の価値向上といった社会変化がありました。「⽇々床が汚れるが、忙 しく時間が限られる中で隅々まで掃除する⼿段がない」という潜在課 題に対し、「⾃動掃除で⼿間を最⼩限に、確実に床を綺麗にできる」 という価値を提供しました。 カテゴリー名としての「ロボット掃除機」は、その名称だけで価値が 直感的に伝わる優れたネーミングでした。特にルンバは技術的価値だ けでなく、⼦どもやペットと過ごす温かな⽇常の中で、静かに、そし て頼もしく働くロボットの姿を伝えることで、単なる掃除機ではなく 「家族の⼀員」のようなポジションを確⽴しました。 この成功は、単に製品機能だけでなく、「掃除という家事の解放」と いう⽣活者のより⼤きな⽂脈の中での価値提案が、新しいカテゴリー を確⽴する上で重要であることを⽰しています。ロボット掃除機は、 その後の⾷洗機の普及や洗濯乾燥機の進化など、「家事の⾃動化」と いう⼤きなカテゴリーの先駆けとなりました。 ▪ 事例④ ⾷べるラー油「⾟そうで⾟くない少し ⾟いラー油」 2009年に登場した「⾷べるラー油」は、調味料カテゴリーに⾰命を 起こした好例です。特に桃屋の「⾟そうで⾟くない少し⾟いラー油」 は、その⽕付け役として知られています。 このカテゴリー創造の本質は、調味料だったラー油を「そのまま⾷べ られるおかず」として再定義した点にあります。それまでラー油は単 体で⾷べるという発想は⼀般的ではありませんでした。しかし、フラ イドガーリックやフライドオニオンなどの具材を加えることで、ご飯 に直接のせて⾷べるという新しい⾷習慣を提案したのです。 ⼀時的な流⾏に⾒えたこの商品は、驚くべきことに市場に定着し、⼀ つの⾷⽂化を形成。2009年のラー油市場は18億円規模でしたが、 2010年には121億円と爆発的に拡⼤。ブーム後も2020年には41億円 と、ブーム前と⽐較して2倍以上の市場規模を維持しています。 特筆すべきは、売り場⾰新によるカテゴリー浸透です。「⾷べるラー 油」の登場により、おかず、ふりかけ、ご飯のお供といった棚にも展 開されるようになり、顧客接点が⼤幅に広がりました。これは既存の 商品カテゴリーの使われ⽅を⾒直し、⾏動そのものを再設計すること で、新しいカテゴリーが創造できることを⽰す好例です。