20世紀、COBOLを中心としたメインフレーム時代の開発は、慢性的な長時間労働が常態化していました。しかし、当時はコンパイルやバッチ処理に伴う「待ち時間」が随所に存在し、それが図らずも脳を休めるバッファ(緩衝材)として機能していました。
その後、ハードウェアの進化、CI/CDの普及、デプロイの高速化により、開発プロセスから「待ち時間」はほぼ一掃されました。労働時間自体は法整備の影響もあり短縮傾向にありますが、皮肉にもエンジニアのメンタル不調は増加の一途を辿っています。このパラドックスを解く鍵が、1998年にロイ・バウマイスターが提唱した「自我消耗(Ego Depletion)」という概念です。
「自我消耗」とは、自制心や意思決定に必要な心理的エネルギーは有限であり、酷使すれば枯渇するという考え方です。現代のエンジニアは、爆速化した開発サイクルの中で、絶え間ないコンテキストスイッチと意思決定の連続に晒されています。さらに今後、生成AIの活用によって1人のエンジニアが扱うコード量や設計判断が飛躍的に増大すれば、脳のリソース消費は限界に達し、今の「体力をベースとした労務管理」では対応しきれない悲劇を招く恐れがあります。