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Agile Testingは新しい概念なのか? 〜品質保証の歴史を踏まえて考える〜 #ScrumNiigata

Agile Testingは新しい概念なのか? 〜品質保証の歴史を踏まえて考える〜 #ScrumNiigata

nihonbuson

May 21, 2022
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  1. 自己紹介 • 風間裕也(ブロッコリー) • @nihonbuson • 社外活動 ◦ JaSST Review実行委員長

    ◦ WACATE実行委員 ◦ 翻訳 ▪ 書籍『Agile Testing Condensed』 ▪ 書籍『Testing in DevOps』 ▪ 書籍『The BDD Books - Discovery』
  2. 本発表の目的 • 今まで「これからはAgile Testingだ!」と 伝えてきた私が、 原点に立ち返ってAgile Testingとは何か 調査・考察したので、それを発表する • 本発表の結論

    ◦ 実は昔から日本では Agile Testingのような活動をやっていた ◦ 今までの私の伝え方が良くなかった と反省した
  3. JanetとLisaが執筆した3冊のAgile Testing Agile Testing (日本語版あり) More Agile Testing Agile Testing

    Condensed (日本語版あり) 2008年刊行 全576ページ 2014年刊行 全544ページ 2019年刊行 全113ページ
  4. 書籍『Agile Testing』執筆のきっかけ JonathanとJanetが同じプロジェクトで関わる • Jonathan…XP/TDDのコーチ • Janet…QA出身のPO Jonathan「XPなのでQAいらない」 Janet「そんなことはないはず」 •

    Janetは書籍『Agile Testing』を執筆 • Jonathanは書籍『アジャイルサムライ』を執筆 ◦ アジャイルテスターが書籍内に登場 参考:https://kawaguti.hateblo.jp/entry/2020/05/08/172925
  5. Agile Testingは特別なことをしていない • 『Agile Testing Condensed』は AgileにおけるTestingについて述べた書籍 ◦ Agileの中でTestingだけ 別途のフェーズが存在している訳ではない

    ◦ Agileでテストエンジニア(Tester)が どうすべきかのみ述べた書籍ではない • "Agile Testingは特定の人が行う訳ではない" と主張して書籍が書かれているのに、 逆にこの書籍の存在が、Agile Testingという 特別な存在のように見える皮肉
  6. テストの目的を定義したISTQBの前身が発足(1998) • 要件、ユーザーストーリー、設計、および コードなどの作業成果物を評価する ことによって欠陥を防ぐ。 • 明確にしたすべての要件を満たしていることを検証する。 • テスト対象が完成したことを確認し、ユーザーやその他ステークホルダーの期待 通りの動作内容であることの妥当性確認をする。

    • テスト対象の品質に対する信頼を積み重ねて、所定のレベルにあることを確証す る。 • 欠陥や故障を発見し、ソフトウェアの品質が不適切になるリスクレベルを軽減す る。 • ステークホルダーが意思決定できる、特にテスト対象の品質レベルについての十 分な情報を提供する。 • 契約上、法律上、または規制上の要件や標準を遵守する、 そして/またはテスト対象がそのような要件や標準に 準拠していることを検証する。 ISTQBテスト技術者資格制度 Foundation Level シラバス 日本語版Version 2018.J03より
  7. ISTQBの 前身が 発足 アジャイル ソフトウェア 開発宣言 実践 アジャイル テスト刊行 1998

    2001 2008 2015 2016 2019 Agile Testing 年表 継続的 テスト モデル テスト マニフェスト Agile Testing Condensed 刊行
  8. テスト マニフェスト ISTQBの 前身が 発足 アジャイル ソフトウェア 開発宣言 実践 アジャイル

    テスト刊行 1998 2001 2008 2015 2016 2019 Agile Testing 年表 継続的 テスト モデル Agile Testing Condensed 刊行 1998年以前に、 欠陥を防ぐ 品質はチーム全体での責任 という考え方は無かったのか?
  9. ISTQBの 前身が 発足 QCリサーチ グループ 結成 ソフトウェアの 検査の考え方 発表 ソフトウェア製品生産管理:

    ソフトウェア工学における 品質管理(QC)と品質保証(QA) 発表 日本的品質管理刊行 ソフトウェアの 品質管理推進 について 発表 1949 1972 1980 1981 1998 新製品開発 の品質管理 を始める 1950年代 後半
  10. ISTQBの 前身が 発足 QCリサーチ グループ 結成 ソフトウェアの 検査の考え方 発表 ソフトウェア製品生産管理:

    ソフトウェア工学における 品質管理(QC)と品質保証(QA) 発表 日本的品質管理刊行 ソフトウェアの 品質管理推進 について 発表 1949 1972 1980 1981 1998 新製品開発 の品質管理 を始める 1950年代 後半 日本では半世紀以上前から 欠陥を防ぐ 品質はチーム全体での責任 という考え方を持っていた
  11. 品質管理の時代変化 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米
  12. 検査重点主義の品質管理 • 性悪説的な考え方 ◦ 生産部門は悪いことをするもしれない ▪ 厳しく管理しよう ▪ 検査部門を独立させ、権限を強くしよう •

    検査を強化することが品質保証につながる • 日本ではQCを初めてすぐ、この考え方を捨てた • 工場従業員に対する検査員の比率(1981年当時) ◦ 日本…1〜5%(検査重点主義ではない) ◦ 欧米…15%の場合も(検査重点主義) 石川馨著『日本的品質管理<増補版>』
  13. 新製品開発重点主義の品質管理 • 新製品企画からアフターサービス までの各ステップでしっかりした評価を行う ◦ 本生産に入る前に十分な品質解析を行う • 格言「品質は設計と工程でつくり込め」 • 新製品開発のQAを重要視している理由

    ◦ 新製品開発中に品質管理していなければ、 十分な品質保証ができない ◦ 新製品開発に失敗すると、その企業は 倒産の瀬戸際に立たされることになる ◦ 全部門が、品質管理、品質保証を実際に体験できる 石川馨著『日本的品質管理<増補版>』
  14. 日本と欧米での発展の違い 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展
  15. 日本式TQC(Total Quality Control) • 1949年から行っている QC活動で生まれた考え方 • 各階層、各部門がQCを勉強し、実施する ◦ QC技術者が行うQCということではない

    • トップやスタッフも含めた全員でQCを実施する • 品質の管理と同時に 原価管理、量管理、納期管理を推進していく • 海外にはCWQC(Company-Wide Quality Control) として紹介していた 参考;石川馨著『日本的品質管理<増補版>』
  16. 欧米式TQC(Total Quality Control) • ファイゲンバウム博士の考え方 • 本来のTQCの考え • 全部門がQCを実施する必要がある •

    QC技術者が中心になって活躍する必要がある • どのようにすれば品質が良いものになるか 企業が示す ◦ 後に規格化され、認証されたものが 良いものであるという考え方になる 参考;石川馨著『日本的品質管理<増補版>』
  17. 日本式TQCが欧米へ持ち込まれる 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展
  18. 日本式TQCが欧米へ持ち込まれる 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展 NBCが 「If Japan Can… Why Can't We?」 を放映
  19. 「If Japan Can…Why Can't We?」の内容 エンジンに関する新しい環境規制を議論するとき、 アメリカの製造業者は、 • それを延期する方法 •

    それを止める方法 • どの議員に連絡するか についてすぐに考える傾向があります。 トヨタ、ホンダ、フォルクスワーゲンは研究者と開発者が これらの仕様を満たす課題として取り組んでいます。 つまり、早く顧客が戻ってくる方法を考えています。 参考:If Japan Can, Why Cant We? – 1980 NBC Special Report
  20. 日本式TQCが欧米へ持ち込まれる 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展 NBCが 「If Japan Can… Why Can't We?」 を放映
  21. 欧米式TQCが日本へ持ち込まれる 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ISO 9001 信仰 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展
  22. 欧米式TQCが日本へ持ち込まれる 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ISO 9001 信仰 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展 ・プロジェクト  マネジメントブーム ・プロセスを守ればOK ・国際規格を守ればOK
  23. 品質管理の時代変化 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ISO 9001 信仰 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展
  24. 品質管理の時代変化 検査 重点 主義 工程 管理 重点 主義 新製品 開発

    重点 主義 ISO 9001 信仰 ?? ?? 検査 重点 主義 ?? ?? 1950 1990 2010 日 本 欧 米 認証主義 →ISO9000へ発展 日本式TQCの導入 →TQMへの発展 日本式品質管理と 欧米式品質管理の 逆転現象
  25. QA2AQ QA2AQは、アジャイル品質の考え方と推奨される 実証された活動のエッセンスを、問題と解決をペアにした パターンのカタログとしてまとめたものです。 QA2AQとの名称には、 「伝統的な品質保証(Quality Assurance, QA)から アジャイル品質(Agile Quality,

    AQ)へと変わっていこう」 「昔ながらの品質保証の考え方から脱却し、 アジャイル開発に適合する形でよりアジャイルな方法で 品質保証を進めよう」 といったメッセージが込められています。 参考:https://codezine.jp/article/detail/12092
  26. 最近のトレンドと昔の考え方は違うのか? • 用語は新たに発明されるかもしれないが 根本的な考え方は昔から変わらないかも • 新たな用語に飛びつくのも大事だが、 根本的な考え方を見失わないようにしよう! ◦ 「新しい単語だから」は危険な兆候 •

    新しそうな物事に思いを馳せる前に、 温故知新の考えを持つと良い 今までのQAのやり方はダメだ! ではなく、 本来行っていたQAを知らなかった! だけかもしれない…。 (私自身、反省…)
  27. まとめ • Agile Testingでは特別なことをしていない ◦ 特別なフェーズが存在しているのではない ◦ Agile Testerのみの話ではない •

    Agile Testingで述べられていることが 実は昔から日本でやられている • 多くの実践者が、日本的品質管理を参考にして 現在の開発スタイルに合った形を 模索し、発表している • Agileかそうではないか、 テスターか開発者かは関係ない
  28. その他、参考文献 • ソフトウェアの品質管理推進について • ソフトウェアの検査の考え方 • ソフトウェア製品生産管理:ソフトウェア工学 における品質管理(QC)と品質保証(QA) • 石川

    馨著『日本的品質管理―TQCとは何か』 • If Japan Can, Why Can't We?【動画】 • Quality Management Evolution from the Past to Present: Challenges for Tomorrow • 品質保証の歴史学 at 「リリカルの質問全部答えます」