaworski

    (1990) Jaworski&Kohli (1993) Kohli et al. (1993) 私の企業・組織では、市場や顧客についてのリサーチを数多く実施している 私の企業・組織では、自社製品やサービスの質を評価するために、少なくとも1年に1回は顧客調査を行って いる 市場志向 情報普及 私の企業・組織では、関連部門と顧客の将来のニーズについて議論することが多い 私の企業・組織では、非公式的な場でも競合の戦略や戦術に関する話題が多い 私の企業・組織では、市場情報や顧客情報は、部門や階層を超えて情報共有がされる 市場志向 情報反応 私の企業・組織では、顧客の製品やサービスのニーズの変化を無視する傾向がある(※) 私の企業・組織では、顧客の不満に耳をかさない(※) 私の企業・組織では、取り扱う製品やサービスラインは、市場のニーズよりも社内的な政治力に依存するこ とが多い(※) トップ マネジメント 私の企業・組織では、経営層が「競合の動きに敏感になるように」と社員によく伝えています Jaworski & Kohli (1993) 私の企業・組織では、経営層が「顧客の将来ニーズに備えるように」と繰り返し呼びかけています 私の企業・組織では、経営層が「顧客への提供価値こそが最も重要な活動だ」と強調しています 組織間連携 私の企業・組織では、ほとんどの部門同士が良好な関係を築いています 私の企業・組織では、必要があれば他部門の社員同士が気兼ねなく連絡を取り合っています 私の企業・組織では、他部門の人にも気軽にコミュニケーションができます 組織システム 私の企業・組織では、自分の裁量で仕事を進められることが多いと感じます 私の企業・組織では、どの部門であっても市場動向や競合の動きに敏感であることが評価されます 私の企業・組織では、市場に関する有益な情報を継続的に提供している人には、人事評価で認められます バウンダリー スパナー バウンダリー スパナー 私は、プロジェクト関係者との持続的な信頼関係を構築・維持している Williams (2002) Satheesh、 S. A. et al.(2023) 私は、プロジェクト関係者との協働を促進している 私は、プロジェクト関係者との意見の対立を調整し、合意形成を促している 私は、プロジェクト関係者と事業運営に必要な情報を交換する 私は、プロジェクト関係者とマーケティング企画やアイデアを交換・統合する 私は、プロジェクトの利益のために、プロジェクト関係者と連携しながら互いを支援できる方法を調整する 私は、プロジェクト関係者間の役割・タスクを調整する 私は、マーケティング施策の企画段階から、関係部署と連携して現実的な実行計画を立てている 成果 売上高の成長 Morgan et al. (2009) 投資収益率(ROI) 財務目標の達成度
  8. 14 回答者属性 N=131 男性 78% 経営者・役員 5% 製造業 38% 女性

    22% 部長クラス 20% 情報通信業 12% 課長クラス(管理職) 30% 商社・卸売り・小売業 11% 20代 5% 主任・係長クラス(非管理職) 23% サービス業 9% 30代 29% 一般社員 21% 不動産業 5% 40代 27% その他 1% 運送・輸送業 4% 50代以上 39% 金融・証券・保険業 4% 従業員数 医療・福祉 3% マーケティング部門に所属 71% 30人以上100人未満 13% 教育業 3% マーケティング部門以外に所属 20% 100人以上200人未満 7% 建設業 3% 社内にマーケティング部門がない 9% 200人以上5000人未満 17% メディア・マスコミ・広告業 2% 500人以上1,000人未満 17% 調査業・シンクタンク 2% BtoC 47% 1,000人以上3,000人未満 15% 出版・印刷業 1% BtoB 39% 3,000人以上5,000人未満 7% その他 2% その他 14% 5,000人以上10,000人未満 7% 10,000人以上 18%
  9. 15 仮説検証結果 モデル1 仮説 仮説内容 結果 H1 トップマネジメントは、市場 志向に正の影響を与える。 ◦

    (有意) H2 組織システムは、市場志向に 正の影響を与える。 ◦ (有意) H3 組織間連携は、市場志向に直 接影響を与える。 ✕ (非有意) H4 組織間連携が市場志向に与え る影響は、バウンダリースパ ナー行動を介して媒介される。 ◦ (媒介)
  10. 16 仮説検証結果 モデル2 仮説 仮説内容 結果 H5 バウンダリースパナー行動は、 情報生成に正の影響を与える。 ◦

    (有意) H6 バウンダリースパナー行動は、 情報普及に正の影響を与える。 ◦ (有意) H7 バウンダリースパナー行動は、 情報反応に正の影響を与える。 ✕ (非有意) H7:最終的な意思決定やアクションは、組織での権限の違い (例:事業の意思決定はマーケティング担当ではなく、別組織の事業責任者が担う)など他要因が関与している可能性も。
  11. 17 Research Questionへの回答 問い トップマネジメントの支援、組織システム、組織間連携といった組織的要因は、市場志向の形成にどのような 影響を与えるのか。 組織間連携が市場志向に与える影響は、バウンダリースパナー行動によって媒介されるのか。 回答 バウンダリースパナー行動が媒介変数として有効に機能していることが実証された。組織間連携そのものは市 場志向に直接影響しないものの、バウンダリースパナー行動を通じて間接的に市場志向を高める効果が確認さ

    れた。 RQ1 問い バウンダリースパナー行動は、市場志向を構成する「情報生成」「情報普及」「情報反応」の各行動プロセス に対して、それぞれどの程度の影響を及ぼすのか。 回答 バウンダリースパナー行動は「情報生成」「情報普及」には有意な影響を持つが、「情報反応」には影響を及 ぼさないことが明らかとなった。 RQ2
  12. 生成AI時代のマーケターの役割 21 領域 生成AIが代替する領域 人間(バウンダリースパナー)が担う領域 戦略・施策 ・フレームワーク分析 ・競合調査のデータ収集と構造化 ・施策アイデアの網羅的な案出し ・経営層との戦略すり合わせ

    ・部門間の戦略合意形成 ・組織の実行力を加味した戦略の落とし込み データ分析 ・データの集計・可視化/レポートの自動生成 ・予測分析・パターン認識 ・ダッシュボード作成 ・分析結果の組織内への翻訳 ・分析要件の各部門からのヒアリング ・インサイトの社内共有と合意形成 顧客理解 ・大量のレビュー・VOCの分析 ・セグメンテーションの分類 ・行動データのパターン抽出 ・顧客インタビューの実施と深掘り ・現場の顧客接点から得た情報の戦略反映 ・部門を超えた顧客理解の共有 プロジェクト 推進 ・タスク管理の自動化 ・スケジュール調整案の提示 ・ワークフロー設計支援 ・関係者の巻き込みと動機づけ ・部門間の調整と交渉 ・プロジェクトの意義の社内啓蒙/信頼関係の構築 タスク領域は生成AIに代替、バウンダリースパナー行動がマーケターの役割になると考えられる
  13. マーケターのキャリアに関する示唆 22 マーケターキャリア1~2年目 マーケターキャリア3年目以降 学習 運用業務の習得 組織を動かす力 目標 特定のチャネル最適化での成果創出 部門横断プロジェクトの推進

    実行スキル 施策の実行スキル 広告運用、コンテンツ制作など 戦略立案への参画と組織への浸透 ファシリテーション/ネゴシエーション 戦略スキル フレームワークの理解と活用 フレームワークを使った組織内合意形成 経営との繋ぎ込み AIとの向き合い方 AIツールの理解と活用 AIと人の役割分担の設計 マーケティング業務の全体設計 マーケター3年目以降は、バウンダリースパナー行動がより求められる